「FBIです!会長、ご無事ですか!」
「これはこれは。前回に引き続き、国際捜査ご苦労様です。あの一件で会長職を降りまして、今は顧問なんですよ」
「そうでしたか、失礼しました。顧問」
「私はこの通り、何ともありませんよ。あまり騒ぎ立てないでもらいたいものだね」
会長でも顧問でもどっちでもいい!それよりも……
オレ達が狙われていた男の元へ辿り着いた時、会長室にはすでに客人がいた。
驚くべき人物が!
「それでは、こちらの図面は返却いたします」
「ああ。ご苦労さん。役にたったかな?」
「ええ、とても。お陰でスムーズに事が運んだかと」
「それは何よりだ。そちらの社長にも、よろしく伝えてくれ!」
「はい」
ベージュのスーツを爽やかに着こなした、笑顔の朝霧ユイがいたのだ。
「では失礼します」
ユイはわざとらしくオレ達に一礼して部屋を出た。
香水の香りがフワリと香った。そしてその後に……
「硝煙……?」ジョディ先生が勘付いた。
マズイ、この人にバレたら大変な事になる!
「ジ、ジョディ先生!この人無事で良かったね!」
「え?ええ、そうね。本当に……」
まだ何かを考えているようだ。
ユイの持って来た図面、と口にしていた円筒形の黒いケースを凝視している。
恐らくあれには、ライフルが入っているんだろう。
「会長……ではなくて顧問、そのケースの中身を見せてください」
「なぜです?これは取引先との機密情報ですよ」
「念のためです。図面の内容には興味がありません。それ以外の物が万が一……」
「ねえ!図面って紙でしょ?」
「ああ。そうだよ」男が軽々と持ち上げた。
それはとてもライフルが入った物とは思えない程に。
「そうだよね~。さっきのお姉さんも、片手で軽々と持ってたモンね」
わざとらしくそう強調してみた。実際ユイはあれを左手一本で容易に持っていた。
右手首を負傷中だからって、女性が片手であんなふうに持てる重さじゃないはずだが!
「もう結構です。失礼しました」
オレはこの言葉に、目の前の男よりもほっとしてた気がする……
こうして無事に男を保護し、FBIも一旦帰国。
オレはいつものように小学校へ通学する生活へと戻ったのだった。
学校で顔を合わせた灰原に、早速この話を聞かせた。
「全く驚いたぜ!半端ね~や、朝霧ユイ!」
「そんな事があったとはね……。で、ジンは?」
「残念ながら生きてると思うよ」
「そう……」
オレと共に連中に命を狙われている灰原にとっては、皆殺しの結末が最善だったか。
そしてそれは、ユイにとっても恐らく同様に。
「新堂先生には悪いけど、あの女は立派な暗殺者だよ」
それにしても……またも彼女を巻き込む形になった。誓ってオレのせいじゃないが!
だがそうも言ってられない。この先、彼女までも狙われ続ける可能性が出てきた。
学校からの帰り道。
一人でそんな事を考えながら歩いていたら、後ろからクラクションが聞こえた。振り返ると、黒のアウディ・クワトロが徐行しながら付いて来ている。
新堂先生か?と思ったら、運転していたのはユイだった。
「そこの賢そうな少年、乗ってかない?」
「ユイさん!ビックリしたよ……」
全く。二人して、同じような事をしやがるぜ!
「驚かせてごめんなさい」
「ううん、気にしないで」
オレは先生の時のように、何の躊躇いもなく助手席に乗り込んだ。
「この間は驚いたわ」
「それはこっちのセリフ!」
「ふふ……!」
「単刀直入に聞くけど、あの強風の中、二キロも先からライフル撃ったのは、ユイさんでしょ?」
「本当に直球ね。一体、何の事?」
「とぼけたってムダだよ」
「ボイスレコーダーでも仕掛けてるのかしら。私がそう簡単にペラペラ喋ると思ってるの?」
「いや。ただ、あんな短いタイトスカート穿きながらやったとしたら、凄いなって思っただけ」
あんな格好で狙撃なんて!セクシーすぎるだろ?
