この身はただ一人の穢れた血の為に   作:大きな庭

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相手が主人公であった為に長め。約一万五千字。
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生き残った男の子

 ハリー・ポッター。

 彼の実()に関して、僕は殆ど興味が無かったと言って良い。

 

 ハーマイオニー・グレンジャーから彼の話を聞くようになってもそれは変わらなかった。

 というよりも、寧ろ彼女からの話はそれを助長した。彼女から聞くハリー・ポッターの話は、何ら特別性も無く有り触れたものであり、〝同学年のグリフィンドールの男の子〟の学生生活以外の何物でも無かった。

 必然、僕にとって彼は〝ハリー・ポッター〟という記号を喪失し、物語的空想を補強するツールのようなものにしか成りえなかった。

 

 その物語空想とは言うまでもない。僕がグリフィンドールに組分けされた場合に、どのような生活を送り、どのような行動をし、どのような感情を抱いただろうという、余りにも女々しく救いようがない空想だ。しかし、その意味で〝同学年のグリフィンドールの男の子〟は自己投影すべき物語的人物であり、そのような架空的存在である宿命として永遠に触れ合う事の無い筈の存在だった。

 

 無論、ハリー・ポッターという実()は、確かに同学年のホグワーツに存在していたし、主にドラコ・マルフォイによってそれを見せられてきはした。

 しかし、彼等にとって──つまりドラコ・マルフォイも含めて──僕という存在は背景以下の存在であった。そして僕も割り込むつもりも無かった。ボス猿同士の抗争の間に、どうして下層の猿が介入出来ようか。故に、それらは僕の眼前で確かに起こっていた事象であるとしても、僕にとって遠い世界のままであるのは変わりが無かった。

 

 一方で、〝生き残った男の子〟に何ら興味を抱かなかった訳ではない。

 それが通常の魔法族と些か異なる興味としか成りえなかった事は疑いない。僕は物心付く前に魔法族の父を喪い、物心を付いてからは非魔法族の母に育てられたのだ。必然、〝生き残った男の子〟に対して崇拝や畏敬、感謝の念を抱く事は出来なかった。

 

 しかし、彼等と同じように、〝生き残った男の子〟についての謎について、考えを巡らせる事は出来た。まあ、闇の帝王の死亡後から十一年間頭を悩ませ続けた彼等程熱心では無かったが、その謎に惹き付けられたのに変わりはなかった。

 

 彼には多くの謎が付き纏っている。

 例えば、何故、彼は隠されたのかという事について。

 

 深く考えるまでも無く、それは可笑しな話である。

 生き残った男の子は、ほんの齢一歳にしてアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアに比肩すべき偉業を打ち立てた。確かに両親を殺害されたという魔法戦争後には有り触れた不幸を有しているが、さりとてこれから幸福を享受する権利を有していない訳では無い。寧ろ彼が為し遂げた事を思えば、一般的な戦争孤児と異なり、目が眩まんばかりの輝かしき将来はそれだけで十二分に約束されていたとすら言えた。

 

 それにも関わらず、彼は魔法界に留め置かれなかった。

 

 死喰い人の残党が未だ跋扈していた戦争直後は兎も角、一応の平穏を取り戻して以降は筋が通らず、その事に疑問を抱く人間が当然居た。

 ロイヤル・タッチ──非魔法族の迷信──よろしく、〝聖人〟に触れる事が出来ない魔法族の嘆きと不満の声は当然に沸き上がっていたのはまあ別に良い。つまるところ、〝生き残った男の子〟が()()されないのは、明らかに魔法族にとって不当である筈だった。

 

 そして、それを為したのは言うまでもなくアルバス・ダンブルドアその人である。

 

 そもそも無茶苦茶な話だ。

 アルバス・ダンブルドアは、魔法省役人でもハリー・ポッターの後見人でも何でもない。けれどもアルバス・ダンブルドアは、〝生き残った男の子〟はグレートブリテン魔法界の全魔法使いが総力を挙げて庇護すべき子供であるという声を残らず踏み潰して、〝生き残った男の子〟を独占した。独占し続けた。

 その事は様々な疑念と疑惑、そして嘘か真か知れない数々の噂を呼び、果てにはアルバス・ダンブルドアが自らの秘密兵器として使うつもりなのだとすら言われたようである。

 

 よくよく考えてみれば、アルバス・ダンブルドアという〝疑いなく英雄〟は、その頃には既に──正確にはそれ以前からずっと、であろうが──明確に嫌悪と敵意を少なからず向けられていたように思える。

 

 まして、〝生き残った男の子〟が非魔法族社会に〝収容〟された事を、果たしてどれだけの者が知っていただろうか。

 

 彼が〝マグル〟の中で生まれ育ったというのは既に現ホグワーツに居る学生にとっては常識であったが、ハリー・ポッターその人は──当然ハーマイオニー・グレンジャーもだ。寧ろ、彼女の語り口で気付いた──その重みを理解していないように思えた。

 何故なら、〝生き残った男の子〟を非魔法族の世界に送り込む事は、純粋なる魔法族的価値観から見れば、余りにも残酷な価値観だからだ。

 

 そう、残酷な、だ。

 魔法省という純血の牙城が示すように、魔法族が非魔法族に対して向けている眼など明らかである。まして、スリザリンを〝純血〟主義だと笑う他三寮──ただハッフルパフだけは微妙に違うように思えるが──も、その実、僕にとっては〝純血〟主義の差別主義者である事に変わりなかった。何せ彼等は至極当然に次のように思ってしまうのだ。

 

 魔法無しの生活? 

