交わるはずのないステージ~謎めいた隣人の正体~   作:氷ユリ

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忍び寄る魔の手 後編(1)

 

 再び眠りに就いた幼い少女を見下ろし、改めて首を捻る新堂。

 

「親戚か。ユイに似てる訳だ!しかし始めて聞いたな」

 長い付き合いで初めての親戚の出現に、まあ、いてもおかしくはないかとブツブツと言いながら部屋を出る。

 新堂は天涯孤独の身であり、そんな人物が会いに来る事はあり得ない。

 

 帰宅するや玄関ドアの前で蹲っている少女を発見し、大いに驚いた。

 追い返す訳にも行かず、さらに体調が悪そうだったため様子を見る事にした訳だが。

「何にせよ、迷子じゃなくて良かったよ」

 この時はまだこの程度にしか考えていなかった。

 

 

 翌朝。部屋に様子を見に行くと、少女はすぐに目を覚ました。まだ咳き込んでいる。

 

「熱は下がったな。その咳、どうも気に掛かる。病院に……」

 新堂がそこまで言うと、涙目で激しく拒絶される。

「いやーっ!」

「まるでユイだな!痛い事はしない。肺のレントゲンを撮るだけだよ?」

「いやだぁ……っ、うわ~ん」

「参ったな……そんなに泣くなよ」

 

 小さくため息を零し、しばし考える。

 

「分かったから、もう泣くな。その顔でそこまで泣かれると弱いよ」

「……え?」

「いや、何でも。それにしてもユリちゃんはユイにそっくりだな。良く言われるだろ」

「ま、まあ……」

 やけに大人びた回答に、新堂は少々面食らう。

「腹、空いただろう。朝食を用意したから食べなさい」

「ありがと!お腹ペコペコ」

 

 おかしな咳は続いているが、それ以外は元気そうだ。しっかりとした足取りで自分について来る少女を見て、新堂は幾分ホッとした。

 

 出された食事をペロリと平らげ、椅子の上で足をブラブラさせる。まるで届かない事が珍しいとでも言うように。

 そんな姿を見れば当然、行儀が悪いと取られる。

 

「ユリちゃん」

「なぁに?先生」

「熱は下がったけど、まだ咳が続いているから、あまり騒がないで」

「騒いでないけど?」

 答えるや椅子から飛び降りた。そしてダイニングを出て廊下を走って行く。

 

「ユリちゃん!今先生が言った事聞いていたか?」

「うん!」

「……こりゃダメだ。確かにユイの親戚だな、あれは」

 確信に至る新堂だった。

 

 向かった先はユイの部屋。そこにはクマのぬいぐるみが置かれている。

 追いついた新堂がクマを抱きしめる彼女を見て納得する。

 

「そうか、それが気になってたんだな。それ抱いて、大人しくしててくれ?まなみに返さなくて良かった」

「は~い!クマ太郎、やっぱりカワイイ。何だかデカくなった?」

「なぜそいつの名前を?」

「あっ……その、ユイに聞いてたの」

 どこか焦った様子の彼女だが、新堂は気に留めない。

「そうか。さて、咳のお薬を飲もうか」

 

「ねえ?先生、最近キスした?」

 唐突にマセた質問をする子供に、新堂は目を丸くする。

「んなっ、何を言い出す?さてはユイのヤツが変な事教えたな?」

 

「ねえ!したかしてないか。嘘はなしよ?」

 ユイはここぞとばかりに問いただす。子供のふりをして真相を暴こうという訳だ。

 

 大きく息を吐き出し、新堂はベッドに座るユイの前にしゃがむ。

「最近というのは、どのくらいの範囲だ」

 どうやら真面目に答える気のようだ。ユイはきっぱりと答える。

「この二、三日」

「それならイエスだな」

「ウソ……」

 

 ユイはショックを隠せない。何せ自分には彼とのキスはここ数日記憶がないからだ。

 最後にキスをしたのは、ジンとの一件で記憶が戻った日のみ。あれから一週間以上経つ。

 

「どうかしたか?」

「先生、それって、金髪の人?」

「金髪?……」

 彼がそのまま黙り込む。

 口元に手を当てて固まる姿は、何かを思案している時の癖だ。

 

 これを見てユイは確信する。この二、三日中に金髪、つまりベルモットとキスをしたと!