思わず想像して熱くなる。オレもまだまだ子供だな……。高校生には刺激が強すぎるぜ。
「ちょっと!顔、赤いよ?エッチなコト想像したでしょ。ガキのクセに!」
「バ、バッキャロー!」
一瞬おどけたユイだったが、真顔に戻る。
「そっちこそ、あのFBIの彼女とはどういう?君こそ怪しさ満天よ」
静かに車を走らせながら、ユイは言った。
「ボクが聞いてるんだけどなぁ」
「状況を考えて。ここでの主導権は私にあると思うけど」
「イヤだな、そんなに警戒しないでよ。通報する気もないし、FBIとつるんでもないよ。だって、捕まえる気なら、とっくにやってると思わない?」
「そうね。じゃ、なぜそんな事聞くの」
「単なる興味さ。それと……」
「それと?」
「ユイさんがあの日狙ってた奴等は、オレ達の敵でもあるんだ。だから……」
「何人仕留めたか知りたい訳ね」
やっぱりこの女の仕業だった。アンタも十分直球だよ!オレは素直に頷く。
「残念だけど、一人よ。さすがにあの強風はキツかったわ」
「それって誰!」
「男のスナイパー」
「銀髪の男がいたでしょ?」
「アイツは手強かったわ。この私の弾を避けた。当たったとすれば、恐らく肩ね」
「現場に、スコープのレンズの破片があったけど」
「そう?」
この回答からして、偶然当たったのか?
ユイが意味深な笑みを浮かべている。つまり……偶然なんかじゃないな。
「ま、いいや。そっかぁ、一人か」
「ごめんね、全員仕留めてあげられなくて」
「やだな、そんな事謝らないでよ!それより、新堂先生はこの事知ってるの?」
ユイは首を横に振った。知ってる訳ないよな。
「ねえ?絶対に内緒ね。またうんざりさせてしまうから……」
「分かってるって。ところで、少しは先生の事、思い出した?」
「それが、全然」
悲しそうにそう口にする彼女を、何とかしてあげたいと心から思った。オレにはどうする事もできないのだが。
「でも、なぜそんなに私の事、気にかけてくれるの?」
「オレは探偵って言ったろ?いろんな事に首を突っ込みたくなるんだ。ジョディ捜査官とは、共通の敵を前に、行動を共にしたってだけ」
「あの闇組織を、FBIまでもが追ってるのか」
これで少しは、組織の巨大さを分かってくれただろうか。
ユイはしばし無言で運転を続けた。
「ねえユイさん」
「何?」
「もうこれ以上、あいつ等に関わらない方がいい」
「私は依頼を受けただけ。たまたま敵がそいつらだった。個人的に関わろうなんて思ってないわ」
「あいつ等の事は、日本の公安も追ってる。関わると逆にユイさんが……」
「そうね。新一君、私の事をあの女捜査官から守ってくれたでしょ?」
いきなり話題を変えられた。
「え!気づいてたの……」
「あの臭い、香水じゃ誤魔化せなかったか~」
「だね」
「カムフラージュにわざとあんな格好したのに台無し!」
そうだったのか……!
「黄色いサングラスも、胸ポケットから見えてたよ」
「えっ!それホント?イヤ~ん、私ったら!」
そう言いつつも楽しげなユイ。オレもつられて笑っていた。
「かなり本気モード入ってたのよ。今回は」
「そうみたいだね」
あの想像を超える射撃が物語っている。
「だ~って!世界最強のスナイパーですって?この私を差し置いて!誰が最強か、教えてあげないといけないじゃない?」
「十分、伝わったと思うよ」
ユイは肩を竦めた。
「君は、本当に不思議な子ね」
「子供扱いしないでくれる?」
「高校生、だったかしら」
「そう」
「それは失礼。私も、そんな事散々言ったっけ」
「そうなんだ」
「ええ。十六の頃から、私は永遠に二十五よ!なぁ~んて言ってたわ」
するとその頃から彼女は……
「……電話だわ」
ユイの携帯が鳴った。覗き込むと、新堂と表示されている。
「もしもし?」
しばらく会話した後、ユイが電話を切る。
「何て?」
「急患が入ったみたい。車、使いたいって。すぐに帰らなきゃ……」
「ボクなら大丈夫だよ。ここで降ろして」
「ゴメンね、こっちからドライブに誘ったのに」
「全然!もう十分満喫したし。話もできたから」
こうしてユイは自分の居場所へと戻って行った。
不思議、はこっちのセリフだ!朝霧ユイ。どこまでも興味が尽きないぜ!