 彼は一歳で既に試練に直面したのに、何故更なる試練を与えるような真似をするのか? 

 

 繰り返すが、そこには善意しかない。そして、その善意をやはり手酷く無視したのも、そのような謎を生み出したのも、アルバス・ダンブルドアその人である筈だった。

 

 何故隠されたのか。何故非魔法界に置かれたのか。

 その意味で、僕は〝生き残った男の子〟について確かに興味を抱いていた。

 

 もっとも、それは野次馬的な興味以上の物では無い。

 既に述べたように、僕は〝生き残った男の子〟に対して、何ら崇拝等の感情を抱いてはいなかった。当然ながら、彼の扱いが不当であるとも、アルバス・ダンブルドアの策謀を暴いてやろうとも思いもしない。ホグワーツに来て以来の調査、先の謎の理由について書籍や雑誌、新聞や魔法省の公的声明の中に探す事はしたし、当然のように挫折したが、しかし、それで構わなかった。歴史は闇のままだという結論を放置する事が出来た。僕にとって〝生き残った男の子〟への思い入れは、その程度でしかなかった。

 

 そんな訳で、僕にとって〝ハリー・ポッター〟の実像はどうでも良かったのだ。

 彼の〝同学年のグリフィンドールの男の子〟としての側面にしろ、〝生き残った男の子〟としての側面にしろ、一定の関心や興味を寄せられるものである事に違いなかったが、しかし自分が接近して確かめるべき存在では無かった。

 

 彼は余りにも遠かった。そして、その事について、僕は何ら不満を抱いていなかった。寧ろ、僕に容易く触れられるような物であるべきでは決して無かった。

 そうなってしまえば最後、先のような〝グリフィンドールの男の子〟を通した空想は粉々に破壊され、そしてまた〝生き残った男の子〟への適度な無関心を保つ事は出来ないと理解していたからだ。忌憚なく言えば、僕は彼に対して近付きたくなかったのだ。

 

 無論、人の関係というのは、二人の行動によって構築されるべきものである。

 しかし、僕は彼が近付いてくる事は有り得ないと踏んでいた。

 

 確かにハリー・ポッターとの間には、共通の友人という繋がりは有った。

 けれども、友人の友人がそのまま友人で無ければならないという理屈は無い。まして、彼と僕との間には二寮の深い断絶が有り、付け加えれば対立関係に有る悪い知人の存在も居た。ただ一点、彼が要らぬ騎士道精神を発揮した場合は別だと考えていたが、しかしそれは不可避的な接近を意味するだけで、継続的な近接を意味する事には成り得ない筈だった。

 

 けれども、それは裏切られた。

 

 なんてことは無い。

 ただ単にハリー・ポッターは〝疑いなく英雄〟だったという事だ。

 

 

 

 

 

 休暇というものは良いモノだった。

 特に、スリザリン生である事を取り繕う必要は無いのが大きい。

 自分がスリザリン生である事を既に否定するつもりは無いが、スリザリンらしい──つまり、〝純血〟らしい振る舞いをする事は、〝そう〟ではない自分にとっては心労が溜まるものであるのも事実だった。しかし、スリザリン生は殆どが実家へと帰り、それは相変わらず然したる交流の無い同室の人間ですらも例外では無い。

 

 何より一番良いのは、僕のクリスマスの〝惨状〟を見られずに済んだという事だ。

 

 クリスマスにプレゼントを贈り合うような親しい友人というのは、スリザリン内には居ない。そして、天涯孤独の身であるから、ホグワーツ外から来るという事も無い。

 

 ただ予想もしていなかった事に、一冊だけラッピングされた本が置かれてあった。贈り手の名前は添えられていなかったが、中身がマグルの本(表紙の偽装付き)ともなれば、それが誰なのかは明らかである。

 そしてこちらも散々悩み抜いた挙句に贈り物をする決断をしていた──子供っぽいかと思ったが、絵本を送った。吟遊詩人ビードルの作品の一つ『豊かな幸運の泉の物語』の本だ。彼女はまず間違いなく読もうとしない類の物語であり、あの話だけならば非魔法族にも理解しやすいと考えた。童話が残酷な場合が多いのもやはり同じらしい──のは、我ながら本当に英断であったと言える。

