【凍結中】亡霊の軌跡   作:機甲の拳を突き上げる

16 / 20
5月の試験も無事に終わり、ぼちぼち再開していきます


15話 傷痕

ロイド達はアルカンシェルへと来ていた。支援要請が届いており、その内容がどうやらストーカー被害であると書いてあった。劇場に劇団長とリーシャも一緒にいた

 

「お、弟君たちじゃない。おヒサ~」

 

実に軽い感じで挨拶をするイリアにロイド達は苦笑いを浮かべる。ストーカー被害を受けている本人が軽い感じで、劇団長とリーシャとで稽古の話をしていた

 

そこでロイドが初日に新作を見に行ってリーシャの演技を褒めると、イリアがナンパだとからかったりして仕事の話が一向に進まず

 

「ロイドが天然の女誑しで、節操なしなのは分かった。劇団長、支援要請にてストーカー被害の報告をうけたのだが、詳細をお聞きしたい」

 

ここで世間話を切って、仕事の話にミッチェルが切り替える。ロイドは女誑しで節操なしの発言に抗議しようとするが無視する。支援要請の話を聞くと、劇団長とリーシャが思い出したかのような表情をし、ミッチェルはそれに溜息をこぼす

 

「え?なに、何の話?」

 

イリア本人の事件であるのに、本人がまったく知らない様子で、リーシャが説明してようやく思い出したようであった

 

「あ~あれね、相談したんだ。別に実害ないんだし、ほっときゃいいのにー」

 

とてもストーカー被害を受けている女性の発言ではなかった。劇団長が言うには、ここ1~2週間の事らしく、イリアの自宅の方に不審な人物……ストーカーが現れるのだと言う。アパートの周りをうろついたり、ここ数日はアパートの中でも目撃されているというのだ

 

「でも、あたしもリーシャも姿を見た事ないのよね。ときどき視線っていうの?変な気配を感じたりする程度なのよ」

 

ストーカーなのだから姿を現さないのは不思議ではないのだが、その人物を見たことが無いというのは少し不自然であった。ストーカーとは特定の人物に対して執拗に付きまとう行為であり、もし本当にストーカーがいるのなら尾行や手紙などを送られているはずなのだ。だが、そんな行為は一切なく視線を感じるだけだという

 

「でも、イリアさんの自宅は非公開なのですよね?」

 

エリィの問いかけに劇団長が頷く。団員の住所は追っかけ対策に一切公表していないと言う

 

「相手は勘が鋭いか、用心深いストーカー……もしくはストーカー目的でないかだ」

 

ミッチェルがそういうと、ロイド達がどういう意味か聞いてくる

 

「イリアはいい意味でも悪い意味でも目立つ存在だ。ストーカーする奴が出てくるのも分かるが、金銭目的で彼女の行動を監視している可能性もある」

 

その説明にロイド達は頷く。イリアは世界的にも大スターで、その分のギャラも普通の人に比べて莫大である。その彼女が持っている金銭か貴金属類を狙っている可能性があると説明する。相手はどんな人相なのかと尋ねると

 

「見た人の話では、14、5歳くらいの小柄な少年だったとか……帽子で顔を隠していて、人相までは判らないそうです」

 

その犯人の詳細にロイド達は驚くも、ストリートチルドレンが存在しているのなら泥棒目的である可能性が高まったとミッチェルは思っていた

 

「そう言えば思い出したんだけど……リーシャ、昨日あたしの部屋に入った?なーんか物の位置が変わってる気がしたんだけど……」

 

それにリーシャが首を横に振り、事態は思ったよりも深刻であることが判明した。なにせ既に犯人が自宅へと入り込んだ形跡があるのだというのだ。劇団長から表沙汰にはしないでくれとの要望もあり、とりあえずイリアのアパートまでくると

 

「……やはり、鍵をこじ開けた形跡がある」

 

アパートの最上階にあるイリアの部屋の鍵をミッチェルが確認すると、ピッキングツールか何かで無理やり開錠した傷跡が僅かに残っていた。その腕前から場馴れした犯人であることがわかる。イリアから借りた予備の鍵を使い部屋の中へ入ると、散らかっている様子であった

 

「目の前のテーブルには空の酒瓶とグラス、ベッドには服がだしっぱなし……これは犯人の仕業ではなさそうだな」

 