 

「やっぱしてたじゃん……!ウソつき!うわ~ん!」

「何なんだ、一体?落ち着いて、ユリちゃん」

「ゴホゴホっ、ゴホゴホっ」

「ほら、興奮するから咳が酷くなった。こうなったら注射だな」

「いやぁ!注射、イヤだぁ~、うわぁ~ん!」

 増々泣き声が大きくなる。

 

 堪り兼ねた新堂が声を荒げた。

「うるさい!静かにしろと言ってるだろう!」

 さすがのユイもピタリと泣き止む。

「ああ……済まん、つい。ユイを相手にしてる気になってしまった」

 

 その判断は正しい。実際目の前の女はユイである。

 

 その後ユイは金髪、金髪とうなされるように呟き続けた。

「また熱が上がったのか?うわ言が酷いな。こうなったら眠らせて病院に……」

 こんな言葉にユイが反応する。

「熱、ない。うわ言じゃない!先生が金髪とキスしたのが悪い」

「は?誰が金髪とキスしたって?」

「先生に決まってるでしょ」

「してないよ。誰がそんな事言った?」

「さっき言ったじゃない!」

 

「確かに金髪は近づいて来たが、キスはしてない。俺がしたのはユイとだ。いつも寝る前にしてるから」

 新堂がどこか照れたように打ち明ける。

「は?」

 今度はユイが首を捻る番だった。

 

「分かったぞ。ユリちゃん、ユイに頼まれたんだろ。ここ最近妙に馴れ馴れしい金髪が付き纏って来てたから。しかし何でそれが分かった?」

「キス、してないのね?本当に!」

「ああ。俺はユイ以外とは絶対にしない。って、子供相手に何を言ってるんだ、俺は……」

 

 ユイの目にまたも涙が浮かぶ。今度のは嬉し涙だ。

 

「先生ぇ!大好きっ!」

「ユリちゃん?ちょっと……」

「ああ、ゴメン、なさい」

 思わぬ真実が明かされて、ユイは嬉しくて堪らない。だがそれを表現できずにもどかしい。

 

「ゴホゴホっ」

「ほらまた。先生はちゃんと答えたぞ?次はユリちゃんの番だ」

「いいよ。質問、どうぞ」

「質問じゃない。注射だ」

 

 再び二人の格闘が始まったのは言うまでもない。

 もちろん勝者は新堂だ。

 

「うえ~ん……痛いよぉ」

「もう終わった。さあ、今日一日は安静にしてね」

 

 一人になった部屋で、ユイは泣きながら微笑む。

「新堂先生、大好き。私もちゃんと信じてたよ?」

 

 

 ユリと名乗るユイの親戚が来て一日が過ぎた。

 

 一旦下がった熱はまた上がり始め、咳も続いている。つまり薬が効かないという事だ。

 案の定病院行きを猛烈に嫌がった彼女に降参して、書類整理をしようと書斎に入ったが、どうにも集中できない。

 

「なぜ俺が折れる必要がある?やはり調べよう。眠った隙に連れて行けばいいじゃないか」

 

 連絡が付かないユイへのイラ立ちを、親戚と名乗ったあの少女へ向けている気がしないでもない。

 医者としての使命感と思う事にして行動に移す。

 

 病院での検査は特に異状はなかった。

 だが驚いた事に少女の血液型は、俺やユイと同様のとても希少なものだった。ここまでは、ユイとの血の繋がりも考えればあり得る話だ。

 だがこれは?

 俺がユイに施したオペと全く同じ個所に痕跡を見つけたのだ。それはもちろん一つではない。

 その全てが一致しているなんて?