 

 そんなクリスマスの幸福の一方、二日後の誕生日の方は御寒い状況であったが、そちらの方はやむを得ないだろう。

 クリスマスに引き続いてというのは余りに面倒なのは解りきった事であり、そもそも彼女は僕の誕生日を知らない。誕生日を教え合う機会など訪れなかったからだ。そして当然の事ながら、僕も彼女の誕生日を知らない。直接聞けば良いのだろうが、今まで幾度も挑みながらも失敗してきたのが現状だった。

 

 まあそんな事はさておき、休暇というのは自由だった。

 寮内での共同生活という大原則には何ら変わりはなかったから、食事を初めとする幾つかの規則は未だに残っている。しかし、就寝時間というような本当に厳格な一部を除けば、それらの規則も緩められてすらおり、学生がどう過ごすかは自由裁量に任されていた。

 

 そしてスリザリン寮内で残った者に自分が仲の良いモノなど居ないのだから──まあ、休暇中で無くとも同じなのだが――僕は何をして時間を潰すかを考えねばならなかった。もっとも、それは休暇前に既に決めていた。すなわち、ホグワーツ内の探検だった。

 

 それは休暇でしか出来ない事であった。七階立ての魔法の城は、授業に追い立てられている日々の間に探索するには余りにも広すぎる。特に、魔法的に迷わされる可能性が有るともなれば猶更だ。勿論、学期内の休日中にそれを行う事は決して無理ではなかったが、授業の事を考えれば、そのような挑戦をわざわざする気にもなれなかった。何より、人に溢れて居ては探検感が出ないだろう。

 

 但し、探検と言っても些細なモノだ。

 

 禁じられた森を筆頭に明らかに危険な物に近付く度胸は無かったし、全く馴染みの無いような場所に赴くつもりも無かった。噂に聞くグリフィンドールの赤毛の双子であれば、このような〝散歩〟など退屈過ぎると言って嘲笑う程度でしかない。しかし、母が死ぬまで殆ど屋敷に閉じ込められていた僕にとっては、やはり刺激的であった。

 

 学生の殆ど居ないホグワーツは、常とは全く違う表情を見せていた。

 良く見知っている場所でも見知らぬ場所のように見え、また初めて訪れる場所は例外無く新鮮な驚きを提供してくれた。

 

 一番気に入ったのは、螺旋階段を上った先、天文台の塔からの眺めだった。

 

 十二月の半ばからホグワーツが冬の城と化していたのは明らかでは有ったが、しかしこうして高い場所から見るとそれが良く解ると共に、想像以上の美しさだった。

 

 一面の銀世界。

 凍り付いて中が見通せなくなった湖に、白く化粧された禁じられた森。校庭は当然に、薬草学で使用する温室群もまた雪に埋もれてしまっているのが見える。そして何処からともなく聞こえてくる正体不明の生物の遠吠えは、しかし恐怖どころか何処となく風情を感じさせるものだった。

 勿論、天文学の授業の中で、同じ場所を同じ視点から見る事は有った。けれども、天文学である以上、行われるのは夜である。昼日中、それも普通であれば授業が行われている時間帯に見るのは格別なものがある。

 

 授業以外には立ち入り禁止という話は重々承知はしていたが、であれば閉鎖していない方が悪いし、まあ休暇中の教授達も五月蠅く言わないだろうという確信は有った。減点はされるかも知れないが、規則を思い出させる為の形式的なもので終わるに違いない。一応優等生で通っているというのも都合が良かった。

 

 何時ぞやのクィディッチの時とは違い、僕は寒さの中で飽きもせずに眼下の世界を見つめていた。

 ある瞬間、ふと、()()が共に居たのならば余計に楽しいだろうな、と思いはした。もっとも、それは余りにも叶わぬ希望と言えたが。しかし、愉しむ気持ちは全く消えず、僕は一人笑った。

 

 そう、一人の筈だったのだ。

 

「――ねえ、ちょっと良いかな」

 

 瞬間、その声が聞こえた方を僕は振り向いた。

 誰も居ない筈だった。少なくとも、視界の中で動く物は何も無かったし、一応教授が入って来ないかは多少気になっていたからそちらの方に視線を向ける事は有った。そして誰も居なかった筈なのだろう。

 

 まるで中空から出て来たかのように、彼――ハリー・ポッターはそこに居た。

 余程僕の反応が劇的で、過剰で、そして奇妙だったのだろう。彼の碧の瞳は、面白がっている様子を隠そうとはしていなかった。悪戯が成功した、そう言っているように見えた。

 

「……それは、僕に言って居るのか」

 

 他に誰も居ない事など解っているのに、僕はそんな間抜けな質問をしていた。

 しかし、ハリー・ポッターは少し口元を笑みに歪めたままでありながらも、確かに頷いた。

 

