この身はただ一人の穢れた血の為に   作:大きな庭

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分割投稿の後編。

秘密の部屋終了。
ダンブルドアとかいう二次創作者にとって最強の敵。


分霊箱

 この校長室に来たのは、もう都合三度目である。

 

 流石にハリー・ポッターよりは来ていないだろうと確信しているが、それでも生徒個人が軽々しく来て良い場所では無い。実際、殆どの生徒は、この校長室を訪れないままにホグワーツを卒業する筈であり、そしてそれは間違いなく良い事の筈だった。

 

 けれども、アルバス・ダンブルドアがそれを必要としているのであれば、僕はやはり最初から拒む術は無いのだろう。彼は校長であり、僕は生徒であるのだから。

 

 不思議な銀の機械が煙を部屋に燻らせる中、相変わらず老人は超然とした気配を纏ったままに、微笑みを湛えて椅子に腰掛けていた。

 去年と明らかに違う所を探すとすれば、ハリー・ポッターがバジリスクを殺害せしめたという、ゴドリック・グリフィンドール由来の美麗な銀剣が飾られている所だった。

 

「さて、ステファン。今年も良く来てくれた」

 

 どう考えても社交辞令な歓迎を無視し、僕は視線で先を促した。それに対して老人は少しばかり困った表情を浮かべる。

 

「……君は少しせっかちな嫌いが有るのう。物事を急速に進めたがる」

「全てにおいてそうしたいと思っている訳では有りませんよ。ただ、必要で無い事に際して、あまり時間を大きく割く意味が無いと考えているだけです」

 

 そして、アルバス・ダンブルドアもまた根本的には同種だと思っている。

 

 僕よりも手段と方法が酷く婉曲的であるが、それでも最低限必要な事以外に従事したがらない傾向という事は変わらないだろう。

 この老人は、推理の種明かしをする程に親切でも、丁寧でも無い。徹底的に独善的で、功利的である事について、僕は当然に共感を示している。

 

 そんな揶揄が通じたのか、それとも僕の頑なさに折れたのか。或いは、それが自らにとっても好都合だとすら考えたのか。老人は小さく頷いた後、口を開いた。

 

「まずは君には礼を言わなくてはならんのう」

「……随分な皮肉ですね」

 

 ただ、余りにあんまりな先制攻撃に、僕は顔を顰める。

 けれども、今回は老人にその意図は無かったらしい。静かに首を振った。

 

「偽りなき本音じゃよ。今年、君は儂の計画を破壊しようとしなかった。君が動かなかった御蔭で、儂は生徒を一人も殺さずに――五十年前の二の舞を演じずに済んだ。その事について、儂は君に対して深く感謝しておる。個人的にホグワーツ特別功労賞を与えたい位にの」

「去年と違ってそのような戯言を抜かさなかった事は本気で有り難いですよ」

 

 今年も加点されていたら、一体どうなっていたか解らない。監督生が何処か期待するような表情を向けていたのは知っていたが、当然に無視した。僕を何だと思っているんだ。

 そして何より、僕の行いは讃えられる類の物では無い。

 

「……そもそもの話、去年僕は何もしなかった。そして、今年もです。〝生き残った男の子〟のみが──〝英雄〟のみが全てを成し遂げ、終わらせた。僕の力というのは一貫して些細な物であり、状況に波風を立てるものでも無かった」

 

 去年も無力を感じた。塵のような闇の帝王の前で尚、僕はその塵以下の存在だった。

 しかし、今年はそれ以上だった。二月初めにハーマイオニー・グレンジャーが退院し、間違いなく彼女が穏当に石化した事を確認するまで、本当に気が気で無かった。胸を張って出来たと言える事など何も無い。己の無能さに対し、大きな怒りを感じたと言って良い。

 

 けれども、老人は重苦しい表情のままに首を再度振った。

 

「君が盤外から状況を破壊しようとした去年の事を忘れる程、儂は物忘れが激しくも無い。君は儂の斜め上の方向性を取れるような人間であると、良く心に刻んだものじゃ」

 

 この老人も僕を何だと思っているんだろうかと僕は睨んだが、老人はやはり気にも留めなかった。そして当たり前のように、言葉を紡ぐ。

 

「何もしなかったと言えばそれは儂の事じゃ。寧ろ、儂の立場を考えると単なる生徒以上に罪深いであろうと思うてはおる。そもそも、君は真に何もしなかったのかね? ハーマイオニーに鏡を渡したのは君じゃろう? アレは、保険としては良い一手じゃったと儂は思う」

 

 果たして、本当にそうだろうか。

 

「……所詮は保険でした。そして、無かったとしても彼女は何とかしたかもしれない。彼女は聡明だ。バジリスクの正体に気付けば、当然自衛の手段を探したでしょう」

「かもしれない、じゃよ。ステファン。その保証はやはり無い」

 

 老人は言うが、女生徒が普段から身嗜みを整える鏡を持ち歩いていたとしても不自然では無いだろう。ハーマイオニー・グレンジャーはその辺りに余り頓着しない性格でも有るが、それでも彼女は歴とした女性なのだ。僕の干渉はやはり無意味だったかもしれない。

 

 ただ、今の会話からもはっきりした事が有る。

 

「つまり、貴方は途中まではバジリスクによる犠牲者が出なくても、最後の最後はバジリスクによる死者が出るかも知れないと、そう考えていた訳ですね」

「……否定する意味は無いじゃろうな。最後の一件だけは止められんかも知れぬ。その可能性は頭に有った。そして、それを君が最も恐れていた事も、儂には解っておる」

 

 この老人に対して今更何かを言う気は無い。

 ただ嘆息して、問いを紡いだ。

 

「僕には全く解りませんでしたが、闇の帝王が生徒を石化するに留めた一番の理由は何なのです? 少なくとも今回においては、闇の帝王が最後まで殺人に踏み切る事は無いだろうと、貴方は確信しているようだった。実際、彼は殺そうとしなかった」

「まあ、そうじゃな。それはヴォルデモート卿との知己と理解――彼の生徒時代を知る者にしか導けぬ結論の一つであろうて」

 

 老人は頷き、僕を悩ませていた答えをあっさりと告げた。

 

「それはのう。一人を殺せばホグワーツが閉鎖される可能性があると、あやつが知っていたからじゃ」

「…………は?」

 

 茫然として更なる説明を求めるが、それで終わりのようだった。

 実際、アルバス・ダンブルドアも少しばかりの苦笑を浮かべてみせた。

 

「馬鹿げているのは承知じゃよ。根拠としては薄弱に聞こえるのも。けれども、強く意識していた筈じゃ。五十年前、マートル・エリザベス・ワレンの死によって、ホグワーツは一度閉鎖の寸前まで行った事を。実際は直ぐにその段階まで進んだ訳では無いが、望まぬ場所に戻らされようとした事実は、あやつにはトラウマ的であったに違いない」

 

 トラウマ的。その表現を老人が選択したのは、酷く意味深で、揶揄的でもあった。

 