この散らかりようは犯人でなく、イリア本人が片付けずに放置した後のようだとミッチェルが言う。エリィはイリアの性格からイメージができると苦笑いしながらも、形跡を調べていく。犯人の直接捕まえないことには、曖昧な目撃証人だけでは決定打にならない、犯人を捕まえるために侵入経路と行動パターンに犯人の姿を確認する必要があった。

 

「アパートの人たちから一通り聞き込みして、アパート内部も調べてみよう」

 

ロイドが捜査内容を言い、手分けして調べていく。エリィとティオがイリアの部屋を捜索し、ロイド達はアパートの住民の聞き込みと痕跡を調べていた。住人の証言では、よく玄関近くのソファーにいるが不審者を見たことがないと聞き、正面から乗り込んできていないと考えられた。その後に裏口から外に出る

 

「正面には大通り、人ごみに隠れるには最適だな」

 

裏口からでた正面にある大通りをみながらランディが言う。そのまま痕跡がないか調べていると

 

「……あったぞ」

 

ミッチェルが見た手摺りには真新しい傷跡があった。それが手前側に付いていることから通行人が傷を付けた可能性は低く、大通りから段差になっていることからアパートに侵入するには最適な場所であると言えた

 

「いったんイリアさんの部屋で情報を整理してみよう」

 

ロイドの一言に全員が頷き、イリアの部屋へと向かう。エリィ達と合流したロイド達が話を纏めると、犯人像と侵入経路は大体の予想ができていた

 

「犯人は帽子を被った少年で、最近はこの部屋にも複数回入っているみたいね」

 

エリィが部屋の捜索で分かったことを纏めて報告すると

 

「侵入経路は裏口からだな、逃げる時も同じルートを使って大通りへと向かっている」

 

裏口と手摺りの傷を説明しながらランディが言うと、ロイドが何かを思いついた顔をした

 

「みんな、耳を貸してくれるか」

 

ロイドが全員に犯人確保の作戦を耳打ちし、それにランディは笑みを浮かべて賛同し、他のメンバーも異論はなく行動に移す。それから数十分後、階段を上る小さな影が現れた、最上階まで上り扉の前で素早く針金を使い鍵を開ける

 

「ふん、ちょろいもんだぜ……」

 

中に入ると、部屋を見渡し、その散らかりように溜め息をこぼす。部屋の奥へと進み辺りにあるブランド物の服に目もくれず金庫を開けようと近づく……が

 

「そこまでよっ!」

 

女性の声に少年は驚く。振り向くとエリィとティオが現れたのだ

 

「ストーカーって言うから、どんな子かと思ったけど……」

 

エリィは目の前の犯人が予想以上に小柄で驚いていたが、ティオが犯罪者に違いなく投降を呼びかける

 

「ま、待ち伏せか!しくじったぜ……」

 

少年が冷や汗を流しながら逃走手段を考えるも

 

「逃げようとしても無駄だぜ」

 

玄関からランディが言いながら現れ、ロイドと共に玄関を固める

 

「これ以上の抵抗は無駄だ、大人しくするんだ」

 

ロイドが警告するも

 

「逮捕なんてされるもんか……お前らなんか……お前らみたいな連中は大っ嫌いなんだよ!」

 

少年が叫び、玄関へと走ると、手摺りを踏み台にランディ達を飛び越えて逃げる。それに驚きながらも逃げた少年を追いかける。少年はアパートの玄関を開けて偽装工作をする

 

「へっ間抜けども、こっちでも探してろ……!」

 

少年はそのまま階段下の道を通り、裏口からでる。逃げ切ったと思い大きく息を吐きながらアパートの玄関を確認しようと進むと、突然腕を掴まれ、捻られ、地面に押し付けられる

 

「痛っ!」

 

突然地面に押し付けられたことに小さな悲鳴をあげるも

 

「チェックメイトだ」

 

腕を捻っているのはミッチェルであった。イリアの部屋でワザと少年を逃げさせ油断を誘い、裏口から逃げてくるのをミッチェルが待ち伏せていたのだ。たとえ正面玄関から逃げられても、目の前にかけてある梯子を上り少年を捉えることはミッチェルにとって簡単なことであった

