痛くはなかったですが、心配になる音がリズムを刻んで鳴り響きました。
さて、過去の作品も三話目。
全四話ですが、最後の一話は過去に友人の同人誌に掲載した作品の後日談の様な話なので掲載するかは検討中です。
それではどうぞ。
本日も大盛況、甘味処「黒崎屋」。人間・妖怪・神様さえも足繁く通う幻想郷の名店だ。
人里の外れにあり、妖怪も来店しやすい佇まいと、店員すらも人と妖怪の入り混じっている。
そんな中、一際目立つ服装の客がテーブル席を一人で陣取っていた。
紅白の巫女服に身を包み、赤いリボンで髪を結っている。普通に考えれば巫女さんなのだろうが、その巫女さんの服装は腋の部分が挑発的に空いていた。
「ズズッ……」
香り立つ玉露を幸せそうにススりつつ、三食団子に舌鼓を打っている彼女は、博麗霊夢。
博麗神社の巫女にして、幻想郷を包む結界を守護するスゴイ巫女さんだ。
まぁ、服装が貞淑なのか不貞なのか判断に迷うが、彼女は至って真面目にその職務をこなしている。
そんな彼女の主な収入は神社に捧げられる賽銭だったりするのだが……。
「申し訳ありません、お客さま。ただ今当店大変込み合っておりまして……、相席をお願いしてもよろしかったでしょうか?」
その言葉に彼女は、あれ? っとお茶をテーブルに置くと周囲を見回す。
時間はお昼も過ぎてそれなりに経つ。世間でいういわゆるオヤツどきというタイミングに、お店は人間妖怪でパンパンだった。
「あ~、それなら仕方ないわね。いいわよ」
さすがにこの状況で断る気にもいかない。連れ合いがいるならともかく、一人でテーブル席を独占してはお店側にも迷惑だろう。
霊夢自身、この店が気に入っているため、快く了承した。
「ありがとうございます! ……それではお客様、こちらになります」
店員に案内されてきたのは、霊夢とも古く、長い付き合いの少女だった。
白と黒を基調とした服装に、大きなツバのとんがり帽子。ウェーブのかかった金髪が背中まで伸びている。
「魔理沙?」
「ありゃ?、霊夢か? 珍しいな、お前が外食なんて!」
霊夢の向かいに座りながら驚いている。
賽銭が収入源だというのは先ほども出たが、ここ最近の博麗神社の賽銭はほぼゼロだった。
それでも日々の食事には困らないのは、世話をした村人や外来人が食料を時折届けているからであった。彼女からすれば、そんなことよりも賽銭を入れてほしいのだろうが、世の中そう巧くは回らないものである。
「今朝に大口の賽銭があったから、ようやく来れたわ。ここ、ツケが利かないから中々来れないのよねぇ」
「いや、ツケを最初から当てにする方が間違ってるんだぜ?」
「うっさいわね。アンタこそどうしたのよ? ここ数日、神社にも人里にも姿が見えなかったからどうしたのかと思ったわ」
「お? 心配してくれんのか?」
「まさか。貴重な茶菓子が減らなくてホッとしてたわ」
厳しいぜ……っと注文した洋菓子と紅茶を飲む魔理沙。
霊夢も玉露と三食団子を口に放る。
和洋それぞれのお菓子とお茶がテーブルに並び、それぞれの魅力で少女たちを甘美な世界へいざなう。
「……で?」
団子を飲み込み、玉露をすすった霊夢。話を逸らしたような魔理沙に追撃の言葉を投げかける。
「え?」
その追撃に思いっきり視線が泳いている。
聞かれたくないことを聞かれた典型的な反応に霊夢もアドバンテージを取れたと感じたのか質問を続ける。
「え? じゃないわよ。ここ数日、本当に神社にも人里にもあんたを見たって人は居なかったわ。それこそ、ほとんど毎日顔を出すっていう香霖堂ですらね?」
ウグッと、泳いでいた眼がさらに激しく動く。さながら溺れている感じだろうか?