 

「これはどういう事だ?……偶然、というには出来過ぎだろ!」

 浅い息を続ける少女を見下ろしながら呟く。

 

 そして左手中指を手に取る。

 ユイのそこは、俺と出会う前に負った骨折により指先が変形しているのだが……

「ここもだ。子供の骨折でこうはならない」

 再び、あまりにもユイに似すぎたその少女を見やる。

 

 思い返せば言動も初めからユイそのものだった。

 少し前まで記憶自体が幼児化していた事もあり、何の違和感もない自分が恐ろしいのだが。

 

「幼児化……か。そう言えば、あの少年がそんな事を聞いて来たな」

 あれは一年程前だったか。ユイの射撃シーンを目撃された口止めのために呼び出した時だ。

「工藤新一。あいつは絶対何かを隠してる」

 

 聞いてみる価値はある。

 

 まだ眠っている少女を自宅へ連れ帰り、元通りに寝かせてから車に乗り込む。

 

「自宅も連絡先も知らない。今時の小学生も携帯を持っているだろうが!この時間なら学校か」

 また待ち伏せをする事にした。

 

 

 校門付近で、愛車クワトロを路肩に停車させ様子を窺う。

 

 少しして案の定メガネの少年が一人、校庭を横切ってこちらに一直線に走って来るのが見えた。

「予想通りだな!」

 

「やっぱり新堂先生だ。前にも言ったけど、こんな事して不審者と間違われるよ?」

「新一君。君に用事があったんだ。連絡先を知らないので、この手しか思いつかなくてね」

「アハハ……」

「君なら目敏く見つけてくれると思っていたよ」

 

「もちろんさ。それで、僕に用事って、ユイさんの事、だよね」

「話が早くて助かる」

「緊急なら学校早退してくるけど、どうする?」

「その必要はない。放課後にでも訪ねてほしい」

「分かった。なるべく早く行くよ」

「待ってるよ。では」

 

 手短に会話を終えて速やかに車を発進させる。

「ユイの事、か。緊急だと言って連れ去れば良かったか?なあユイ。おまえは本当に……」

 

 

 急いで自宅へと戻る。

 

 部屋を見に行くと、少女は目を開いていた。

 

「起きてたか。済まない、少々出ていた。気分は?」

「先生、熱い。熱くて苦しい……。アイス食べたい」

「アイスか……。もう少し早く分かれば買って来たのに。よし分かった、作ってやろう」

「スゴイ、手作りアイス?」

「そうだよ。少し待ってて」

 

 少女は嬉しそうに微笑んで再び目を閉じた。

 

 キッチンで材料を揃えてボウルに流し入れ、氷水で冷やしながら混ぜて行く。

「簡単だし無添加だし、これが一番だな。砂糖は控えめっと……」

 我ながら手際がいい。あっという間に完成し部屋に運ぶ。

 

「どうだ?」

「うん、美味しい。先生、お菓子も上手だね」

「も、?」

「だって、お食事美味しいもの」

「……ああ。ありがとう。ユリちゃんは日頃お母さんのお手伝いはするのかな?」

「あんまりしなかったなぁ」

「しなかったって、これからすればいいだろ」

「……別々に住んでるから」

「お母さんはどこに?」

「イタリ……」

 ここまで言って少女は口籠る。

 

「ユイの母親もイタリアにいる。もしかして、姉妹で住んでるのか?」

「そ、そう!ユリはお父さんといるの」

 熱のせいか、頬を赤く染めて答える。

「お父さんは好きか?」

「キライ」

「ん?」

「あ……好き、ううん、やっぱりキライ」

 

「ああ、分かった、もういい。アイスで少しは楽になったかな?」

 少女は何も答えなくなった。

 頬に触れるもやけに熱い。心拍も早く発熱は続いている。

「もっと何か冷やすものを持って来る。そのまま寝てて」

 

 高熱の子供相手に探りを入れるなど、どうかしている!今はこの苦痛を和らげてやるべきなのに。

 それにしても、工藤新一が来たところで何が変わると言うのか。この問題があっさり解決するとは思えない。急に自分の行動が愚かに思えて来た。

 

「俺も案外他力本願だな!自分で何とかしろって話だろ?」

 苦笑しながらキッチンに戻り、冷凍庫から保冷用のジェルを数個取り出す。

 原因が分からない以上、解熱剤が効かなければ打つ手はない。

 医者でありながら、こんな手段しか取れない自分が嫌になる。

 

 

 そして時刻は四時を回った。

 玄関チャイムが鳴り響き、足早に向かう。

 

「新堂先生、お待たせ」

 少年の後ろから、もう一人顔を出した。

「こっちは灰原。俺のクラスメイト。同席させてもらってもいい?」

「ええと……」

「とにかく関係者だから!ね、いいよね?」

 

「そういう事なら」

 初対面の少女に若干戸惑いながらも受け入れる。

 軽く頭を下げて挨拶をして来る少女は、どこか大人びた雰囲気だ。それはユイよりも!

