薬により呆然と何処ともなく見つめる少女──アスカと、少女を自らの欲望の捌け口にしようとパンツに手をかける少年──シンジの息使いだけがマンションの一室に響きわたる。
(薬で弱らせてヤっちまおう作戦成功!)
これは酷い。どうしてこうなったのか。順を追って説明しよう。
「私が、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ」
オーバーザレインボーの上でいつかと同じ勝ち気な碧眼をシンジに向ける。
「あんたが、噂のサード?」
どんな噂なのか分からないが、ろくでもないことだけは確かだ。
「そうだよ。よろしく。アスカ」
どうやらシンジは猫を被るスタイルで行くようだ。
「着いて来なさい」
アスカはいきなりぶつ切の命令をシンジに投げつけずんずんと早足で行ってしまう。
エヴァンゲリオン二号機が格納されているスペースまでシンジを連れてきたアスカは、シンジに長々と自分と二号機がいかに優れているかを説明しているようだ。
「へー」
シンジは生返事だ。
(うーん。アスカをどうやって攻略しよう。そもそも、アスカってどんな子なんだ?)
改めて考えるとそれほどアスカを知らないことに気付く。
「聞いてるの?」
シンジの上の空な返事に気づいたアスカは、語気を強めて詰問する。
(僕の知ってるアスカはワガママで攻撃的でプライドが高くて、なんか闇を抱えてる変なやつ。でも、見た目だけは凄く良いから是非とも○ナホにしたい)
「……」
(だけど、上手い方法が浮かばない。とりあえず、最初は優しくして僕に依存させる方向でいってみよう)
「あんたねぇ。あたしのこと舐めてるの!? ふざけんじゃないわよ!」
ろくに話を聞かないシンジに、沸点のあまり高くないアスカはキレちまったようだ。
「ごめんごめん。ついアスカに見とれてたよ」
なんだこの臭い台詞は。
「はぁ? 何いきなりキモいこと言ってんの? あんた鏡見たことあんの?」
キモいことを言ったシンジも悪いがここまで言わなくても良い。
(このアマ……! 落ち着け僕。アスカはこうだって初めから分かってたじゃないか。大丈夫だ僕ならヤれる)
シンジは心を落ち着かせて外面を取り繕う。
「ごめんごめん。そんなことよりもっとアスカのことを聞かせてよ」
腹芸など一切使わないストレートな物言いは嫌悪感を与えることもあるが今回はそうならなかったようだ。
「……まぁ、いいわ」
アスカが答えるや否や大きく船が揺れる。使徒が来たのだ。
「チャーンス」
アスカは感情のこもらない声音でそう言うと物陰にいそいそと移動する。
「覗いたらブッ殺すわよ」
「そんなことしないよ」
(いつか絶対ハメ撮りしてやる……!)
「あんたも来るのよ。早くしなさい」
アスカは前回同様シンジと相乗りして実力を見せつけたいらしい。だが、このシンジは強くてニューゲーマーなシンジだ。初めからフェアな勝負ではないので、勝ち負けを気にする必要はないが、そんなことアスカは知らない。
「あんたシンクロ率80%を出したんだって?」
どこか聞きづらそうにアスカは尋ねる。
「そうだっけ? 無我夢中だったからよく覚えてないや」
これは半分嘘だ。良く覚えてないのは本当だが、シンクロ率なんてどうでもいいから覚えてないだけだ。
「……! ふーん」
アスカの表情が険しくなる。
(なんかギスギスしてるなー。ちょっと言い方が不味かったかなぁー)
「調子乗っていられるのも今の内よ。あたしが来たからにはあんたは万年補欠なんだから!」
シンジ的にはそっちの方が面倒で無くてありがたい。
「………く! こいつしぶとい」
鯨に似た使徒はコアを口の奥に隠し慎重に立ち回っている。私は前の3人の様に無様は晒さないと集中力を高めている。確かに色仕掛けに殺られたり、なんちゃって気円斬に殺られたりと残念の極みだ。
(……痛! 好感度を稼ぐ為にシンクロを操作して痛みを肩代わりしてるけど、この女、僕の献身的なフォローに気づいていない。マジで何なんだこの女は)
そうは言ってもアスカもいっぱいいっぱいなのだ。周りに目を配る余裕はない。
「アスカ。口の中だ。多少の被弾は我慢して突っ込むしかない」
いい加減終わらせたいシンジは、アスカに助言を送る。
「……! 偉そうに……! あたしだってその位気づいているわよ!」
(偉そうなのはどっちだよ!)
アスカのツンツンとした態度に、シンジはだんだんとムカつき出してきた。
(だいたいアスカはいつもいつも偉そうに人を使って! ハンバーグだって作れないくせに!)