 

「くそっ!放せ……放せよ!」

 

少年が抵抗して暴れるが、ミッチェルは両手を後ろに回させてハンドカフで拘束する。そのまま少年を抱えると

 

「ば、バカ!どこ触ってやがる!」

 

突然少年が慌てた声を上げて暴れるが、無視して抱える。ここで逃げられたら厄介極まりなにのだ

 

「ははっ、こいつは活きのいいのが掛かったな」

 

裏口からランディ達が表れて、抱えられて暴れれいる少年を見て笑みを浮かべる。だが、ストーカーと聞いていたにしては姿恰好がどうもみすぼらしかった

 

「これはストーカーではなく、泥棒の方だったな」

 

ミッチェルが考えていた泥棒の方が正解であったと言い、そのまま少年を抱えてイリアの部屋へと向かった。部屋にはイリアとリーシャが到着し、少年に事情聴取をし始める

 

「へぇ……それで君がストーカーだったわけか。思ってたより小柄な子だけど……クロスベルの出身じゃ無さそうね?」

 

イリアは犯人である少年を見て、想像をしていたのと違い、少し驚きの声を上げる

 

「出身は辺境のスラム出身らしくて……ただ、事情はおろか名前も喋らないんですよね」

 

最初は暴れていたものの、今は大人しくなった少年だが、今度はだんまりを決め込みロイドは困った風に言う

 

「ふむふむ……あ、その拘束はずしてあげて」

 

イリアは少年が拘束しているハンドカフを外すように言い、ミッチェルは少し考えるものの、先ほど身体検査をして武器等を持っていないのを確認していた。その時も少年は顔を赤らめて声を上げたが……ミッチェルがカランビットを取り出してハンドカフを切る、少年は自由になった手を摩ると

 

「それじぁ……キミ、どうしてあたしに付きまとってたの?」

 

改めてイリアが少年に尋ねる、すると少年は嫌がらせが目的で忍び込んだのだと言う。それにロイド達は首を傾げて、理由を聞く

 

「お前らなんかに何が判る……こんないい所に住んで、毎日うまいもん食って……そんな連中にゴミ溜めみたいな街で生きてきたオレの何が判るってんだよっ!!」

 

少年が声を荒げて叫ぶ。それにロイドは驚いた顔をし、エリィは辛そうな表情をする

 

「……クロスベルに来てからずっと見てた。ここの連中は金持ちばっかで、毎晩大金使って遊んでやがる。ハッ、好きにしろってんだ、オレはそんな連中、嫌いだからよ」

 

自嘲ぎみに言う少年。その日の飯も食えるか分からなく、盗みを働いてその日の飯にあり付く毎日。次の瞬間には身ぐるみを剥がされたり、連れ去られて売られるかもしれない恐怖……そんな中で生きてきたのだ

 

「……でも、そいつらが最高の娯楽はアルカンシェルだって言うから……一度だけ忍び込んでやったんだ」

 

するとイリアは驚いた顔をし、ロイド達も驚いた表情を見せた

 

「何の心配もなく、のらくら暮らしてやがる連中は嫌いだ。でも、あんたは……もっと大っ嫌いだ!」

 

少年は目に涙を溜めながらイリアを睨み、叫ぶ

 

「あんな綺麗な舞台に立って、すごい世界を演じて……絶対に届かない場所にいて、あんなに輝いてるんだ。オレには死ぬまで掛かったって絶対届かない……オレが死ぬまで働いたってチケット一枚分も稼げねぇ……そうだろ!?オレには死ぬまで掛かったって絶対届かないんだ!!」

 

住所を持たず、日雇いの仕事をしたとしても雀の涙程度の賃金しか貰えない。それは成長して青年になったとしても然程変わらない賃金で働かされる……いや、働けるだけで幸運という世界であった。そんな中で劇場のチケットを買うなんて夢のまた夢でしかなかった。その少年の姿にロイド達は同情を感じずにいられなかった、一歩違えば自分が少年の立場だったかもしれない、そのんな少年がイリアの演技は相当なショックであったかもしれないのだ

 

「……ま、いずれにせよケジメは付けてもらわないとね」

 

イリアは考えた後に、そう言う。いくら事情があり、少年とはいえ罪を犯したのなら、その責任を負わなければならない。イリアが少年の目の前までくると

 

