この身はただ一人の穢れた血の為に   作:大きな庭

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物語以前の物語
組分け


 レッドフィールド・スティーブン。

 厳格な女性教授によってそう呼ばれ、僕は大広間の中央へと進み出た。

 

 彼女の呼んだ名前は、言ってみれば〝正しい〟物では無かった。字面だけ見れば別にそう読めなくもない、というか、普通にそう発音する者も少なくはないだろう。

 もっとも、今現在において僕がやるべき事は、その女性教授に対して文句を言う事でも、名前の是正要求をする事でも無かった。そもそもの話、女性が僕をそう呼んだのは、初対面において僕が正さなかったからであり、また、魔法界の公的機関は間違いなくそれが本名だと認識しているからでもある。何より、僕は名前について、自身を識別する為の記号という以上の価値を見出していなかった。

 

 故に、僕がすべき事は、これからの僕の七年間を少しでもマシな物にする為に、〝骨董品〟を説得する事で有った。

 

「──ふむ。君の意向は了解した」

 

 そんな言葉が、僕の脳内に響き渡る。

 その三角帽子は、僕が初めて目の当たりにする、まさに魔法らしい──動く写真を載せた本を除けばだが──道具であった。しかし、それ以上に僕にとって意味を持っていたのは、これからの僕の七年間をコレが決するという点にこそ有った。

 

「つまり、君にとって如何なる寮に属するかというのは、非常に些細な問題に過ぎないという訳だ。彼女と同じ寮に行く事が望みで有り、それ以外──つまり、そこから先、君が何を学び、何になるかなど全く持って興味が無い。成程成程、解りやすくて良い事だ」

 

 そう。

 僕にそれ以外の想いなど無い。

 

 何せ、七年だ。自分が生まれてから、今まで過ごした年齢の半分以上。正直言って、想像も出来ない程に途方もない長さにしか思えない。それだけの期間、全く見ず知らずの相手のみと共に寮生活を過ごすなど、考えたくもないのだ。

 だから、その通りにすれば良い。

 

 ──グリフィンドールと。

 大広間に響く声で、そう叫べばいい。

 

「まあまあ、待ちたまえ。そんなに結論を急かす事は無いだろう。特に、こうして私自身が少しばかり長く、君達の頭に乗っておく必要を感じた時はね」

 

 ……僕はこれ以上の必要性を感じてなど居ない。

 それとも、その動機が不純だから受け容れられないとでも言うのか。

 

「いやいや、そんな事は言う筈も無いとも。実の所、その手の希望を聞くのは少なくない。そして大概の場合、それが決め手になるのだよ。確たる理由をもって特定の寮を避ける、或いは希望するというのは非常に稀であるのだから」

 

 その言い草では、まるで僕は確たる理由をもって獅子寮を希望していないようだ。

 

「聡明かつ論理的な思考だ。そして、私はまさしくその通りに思っている。つまるところ、それが本人の資質に正しく合致するか否かの問題なのだよ。希望も回答も、それを導く理由の価値に比べれば、余りに些細な事に過ぎないと言える」

 

 …………。

 

「千年だ。それだけの期間、私は組分けの役割を負い続けて来た。そして、当然の事ながら、その過程において悩む事は大いにあった。先程の生き残った男の子はその典型だ。嗚呼、時間としてそこまで費やした訳では無いが。それでも、あれは本当に難しい組分けであった」

 

 ハットストール。

 組分け帽子が、その選択を迷わざるを得ない者。

 そう呼ばれる場合は、概ね五分を超えた場合であると聞く。だが、要した時間の長さと悩みの深さは、ある程度比例はするだろうが、しかし等しいとも限らない。

 

「つまりだね、かの四人のうち二人以上──創始者の間において取り合いになるような者であっても、組分けされるべきはたった一つの寮なのだ。その調整として私は存在しているのであり、本人の希望を聞くのはその為の典型的な手段である。どんなに教える側が望もうと、教わる側が望まなければ大成はしないのだからね」

 