 

「ユイさん……じゃなかった、ええと誰だっけ?」

「私に聞かないでよ」

 リビングに通した二人はこんな言い合いを始めている。

 構わず二人の座るソファの前に陣取り話を進める。

「新一君に灰原さん。来てくれてありがとう。この二日間ユイと連絡が取れず、替わりに彼女の親戚が家に来てるんだが」

 

 淡々と話し始めた俺を見て、二人が居住まいを正した。新一が聞いてくる。

「それでその子は?いないの?」

「高熱で寝込んでいてね。薬がどれも効かなくて困ってるんだ」

 

「高熱?何で……」

 新一は灰原と目を合わせて息をのむ。

「個人差って言っても、そこまで違うものか?」

「分からないわ。でも実際彼女にそれが起こっているなら、そうなんでしょうね」

 

 二人の会話に割って入る。

「済まないが、私にも分かるように説明してくれるかな?」

 ここは控えめに行こう。子供を怖がらせるのは趣味じゃないので!

「ああ……どっから話せばいいんだ?」

 頭を掻いて悩まし気な新一を差し置き、灰原が俺に向かって口を開いた。

「あの、新堂先生は、どこまで把握されていますか」

 

「どこまで、というと?」

「例えば、高熱の原因とか」

「話を聞いていなかったのかな?困っていると言ったんだが」

「ああ、ごめんなさい!それじゃあ、……やっぱり工藤君から言ってよ」

 灰原は伏し目がちになって横の少年に言った。

 小声で灰原が、やっぱりこの人ニガテ、と囁いたのも見逃さなさい。

 

「別に問いただしている訳じゃない。悪気はないんだ、済まない」

「いいえ……そういう意味では!」

 灰原は一転慌てたように返して来た。

「君達はやはり小学生には見えないな」

「そりゃそうさ。特にこっちの灰原はなぁ」

 新一が砕けた口調で言う。

「工藤君ってば!」

 

「初めから子供と話しているつもりはない」

 俺が改めて言うと、二人はもう一度目配せをした後にこちらを見た。

「回りくどいのは好きじゃない。率直に聞く。新一君は以前私に、幼児化の話を持ち出したな」

「ああ。したね。あの時はまさか、こんな事になるなんて思ってなかった。本当に、そんな事は思ってなかったんだ」

 心底後悔したように言うその姿が痛々しい。

 

 世の中には様々な病が存在する。中でも、老化現象を早めるものやその逆、若返りの症例。

 それらはほとんどが脳障害によるもので、原因も治療法も解明されていない難病だ。

 

「まさか現実の話だったとはな!」

「本当に……ゴメンなさい」

「謝るな。どうせまた、ユイが首を突っ込んだんだろ?」

「それだけじゃないよ。ユイさんが有名すぎたせいだ」

「それで。今ここで高熱にうなされているのはユイなのか?」

「断定した訳じゃなかったんだね」

 

「当たり前だろ!信じられるものか!」

 思わず本音で訴えてしまった。

 

「うん、分かるよ。痛いくらいね。それで先生はどう思う?」

「まだ何も。君達はそういう病なのか?だとして、こんなに急激に悪化するのは考えにくい」

 何せ今朝は至って普通だったのだから!たったの半日だぞ?