「……まあ、貴方がそう断言する以上、単なる勘に留まるのではないんでしょうが。であれば、闇の帝王が生徒を殺すのを避けたのも当然の話ですね」

「閉校となれば必然、ハリーも家に戻る事になるからの。勿論、ホグワーツが永久に閉校になる事もまた有り得ぬから、次を待つ事は可能では有るが」

「余計な時間を与えないに越した事が無いのは確かでしょう。ハリー・ポッターという秘密の部屋の鍵を放置するのは、それだけ不確定要素が増える訳ですし」

 

 アルバス・ダンブルドアが秘密の部屋の怪物について勘付いている事を、闇の帝王が気付いていたかは解らない。

 けれども、ハリー・ポッターを秘密の部屋に誘い込む事に成功しても、それがアルバス・ダンブルドア同伴では不味いと考えていたのは殆ど間違いないだろう。その可能性を低減させる為の努力を惜しまないのは当然とも言える。

 

「最初の事件、ミセス・ノリス――アーガスの猫を石化させたのは、恐らく偶然で有ったのでは無いかと思う。バジリスクの生態は謎が多く、ニュートが知っておったかは別として、『幻の生物とその生息地』にも石化現象は記載されて居なかった筈じゃからの」

 

 だが、何の因果か、死を齎す筈の視線は全く別の結果を生み出した。

 闇の帝王は当然の事ながら疑問を抱き、その理由について検討したのだろう。そしてやはり至極当然に気付いた。直視させなければ、()()()()()()()()()()()()()()と。

 

「後は知っての通りじゃ。スリザリンの継承者の力を誇示しつつ、閉校させないままハリーへ謎を残す事が出来る。死者が出ておらずとも犠牲が出ているのは確かであるから、儂の責任を追及して追放するのにも十分じゃ。もっとも、その計画を真に固めたのはハリーがパーセルタングである事を知ってからの事じゃろうが」

「……そして、貴方がそれを見透かした上で、ハリー・ポッターを放置するのを決めたのもまた同じタイミングだったという訳ですね。彼が何時も襲撃現場に居合わせた事も併せ、彼は蛇の声を普段から聞いていたみたいですし。貴方はそれを告げられた筈では?」

「――計画を立てたのは然りじゃ。けれども、君には一点間違いが有る。ハリーは既に蛇の言葉を聞いていた事を、儂に伝えようとはしなかったからの」

 

 その答えは意外だった。

 僕はハリー・ポッターが、アルバス・ダンブルドアに対して当然それを告げているものだと思っていた。そして、その上で無視したのだとも。しかし、どうやら違ったらしい。

 ただ──複雑な()()の関係性について、余計な首を突っ込むつもりも無い。そもそも突っ込めるだけの経験が無い。

 

 だから、僕は話を大前提へと戻した。

 

「闇の帝王は、閉校を避ける為に殺さなかった。裏を返せば、閉校になっても構わないという段階──ハリー・ポッターを秘密の部屋に誘き寄せられる公算が付いたのであれば、やはり〝穢れた血〟が幾ら死んでも構わなかった。そういう事になりますね」

 

 老人は何も答えない。僕もそれを気にしない。

 当然の話だ。その確認は、一番最初に既に終わらせている。

 

 だからこそ、僕はハーマイオニー・グレンジャーがその最後となる事を徹底的に恐怖した。バジリスクの被害を黙認し、秘密の部屋の真実について三人組も含めて伝える事が無く、しかしそれでも半ば無意味な干渉を止められなかったのは、その点にこそ在った。

 

 幸運な事に、ハーマイオニー・グレンジャーは、ペネロピ・クリアウォーターと共に石化だけで済んだ。そして、僕の想定外だったのは、闇の帝王にとって彼女を最後の、決定的な一押しとする必要は無かったという事だった。ハリー・ポッターを秘密の部屋の謎に駆り立てるに足る人物が、まさか彼女以外に居るとは思わなかったのだから。

 

 ジネブラ・ウィーズリー。

 ハリー・ポッターの親友ロナルド・ウィーズリー、その妹。

 

 成程、その身柄が手中に在るならば、ハーマイオニー・グレンジャーに拘る必要は無い。

 僕が最悪として想定していた脚本は、ハーマイオニー・グレンジャーを贄として殺害し、その復讐としてハリー・ポッターを誘き寄せるという物だった。しかし、囚われの御姫様を救い出すという展開は、獅子寮には酷く効果的で、感心する程に合理的な手段とも言えた。

 

「ジネブラ・ウィーズリー。彼女の役割は?」

 

 僕のその問いに答える義理は、老人には本来無い。

 けれども、予め決めていたかのように、何の逡巡も無く答えた。

 

「彼女はヴォルデモート卿に操られておったのじゃ。一連の石化事件について、手引きをしたのは彼女じゃった。自由が無い身ながら、あやつは手持ちの駒を誠に上手く使ってみせたと言えよう。流石の儂も、ここまでとは思わぬかった。あの男程に疑惑と不和を撒く才能に長けた者は居るまいと、今回つくづく実感したものじゃ」

 

 その言葉には確かな苦々しさが含まれていながらも、賞賛を隠そうとはしなかった。

 

「仮にハリーを殺す事に失敗したとしても、果たして一石何鳥で有ったろうかの。ウィーズリー家の失墜。グリフィンドール寮の分断。ホグワーツという学び舎自体への信頼の破壊。血を裏切る者への見せしめによる、真に純血主義(マグル蔑視)を信奉する者の増大。全くもって危うい所じゃった」

 

 その大半は僕にとって左程関心が無いが――

 

「……操られていた? ホグワーツでは、肉体的、精神的護りが幾重にも掛けられている筈でしょう。単純な服従の呪文は、この校内では上手く機能しないのでは?」

 

 ――流石に、身の危険が有るという事は聞き流す事が出来なかった。

 

 ここは単に変な城では無く、魔法魔術学校なのだ。

 『姿現し』や『姿くらまし』が制限されているなどは、防衛措置として序の口に過ぎない。移動鍵を学校内に繋げるのも、或いは逆に学校内から外部に繋げるのにも、それ相応の魔法力と権限が必要な筈であり、それ以外にも種々の攻撃や干渉が不可能な要塞となっているに違いなかった。そもそもの成り立ちからして、この学校は〝マグル〟からの迫害を少なからず背景とするものなのだから。

 

 言ってみれば、ホグワーツ生は全員、その入学に際して〝ホグワーツ〟と魔法契約を結んでいるのである。この校舎内で正しく学び、成長し、卒業する為に。それを妨げるような暴力的行いは、原則として〝ホグワーツ〟自体が許容しないに違いなかった。

 

「まあ、そうじゃの。外部の者が掛ければ、普通は君の言う通りじゃ。しかし、去年校長である儂が招き入れたように、或いは創始者自ら遺したように、一定のルールに従って入り込むという事は可能なのじゃよ。今回ヴォルデモート卿が用いたのも、その類じゃった」

「……その手段について余り知りたいとも思いませんが、僕が最も大きな関心を有するのは一つです。今回には〝次〟が有るんですか?」

「無いとは断言出来ぬ。同種の干渉は想定しうる。しかし、手段は突き止めたし、今回の一つは間違いなくハリーが葬った。一応安心しては良いじゃろう」

 

 完全なる断言では無かったが、けれども僕にとっては十分満足出来る回答だった。

 