香霖堂とは、魔理沙はもちろん霊夢もよく足を運ぶ雑貨屋と言った所だ。幻想郷は結界で包まれていて外の世界と文明レベルが明らかに違う。その結界を時折すり抜けてくるモノを売る数少ない店だ。外の世界では忘れられたような代物、最近はブラウン管テレビなんかが流れ着くようになったそうだ。
そこの店主である森近霖之助という男と魔理沙は旧知の間柄らしく。客としてだけではなく、友人としても店に顔を出す。それが数日姿が見えないと霊夢に漏らしたのは無理もないことだろう。
「あ、あ~、最近魔法の研究が山場でな~」
「あら、それならアナタ家に、明かりすら灯ってなかったのはなぜかしら? 彼の頼みで家まで行ったけど、研究なら夜に明かりをつけてもやるわよね~?」
これは面白いとばかりに霊夢は魔理沙への追及の手を緩めない。
もはや魔理沙は汗だくで、目に見えて焦っていた。手元のお菓子も半分も減っていない。
「さぁて、聞かせてもらおうかしら? あなたは数日間、家にも帰らずどこに行っていたのかしら?」
完全に噂好きの女子モードに入っている霊夢は嬉々とした表情で魔理沙を問いただしている。
幸い、満席状態の店内で彼女たちの会話はほとんどが雑踏に紛れて店の賑わいに変わっている。店員も彼女たちの話を聞く余裕がないようでパタパタと店中を動き回り、客も自分たちの会話に夢中のようだった。
そんな状態ならばと、観念したのか魔理沙は語り始めた。
「ほ、ほら、私ってパチュリーとアリスの所によく行くだろ?」
「まぁ、魔道書を盗見に行ってるっていうのは知ってるわよ。ついた名前が白黒シーフってね」
パチュリーとアリスは魔法使い。両方ともかなりの実力者であるということは周知の事実だ。そうなると研究などで使用する魔道書も必然的に質のいいモノがそろっている。
魔理沙はそれをよく盗みに行くのだ。本人曰く「死ぬまで借りるだけだぜ!」ということらしいのだが、もしかしなくても盗賊行為だったりする。
「まぁ、それは置いておいて、最近は二人から呼び出しが来るようになったんだぜ」
「呼び出し? 珍しいわね」
「数日前にアリスに呼ばれて、今さっき解放されたんだぜ」
「へ?」
予想外の返答に霊夢の頭は真っ白になった。
彼女の予想では、年相応の理由を考えていたものだから言葉を失っていた。
「……もっとこう、女の子らしい理由を想像してたわ」
「女の子らしい危機だったぜ」
そういう彼女の表情は煤けている。よほどの衝撃的な体験をしたのだろう。
洋菓子をフォークでつつきながら遠い目をしている魔理沙は修羅場を潜り抜けた後の戦士の表情を彷彿とさせた。
「……霊夢。人間って身の危険を感じると寝てても起きるもんなんだな」
「本当に何があったの!?」
盛大にツッコミを入れた所で、ふと霊夢が何かに気付いたようで少し考える仕草をする。
その動きに魔理沙は不思議そうな表情をしている。
霊夢はそのままお茶をすすると意を決したように言葉を続けた。
「さっき、パチュリーとアリスって言ってたわよね?」
「ん? ああ、確かに言ったぜ」
「そう。ま、がんばんなさい」
そう言うとお茶をすすり、魔理沙の背後を指さす。
その行動にサッと顔色が変わった魔理沙は、恐る恐る振り返る。
「あら、ここにいたのね白黒。パチュリー様がお呼びよ?」
「またこの展開かー!?」
逃げ出そうとした魔理沙の首根っこを掴むのは吸血鬼姉妹の住む館でメイドをしている十六夜咲夜。パチュリーと吸血鬼姉妹の姉であるレミリアは旧知の仲で紅魔館に共にに住んでいる。
ミニスカートのメイド服に身を包み、ショートヘアと耳の前に垂れている三つ編みが印象的で、見た目の若さには想像できないほどのメイドとしての技能を持っている。
だが侮ることなかれ、彼女の能力は「時を操る程度の能力」。その上、その全身にはどこに隠しているのか無数のナイフが隠されているのだ。
時を操る彼女の前では逃げ切ることは不可能だろう。
「あら、赤白もいるのなら丁度いいわ、レミリア様がお探しになってたわ」
「え?」
玉露をすすっていた霊夢の表情が固まる。
固まった一瞬が明暗を分けた。すでに、咲夜は霊夢の近くに移動してその手を掴んでいた。
「レミリア様が非常に楽しみにされておりますので、ご招待いたします」
そういって霊夢に向けられた笑顔は非常に魅力的ではあったが今の彼女には死刑宣告を受けた気分だった。
「霊夢を捕まえるために賽銭でおびき寄せたけど、まさか白黒まで捕まるなんて今日はついてるわね」
そういう咲夜は思わぬ収穫にうれしそうだ。
「今朝の大口賽銭アンタか!?」
「つか、なんで咲夜が来るんだよ! やっと自由になれたのに!」
「レミリア様とパチュリー様から頼まれたの。弾幕では後れを取るかもしれないけど、逃走と追撃なら私は負けませんよ」
二人を引きずるようにして店を出るメイド。
霊夢と魔理沙が座っていたテーブルには二人分の料金がちゃっかり置かれていた。
すると、数分前まで霊夢がいた空間が歪んで裂けた。
そこからするっと姿を現すフワフワのウェーブがかかった髪と和とも洋とも判別できない服装をした女性。
「あらあら、霊夢が連れて行かれちゃったわね~。仕方ないわね、帰ってきてからのお楽しみってことにしましょう」
扇子で口元を隠しながらクスクスと笑う彼女は八雲紫。
幻想郷を管理するスキマ妖怪だった。
霊夢も魔理沙と似たようなピンチに晒されてきているのだった。
完
いかがだったでしょうか?
この世界観で新たに書こうか思案中。
楽しんで頂ければ幸いです。