「あたしはイリア・プラティエ。あんた、名前は何て言うの?」

 

真剣な眼差しで少年を見つめて名前を問う

 

「……シュリだ」

 

そして少年は名を名乗った。その声色は諦めを含んでおり、自嘲気味に笑っていた

 

「シュリね、了解。シュリ、あんたはしばらく劇団で下働きしなさい。その分じゃミラで償うって訳にもいかないでしょ、しっかり働いてもらうわよ?」

 

その提案にシュリどころかロイド達にリーシャを心底驚かせた表情にさせた。だが、ミッチェルはたいして驚いた表情をしていた訳でなく、むしろイリアの性格なら言い兼ねないと思っていたのだ

 

「ごめんねー、せっかく捕まえてもらったのに。あたしがしばらく預からせてもらうわ」

 

イリアがロイドに笑みを浮かべながら謝ると、当事者同士が納得するのなら仕方ないとロイド達が言う。するとイリアがシュリの肩を叩き、体の酢隅々を確かめ、シュリが困惑した声を出すと

 

「うん、やっぱり思った通りね。もうちょっと筋肉が欲しいとこだけど……シュリ、あんたは中々素質がありそうだわ」

 

シュリの体を見て、自分やリーシャに並ぶアーティストになれるかもと嬉しそうにイリアが言う。シュリが困惑してどうしたらいいか迷っているものの、イリアは選択権などないと言い、強制的に入団を決定させた。それにリーシャやロイド達も笑みを零し、一件落着といった雰囲気であった

 

「それでは次の仕事があるので、鍵をお返しします」

 

ミッチェル達は早々とイリアの部屋からでて、次の仕事に向かうべく借りていた部屋の鍵を返却する。ロイドやランディ達がイリアとリーシャに別れの挨拶をしていると

 

「しっかりやるんだぞ。掴んだチャンスだ、男ならそこで意地を見せろ」

 

珍しくミッチェルがシュリに激励を飛ばし、次の仕事を向かおうとすると

 

「……やっぱりお前……気に入らないやつ」

 

するとシュリがそう言い、ミッチェルがどうしたのかと振り向く。するとシュリは帽子を脱ぎ

 

「……オレは女だ!いつまでバカにするつもりだ!」

 

その一言にミッチェルは目を見開き、ロイドとランディが心底驚いた表情をする。ティオやリーシャは既に知っているようであり、ミッチェルは額から冷や汗が流れる。担いだ時、身体検査した時……あの時に顔を赤らめていた理由は

 

「だ、だから放せって言ったんだバカ!しかも、体のあちこち触りやがって……」

 

シュリが顔を赤らめてそっぽ向き、帽子で顔を隠す。少女の体をあちこち触りまくったミッチェルは、この状況をどう打破すべきか思考を巡らせていると

 

「お前……やっぱり、そっちの趣味なのかよ……」

 

ランディが至極真面目な表情で言う。ミッチェルが真性のロリコンであると言うのだ、それにミッチェルの堪忍袋の緒が切れ、ホルスターからハイパワーを抜きスライドを引く

 

「わっ!バカ!冗談だ!冗談だからそれを仕舞え!」

 

流石にランディもキレたミッチェルに謝るが

 

「不可抗力とはいえ……女の子の体をべたべた触ったのは……」

 

だが女性陣の視線は冷たく、針のムシロであった。ティオは好みが分かったとか、ストライクゾーンだとか意味不明なことを供述していたが

 

「……誤解だ」

 

そういうしかミッチェルに選択肢が残されていなかった

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

警察本部からの支援要請である偽ブランドの持ち込み検査を終え、犯人が老婆でまさかあそこまで見事に啖呵をを切って逃亡を図るとは思いもよらなかった。だが、逃げた先でミッチェルが足を撃とうとすると黒髪の女性の足に引っかかり、こけて捕まった

 

捜査二課のレイモンドに老婆を引き渡し、キリカと名乗る黒髪の女性はクロスベルにある魔性の宝石を探しに来たのだといい、去っていく。だが、ミッチェルはその女性の佇まいと、老婆がこけた現場に居合わせ、魔性の宝石という言い回しに不信感を感じていた。共和国から来たといっていたが、それもどうか怪しいなとミッチェルは思いながら外にでると、ロイドのエニグマに通信が入る