 この余りに多くを見通し過ぎる大魔法使いが、確実な物言いを出来ない事など承知の上だ。しかし、今回この老人が被害を黙認したのは、偏に闇の帝王が用いている手段が解らなかったに過ぎない。逆に言えば、解っているのであれば、たとえ同種の干渉が用いられても何とでも対策のしようがあるだろう。その点で、次が今回と全く同じになる事は有り得ない。

 

 小さく安堵の息を吐いた僕に、だがアルバス・ダンブルドアは苦笑を深めた。

 

「……覚悟しておいたつもりじゃが。君は今回も多くを見通していたようじゃの」

 

 その言葉が、額面通りに受け取って良い物で無いのは何となく伝わってきた。

 

「儂が真に懸念していたのは、君が今回の状況を──去年と同様に不愉快だと感じて残らず是正しようとする事じゃった。全てを見透かした上で、尚放置するとまでは余り期待しておらぬかった。ただ、君は此度の儂との会話に平然とついてきてみせた。それは間違いなく君が、殆ど正確に事情を把握していた証明とも言える」

 

 ……まあ、何も理解しないままであれば、この飛び飛びの会話は意味不明だろう。

 御互いに一から十まで説明をしないし、求めても居ない。もっとも、僕としては当然の行いである。必要で無い事に言葉を費やすのは、その事自体が必要であるという場合が時に存在する事は認めるとしても、やはり個人的嗜好としては大きな意義が感じられない。

 

「それで? それが何か貴方を満足させる事だったのですか?」

「満足とは違うの。驚きというべきか。儂は秘密の部屋が解決するまで――君の事をハリーに言及されるまでは半信半疑であったのだから」

 

 思ってもみなかった名前に、僕は眉を顰める。

 

「……ハリー・ポッターが、僕の一体何を指摘するというんです? 彼と僕は、殆ど接触が無かった筈ですが」

「ハリーはの、君が今回の全てに気付いていたのでは無いか、と儂に問うた。そして率直に言って、儂はそれを誤魔化すのに大変苦労したと言わざるを得ぬ。それが正しいのかどうかすらも解らなかったからの。結局、()()()()()()犠牲を見逃す筈が無いであろうという言葉に、ハリーも一応の納得を見せてくれたが」

 

 ……そう老人は言うが、やはり意味が解らない。

 ハリー・ポッターとの直接の接触は、あの十二月末のメモが最後である。意味深であるのは否定しないが、だからと言って僕が真相に気付いているという確信には繋がらない。

 ハーマイオニー・グレンジャー経由を考えるにしても、あのギルデロイ・ロックハートとの接触を除けば、全く接触していないと言っても過言ではない。わざわざ彼女が僕から鏡を渡された事を喋る理由は考えもつかないし、やはりその結論を出す理由は無い筈だった。

 

 ただ、見る限りでは、この老人もその答えを持たないらしい。問い掛けの視線を寄越しても尚、アルバス・ダンブルドアは、ただ静かに僕を見返してくるだけだった。

 

「そう言えば、その際ハリーもしきりに不思議がっておったが、君は随分とギルデロイに関心を寄せておったようじゃの。ギルデロイが一体何であったのかと、儂にも強く確認された。その点に関して、君は儂以上に何か情報を持っていたのかね?」

 

 その蒼い瞳には、珍しく興味と関心の色が映っている。

 

 言葉を選ばなければ内心を探る色と表現すべきか。

 去年この老人は原則として開心術を生徒に用いるような真似をしないとは言ったが、その叡智と老練さを持って若人の内心を見透かす事については何ら言及していなかったし、実際それらによって開心術に近い真似は出来るのだろう。だからこそ、彼は殆どの場合において開心術を必要としない。

 

 だが、別に今回に関しては、開心術有りだろうが無しだろうが構わなかった。

 

「……ああ、貴方が疑念を持つ理由は何ら存在しませんよ。ギルデロイ・ロックハートの名前を彼に対する迷彩として使ったのは事実ですし、他ならぬ彼自身から話を聞きたかったのもまた事実です。しかし、もう終わった事です」

 

 あの時点で最早彼はどうでも良い存在だったし、既に何を言っても仕方がない。

 彼は、不幸な事故によって記憶を喪ってしまったのだから。

 

「その割には、ギルデロイが間違いなく闇の帝王とは無関係だと儂が保証した後も、ハリーは何か腑に落ちないようじゃったが……まあ、君がそう言うのであればそうなのじゃろう」

 

 自分を納得させるように老人は頷き、けれども話題を続けたいらしかった。

 

「ただ、去年のクィリナスと違って、君は何も言う気が無いようじゃの?」

 

 心底不思議そうに言うが、僕が何時も何時も文句を付けるとでも思っているのだろうか。

 いやまあ、全く言いたい事が無い訳では無いのだが。

 

「僕の価値観では、去年は教授として尊敬出来るような人間であり、今年は教授としても道化としても尊敬を抱けるような人間で無かっただけですよ」

 

 そう言い切り、しかし寮監の言葉が脳裏に蘇る。

 

『己が価値を見出す事が出来た物に対しては酷く熱心であるが、しかし逆に、見出せない物については君は――お前達は余りに冷ややかだ』

 

 だが、それは何か可笑しい事なのだろうか。

 興味や好意を抱く者には親身に、それ以外には冷淡であるのは誰だって同じである筈だ。にも拘わらず、あのような皮肉を、半ば憐憫するように言った理由を今一解りかねている。

 まあ、一々気にしても仕方がない事でもあるのだろうが。

 

「文句が有るとすれば、何故あのような害にしかならない無能を貴方が雇ったのかという事位でしょうか。()()()()()()()()()()()()()というのもまた学びであると言うのであれば、ギルデロイ・ロックハート以上の人材は居ませんでしたが」

「――それについては、悔いが残った部分でも有るの」

 

 老人は、深い後悔を滲ませながら、大きく息を吐く。

 

「儂は、彼の為には、ホグワーツに招くのが一番であると信じておった。ここでは生徒だけでは無く、教える側もまた多くを学ぶ。そして、儂は彼の学生時代を――ギルデロイが目を輝かせながら、愉快な校内新聞の出版許可を儂に求めてきた時の事を覚えておる」

「……ただ、貴方は今年余りにも忙しかったようですからね」

 

 座視する事は、何もしないという事では無い。

 

 ルシウス・マルフォイ氏の干渉を思えば当然だ。この老人もまた闇の帝王が動くのを待っていたとは言え、追放されるのが早過ぎては不確定な事象を引き起こす可能性が有った。如何に石化が意図的だったとは言え、闇の帝王がその手段を選択したのは、やはりアルバス・ダンブルドアという絶対の暴力を無視できなかったからに違いない。

 

「……それで、今回貴方がギルデロイ・ロックハートを招き入れた深謀遠慮は、一体どのような物であったのです? その事についても、やはり想像が付きませんでしたが」

 

 気宇壮大な存在かとも思えば、結局は見たままの存在だった。

 故に、僕はアルバス・ダンブルドアがどういう価値を彼に見出したのか気になってもいたが、老人は当然のように言った。

 

「ギルデロイは、忘却術を用いて人の功績を盗んでおった」

「……それで?」

「その内の二人は、儂の知人であった。故に、儂はギルデロイにハリーの教師となる名誉をちらつかせ、ホグワーツへと招いた。彼の詐欺、そして彼がペテン師である事を明らかにし、その罪を明らかにする為に」

