「……全く情けない。これではアダム様に顔向けできんぞ」
「しかし……!」
「そうだ。奴は想定よりずっと
「色仕掛けに殺られたくせに何をカッコつけてるんだか」
「貴様……!」
「はーい! 次はいぃちゃんの番なの!」
「……」
「……拙者も出よう」
「……な! マトリエル! 流石にそれは過剰ではないか!?」
「……使徒裏番マトリエル。貴殿が居ればよもや遅れをとることはないと思うが……」
「承知しておる。決して油断せぬよ」
「もぅー! いぃちゃんだけでラックしょーだよ!」
「……念の為だ。そうむくれるな。皆、他には何もないな」
「これにて第3回アダム様奪還会議を閉会する」
「……え? ゆるいオフ会じゃなかったの?」
「「……」」
(ヤりたい)
シンジは平常運転である。
「……」
(最近、綾波も何か近いし、アスカもミサトさんのマンションに転がりこんで来たし、洗濯という至福の時があるから家事は別にいんだ。だけど、ちょっとムラムラがキツイ。昨日、アスカのベッドでくんかくんかすりすりしたけど、全然足りない)
確実に有罪である。
「シンジー! 早くネルフに行くわよ!」
「……」
アスカがシンジを連れてネルフに行こうとしている。あれ以来アスカに変わった所は見られない。あの時のことは覚えていないのだろうか。シンジは気にはなっているが、敢えて問い詰めるようなことはしていない。それが一番いいような気がしているからだ。
「はいはい」
「……」
「うわ! びっくりした。綾波いつから居たの?」
最初からである。シンジが邪な妄想に浸っている時からガン見していた。最近、綾波は某忍者の活躍に夢中なので日常生活でも忍者リスペクトなのだ。アへ顔にも一層磨きがかかっている。
「私とのことは遊びだったのね」
綾波が目を手で隠し、よよと泣き真似をする。でも大丈夫。まだ綾波は無口無表情を維持している。とっても強い子なのだ。
(遊びも何も初めから綾波の穴にしか興味無い。綾波は何を言っているんだ?)
むしろ、シンジは何を考えているんだ?
「誤解だよ。綾波、あっちの方でゆっくり話そう」
邪魔が入らないように2人っきりで話そうとするのは、女を都合良く利用しようとする男にはよく見られる現象だ。それに、そもそも何処にも誤解などない。
「……いちゃついてないで早く行くわよ」
アスカもどうしたのだろうか。何時に無く余裕がある。
────使徒襲来! 使徒しゅぃ……襲来!
噛んだ。間違いない。マヤはしれっと何事もなかったかのように言い直しているが、ネルフ内の放送は全て録音されている。
(マヤさん……。正直、眼中に無かったが案外イケるかもしれない)
すぐに懲罰房にイケるに決まっている。
指令室。ミサトはいつものようにノリで作戦を決定する。しょうがないね。ミサトは体育会系で文系だからね。数学的論理性は少ししか無いのだ。
「今回は、シンちゃんとアスカに出てもらうわ」
え? 私は?
レイが無言の抗議をする。……レイも最近、本当に感情豊かになったなぁ、とミサトは感心する。やはり、男か、などとオバサン的思考に耽る。
斯くして初号機と二号機は出撃する。勢い良くアスカが飛び出す……というようなことは無く、静かに使徒を観察している。
(おかしい。アスカらしくない。前は見せつけるようにバッサリと一刀両断したのに、静か過ぎる。何を企んでいる?)
シンジは疑っているようだ。元々、猜疑心が強い傾向はあったが、その才能が開花してしまったのだろうか。それともアスカが静かという異常事態故だろうか。
(使徒イスラフェル。前回はアスカとのユニゾン攻撃で倒した。今回もそうなるのだろうか)
「あたしが先に行くわ。あんたはもしもの時の為のバックアップ要員よ」
「りょーかい」
シンジの返答を聞くや否やアスカは弾かれたように使徒に突撃する。
一刀両断。
ブレンド系の近接武器で両断する。
(さぁ、来るぞ……!)