 

「はい、ロイドです……えっと、どちらさま?……なんだ君か……っておい!なんでこの番号を知っているんだ!……お、お前な……」

 

随分と親しそうに会話するロイドに相手が誰なのかとランディが訪ねる。相手はヨナのようであり、警察のデータベースをハッキングしてロイドの番号を探り当てたらしい

 

「それで、要件はなんなんだ?」

 

ヨナがロイドに連絡してくることから、何か要件があるのだろうとロイドが聞く。ヨナはティオに用があるらしく、報酬が現在欲しがっている情報をハックした記憶結晶(メモリークオーツ)だというとロイドの表情が固まる。どこまで此方のことを知られているのかとロイドは内心舌打ちをした。通信を切り、全員に情報を伝える。すると、なぜロイドではなくティオに連絡しないのかとミッチェルが言うと

 

「おそらく悔しいのだと思います。おととい、落ちゲーの対戦で徹底的に負かしたばかりですから」

 

そうティオが説明すると、ロイド達が苦笑いをする。ゲームに負かされた相手に直接要件を伝えるのが嫌だったのだ、ロイド達はとりあえずヨナの元へと向かう

 

「『仔猫(キティ)……?』

 

ヨナの依頼はハッキングの手伝いをティオにして欲しいと言うものであった。だが、そんなことはロイドが許すはずもなく、断固拒否した。だが、ミッチェルが一応理由を尋ねた所、企業相手のハッキングでなく怪しい奴の尻尾を掴みたいと言うのだ

 

「初めてそいつと遭遇したのは、半年くらい前だったな。幾つかの会社にハッキングしてたら、突然何者かに追跡(トレース)されたんだ」

 

その時は慌てて侵入経路を切断して逃げ果せたと時に『仔猫(キティ)』というHN(ハンドルネーム)を送りつけてきたと説明する。まだ端末が復旧率の低い中でハッカーという存在は極めて希少であり、ヨナ以上の腕前であるハッカーがクロスベルにいるというのは十分に関心を持つ要件であった

 

「とにかくボクとしては、そいつに一矢報いてやりたいんだ!何とかアドレスを割り出してアクセスポイントを掴んでやる!その手伝いを頼みたいんだよっ!」

 

ティオの生暖かい慰めにムキになるヨナが声を上げて言う。ティオが今日『仔猫(キティ)』がネットに現れる確証があるのかと聞くと、ヨナが興味を持ちそうなネタをネットにバラ撒いており、『仔猫』の現れる傾向から食いつく可能性が高いと言う

 

「……問題が2つあります。まず、ハッキングの支援をするために適当な端末が必要なのと、この忙しい時に時間がとられることです」

 

端末はジオフロントAの下層に第3制御端末を使えばいいとヨナがいうが、創立際の最中である中で多くの時間を消費するのは問題であった

 

「たしかにな。昨日はレースなんかもしたし、支援要請が溜まってるしな」

 

ランディが頷きながら言い、それにヨナが支援要請として依頼していると食い下がる。するとティオが一人で第3制御端末へ向かい、ロイド達は支援要請をこなすべきだと言う。ジオフロントには魔獣も徘徊しており、一人で行くのは危険であるが、他の支援要請も無視する訳にはいかなかった

 

「……私がティオに同行しよう」

 

するとティオの隣に座っていたミッチェルがティオについていくと言う

 

「お前たち3人だけでも支援要請は問題ないだろう。私がティオの護衛とサポートに回る」

 

ミッチェルは別の世界の端末であるが、ティオから操作方法などを教練しており、元々情報系に強かったことから元の世界での操作レベル程度までには端末を使いこなせた。さらに、ミッチェルの実力はロイド達も十分しっており、同行するのなら問題ないとロイド達も言う

 

「……わかりました。潜ったら恐らく夕方まで出れないでしょうから、先に準備をしましょう」

 

渋々といった感じにティオが言うと、ヨナが何故気にするのかと聞くと、睨みつけられて理不尽だと感じていた。ミッチェルはロイド達と別れて、武器屋へと来ていた

 