「――成程。その為に、貴方は学校に招き入れたという事ですか」

 

 気付けば拳を強く握り締めていた。

 

 個人的な事情の下に、公の組織を利用する。

 七年の内の一年。二度と訪れない時間を、誰とも知らない中年(ギルデロイ・ロックハート)の贖罪の為に使い潰す。

 

 別にその行為自体を否定するつもりは無い。公を濫用出来る地位に在るならば、やはり私は当然の権利としてそれを行使すべきだった。

 しかし、それと同時に領分を弁える事は必要な筈だ。己が利益を図るのも結構。全体の為に奉仕すると嘯くのも問題を無い。けれども、それは善悪や是非を問わず、確かな自覚と決意の下に行われるべきであり、断じてあやふやなままに用いられてはならないに違いなかった。

 

 ギルデロイ・ロックハート。

 

 彼は、一人の男子生徒に対話と共感を求める程、この一年を通して誇りと自尊心を手酷く傷つけられ、理解に基づく敬意に飢えていた。

 確かに彼は犯罪者だった。老人は対処する時間が無かった。しかし、どんなに正当な理由が有ったとしても、その冷ややかな歓迎は、ホグワーツという学び舎が()()彼にとって居心地が良い物などでは無い程である事を克明にした。

 

 僕はあの男に価値を見出せなかったが、それでも、それを無視しきる事は出来ない。

 

 ……いや、この老人はこの老人なりに美学を持っているつもりなのだろう。

 

 言ってしまえば、僕の価値観にそれが合わないというだけなのかもしれない。

 僕は寮監を教授と呼びたくは無いが、生徒を倫理的に導く気概を更々見せる事無く、ただ己が研究に身命を費やし、またそれを継承し得る者の育成を欲するという価値観は、〝教授〟の一つの在り方だとしてやはり理解出来るのだから。

 

「……どうやら大穴が正解だったようですね」

 

 握った手を軽く開きながら、僕は言葉を紡ぐ。

 

「忘却術説が有り得ないというのは、ハーマイオニー・グレンジャーが滔々と説明してくれました。まあ、彼が不幸な事故で記憶を喪ったと聞いた瞬間、そうだとは思いましたが」

「ハーマイオニーは真に聡明な魔女であるようじゃの。そして多くが同じように考えた。正しく巧妙な技であった。儂に確信は有ったとは言え、証拠は無かったし、暴く手段も無かった。回復も期待は出来なかった。彼自身が、それを悔い改める以外にの」

 

 同時にギルデロイ・ロックハートの並々ならぬ腕も解る物だ。

 

 『狼男との大いなる山歩き』において、彼は村を救ったのだと記述していた。

 そう、彼が他人の功績を盗んだのだとすれば、それだけの目撃者、或いは真の英雄に対して感謝した者が居た筈なのだ。けれども、そのような者は現れないか、或いは真実を言っても嘘吐き呼ばわりされる程の少数派に貶められた。魔法事故惨事部の総力を上げた場合で有ってもここまで見事な真似は中々出来ないだろうと思わせる、完璧な腕前だった。

 

 彼はやはりレイブンクローだったのだろう。馴れ合いを排した徹底的な個人主義は、時に突出した大魔法使いを産む。記憶の領域において、彼以上の魔法使いは居なかった。

 

 そして――

 

「ギルデロイ・ロックハートは、貴方に勝利したという事ですか」

 

 ――その事実を少しばかり羨む気持ちが、無い訳ではなかった。

 

「……やはり、君もそう感じるかの」

「報いを受けた以上、僕は余りそう思いませんが。しかし、貴方の目的を外したのは確かです。貴方は罪を贖わせる為にギルデロイ・ロックハートをホグワーツに呼び、けれども彼は逃げおおせた。彼は法の届かない場所に、最早誰にも裁けない場所に行ってしまった」

 

 その事だけは、幾ら言葉を濁そうとも揺るぎがない。

 秘密の部屋の中で何が起こったのかを僕は正確には知らないし、知る術も無い。けれども、それなりの期間を掛けて会話を交わした間柄なのだ。何故か記憶を喪ったという事も併せれば、あの男がどういう行動を取ろうとしたのかは容易に想像が付く。

 

「それを正しく予測していたのは寮監ですよ。『賢者が愚者に必ず勝つ訳では無い』と。明らかにあの男を雇った貴方を揶揄する台詞を吐いていた」

「……セブルスらしい物言いじゃの。彼は反対を示したものの、それ以上の事は言わなかった。ギルデロイの雇用に一番反対したのはミネルバじゃった」

「ならば恐らく、それを寮監は深く後悔したでしょう。良い気味だとも思いますが」

 

 ただ寮監は、ギルデロイ・ロックハートに牙が有る事を見透かしていた。

 当時は拷問だと考えていたが、あの男と幾度と無く会話をし、一定の信頼関係を築いた事は良かったのかもしれない。自分を手酷く侮辱した──客観的にそう見えるのは事実だろう──生徒に対し、私怨の下に忘却術を行使して人格を破壊する可能性は皆無だったとは言えないのだから。

 

「一応聞きますが、彼の行いを公表する気は?」

「……しても信じられる物じゃなかろうて。報いは受けた。彼はその一生を治療に費やす事となる」

 

 勿論、僕はそうは思わない。

 アルバス・ダンブルドアは相応の権力者だ。その言葉は十二分に重い。

 

 そもそも別にホグワーツに招き入れる必要など無かった。形振り構わず政治力を行使すれば、万人が万人、ギルデロイ・ロックハートが詐欺師である事を信じなくとも、再起不能な程度には毀損出来ただろう。

 都合の良い事に、彼は二年生にも劣る程に呪文を使えず、公開の場で実践を促してやればそれで終わった。何より一番重要なのは、アルバス・ダンブルドアはマーリン勲章一等で、ギルデロイ・ロックハートはマーリン勲章三等なのだから。

 

 加えて今の時点においては〝生き残った男の子〟が居る。

 特に秘密の部屋を暴き、バジリスクを殺してみせたという事実は誰にも否定出来ず、やはりその言葉は重みを持つ。たとえ彼が十二歳であるとしても、彼がギルデロイ・ロックハートの名誉を傷付けて得られる利益など無いのは明らかであり、彼が真実を語っているのだというのは受け止められるだろう。

 

 けれども、やはりこの老人はそれを選ばない。

 

 闇の力に対する防衛術連盟の名誉会員、週刊魔女のチャーミングスマイル賞五回連続受賞、そしてマーリン勲章勲三等。

 

 常に自慢していたそれらの名声を、彼は喪いはしなかった。

 今回も、そして恐らく永久に。それは、やはり勝ちなのかもしれない。

 

 加えて、ギルデロイ・ロックハートがこの老人を上回った点がもう一つ有る。

 

「ハリー・ポッターらが、ホグワーツで最も無能――ではなく有害であった存在を秘密の部屋に連れて行った事についてはどう考えているんです? 彼が秘密の部屋に誘い込まれる事までは、貴方の計画の範疇だった。しかし、ああなるとは考えて居なかった筈だ」