「シンジ。あれを見て」
いつの間にか初号機の隣に来ていたアスカが、イスラフェルを指差し、注意を促す。分断された肉体が独立して動き始めたのだ。
(やっぱり同じか。ちょっと試してみようかな)
シンジがユニゾン攻撃を提案しようとした所でミサトから通信が入る。
「2人とも、先ずは1人1体づつ確実に倒してちょうだい」
(意味無いと思うけど……)
上司の命令なら仕方がない。
「シンジが右。あたしが左に行くわ」
「ほいほい」
アスカがシンジを見つめる。パクパクと口を動かす。
(…………? あ、わ、せ、ろ。……! 合わせろ! まさかアスカ……)
「アス……」
シンジが何か言う前にアスカは行ってしまった。こうしちゃいられない。シンジも数瞬遅れで動きだす。大丈夫だ。まだ合わせられる。
2人の連擊が決まっていく。
「これは……成る程、そういうことね」
2人の意図にいち早く気づいたのは、リツコだった。
「どういうこと? ……いや、そうか。2人ともやーるぅ!」
一拍遅れてミサトも察する。ややアンバランスな本能型ではあるが、ミサトも優秀な人間だ。足を引っ張る愚は犯さない。
このまま、勝てる。誰もがそう思っていた。
最後の飛び蹴りが決まる。その一瞬前、白い紐のような何かがイスラフェルにくっつき、そのまま引っ張られることでエヴァのラストアタックをかわしてしまった。
(なんだあれは……? あんなの見たことない)
困惑するシンジへ、アスカの鋭い声が向けられる。
「シンジ! 紐の先を見て!」
アスカの声に従い紐の出所であるビルの隙間を注視する。
蜘蛛型の巨体が姿を現す。
(あれは……マトリエル。マトリエルさんじゃないか!?)
シンジに喜色が浮かぶ。敵が増えたのにいったいどうしたのだろうか。
(全使徒中、最弱と名高いマトリエルさんじゃないか。これは使徒の戦力大幅減は確定だ!)
たった今、攻撃をかわされたことなど知ったことか、とマトリエルをバカにする。
(ただ、気になるのはあの巨体に誰も気づいていなかったことだ……? ま、いっか。所詮、マトリエルさんなんてちょろいに決まってる)
──光学迷彩。
マトリエルは始めから戦いを監視していた。高度な隠密能力に気づけた者はいない。
「まさか! 別個体なの! リツコ、これは一体?」
「……マギによると賛成1、条件付賛成1、回答不可1で別個体の可能性があると出たわ」
指令部が俄に騒がしくなる。
(よユーよユー。……な! 速い!)
バカにしくさっていたシンジだったが蜘蛛型使徒マトリエルの敏捷性に驚愕する。
こんな時、最も速く行動に移ることが出来たのは、正規の軍で訓練を積んできたアスカだったのは必然であった。
アスカのパレットライフルによる三点バーストがこ気味いいリズムを刻む。
しかし……。
(バカな……! スパイダーマンじゃないんだぞ!?)
マトリエルは自ら精製した白い紐──蜘蛛の糸を高層ビル群へ接着し、それを伸縮することで変則的な加減速を可能にし、銃弾をかわしていく。
そして、敵は1人ではない。シンジがそれを思い出したのはイスラフェルの拳打により、半自動的にATフィールドが展開されてからだった。
イスラフェルによるコンビネーションが炸裂する。今のところはATフィールドで凌げているが……。
(く……! アスカは大丈……!)
「アスカ!」
アスカ──二号機はマトリエルの生み出す白い紐により拘禁されついる。ギリギリと締め付け高いシンクロ率を誇るアスカを文字通り痛め付けていく……!
(こんな所で負けるのか? だけど、僕にできることなんて……)
シンジが諦めかけたその時、アスカに異変が起きる。いや、正確にはずっと起きていた。
それは……。
「……やっぱり縛られるの……イイ! どうして私は今まで気がつかなかったの!」
どうしてそこに気がついてしまったのか。もうチルドレンはおしまいである。
「……もしかして」
おや? シンジは何か心当たりがあるようだ。
(昨日、アスカのベッドで『○ミの縄~初級緊縛生活~』を精読してたまではよかったんだ)
良かったことなんて何もない。何をやってるんだ。君は?