「病、だと思ってるの?」

「それ以外考えられん。血液検査では薬物反応は見られなかった」

 

 ここで突然灰原が割って入る。

「あの薬は痕跡を残さないように作ってるから当然よ」

「あの薬?作ってる?どういう事だ」

「もう隠しても意味ないわね。いいでしょ、工藤君」

「ああ。頼む」

 

 その後繰り広げられた灰原という少女の説明は、にわかには信じ難いものだった。

 

「バカな……」

「やーっぱそういう反応だよなぁ」

 言葉にならず固まっていると、再び二人が会話を始めた。

「それにしても変よ。変化の過程で発熱したとしても、もうとっくに収まっているはずなのに……」

「オレの場合、熱ってより心臓がこう、潰されるように痛かったぜ?だけど、その後はこの通り普通だ」

「そう。体中が痛んで、バラバラになるんじゃないかってくらいね。もしくは飲んだ直後に即死よ。あ……ゴメンなさい」

 勢いで言ってしまったと見えて、灰原が謝罪を入れて来る。

「別に謝らなくていい」

 

 そう断ってから、思案に耽る。

 ここは医者としての立場で応対するとしよう。

 

「それで個人差、という訳か」

 少なからず薬効には個人差が生じるものだ。それは毒であっても同様。

「お分かりいただけたようで何よりです」

 灰原は深々と頭を下げて言った。

「その薬の研究を、君が……」

「研究チームに所属していただけです。手掛けていた私の両親が亡くなったので、その後を引き継いだというか……」

 

 ここまで来たら信じてやるしかないじゃないか。

 手を上げ了承した事を示してから尋ねる。

「で、こういう例は他にあったのか?」

 

 これに答えたのは新一だ。

「他にっつっても、こうなってるのは俺達だけだからなぁ」

「つまり他の人間は死んだと」

「まあ……そういう事」

「殺害目的の薬品であるなら、致死量の劇薬だ。君達だっていつまでもこの状態のままで済むとは思えない。薬が作用しているのは恐らく脳だ」

 

「長生きが望めないのは分かってる。でもユイさんだけは助けたいんだ。こんな事に巻き込んで、寿命が縮むなんて……ダメだよ!先生、協力してくれるよね?解毒剤を作るの!」

「それはもちろんだが、何て言ったか……その」

「アポトキシン4869。まだ世には出回っていません。こんな恐ろしい薬、生み出してはいけなかったのよ!」

 灰原が両手を顔に当てて嘆く。

 

「アポ、とはアポトーシスの事か?簡単に言えば細胞の自己破壊、要は自死。トキシンは単純に毒を意味する、か…。なかなかのネーミングセンスだな」

「細胞の自死って上手い事言うね!……って先生、関心してる場合じゃないよ?」

 合いの手を入れながらも新一が突っ込む。

「外科医は案外、楽観主義が多くてね。灰原さん、そんなに自分を責めないで」

 自然とこんな慰めの言葉を口にする自分がいた。

 

 女性が悲しむ姿は、見ていて気分のいいものではない。

 まあ俺はどちらかというと悲観的性格だが、今は伏せておくとしよう。

 

 彼女は淡々としていて情に薄いようにも見えるが、好き好んで人を死に追いやるような人間ではなさそうで、どうにも突き放せない。

 それを言えば、ユイの方が悪だ。

 

 少しだけ空気が軽くなったところで、新一が言う。

「とにかく今は、ユイさんの高熱を早く何とかしなきゃだね」

「ああ。ユイは特異体質の気があってね。すぐに薬に耐性ができてしまうんだ。もしかすると、未知の化学物質に免疫が過剰反応しているのかもな」

「そうよ先生、自己免疫反応!それを鎮めればもしかして……」

 灰原が思いのほか強い口調で加勢してくる。

 

「それだ。やってみよう」

 こんな単純な事になぜ今まで気づかなかった?幼児化に囚われすぎていた。

 

 その後の処置により、ユイの熱は下がり出した。

 

「一先ず安心だね」

「遅くまで付き合わせて済まなかったね。君達、家まで送って行こう」

「大丈夫だよ。先生はユイさんに付いててあげて。帰ろう、灰原」

「ええ。新堂先生、今後について話し合いたいので、また来ます。これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。では気を付けて」

 

 本来なら、小学生をこんな時間に放り出すのはマナー違反だが、彼等は特別。まあいいだろう。

 

 まさかの展開で、取りあえずは安心か。

「他力本願もたまにはいいだろ?ユイ!」

 

 穏やかに眠る少女、いやユイを見下ろし、安堵の息を漏らした。

 

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