「今回は導力砲だったな……こいつがオススメだ。レマン自治州にあるボフォース社が開発したカールグスタフだ」

 

カウンターに置かれたカールグスタフを持ち上げる、重さは約8kgで一つのカートリッジで6発撃てると言う。光学照準器を覗き込むと、十字のレティクルが見える。威力は制限されているのもあり戦車の装甲を抜くことはできないが、装甲車となら足止め出来るほどの威力を有している。基本は非殺傷なので人が死ぬことはないが、その威力から数日は寝込むレベルのダメージを与えることができると言う

 

「代金は置いておくぞ」

 

カウンターに金を置いてカールグスタフを背負う。手にはSIG550を持ち、共に新調した拳銃であるスミス・ウェスト社製のモデル.39をホルスターに仕舞う。今回は多めにカートリッジを持ち、ポーチには医療品を多めに詰める。壁と回復役がいない状況では全てを自分で処理しなければいけない状況であった。そして、ジオフロントAに潜り、下層へと降りていく

 

「このエレベーターか」

 

下層に降りるエレベーターのコンソールを触るが、認証コードを要求される。今は電子機器用のハッキングツールを部屋に置いてきており、端子も合わないであろうからどうするべきか悩んでいると

 

「どいてください」

 

するとティオがコンソールの前に立ち、コードを打ち込んでいく。すると認証したコンソロールがエレベーターを起動させる

 

「どこで認証コードを手に入れた?」

 

ティオがエレベーターのコードをどこで手に入れたのかと聞くと

 

「以前、IBCの端末でヨナの居場所を突き止めた時に偶然手に入れました」

 

入手経路を言うと、あの作業中に気付かれずに手に入れたのだと言うのだ

 

「そうか、よくやった」

 

ミッチェルは咎める所か褒める。この手のことは元の世界でもよくやれば、ウイルスを流し込んだことだってある。褒められたことにティオは驚きながらも照れる、エレベーターの速度が弱まり下層へと到達するとSIG550のボルトハンドルを引き、戦闘態勢をとる

 

「私が前に出る。ティオは後ろから補助をしろ」

 

雰囲気が変わり、空気も淀んでいる場所に一人で向かおうとしたのかとミッチェルは思いながらも指示を出す。それにティオは素直に従い、エニグマの準備しドアを潜る。その先は上の階に比べて随分と劣化が激しかった

 

「……随分と劣化しているな……ティオ、この場所はどの程度の年数がたっている」

 

ティオに尋ねると、この場所は20年前から続くジオフロント計画の最初期に建造されたエリアで、行き当たりばったりな工事のせいで複雑な構造をしているというのだ

 

「こんな場所に一人でとは、不用心すぎるぞ」

 

年数と地下深い場所ということは強力な魔獣が徘徊している可能性が極めて高く、とても少女一人が潜る所か、二人で潜るのすら危険な場所であった

 

「それは……その、ごめんなさい」

 

項垂れながらも謝るティオ。いつもなら博打のような行動はしても無茶な行動はしないのだが、今回の行動は明らかに無茶であった。それがわからないティオではないはずであり、どうしたのかと思いながらも

 

「問題ない、作戦は先ほど言った通りだ。攻撃はなるべく此方でカバーする」

 

だが、ミッチェルには何も問題などなかった。この程度の状況は無茶などではなく、容易な任務(イージー)である。相手は知性の持たない獣かロボット程度に、小銃でも問題なく排除できる、悪意をもった人間でもなければ、四方八方から銃弾や砲撃が飛んでくることもない、敵は正面からしかこないのだ。今の状況など、これまでの作戦に比べれば生温い状況でしかなかった

 

「……はい」

 

ミッチェルの背中を見つめていたティオが頷く、その背中は大きく、身を委ねたくなるような気持ちすら思わせる力強いものであるとティオは思っていた。ミッチェルは例え容易な状況だとしても一切気を抜かず、慢心しない。『何事にも全力を尽くす』を信条としているミッチェルには、どのような状況であろうとも手を抜くなどという選択肢はなかった

 

「攻撃より索敵重視だ、魔獣は私が仕留める」

 