「──そうじゃな。それは痛恨だったと言って良い」

 

 ハーマイオニー・グレンジャーと違い、彼等もギルデロイ・ロックハートを間違いなく馬鹿にしていた筈だが、けれども最後に頼ったのがあの男であるというのは奇妙さも有る。

 

 ただ、改めて考えれば、それは当然の事なのかも知れない。

 先のミネルバ・マクゴナガル教授との会話を考えるに、賢者の石を解決するに際し、ハリー・ポッター達にとっては、大人達は頼れるものには成り得なかった。一方、当然の事ながらギルデロイ・ロックハートは去年居なかった。そうであれば、この展開を予め予想する事もまた不可能では無かったのかもしれない。

 

 しかし、そのハンデを背負って全てを終わらせたハリー・ポッターは、やはり常人とは一線を画する〝異常〟で有るのだろう。精神力もそうだが、天運の面にしても並外れている。それはまさしく〝英雄〟の在り方に他ならなかった。

 

「……せめて、来年こそは闇の魔術に対する防衛術教授に期待したいものですけどね」

「耳が痛いの。しかし、心して置こう」

 

 端的な言葉に、老人は頷いた。

 僕はクィリナス・クィレル教授を教授と呼ぶが、その授業がマトモで無かったというのは認めざるを得ないのだから。その点はやはり寮監に軍配が上がる、というか比較にならない。二年ともロクでも無かった以上、三年連続というのは勘弁して欲しい。

 

 まあ、実際の所、この老人にさして期待していないのだが。

 

「……それで。そろそろ本題に入るつもりは有りますか? 僕が貴方に要らない質問したのも悪かったですし、答えて頂いた事に感謝が無い事はないですが。

 けれども、貴方は、こんな話をする為に僕を呼び付けた訳では無い筈だ」

 

 

 

 

 

 

 

 この老人は名探偵では無い。

 推理の種明かしをする程に親切でも、丁寧でも無い。

 

 今年は去年とは違うのだ。

 去年の場合は、杖に秘密を誓ってみせた者に対して、いわば説明責任として僕に真相を伝える義理は有った。けれども、今年はそうでは無い。この老人の策謀について生徒が何も見ないままに居るというのは当然の行いであり、わざわざ呼びつけてまで感謝を示す必要も、言葉を交わしてやる必要も無い筈だった。

 

 そして、アルバス・ダンブルドアは当然のように頷く。

 当たり前のように、生徒が自身の求めに、その謎に解答する事を疑わない。

 

「その前に、君に問うておきたい事が有るのじゃ」

「……下らない前座が必要ですか」

「前座では無い。儂にとっては紛れも無く本題の一環じゃよ」

 

 老人は首を振り、重々しくその口を開く。

 

「君がスリザリン生である事を、儂は良く承知している。儂がスリザリンから蛇蝎のように、という表現では生温い程嫌われているのも理解しておる。そして何より、君と儂の気質が全くもって合わないというのも、御互いが同意を示せる点であるとも思う」

「…………」

「しかし、君は去年も、今年も、儂に対する最低限の尊重だけは捨て去ろうとしない。どんなに見下げ果てた老人であると感じようと、絶対に。その理由を、儂は聞かせて貰いたいのじゃ」

 

 そう言われた瞬間、平静を保ったとは思う。

 だが、この老人には伝わっている事は解っていた。

 

「……それが必要ですか?」

「酷な事を聞いておるとは理解しておる。しかし、儂は君にそれを言葉にして欲しいと思う。いや、迂遠な事を言っても仕方が無かろう。儂はその理由に見当が付いておるし、それは正しいのだと半ば確信しているのだから」

 

 当然の事だった。

 入学前、ホグワーツへの〝脱獄〟に希望を抱いていた時から、英雄の生涯は僕にとり興味を惹く事柄だった。寧ろ、魔法界において、アルバス・ダンブルドアについて関心を抱き、何らかを調べようとしない者は居ないだろう。

 彼は多くの書籍、或いは論文の中において語られ、それを追う事は何ら苦労が無かった。そして子供の理として当然のように憧れ――しかし、皮肉にも〝収容〟が終わった後、それが憧憬を抱くような英雄では無いという事を理解した。

 

 そしてその事こそが――この老人の生に共感してしまった事こそが、逆に、僕にとってアルバス・ダンブルドアに対して冷笑の態度を貫けない理由となってしまった。

 

「今では無く、当時。君を育て上げた者に対して、君はどのような想いを抱いていたかね?」

 

 僕は大きく息を吸い、そして吐き捨てた。

 

「決まっているでしょう。

 ――反吐が出る程嫌いでしたよ」

 

 そう思わない筈が無かった。

 僕の生は、母に支配されていた。優しく、それ故に残酷な鎖に繋がれていた。

 

 物心付いた時から、母が全ての中心に居た。

 

 今の僕ではなく未来を見ていた、その言葉が嫌いだった。

 僕の嫌悪と暴言を是認していた、その笑みが嫌いだった。

 死臭に似た匂いを漂わせていた、その抱擁が嫌いだった。

 

 僕が成長するのと比例するように、僕が母の生命を吸い取っていくかのように、それらは日々耐えられないものとなり、特に最後の二年程は酷いものだった。

 

 食事を一回一回口元まで運ぶ。力の抜けた身体をしばしば動かす。不可避的な汚物を処理し、身体を拭く。呻き声や喚き声を上げているのに付き合う。目の届く範囲外で危険な事をしないように、殆ど丸一日寄り添う。

 それらの基本的な事柄は当然ながら、日常の全てについて僕は必要とされた。

 無論、言葉に表してみればこれ程単純で、無味乾燥な物は無い。ただ、こればかりは、実際に見た者しか感じられない重みと、苦々しさが有った。

 

 何より僕が最もロクでも無いと感じていたのは、母が時折正気を、理性を取り戻す点だった。単なる動物だと割り切れれば、もっと手酷く扱えたのだ。しかし、出来なかった。非道にも、母は、神はそれを赦してはくれなかった。

 

 ただ──そんな事を目の前の老人にわざわざ言ってやる必要は無かった。言葉よりも雄弁な物が、世の中に在る。まして、互いに同種の物を持っているのなら猶更だ。

 

 そして、老人は大樹のような頑なさのままに、静かに頷いた。

 

「君は勘違いしているかも知れぬから、予め補足しておこう。確かに儂は、ホグワーツの卒業時にゴドリックの谷に戻り、その後大きく変わった。しかし、それは母の死が原因では無い。寧ろ、当時はそれを心の何処かで恨んでいたかも知れぬ」

「……貴方に出来損ないの妹が居るというような話は、幾つか読みました。けれども、貴方を貶める為の嘘だと僕は思っていましたが」

「嘘では無い。また、スクイブでも無かった。儂の妹で、アリアナ・ダンブルドアといった。そして、君が母と呼ぶ者に、恐らく最も境遇が近しい存在じゃったと思う。また、彼女の死こそが、儂に自身の愚かさを、如何に愛を軽んじていたのかを思い知らせたのじゃ」

 

 それを語る老人に、去年のような弱々しさは無かった。

 枯れ落ちていた。その事について余りに悩み、考え過ぎ、その段階を通り越していた。けれどもそれは表面上だけで、その洞の中には大嵐がうねっている事を僕は既に知っていた。