「ああ。君に話があるんだ」

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー・グレンジャーの友人達。

 現実として、彼等の属性が〝グリフィンドール〟的である事は明らかだった。

 

 血を裏切った赤毛の友人は解りやすい。彼は生粋のスリザリン嫌いである事を全身で表現していたが、彼はそれが当然の正義だと考えるべき根拠が有った。

 すなわち、彼の母親の兄弟達は、魔法戦争において死喰い人に殺され、当然の帰結として親の〝洗脳〟を受けている。嗚呼、別にその〝洗脳〟を揶揄するつもりは無い。全くの善意から為される親の〝洗脳〟を子供がそうそう跳ね付けられる筈も無い事を、僕は身をもって知っている。何にせよ、彼は戦争遺族であり、死喰い人を数多く輩出してきたスリザリンに対して友好的になれないだけの正当な理由が有った。

 

 また、この眼前の英雄も、同様にスリザリンに好意的などなれる筈も無い。

 ホグワーツ入学後のドラコ・マルフォイとの関係は当然の事ながら、彼の親は闇の帝王によって殺された。闇の帝王がマトモに学び舎に通ったとも思えないが──名前からして、ボーバトン出身なのかもしれない―—厳然たる事実として、闇の帝王の配下にはスリザリン生が多かった。直接的な親の仇であるとまでは言えないが、さりとて恨みを持つのが不当では無い程度には関係を有していると言える。

 

 だからこそ、彼等が能動的に接触してくる事など、ただの一つの理由、つまり友人である非魔法族生まれの女の子を「間違ったの」から引き離す事を除いて存在しないだろうと踏んでいたのだが、敵対的というには穏やかな先の言葉から考えるに、それは違うようだった。

 

「……話をしたい、ね。僕について、ハーマイオニー・グレンジャーに何か聞いたのか?」

 

 思い当たる理由は、それ以外に無い。

 けれども、その事自体が余りに腑に落ちないのも事実だった。

 事実、彼は首を縦に振ろうとして、しかし途中で横に振る事に変えた。

 

「違――いや、違わないけど、違うんだ。確かにハーマイオニーから、君がニコラス・フラメルについて教えてくれたって聞いた。そして、それは確かに今こうして君と話をする一つの切っ掛けでは有るけど、そうじゃない。僕が話をしたいと思ったのは、全く別の話についてだ」

 

 ハリー・ポッターの言葉は、僕の違和感を肯定するものだった。

 ニコラス・フラメルに関して、ハーマイオニー・グレンジャーから二人の友人に伝わるのは当然予測出来る事だった。但し、彼女がスリザリン生である僕の名前を出すとは思っても居なかったが。しかし、その場合においても、その助力についてわざわざ礼を言いに来たというのは突拍子が無い考えである。そのような丁寧な真似を、グリフィンドールがスリザリンに対して行う意味など何ら存在しない。

 

 だからこそ、僕には彼がわざわざ話の機会を設けようとしたその理由が解らない。

 そして僕の困惑が伝わったのだろう、彼は更に言葉を続けた。

 

「ねえ、ダイアゴン横丁の、マダム・マルキンの洋装店の入り口で僕とすれ違った事覚えてる? まあ、君の方は気付いていなかったかも知れないけど」

「……いや、覚えては居る。気付いていた。いたが──」

 

 僕が更に困惑を深め、言葉を途中が途切れさせてしまったのは、似たような事をスリザリンでも聞かれたからだ。

 しかし、それを知りようもない彼は、確信が裏付けられたというように頷く。

 

「やっぱり、君は僕の傷跡を確かに見てたんだ」

「……まあ、店の入口だったからな」

「だろうと思った」

 

 そう言うのは、店の中で隣に立っていたであろう誰かが、その時は彼の傷跡に気付かなかったからかもしれない。

 

「それで、僕が傷跡に気付いていたから何だと言うんだ? 僕は君と入口ですれ違っただけで、僕は君と会話をせず、ドアから立ち去っただけだった筈だが」

「そうだよ。普通に考えて特別な事は何も無かった。けど、僕にとって、それがどんなに特別な事であるか、解らない筈は無いだろう?」

 

 ハリー・ポッターは感情が籠ったのか、顔を少しばかり近付けて言った。

 

「特に、あの日は僕が魔法界に来た一日目だった。ホグワーツで三カ月ばかり生活した後じゃないんだ。誰も彼もが、僕の額を見て、当然のように話掛けてきた。御辞儀をしてくる人間も居たし、握手を求めてくる人間も居た。そこまで行かなくとも、ひそひそ話をされるのはしょっちゅうだった」

「まあ、グレートブリテン魔法界の英雄ならばそうだろう」

 

 僕の揶揄に明らかに嫌な顔をしたが、しかし彼は立ち去る気は無いようだった。

 

「だけど、君は違っただろう?」

 