(今日になって『○ミの縄~初級緊縛生活~』が無くなってることに気づいた。多分、アスカのベッドに忘れてきたんだ)
シンジ痛恨のミス。世界が違えば、地下行き確定の大チョンボバレ相当のミスだ。
(しかも、だ。昨日、僕のベッドの下に隠していた中級緊縛生活と上級緊縛生活と愛用のベルトも朝、学校に行く前には無くなっていた……! これはおそらくアスカの犯行……! アスカは目覚めたんだ! ハードSMワールドに!)
迷探偵シンジ、とうとう真犯人にたどり着く!
シンジが真相を究明している目の前でアスカのテンションはヒートアップしていく。
「縛られることでの安心感! 多幸感! そしてジリジリと痛覚をノックする快感! 愛されてるって実感出来る! これが生きるってことなのね!」
これには、使徒裏番マトリエルさんも困惑を隠せない。
──拙者そんなつもりじゃ……。
(ふむ。アスカはそちらの方面で伸ばすのも一興か)
シンジは何やらシリアスな思案顔だ。勿論、外面だけだ。
「……だけど……」
アスカが喜びに満ち溢れた顔を引っ込める。漸くまともに戦う気になったのだろうか。イスラフェルもそろそろ攻撃していいかな? ともう1人の自分に自問自答している。
「縛り方が甘いわ!」
アスカはそう叫ぶとタコみたいな動きで縄抜けをやってのける。忍者かよ。綾波とキャラ被りは勘弁やで。
「もっと、強く! 縄の摩擦を活かして! だけど、苦しめ過ぎないように! 愛を込めて縛り上げる!」
なんということでしょう。一瞬の内にアスカとマトリエルの立場が逆転したではありませんか。マトリエルは亀甲縛りの亜種とも言えるアスカオリジナル緊縛術で完全に無力化されてしまった。
──不覚……!
マトリエルは大変遺憾である。
イスラフェルも混乱の極みである。
──どうしよどうしよお家帰る? お家帰りゅ!
イスラフェルは撤退しそうな雰囲気だ。平和的にこの場はお開きになるのか?
「……隙あり」
否、現実は無情である。アスカがポンコツ化してしまったのでリツコは綾波に出撃を指示。隙を見て攻撃するよう言い含めていた。
零号機がプログレッシブナイフを3本、忍者のクナイよろしく投擲する。退魔忍○サギで毎日、様々なイメトレを欠かしていない綾波の投擲は素晴らしく、奇々怪々な事態に精神が不安定な使徒の、脆弱になっているATフィールドをぶち破り、3体のコアに同時にクリーンヒット。
──無念!
でしょうね!
──うそー!
なんか、ごめんよ。
2体(3体)の使徒は仲良く同時に爆散した。
世紀末な光景をポカーンと眺めていたシンジは、ポツリとアスカに尋ねる。
「ねぇ、アスカ。僕のベルトはどうしたの?」
「ふぇ!? し、知らないわよ! あんたの黒いベルト何て知らない!」
そこは恥じらうのか。アスカのプラグスーツを良く見ると胸の辺りに不自然な膨らみが……。
だが、シンジは紳士。野暮なことは言わな……。
「ふーん……別にいいけど、あんまり汚さないでね」
言わない訳ではないが、紳士なので体液フェチでは無いのだ。
「」
アスカも沈黙で肯定を表現している。動きだけじゃなくて顔もタコみたいに真っ赤である。
こうして、使徒が2体同時に現れるという未曾有の危機を乗り越えたシンジとアスカは、当然、懲罰房行きとなった。レイは暇なのでシンジとアスカのとこ(懲罰房)にちょくちょく遊びに行っているようだ。もはや、懲罰房は実家のような安心感とは、シンジの言葉である。