 

「儂は――儂等は、喪わねば理解出来なかった。共に過ごす何年の時よりも、ただの一瞬こそが重く、痛烈な衝撃を、魂の終焉を与えた。この先どれ程の長く生きようとも味わわないであろう、苦杯と欠損、そして何よりも自分自身への激情を齎した」

「…………」

 

 アルバス・ダンブルドアはそこまで言い切った。

 僕は何も言わなかったし、老人もまたそれを求めなかった。

 

「君に聞くべきかどうかは迷っておった。去年、君の率直な言葉を聞いても尚。じゃが、やはり君は信用に足る。その確信は今確かなものとなった。だからこそ、真にこの戦争の中核となる事項について問おうと思う」

「……僕はそれを全くもって希望していないんですけどね。僕にとってハリー・ポッターが基本的にどうでも良い存在だというのは理解している筈だ」

「代わりに儂が君に力を与えるとしても? 例えばそう、閉心術を」

 

 今年は、僕が呻く番だった。

 嗚呼、この老人は長く生きて来ただけあって、他人の急所を正しく知っている。

 僕には力が必要だった。些細で有っても、確かな力が。今年のように、或いは去年のように、物事を傍観しないままで居られるだけの暴力が。

 

「……貴方は酷い人間だ。それは貴方が必要だから覚えさせようとしているだけだ」

「否定はせぬ。けれども、君が今年全てを見透かしたという事は、それでいて尚動かなかったという事は、間違いなく君に力の必要性を感じさせた筈じゃ。そして、儂はそれを提供出来る。特に閉心術の類は、一人で鍛えられる物では無いからのう」

「多忙な校長自らが、それを行う必要が有りますか? 例えば寮監なんかに対して丸投げしてしまえば良いのでは?」

「儂は自ら関わるだけの価値を感じておる。誰も君に注目していない今であれば、儂自らが動く事も出来る。別にセブルスが不適切であるという訳では無い。彼は卓越した閉心術士じゃ。指導する者としては十分過ぎる程であろうし、儂の予測通り来年セブルスが多少忙しくなるとしても、仕事を遣り遂げるだけの能力を有している」

 

 じゃが、と老人は壮絶な微笑みを見せた。

 

「――君が真に実感しているかは知らぬが。

 儂は今世紀で最も偉大な魔法使いと呼ばれておるのじゃよ」

 

 この老人の教師の在り方が、僕は気に入らない。

 

 さりとて、それでも指導者として不適という訳では無いのは解っている。寧ろ、この老人程に、他人を先の領域に進ませるという一点において、眼前の存在以上の者は居ないのだろう。校長職として最前線から離れていた期間が長いとしても、百年近くホグワーツに巣食ってきたという事実は変わらない。

 

 そして、開心術の修練は必然的に他人に対し心の侵入を許すものであるが――この老人の前では全く気にする必要も無いのだろうとは承知していた。この怪物は、間違いなく僕以上に僕の事を知っている。不快だが、それは事実だ。

 

「……貴方は余りにも多くの事を企み過ぎる。聞きましたよ、秘密の部屋を元通りに閉じ直し、バジリスクの亡骸も再度そこに葬る気だと。あの毒は貴重な上に、産出者が死んだ程度で容易に劣化する物では無い。貴方はホグワーツに災厄を残そうとしている」

 

 秘密の部屋の解決というハリー・ポッターの偉業を、そしてアルバス・ダンブルドアの帰還を納得させる為には、バジリスクの遺骸こそが最も手軽で適切だった。

 

 だが四百年程の間、英国では御目に掛かれなかった怪物だ。たかだか自分に制御出来ない程度の些事では諦めない魔法生物狂い共をもってして尚、それだけの間ヴェールを剥がせなかった存在だ。研究したい者や、それを保存したい者がわらわらと現れて来たのは当然の成り行きとも言える。スリザリンの卒業生ですら秘密の部屋を含めて大いに興味を持った。

 

 けれども、この老人は殆どそれらを拒絶したと聞く。

 

「あれはサラザール・スリザリンの遺産じゃ。であれば、本来の場所に還してやり、穏やかに眠らせてやるのが当然じゃろうて」

「……良く言う。ならば、ゴドリック・グリフィンドールの剣を小鬼達の下に戻してやるべきでしょう。それは彼が盗んだ物だ」

「それはゴドリックの遺産じゃよ、ステファン。盗んだ物などでは無い」

 

 校長室の片隅に置かれた美麗な剣を見ながら老人は言うが、僕にはやはり同意しかねる。

 

 購入金額と借用金額には必然的に大きな差異が有るのは当然の事だ。そして一方が購入するつもりで金額を提示し、一方が賃貸するつもりでその金額に同意したのであれば、そこに両当事者の意思の合致は無く、契約は当然に成立しない。

 

 それを種族の差異による行き違いだと主張するのは、詐欺師の開き直りでしかない。

 

 だが、老人はその眼を細め、釘を刺すように言う。

 

「君は聡明にも理解している筈じゃが、互いの真意の合致の下に既に成立した契約を、気に入らなくなったからとして事後に覆す場合であれば、それはやはり不当な行いであろう」

「……解っていますよ。そして、既にいずれが真実か不明だ。水掛け論にしかならない」

 

 溜息を吐く。そもそもどちらでも構わないのだ。

 この話題は、単に自分が決意する為の猶予を求めただけに過ぎない。

 

「それで、実際僕に何を聞きたいんです?」

 

 その問いに、漸く老人は本題に入ってくれるらしい。

 静かに頷いて、問いを発した。

 

「闇の魔術について多少の見解を聞きたいのじゃ」

 

 予想通りの言葉に、最早肩を竦める気にもなれなかった。

 

「ヴォルデモート卿の失墜の後、この国では闇の魔術に関する知識も物品も多くが狩られた。彼等も隠す時間も隙も無かったからの。しかし、それ以外までは手が回らなかったのも事実。というより、その必要性は無いと多くの者が考えていた。……君の父上は混乱に乗じ上手くこの国に入り込んだようじゃの。また卓越した魔法使いだった」

「僕は()がそれを為したと思いますがね。そして父は既に死んだ。永久に」

 

 スティーブン・レッドフィールドは、既に気に留めるべき存在では無い。

 国を舞台とする魔法戦争とも違う。あれは家庭内の些細な事件で、全て終わっている。

 

「母の――僕の家に闇の魔術の品々が積まれていた事は、ミネルバ・マクゴナガル教授から報告を? 教授は〝後始末〟をする過程で、当然にそれらを見ましたから」

「うむ。流石に事が事であるからの。君の家に在った物の諸々についても聞いた。二年とは言え彼女は魔法省執行部に居た。しかしその彼女ですら見た事の無い物が有ったとも」

「文句は言いませんよ。その際釘も刺されましたし」

 

 教授は、ホグワーツ教師として、そして生徒を助ける者として来たと言った。

 だからこそ、その行為の過程で知った違法な諸々を、善良な一魔法族として通報するような真似はしなかった。不愉快さを示し、忠告を残しながらも、その職分を踏み越えようとはしなかった。僕が教授の立場であれば、〝当然の善意〟を行使しただろうが、教授は厳格で、融通が利かず、何だかんだ言って生徒に甘かった。