 ……何となく、解った。

 あの生き残った男の子は、最後に望んだが故に、グリフィンドールに行ったのだろう。

 

「また、他の理由で少しばかり私が帽子を柔らかくする事もある。例えばの話だが、幾らその者達に相応しかろうと、スリザリンのみに百人入れてしまっては、他の三人から不平が出る事は大いに想像が付くだろう?」

 

 成程、四寮対抗という仕組みを採る以上、そこにはある程度の均衡が必要であるに違いない。

 言葉を聞く限りでは厳密に人数調整する気も更々無いようだが、組分けする側としては全く無視できるものでも無いのかもしれない。

 そして、帽子は言葉にしなかったし、僕の勝手な想像かもしれないが、その〝他の理由〟には、その学年全体、ないしは寮全体の考慮まで入っているのかもしれなかった。

 

「話が逸れた。要するに、君の意向は了解したし、その想いも理解した。

 ──だがね、全てを聞き入れる訳では無いのだ」

 

 その瞬間、僕は帽子を頭の上から投げ捨てようとした。

 しかし、僕の身体はびくともしなかった。滞りなくこの儀式を終わらせない事など許さないというように、帽子が僕の手を離してくれなかった。

 

「君が帽子を乗せる瞬間、否、私が彼女の寮を宣言するまさにその瞬間までは、君は四寮の内で最も強くレイブンクローを希望していた。違うかね?」

 

 ……違わない。

 直接言った事は無いが、彼女はレイブンクローに入ると思っていた。

 たとえ彼女がグリフィンドールに心惹かれている事を知っていたとしても、彼女は間違いなくそうなるだろうと確信していた。だからこそ、僕はこの大広間に来るまで、その寮に入れる事を祈っていたのだった。

 

「そういう事だ。私としては、君がレイブンクローに入れば上手くやって行けると判断している。しかし、君はそれを希望しない。絶対に。そしてその場合においては、私としては選択の優先度を一段階下げざるを得ないと考える。何故なら、君の学びの目的は──昔はどうあれ──今は既に唯一の為に変質してしまっているからだ」

 

 解ったような口を利く。そんな反論は、僕には出来なかった。

 その言葉は正しいのだと、僕は確信していたから。

 

「私が最後まで悩んだ結果として本人に選択を委ねる者が居る一方、言葉を交わす内にその者に相応しい寮が見えてくる者も居る。君はそちらの典型例だ。ヒトとは複雑なもので、極論すれば万人が四寮全ての資質を有すると言える。だが、それでも私はその中で、その者に()()相応しい寮を選ぼうとし、またそうしてきた自負があるのだ」

 

 恐らくこの帽子は、最初から殆ど結論を出していたのだろう。

 最初に告げた通りに、僕の希望も回答もそれ自体はどうでも良かったのだ。不適当な寮の希望を述べた瞬間に、この帽子は最終にして決定的な判断を下した。他の寮の希望を聞いたり、或いは薦めたりしないのがその証左である。

 

「解っているとも。君は、自分がその寮に相応しくないと考えている。しかし、君は正しく向き合う事が出来るだろう。彼が純血主義であると知っていながら、それを実現する為の部屋すらも用意しながら、それでも私がマグル生まれや半純血を組分けしてきた意味に」

 

 そんな口上を帽子は一方的に言って、僕を含めた大広間に居る全ての人間に聞こえるような声で、僕が七年間幽閉される寮の名前を告げた。

 

「──スリザリン!」

 

 そうして僕は、ハーマイオニー・グレンジャーと別の寮となった。

 




・ハリー・ポッターの組分け
 各所でのネタ扱い、二巻・十二章で難しかったと言及しているイメージで先行しがちだが、一巻を読み直すと意外にあっさりグリフィンドールに組分けされている。

・セブルス・スネイプの組分け
 七巻・三十三章での彼の記憶の描写においても明確である通り、SはEの後。
 リリー・エバンズの組分け時間は明確(一秒とかかっていない)だが、セブルス・スネイプの組分け時間は意図的に不明瞭にされているようにも読める。
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