 まあ、それはその通りだ。

 僕にはそうする理由は何も無かった。

 

「ハーマイオニーから君の事を少し聞いた。勿論、彼女は余り良い顔をしなかったけどね。ただ、君がマグル生まれなのかって聞いて、彼女は違うって答えてくれた。正直、それまで僕は君がマグル生まれだと思っていたんだ。そうだったら、僕への反応も解るから」

 

 ハリー・ポッターは魔法界の英雄であるが、非魔法界の英雄ではない。

 故に、その人間がスリザリンに組分けされたとしても、マグル生まれであると思っていた。しかし、知識の化身にして僕と奇妙な友人関係を続けている彼女は否定した。だからこそ、彼は僕に興味を抱いたのだろう。

 

 もっとも、それはそれ程強い興味では無かったに違いない。

 余りに些細な事であり、勘違いである可能性があり、スリザリン生に接触しに行く理由が無かった。だからこそ、約三か月の間は何も無かった。

 

 けれども、彼はハーマイオニー・グレンジャーから、恐らく彼女が実家に戻る前に、ニコラス・フラメルについて僕が助力をした事を聞いた。そして、良い切っ掛けだと考えたのだろう。たまたま見かけたからなのか、或いは強い決心に基づくものかは知らないが、こうして僕を追いかけて来て話合いの機会を持とうとした。都合の良い事に、スリザリン生は冬季休暇中には殆ど残っていないのだ、互いに見咎められる心配は無い。

 

 しかし、この上無い皮肉だった。

 一洋服店における、酷く有り触れた何ら特別である筈もない接触。しかしそれこそが、二人の重要人物──片や闇の帝王を打ち倒した英雄、片や純血中の純血の子息が僕に接触しようとする契機となっている。

 その奇妙な相似について、ドラコ・マルフォイは当然、目の前に居るハリー・ポッターもまた知り得ない。けれども、両者は絶対的に相容れないながらも、何処か互いに共感を抱けるような共通の根幹を有しているのかも知れなかった。

 

「……つまり君は、僕が君を特別扱いしない理由を知りたい訳だ」

「別に特別扱いして欲しい訳じゃないけど、あー、そうかな」

 

 彼は頷くが、さりとて困るのも事実だった。

 別に語りたくないという訳では無い。しかし、僕がそうである理由を語るには必然的に、僕の育ちについて語らねばならないという事であって、このような立ち話の間に理解して貰えるものでも無かったし、長々しくなる事は明らかであった。そして、興味の無い人間の身の上話程につまらないものは無いという一般論くらいは理解している。

 

「……やっぱり無遠慮な事を聞いたかな?」

「いや──少しばかり考えを纏めていただけだ」

 

 恐る恐る聞いてくるハリー・ポッターに、しかし僕は首を振った。

 拒絶しても良かった。そうであったとしても、彼は怒りを見せないだろうという感覚も有った。だが、スリザリン生を捕まえに行ってまで話を聞こうというその精神に対しては、一応の敬意を払うべきだった。

 

「〝生き残った男の子〟には、多くの謎が付き纏っている」

「え?」

 

 面食らって声を上げた彼に、しかし僕は気にせず言葉を続ける。

 

「君が英雄で有りながら非魔法族の中で生まれ育った理由。死喰い人を使うのではなく、闇の帝王が直々にポッター一家を襲った理由。事実かどうかは知らないが、君が受けたのは死の呪文であり、それでいて尚生き残ったという理由。他にも数え上げればきりがないが、その中において、最も疑問であるのは──」

 

 僕は、彼の額を見た。

 余りに特徴的な稲妻の傷。〝生き残った男の子〟の証。

 

「何故、闇の帝王は、君にその傷を残すのが精々で死んだのか」

 

 それは余りにも一般論的で、けれども看過出来ない核心の疑問。

 

「十年前、君は当然に赤子だった。一方で闇の帝王が闇の魔法使いとして途方も無く強大だったというのは噂に聞いている。未だにその名前をロクに呼べない位に。

 ──さて、両者が戦ったらどちらが勝つと思う?」

「……まあ、ヴォルデモートだろうね」

 

 闇の帝王の名前を平気で口にした事に僕は眉を顰めたが、彼はその事自体気が付いていないようだった。そして、辟易した表情で肩を竦める。

 

「だけど、その常識的な考えをしてくれる人間は居ないんだよ。誰もが、僕を特別扱いする。闇の帝王を打ち破った〝聖なる力〟が有るんじゃないかってね」

 

 しかし、僕は口を歪めた。

 

「〝聖なる力〟は有るんじゃないのか。嗚呼、君が思うような意味じゃない。つまり、赤子が闇の帝王と決闘して勝ったとは到底思えない。一応聞くが、君は魔法族的な子供として以外の力を発揮した事は有るか?」

