スタッフ分のカレー作りも一段落し、現在は子供たちのサポートを行っている。
俺はといえば炊事場が見渡せる場所で全体を監視・・・、もといサボっていた。
中学から鍛えあげてきた数少ない特技、影を薄くする(通称ステルスヒッキー)を使えばどんな状況でもサボることなど余裕。堂々と休息を得ている訳だが。
「他のスタッフが働いているというのに、堂々とサボるなんていい度胸ね」
どうやらぼっちはぼっちを見つけることに関しては優れているらしい。雪ノ下に見つかってしまった。
「いやこれはだな、高台に陣をとって全体を監視してるんだが。」
「そう。その監視の成果とやらを聞かせて貰おうかしら・・・。」
「そうだな・・・、例えばそこの女子だ。」
「あら、あなたも気付いてたのね。」
俺が指摘したのはとある女子だ。明らかに班から浮いている。
ぼっちとは基本的には目立たない人種だ。だが先程雪ノ下に見つかった俺のように見る人が見ると非常に目立つ。
その女子は先程のオリエンテーリングから班から1歩離れて行動していた。スタッフの先輩達が声をかけたりしているが明らかに他の班員の反応は良くない。上手くいってないのは明らかだった。
「まぁな。可哀想なのはスタッフの先輩達のサポートが裏目にでてるって事だが。」
ぼっちに話しかける時は秘密裏に。下手に集団の視界に入ってしまえば一気に好奇の目に晒される。
「そうね・・・。確かにあの対応は好ましいとは言えないわ。」
ちょうど今も先輩が女の子に話しかけているが、後ろの方の集団は明らかにそれを良しとしていない。それを察したのか女の子は何か言ってその場から離れていく。
そうだ。この場合出来ることは戦略的撤退しかない。おそらく興味無いとでも言ったんだろうな。少しでも興味ある素振りを見せれば、好機とばかりに陰口の嵐だろう。この歳でぼっちとしての生き方を熟知している。
「まぁ誰も彼も由比ヶ浜や小町のようにはいかないだろ・・・。」
その由比ヶ浜はというと、こっちまで聞こえる声で小学生と隠し味について議論している。いや流石にパインはないだろ・・・。
「はぁ・・・。バカなのかあいつは・・・。」
「ほんと・・・バカばっかり。」
いつの間にか例の女の子が隣に居た。
「まぁ実際大概の人間がそうだ。早めに気付いてよかったな。」
「あなたもその大概ではなくて?」
俺が思う真理の1つに雪ノ下が突っ込んできた。それに対していかに俺がぼっちとして優れているか力説していると、
「名前。」
「は?名前がなんだよ。」
「名前なんて言うの?普通今ので伝わらない?」
「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものよ。」
「・・・鶴見留美。」
「私は雪ノ下雪乃。そこのはひ・・・、ひき・・・、ヒキガエル君。」
おい、だからなんでアダ名を・・・。ってこの前自分で言ったか。
「比企谷八幡だ。」
「なんか2人は違う気がする。あっちの人達とは、私も違うから・・・。」
気持ちはわからなく無い。ある程度頭がよかったり、周りが見えたりする子ならば小学校高学年で気づき始める事だ。
自分と他人との内面の違いのようなものが。
おそらくそれが自我というものなのだろうが、集団生活が中心の小学生にとって時としてそれは枷となりうる物だろう。
*
野外炊事が終わり、現在はキャンプファイヤーが行われている。
このキャンプファイヤーにも残酷な現実を見ることが出来る。小学生ながら既に女子になんとなく避けられてる男子が存在する。その一方でなんなくこのイベントをパスする男子も当然いる。この構図はおそらく大人になってもそう変わらないだろう。ソースは小学生の時エアオクラホマミキサーを踊った俺。
「お疲れヒッキー。」
「由比ヶ浜。どうかしたか?」
「いや、うん・・・。さっき話してた子いたでしょ。カレー作ってる時。」
「ああ。」
「なんとか出来ないかな。なんか孤立しちゃってるみたいだし・・・」
由比ヶ浜もそれなりに気にかけているらしい。しかし・・・。
「流石に厳しいだろ。明日は午前中の自由行動と昼飯でこの自然教室自体が終了だ。何かするには時間もないし条件も悪い。」
自由行動で鶴見留美の班が全員同じ行動をとるとは限らない。なんなら留美1人をハブって行動する可能性もある。これではぶっちゃけ何も出来ないだろう。
「そっか。そうだよね・・・。」
キャンプファイヤーの方を見ながらそう呟いた由比ヶ浜に俺は何も言うことが出来なかった。