 

 ただ、危険分子についての上司への報告は、教師として当然の事だった。

 そして、僕からそれらの闇の遺産が接収される事の一番の歯止めとなったのは、やはりこの老人で有ったのかもしれない。

 

「……しかし、貴方が僕に聞くような事はやはり無いとは思いますけれどね。貴方が闇の魔術を嫌悪しているのは理解していますが、それにしたって全く知識が無い訳では無いでしょう。その上、貴方は推量する事を大得意としている筈だ」

 

 第一、知識が有るからと言ってそれがそのまま力を有するという訳では無い。

 

 如何に闇の魔術を使おうとも、僕の力量では、この老人の産毛一本すら削ぐ事は出来まい。それは、仮に十年、二十年後の自分をこの瞬間に持って来られた所で殆ど変わりはしないだろう。百歳を超えた老人に、体力と魔力の全盛を迎えた人間が簡単に敗北する。それが才能の差異であり、英雄と凡夫との違いの筈だった。

 

「君に聞く必要が有るかは儂が判断する事じゃよ。そして、推量する際に材料が多いに越した事は無い。それ無しにやるのは、単なる当てずっぽうというものじゃ」

「ならば、闇祓いを初めとする適切な相談相手が居る筈では? 彼等は闇に対抗する都合上、相応の知識を有している筈です」

「事は秘して進める必要が有るのじゃ。そして、彼等に答えられない事は確信している。無論、君に伝える事が大きな危険を孕む事も理解している。しかし、事が事であるが故に、逆に君の場合は知っておいた方が適切であり、まだ状況を制御出来るように思えるのじゃ」

「……つまり、何について?」

「ホークラックス。分霊箱に関して」

「――――」

 

 重苦しく発された闇の言葉に、僕は強制的に沈黙させられた。

 

 分霊箱。

 魂を引き裂き、それを外部に閉じ込めて延命を図る、闇の魔術の秘奥。

 

 成程、この老人がそれを僕に問わざるを得ない筈だ。

 アルバス・ダンブルドアは、余りにも多くを見通し過ぎている。だからこそ、口を開くべき時に開かず、逆に口を開くべきでない時に開いてしまう。

 

 しかしまあ、この場合は口を開くべきだったのだろう。それを知らなければ、僕は最大の危険を避けられなくなる。去年と同じような事など二度と御免だが、けれども仮にそのような万一が存在した場合、それを承知しているのは間違いなく有効な手札に成り得る。

 

 そして、この老人は本気で僕に閉心術を叩き込もうとしている。

 

「……僕に聞く事が適切である事は確かなようです。ただ、それでもやはり聞く必要は無かったように思えますが? 不死への方法論は幾つも存在し、分霊箱はその一つでしかない。一方、仮に分霊箱が用いられたと貴方が確信しているのであれば、貴方がすべきは方法論を問う事では無く、何が分霊箱に変えられたかを突き止める事だ」

 

 分霊箱一個を特定し、捜し当て、破壊するだけだ。

 別に〝専門家〟に聞く必要など無い。悩む事も難しい事も全くない。

 

 けれども、アルバス・ダンブルドアは、僕の不理解を詰るかのように首を振った。

 

「事はそう簡単に行かぬのじゃ。儂とて確信を持っている訳では無いしの。そして一番の問題が控えているように儂には感じた。だからこそ、君の見解を聞きたいのじゃ」

 

 老人は真剣な表情を崩さないままに言った。

 

「――分霊箱を複数作るという事は有り得るかね?」

「――()() ()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、僕は半ば唖然としながらその戯けた質問に答えた。

 

 この老人が、時に突拍子も無い事を言い出す場合が有り得るのは承知していた。けれども、ここまで理解不能な事を言われる事になるとは思わなかった。

 

 老人は茫然としていた。何故、そんな返答が為されるのか本気で解らないというように。

 しかし、老人は気付いた。そして、一瞬遅れて僕も気付いた。

 

「……成程、成程。そうだとすれば、まったくもって並外れた魔法使いじゃ」

 

 その声には紛れも無い畏怖の色が混じっていた。

 

「分霊箱。それを用いる際、術者は()()強力な守護の呪文を掛けねばならぬと警告される。魂の分割は()()()()()残された魂を大いに不安定にする。そして知られる限りにおいて、()()()()魂を分割した魔法使いというのは存在せず、その結果についても()()()()()()()()()

 

 アルバス・ダンブルドアが語る言葉は、僕の知識と一致する。

 

「それを素直に解釈すれば、その余りの魔術の非道さ、高度さ、そして難解さ故に、誰もがそれ以上の領域へと達する事が出来なかったとなるじゃろう。しかし──」

 

 実際それらは必ずしも間違っている訳では無い。

 膨大な魔法力と強固な意思力、そして深い闇への理解無くして成立しない。

 

 ……ただ。

 

「まさか殺人を繰り返す程度が闇の魔法使いにとって障害になると? 紀元前五百年頃の腐ったハーポより約二千五百年。その間、ただの一人も試さなかったとでも?」

「――魔法に暗示と隠喩は付き物じゃ。それを丁寧に解きほぐそうとする魔法使いは、分霊箱をただの一つのみ作る事こそが、正しい……闇の魔術をそう形容したくないのじゃが、ともあれ意図された結果を獲得する為の訓戒で有ると解釈する」

 

 だからこそ、愚かな真似なのだ。分霊箱を複数作るという事は。

 

 だが、間違った道を突き進んだ先が、何処にも繋がっていないとは限らない。

 

「君はどう思うかね? それを踏まえて尚、複数作る事は?」

「……何とも言えませんよ。ただ、複数作ったと主張する人間が居ないという事は、また分霊箱が不滅の手段として一般的なものだと考えられていないという事は、多くの魔法使いが不可能だと結論付けたか、実際に愚行の代償を払って死んだと考えるのが真っ当です」

 

 殺人が手段と言っても、それは魂を引き裂くだけの物で無ければならない。

 そうでなければ、分霊箱など世の中に溢れているだろう。猿がシェイクスピアを書き上げる可能性が皆無では無い通り、たとえ呪文を知らなかろうが意図して作りだす可能性はそれなりに存在する。

 それでいて尚、分霊箱の存在が知られないままに居るとなれば、やはりそこには相当高い障壁が存在するのだと考えざるを得ない。

 

「……解っていますか。仮説が正しいとすれば、これは相当の難事ですよ」

 

 御互いに、その分霊箱が誰に関する物かを口にしていない。

 去年あれだけ正しい呼び名で呼ぶ事を求めた老人ですら、それを口にしない。それは用心の結果などでは無い。数々の護りに満ちたホグワーツ内、しかも今世紀で最も偉大な魔法使いの傍において、たかが名前を呼んだだけで外部に知られる事は有り得ない。

 

 故に、誰の事か共通理解が出来ていて尚、その名前を出さないのは、これまでの誰よりも深い所まで辿り着いてしまったかもしれない者への畏れからに過ぎなかった。

 

「まず、不死の手段が分霊箱による物だと確定しなければならない。彼の失墜前の行動を追跡し、他に彼の嗜好に合うような方法論が無いか、併用しようと考えなかったかを検証しなければならない」