「無いよ。気付いたら別の場所に居るとか、髪が一晩で伸びるとか、硝子が消えるとか、ただそれぐらい。人一人をぶっ飛ばす事すら出来はしない」

「なら、君は闇の帝王を上回った訳でも、より偉大であった訳でも無い。単純に、君は何らかの理由により幸運だっただけだ」

「それは……当然の事じゃないか」

「当然の事を確認する事こそ論理というものだ」

 

 その点はハーマイオニー・グレンジャーも同意──いや、彼女はどうか怪しかった。

 彼女は地べたを這いずり回って丹念に事実を積み上げていくというよりも、膨大な知識に裏打ちされた直観により圧し潰していくという方が近いだろう。単なる勘よりも余程質が悪い。一見文学系でありながら、しかし気性はストロングスタイルなのだ、彼女は。

 

「そして、確かな理由が有るのであれば、仮説を立てる価値も有る。例えば、幸運にも死の呪文が君に効かない体質であるとか。人間、突然変異というのは現実に存在するからな」

「……珍獣を見る目はやめて欲しいんだけど。でも、やっぱりそれは違うと思う」

「であれば、何らかの魔法が掛けられたというのはどうだ。一番有り得て、一番君が特別などでは無い仮説だ」

「それは……有り得るのかも知れない」

「もっとも、死の呪文に対する反対呪文は存在しない。君が本当に死の呪文を受け、それでも護られたというのであれば、全く知られていない魔法が、全く知らない形で使われたという事になる」

 

 単純に思い付くのは犠牲や代償を捧げた守護の魔法だ。

 そのような行いは、魔法の世界において珍しくも無い。そして聞くところに拠れば、彼の前には、お誂え向きに二人の犠牲者が居る。

 

 ただ腑に落ちないのは、家族が命を投げ打つ程度で闇の帝王を打ち破れるのだったら、闇の帝王は優に百回は死んでいるだろうし、〝生き残った男の子〟もポコポコ生まれているだろうと思える事だ。寧ろ、その程度で子を護れるなら、親は当然に命を投げ出すだろう。逆に子供を護れなかった親は、子供の事を全く愛していなかったのかという話になる。

 だからこそ、その仮説は僕にとって可能性が低いと言わさせるを得ない。

 

 まあ他の条件――たとえばピンポイントで赤子を殺しに行ったあたりを付け加えるならば別だろうが、それは闇の帝王の行いとして似つかわしくない。親を殺したついでに子も殺そうとしたらうっかり死んだという方がまだ現実味が……いや、それはそれでどうだろう。

 

 成程、そう考えると大多数の魔法族が、〝生き残った男の子〟には〝聖なる力〟を持っていて欲しい理由が解る気がした。

 闇の帝王が偉大で無かったとすれば、その彼に殺された者達は救われない。逆に偉大であれば、それは仕方のなかった事だと言い訳する事が出来る。

 

「……うーん、言われてみれば確かに考えてみた事も無かったな」

 

 即興で組み上げた言葉にしては、彼にそれなりに影響が有ったらしい。

 彼は腕組みをしたまま、自分の思考に没頭しているのがありありと解る。

 もしかしたら、生き残った理由が謎だと言われて、そこで思考停止してしまっていたのかもしれない。しかし、それを責める事は誰にも出来ないだろう。自分が生き残った理由を考えるという事は、必然的に親が死んだ時の事を考えるのを意味するのだから。

 

「まあ、そういう訳で、僕は君が特別では無く、何か確固たる理由を求められると考えている。だからこそ、君を理由も無く特別扱いする気になれない。もっとも、仮説が間違っていて、君が真に〝聖なる力〟を持っていれば崇め立てざるを得ないが」

「……その場合でも止めてよ。僕はそんな風にされて喜ぶ趣味は無い。それがスリザリン生ならば猶更だ」

 

 嫌味を隠す事無く付け加えた僕の皮肉に、〝生き残った男の子〟の称号を持つ単なる男の子は顔を歪める。

 ただ、それを見て思い出した事も有った。

 

「……〝聖なる力〟では無いが。君には疑いなく特別な点が有ったな」

「え?」

「つまり、クィディッチの腕前だ。僕は詳しい訳では無いが、それでも見ただけで別格だという事は解る。マルフォイよりも明らかに君は良い飛び手だ」

 

 それは、マルフォイ自身も心の何処かで認めているだろう。

 ドラコ・マルフォイが今年度の寮選抜クィディッチ選手になる事は、彼の家の力をもってすれば、難題ではあれ決して無理では無かった筈だ。無論、この学期が始まる前は流石に不可能だったろうが、今となっては約百年の慣習を討ち破った直近の〝先例〟──眼前の男の子が居る。しかし、そうはなっていない。そして、それが全てだった。

 

 もっとも、彼が家から持ち込んだ箒を使って──規則破りだった筈だが、彼は当然のように意に介していなかった──来年の為に熱心に練習をしている事実を、僕は知っているが。僕の彼への助力が増えたのも、その延長線上に有ると言える。