前回の辛い記憶が甦って来る。
(何だよ! エヴァンゲリオンの操縦だって大口叩いてる割には大した戦果を上げてないじゃないか!)
アスカは意を決して使徒の口に突っ込む。当然ダメージは負うがシンジが肩代わりしてるのでアスカに痛みはない。自分で始めたことながら、それに気づかないアスカに余計に腹が立っていく。
(本当に居てほしい時にはベッドで寝てるだけで、何の役にも立たない……!)
皆、ギリギリの所で生きていたんだ。そう言うのは少し酷だ。
「よし! コアを破壊したわ! 流石あたしね!」
一言の感謝も無く、喜色を浮かべ自画自賛するアスカに、とうとうシンジの堪忍袋の緒がキレた。
(もういいや。メンドクサイ。薬で廃人にしてガチの○ナホにしよう)
こうしてシンジは犯行を決意する。ちなみに薬は綾波に関することや
シンジのリクエストした薬は、理性を弱め性欲を強めるという媚薬に相当する物だ。シンジの妄想通りならアスカは服を脱ぐのも待ちきれないとガッツいて来るはずだ。
「…………」
アスカは虚空を見つめ静かなままだ。
(……? 何かおかしい。いつものアスカでは無いけれどもエロエロになっている様にも見えない……?)
「ママ……?」
アスカの口から出た言葉はシンジの期待するものではなかった。
(……!? どういうことだ? 何がどうなっている?)
イレギュラーな事態にシンジは混乱する。元々、臨機応変な方ではないので、混乱は大きい。
「ママ! どうして私を見てくれないの! ねぇ! ねぇ!」
確かに薬は効果があったようだ。理性を弱めアスカの内面を浮き彫りにするという効果が。今頃、リツコもほくそ笑んでいる頃だろう。
「……そう。分かったわママ。私がもっと頑張ればいいのね? そうよね?」
(これはアスカの記憶? いや、分からない。アスカから昔のことをしっかり聞いたことなんて……)
ことここに至り、シンジも漸く事態を飲み込めてきた。
「やったわ! また、私が1番だったわ。……ママ? どこ? ママ! ママ!」
シンジは、まるで余裕の無いアスカの表情にいつかの自分が重なる。すがりたい時に限って誰も助けてくれない。
「……いない。何処にもいない。誰も居ない。誰も私を見ていない。誰にも必要とされていない」
(……! 何を言っているんだ!)
「分かったわ。まだ足りない……! もっともっと強く……! もっともっともっと……!」
(黙って聞いていれば勝手なことばかり!)
「私は強い! 足手まといなんていらない! もっと私を見て……! 私が一番! 誰もいらない! 誰か助けて……! 私が……私が……私はナニ?」
アスカの奥底にヘドロのように淀んで自身を圧迫していた感情が、シンジの逆鱗に触れる。
「うるさい! 何だよそれ!? 何が誰もいらないだよ! 一人じゃ朝だって起きられない! ご飯だってレトルトばかり! 使徒だって一人じゃ倒せないじゃないか!」
よくよく思い返してみても、自分は振り回されてばっかりだ。
「それに……それに」
シンジは少し言い淀む。
「何だよ! キモチ悪いって! 僕がどんな思いでアスカを求めたと思ってるんだ……!」
紅い海で全てと混ざり合い、自分以外誰も居ない、最も孤独からかけ離れた究極の孤独。その微睡みの中でシンジが最初に求めたのは、友人でも、親でもなくアスカだった。それにどれ程の激情があったかは、簡単には想像できない。
「違う……。私はただ……」
今まで一度も見たことのないシンジの剣幕に理性が弱っているとはいえ、何かを感じたのだろうか。アスカは何かを言おうとして、何かを言う前にシンジはマンションから飛び出して行ってしまった。
キモチわるい。
実際の所、この言葉にどんな意味があったのかは、アスカ本人にも掴み所のないあやふやな雲のような感情がその時のアスカを支配していた、ということしか覚えていない。
ただ、重要なことは、どんな感情であったにしろ、シンジに真っ直ぐにぶつけることができたという一点に尽きる。アスカはこの事実の重さに半ば気づき始めている。
だが、悲しいことにシンジがこれに気づくにはまだ時間がかかりそうである。
でも、大丈夫。だって……。
(よくよく考えてみれば、今アスカは意識が混濁しているから、ナニをしても覚えていないんじゃないか? こいつはヤベー。早く戻らないと……! 昂ってキター!)
だって、まだまだ思春期は始まったばかりなのだから。
なお、偶々早く仕事が終わったミサトと出くわしたシンジは、血の涙を流していたとかそうでないとか。
おしまい。
一応、本編完結。気が向いたらチマチマ更新するかも。ありがとうございました。