 

 これは大前提である。一番難しいのはそれからだ。

 

「次に、彼のとった方法が分霊箱以外に無いと確信した場合には、その個数を確定させなければならない。しかもそれは殆ど一番最初に、ですよ」

「当然承知しておる。分霊箱の破壊を、或いはその探索を、悟られてはならぬ。分霊箱以外の方法が無いかの検証と、分霊箱の件を同時並行的に進めるのは困難じゃろう。そして、複数個存在すると確信した後もまた、一気呵成に物事を進めねばならぬ」

「その複数個について何が分霊箱になったかも当然ですが、その特定後にも気付かれてもならない。場所を変更する。数を増やす。そうされてしまえば、最早対処のしようがない」

 

 そもそも特定が――その者にとって魂を容れるに足る執着物を探すのが大変だという点が分霊箱の最大の強みであるというのに、それが複数など本当にやってられない。

 

「後者は不可能だと儂は見ておるが。あやつは既に限界まで魂を押し込めたのでは無いか」

「肉体の分割と魂の分割を一緒にすべきではないでしょう。恐らく後者は形而上的世界の論理によって支配されている。仮に現実の論理が通用するとしても、例えば手足を切り落として計五分割されたとしても、理屈上は生存可能だ」

 

 直感的にはアルバス・ダンブルドアの方が正しい気がするが、楽観的になり過ぎるのは不適切だ。どう軽く見積もっても、相手は前例の無い化物なのだから。

 

「……来年から忙しくなりそうじゃの」

「まあ関係無い身としては、御愁傷様というだけですが」

 

 嘆息する老人に他人事のように言う。実際他人事だった。

 

 〝生き残った男の子〟殿ならば兎も角、この男が僕を盤上の駒として用いる必要性を感じるとは思えない。

 今回偶々知識として役立ちはしたが、それ以上の事は出来などしない。今年の些細な干渉が精々で、アルバス・ダンブルドアのように強大な魔法力を持っている訳でも無い。何より、舞台に上がる気が更々無い。

 

 今僕の頭に有るのも、四の五の言わずホグワーツから今すぐ逃げるべきでは無いかという点だ。この老人が易々と負けるとは思わないが、真に己の身を考えるならそれを選択すべきだった。ただ……やはりそれは出来ないのだろう。

 

 ハーマイオニー・グレンジャーは、全ての意義を喪ったあの日の僕が得た唯一執着出来るものであり、真に譲る事の出来ない価値を有する全てで有った。

 闇の帝王の事を知らなければ、こんな身勝手な懸念などしなかった。交通事故に遭うのを過剰に不安に思っては生きてはいけないのだから。しかし、彼女が純血至上主義の大量虐殺者に狙われる可能性が高いとなれば、それはやはり別の話だった。

 

 こうなるので有れば、たとえ自分の力量では間違いなく何も変化を齎せないと理解して尚、今年の秘密の部屋に何とか干渉を試みるべきだったのかも知れない。魔法界の入口とも言えるホグワーツが廃校になれば、〝マグル生まれ〟は魔法界に留まる動機を決定的に喪う。後付けながらも、それは中々良い考えのように思えてしまう。

 

 望んだ部分も有れど、まさかここまで面倒な状況に陥る事になるとは入学時には、否、去年ですら考えもしなかった。そう溜息を吐きながら時計を見る。

 

 諸々の準備を終えた上でホグワーツ特急に乗る事を考えれば、もはや時間は殆ど無いと言えた。既に寮の人間は、殆どが退出しようとしている事だろう。

 

「……もっとも、今年は今すぐに帰るとは行かないのでしょうね」

 

 半ば諦念と共に言えば、老人は小さく頷いた。

 

「閉心術は一朝一夕で身に着けられる物では無い。君に本格的に教えるのも、来年が始まってからになるじゃろう。しかし、最低限、心に入り込まれたか否かを知れる程度には、その感覚を身に着けて貰わねばならぬ」

「解っていますよ。分霊箱の秘密が露見した事を知られるリスクを、貴方は当然許容出来る。露見した場合で有っても、それで全てが終わる訳ではなく、対応策が取れない訳でも無いのだから」

「けれども、それすら知らぬままでは何の手の施しようも無いからの。寧ろ逆に罠に嵌められ、最悪の結果を招く事になりかねん」

 

 だからこそ、学年最終日に呼び付けたのだ。全くもって大した大魔法使いである。

 

 僕の感心を他所にアルバス・ダンブルドアは滑るように椅子から立ち上がった。そして立ち上がった事で露わになる長身が、僕を上から見下ろした。

 

「そう言えば」

 

 ふと思いついたというように、単なる付け足しの振りをして老人は問う。

 

「君は深い質問をしようと殆どしないのじゃの。五十年前の真相。此度の秘密の部屋内での顛末。ヴォルデモート卿のその正体。何よりもハリーに割り当てられた配役について。君にとっては多くの謎が残されているままじゃ。君はそれを知ろうと思わないのかね?」

 

 それに対する答えなど決まっていた。

 

「知る必要が無い事を、聞く必要が有りますか?」

 

 別に危険を招くから知りたくないのでは無い。最大級の危険となる情報は既に知ってしまっている。今更一つや二つ増えた所で同じだった。

 故に、それは単純に僕が興味と関心、つまりその情報を知って利用する程の価値が見いだせないという事であり、それは正しく眼前の老人に対して伝わった。

 

 だからお返しのように、僕も付け足しのような質問をする事にした。

 

「分霊箱の破壊手段にはどんな物が有るのです? 悪霊の火を初めとする強力な闇の魔法、或いはバジリスクのような強靭な魔法生物の毒。その程度しか知りませんが」

 

 果たして、アルバス・ダンブルドアは答えた。

 

「破壊とは違うが、引き裂いた魂を元に戻す方法は有る。すなわち、良心の呵責じゃ。そして、元に戻すという事は、外に閉じ込めていた魂が本来の場所へと帰ろうとする事を意味する。しかし、その際に身体が破壊されていれば――魂の片割れの在る場所が最早現世では無いのであれば、その者は当然のように死ぬじゃろう」

「――成程」

 

 

 

 そうして、僕の二年生は終わる。




・ホグワーツの護り
 「こっそり入り込めないように、ありとあらゆる呪文がかけられているのよ。ここでは『姿現し』はできないわ」(三巻・第九章)「ホグワーツの壁も敷地も、古くからのさまざまな呪文で護られているからして、中に住むものの体ならびに精神的安全が確保されている」(五巻・第二十四章)など、ホグワーツに対する護りは魔法的に強固である事が原作からは読み取れる。
 もっとも、ダンブルドアが魔法省からホグワーツ行の移動鍵を作る(五巻・第三十六章)、姿現しの試験につき「校長先生が、みなさんの練習のために、この大広間にかぎって、一時間だけ呪縛を解きました」(六巻・第十八章)など、ある程度は柔軟でもあるらしい。
 三大魔法学校対抗試合に用いられた移動鍵も、あの瞬間で無ければハリーをヴォルデモート卿の下に送れなかった(クラウチにはハリーと何度も個人的に接触している)という理由が有ったのかもしれない。

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