 

「……スリザリン生に褒められるのは凄く変な気がするな」

 

 落ち着かないように身動ぎするが、事実は事実だ。見ない振りをしても仕方がない。

 

「まあ、僕としては君が次に手加減してくれる事を祈るばかりだ。君は当然知らないだろうが、先のグリフィンドール戦後のスリザリン寮の有様は酷いものだった。僕としては、アレを避けられるのであれば、今すぐ君を崇めても良い」

「それは聞けないかな。寧ろやる気が出て来たよ。もう一度繰り返してやろうって」

 

 自分では解らなかったが、余程苦々しい表情をしていたのだろう。

 彼は声を上げて笑った。

 

 

 

 

 

 彼が聞くべき事は聞いたし、僕は話すべき事は話した。

 そのように思ったのだが、彼は何故か立ち去りがたいものを感じているらしい。僕が視線を天文台の光景に戻しても、彼はその場を動こうしなかった。

 

 ……嗚呼、薄々感じはしている。寧ろ、()()は強まるばかりだった。

 だが〝生き残った男の子〟は僕の内心を気にした風も無く――僕の心の底に浮かび上がった考えを保証するかのように──彼は語り掛けて来た。

 

「ロンは……ロナルド・ウィーズリーは、君の事を良く言っていなかった」

 

 それを僕に聞かせる事に意味が有るのかと思ったが、彼の方は、僕の沈黙が先を促しているものだと取ったのだろう。彼は続けた。

 

「一度だけ、ハーマイオニーから君の話が出た事が有る。けど、その時にロンは滅茶苦茶に怒っちゃってさ。彼女が君の事を擁護するものだから余計に。まあ彼女の怒り具合も酷かったけど。その、話もしないで決めつけるのは、マグルを差別するスリザリンと同じだとか」

 

 そのつもりは無かったのだが、思わず微笑んでしまった。

 成程、余りにもハーマイオニー・グレンジャーらしい言いっぷりだ。

 そういう辺りが彼女を入学直後に孤立させた原因であるのだが、彼女に友人が出来てもそれを治す気は無いらしい。もっとも、それが彼女の良い所でもあるが。

 

「結局、暗黙の内に君の事は御互い話題にしないってなったみたいだけど。ただ、その時僕はロンの言葉を否定もしなかったけど、そこまで悪いようにも思えなかった。だってマダム・マルキンの店で擦れ違った時に君は僕に会釈したし、ハーマイオニーはああ言うし、何よりマルフォイと僕が争っている時の君の視線は──」

「──ちなみに、ロナルド・ウィーズリーは僕の事を何と言っていた?」

 

 言葉を途中で遮られた事に驚いたのか、彼は一瞬息を呑んだ。

 彼が思う理由で、僕はそれを聞いた訳では無い。だが、僕が依然として彼の顔を見ずに、眼下の風景を見ていたのが良かったのだろう。彼は、何とか言葉を絞りだそうとした。

 

「……あー、それは」

「言葉を飾らなくて良い」

「ドラコ・マルフォイに媚び諂う権威主義者。純血主義にどっぷり浸かった陰気な偏屈野郎」

 

 僕は苦い思いと共に笑った。

 今までとは違い、声を上げて。

 

「彼は良く見ているな。僕はそれを否定できない」

 

 茶化す訳では無く、間違いなく本心からだった。

 

 ロナルド・ウィーズリーは〝疑いなく普通〟だった。

 ハリー・ポッター、そしてハーマイオニー・グレンジャー。二人の事はホグワーツ一年の口の端に上る事が多く、スリザリン寮でもそれは例外ではない。勿論スリザリンでは侮蔑と嘲笑が大半だったが、何にせよ、スリザリンにとっても彼等の動向は無視出来ないものである事に疑問を差し挟む余地は無かったのだ。

 

 しかし、ロナルド・ウィーズリーは、血を裏切った者の一人、或いはアーサー・ウィーズリーの息子以上の事を認識されていない。皮肉にもロナルド・ウィーズリーという存在を最も認識しているのがドラコ・マルフォイであり、それ以外の者は英雄達のお零れを貰う腰巾着だとしか考えていなかった。要するに、ロナルド・ウィーズリーはスリザリンの大多数にとって〝取るに足らない者〟だった。

 

 ただし、そうであるが故に見える物もまた存在する筈である。

 認識とは相対的な物であり、比較して初めて構築しうるものである。人が二つの眼によって距離を測るように、一つの立場からでは見えない事もあるだろう。

 

 ハーマイオニー・グレンジャーは変わらぬ友誼を示してくれては居る。しかし、僕が彼女を〝穢れた血〟と呼ぶ純血主義者に対して、媚びて立場を確保している事実は揺るぎないのだ。それは僕が直視したくない、けれども心に留めておかねばならない現実だった。

