この身はただ一人の穢れた血の為に   作:大きな庭

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・別の二次創作が進まない為息抜き。
・露骨過ぎるオリ主のオマージュ元。
・原作と重複する所は可能な限り飛ばしていくスタイル。
・言わずもがな、独自解釈・原作改変が存在し、(可能な限り注意いたしますが)事実誤認等が発生する可能性が有ります。


追憶

 母が死に、僕が〝釈放〟されたまさにその日、梟は窓からやってきた。

 

 一般的に、それが魔法族にとって喜びの知らせである事は重々承知している。

 けれども、僕はその〝収容〟通知に対し、特段の感慨を抱く事は出来なかった。

 せめてそれが一日、否、数時間でも早ければ、僕は真っ当に喜ぶ事が出来ただろう。去年の十二月二十六日に十一歳を迎え、当たり前のように九月一日時点においても十一歳であり、そして何より魔法的な素養を有する事を、グレートブリテン唯一の魔法学校により公証された者として。

 しかし、それを心待ちにしていた唯一の肉親──ホームエデュケーションという〝言い訳〟の下に僕をプライマリースクールにやらなかった母は、既にこの世に居なかった。

 だから当然の帰結として、僕は来るべき七年間に対して、一切の関心も、好意も、希望も何ら持ち得なかったのだ。

 

 ──他ならぬ、彼女に出会うまでは。

 

「驚いたわ……! 貴方も魔法族なの!?」

 

 恐らく、僕は母を愛していたのかもしれない。

 魔法の制御の難易度は、感情の強さに比例する。特に、子供であれば猶更だ。

 たとえ未成年で有っても、非魔法族の前で魔法を行使する事は望ましい事では無い。僕は過去の一度の過ちによってその事を重々承知していながら、しかし、公然と魔法の制御を喪った。それは、僕にとって明らかに恥ずべき事であるのは間違いなかった。

 けれども、幸運な事に、それを見咎めたのは単なる非魔法族では無かった。そして、何よりも僕にとって幸運で有ったのは、それが〝彼女〟で有った事だった。

 

「私も魔法使いなの! ……嗚呼、ええと、それは正確では無かったわ。私は非魔法族、つまり貴方達が言うマグル生まれの魔法使いなの。けれども、つい先日素晴らしい届けが家にもたらされたのよ。最初、パパとママは明らかに信じてなかったけれど、最後には信じてくれて、ホグワーツへ行く事を許してくれたわ……!」

 

 彼女は余りに押しが強く、無駄にお喋りで、そしてうざったらしかった。

 

「見た感じ、貴方と私は同級生に思えるのだけど、違うかしら? それとも、ホグワーツの先輩だったりする? 出来る事ならば、ホグワーツについて色々聞きたいのよ。私も本で色々読んで勉強したし、夜更かしし過ぎてママに怒られちゃったくらいだけど、気になる事や解らない事が一杯出来たの。それを少しばかり早く解決出来るとしたら、こんなに嬉しい事は無いわ!」

 

 正直言って、第一印象は最悪以外の何物でも無い。

 僕が魔法使いである事を──魔法族の父を持っている事を肯定する前ですら、彼女は一方的に言葉を捲し立てていた。同世代の子供とロクにコミュニケーションを取った事が無い僕でも、そのような行いが無礼で、無作法で、そして間違っているものだという事くらいは、理解する事が出来たものだ。しかし、この非魔法族生まれの魔女は、それを未だ学んでいない程度には〝愚か〟であるようだった。

 

 ……嗚呼、けれども。

 

 確かに、第一印象は最悪で有ったけれども。

 それでも、僕は紛れもなく、彼女によって救われたのだろう。

 唯一の肉親を喪い、自覚しないまま深い傷を負った僕の心を、彼女は──どう思い返してみても刺激的で、半ば暴力的とすら有ったのだが──癒してくれていたのだろう。

 

 別にその後、彼女の印象が大きく変わった訳では無い。寧ろ、僕は彼女と会話すれば会話する程に、彼女は我が強くて、知識のひけらかしが好きで、言葉の選び方が非常に下手くそな魔女である事を、強く実感するに至っていた。

 しかしそれと同時に、彼女は聡明で、気高く、優しく思い遣りが有って、そして酷く魅力的な女の子である事もまた理解していたのだ。そして、短い交流の中である事を差し引いても、自分自身が彼女に対し、一体どのような感情を抱いているのかも。

 

 それは、黄金の日々だった。

 

 共に学び、議論し──希望に満ちた未来を疑っていなかった一か月。

 その時は勿論、後の人生において振り返ったとしても、その一か月以上に僕が純粋に幸福を感じる事が出来た時間は、ただの一度として無かったのだ。


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