 

 もっとも、僕の反応は、ハリー・ポッターにとって意外なものだったらしい。今私は不気味な物に向かい合っていますという感情を、全く隠していない声で言う。

 

「……ええと、怒らないんだね。これがマルフォイなら殴り掛かってくると思うけど」

「彼は〝疑いなく純血〟だからな。それ以外がスリザリンに居れば解る」

 

 一応の立場を確保出来ていようと、悪評と陰口からは逃れられない。ただそれだけの話だ。

 しかし、ハリー・ポッターにとっては余程深く腑に落ちる所が有ったらしい。視界の端に彼を捉えている僕にも見えるように大きく頷きながら口を開いた。

 

「正直言って、ハーマイオニーが君を断固として庇う理由が今まで解らなかったけど、こうして話してみて何となく解ったよ。君は他のスリザリン生とは違う気がする」

「君がそうは言っても、僕は間違いなくスリザリンだ。現に、君とドラコ・マルフォイの争いを一度として止めようとしていない」

「そりゃそうだけど。でも、君の方にも立場が有るんだろ?」

「……君は正気か」

 

 それを聞いた瞬間、思わず彼の方を向いてそう言ってしまった。

 彼の表情から明らかに気分を害した事を解っても尚、撤回する気になれなかった。

 

 しかし、何故そう言わないでいられるだろう? 

 

 最初から違和感は有った。ハーマイオニー・グレンジャーから彼の話を、〝同学年のグリフィンドールの男の子〟の話を聞く度に、それは確かに感じていた。だが、それはあくまで彼女の視点を通した物であり、当然に()()されている事が有ると考えていた。

 けれども、こうして話をしてみて、そして言葉を交わすにしたがって、その違和感はどんどん強くなっていった。そして、先の言葉は決定的だった。

 

 しかし、こうして話をしてみれば、その普通さは際立って見えてしまう。

 

 彼は英雄である。

 暗黒時代を終わらせた功労者である。

 闇の帝王を討ち滅ぼした〝生き残った男の子〟である。

 

 それにも関わらず、彼はその功績を過度に鼻に掛けたりせず、自惚れたりもせず、ちやほやされる事を嫌悪し、それどころかこうしてスリザリン生にすら善良さを──それがどんなに些細な欠片であったとしても──見せようとしている。

 

 それは間違いなく〝異常〟だった。

 

「……っ。僕はただダーズリーみたいな奴等の中で暮らしていくのがどんなに大変な事か身をもって知ってるから──いや、もう良い。やっぱり君はスリザリン生だ。ハーマイオニーは君の事を良い人だと言っていたけど、僕はそう思えそうにない」

 

 ここが石畳で無ければ、盛大な足音が鳴っていただろう。

 怒声を叩きつけ、存分に癇癪を爆発させたまま、彼は展望台の出口へと突進していった。

 しかし、何を思ったのか、ハリー・ポッターは目的地に到着したところでピタリと動きを止めた。そしてゆっくりと振り返った彼の顔からは、それまでの怒りが完全に拭い去られていた。

 

「でも、ハーマイオニーとはこれまで通り話をしてあげて欲しい。あれ以来、確かに僕達の前で君の事を話題にはしなくなったけど、僕が聞いたらちゃんと答えてくれたし、何より合同での授業中、彼女は時折君の方を見ている事が有るから。……まあ、君は気付いていなさそうではあったけどね」

 

 勿論、それは気付いていた。

 単に気が付いていない振りをしていただけだ。

 ……そうしていれば、彼女は僕の方を見続けてくれるから。

 

 そして彼も僕の答えを求めては居なかったのだろう。

 今度こそ彼は立ち去っていった。

 

 

 

 

 そうして、ある意味僕とドラコ・マルフォイとの関係以上に奇妙とも言える、英雄ハリー・ポッターとの初めての出会いは終わった。

 

 正直言って、何処かの女の子の時よりは余程好感の持てる最初の交流だったと言えよう。ドラコ・マルフォイと比べても同様である。確かに僕はそれまで彼に含む所は無かったが、スリザリン生にわざわざ会話を持ちかけるような馬鹿正直さは、自分が決して持ち得ないからこそ眩しく思うものであり、敬意を払うべきものであった。

 

 もっとも、彼の場合は彼女と逆だった。

 

 たとえ一方的であるにしろ、僕には彼を嫌うだけの十分な理由が出来た。たとえ逆恨みに等しいものだと頭では理解していても、他ならぬ彼女自身がそれを選択したのだとしても、彼がそこに存在している事自体に対して、半ば憎悪を抱かざるを得なかった。

 

 結局の所、彼はグリフィンドールだった。

 わざわざ僕に話し掛けるなどという愚行をしたように。

 余計な騎士道精神を有する、〝生き残った男の子〟にして、〝疑いなく英雄〟だった。

 


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