SIG550を構えて進むのだが、いきなりダクトを通らなくてはならない状況になる。SIG550は全長が長く、命中精度の高さが売りなのだが、狭い場所や室内ではその長さが弱点となる。そこで、ミッチェルは銃床を折畳む。折畳型銃床であるSIG550は室内戦闘を考えられた設計になっており、折畳んだ状態でも射撃の支障にはならなかった。幸いだったのはダクト内での戦闘は無く、出た先の部屋にしか魔獣がいなかったのだ

 

「タンゴ・ダウン。クリア、次に進むぞ」

 

紫色のアライグマみたいな魔獣2体を排除する。街道で見たタイプと同種であるであろうが、紫色のタイプは動きが機敏であり、上位タイプである個体だとミッチェルは思った。それ以外でも軟体タイプのも毒々しい紫色で、毒対策の装備に変える。ミッチェルの後ろでは常に杖を光らせて索敵をしているティオが敵の位置をミッチェルに伝え、それにミッチェルが常に先手を取り殲滅をするスタイルで先へと苦戦をすることもなく進んでいく

 

「(ドローンいらずだな)」

 

敵の位置という情報を相手は知らず、此方は知っている。この状況というのは相当有利な状況を作り出すのだ。そのためにミッチェルも元の世界ではドローンや人工衛星での位置情報を取得していた。この世界ではドローンも人工衛星もなく、戦闘でも情報が圧倒的不足した状況を強いられると考えていたが、ティオの存在がそれを解消とまでいかないが、大きく軽減してくれていた。ティオの力を頼りすぎるのも問題だと思いながらも臨機応変に対応していこうと方針を変えて進んでいと、開けた場所へと出た

 

「どうやら終点のようです……多分この近くに、第3制御端末のある部屋が……」

 

この場所がどこなのかとティオが説明し、一歩前に踏み出そうとした所でミッチェルが異変に気付く。ティオを抱きかかえ、後ろへと飛ぶと、上から大型の魔獣が落ちてきた。もし、あのまま踏み出したままだったらティオは押しつぶされた、潰れたトマトのようになっていただろう。索敵をしていたはずのティオが気付かないということはステルス性の何かを持った魔獣なのかとミッチェルが判断し

 

「こいつを排除する、いけるか?」

 

庇ったことで怪我はない様子であったティオに尋ねると、ティオは自分の足で立ち上がり、頷く

 

「攻撃より回避と支援を重視、攻撃をする場合は遠距離から隙を突け」

 

小柄のティオが大型の魔獣の攻撃を食らうのは危険である。最も火力が高いのはティオであるのだが、ミッチェルも導力砲であるカールグスタフを準備してある

 

ミッチェルはSIG550で魔獣の注意を引く。この場には魔獣は一体、状況は問題ない所か有利でもあった。相手に大打撃を与える武器を所持し、バックアップを得意とする者がいる、慢心ではなく確信的にミッチェルは勝てると感じていた

 

「支援開始します」

 

その証拠にティオがアーツの準備を整えて、ミッチェルを支援する。時属性のクロックアップがミッチェルを包み、動きが早くなる。さらに防御やスタミナ減少抑止などの支援を受け、ミッチェルは魔獣を翻弄する。魔獣を中心に円を描くかのように移動しながら、膝の裏や肘、足首、手首、目などの急所を中心に連射する。魔獣は必死にミッチェルに攻撃を行うが、その速度についていけず、稀に攻撃が当たってもダメージ無効まで付加されており無意味であった

 

魔獣はミッチェル相手では分が悪いと思ったのか、標的を離れているティオにへと向ける。それにミッチェルはポーチからグレネードを取出し、ピンを抜き、安全装置を外して転がす。魔獣がティオ目がけて突撃する……が、前のめりになった所で、足元にあったグレネードが爆発する。爆発により横転した魔獣は床に転がり、痛みにのたうち回っていた。動きが止まった所でミッチェルが背負っていたカールグスタフを構えて、引き金を引く。煙が尾を引いて弾頭が魔獣に弾着し、爆発する。1カートリッジ分撃ち込むと、魔獣も瀕死の状態であり

 

「ティオ」

 

ミッチェルが名前を呼ぶ。その声にガンナーモードに切り替えエネルギーを溜めていたティオが引き金を引く。光の奔流が魔獣を飲み込み、魔獣が消え去った。魔獣が消え、ミッチェルがSIG550に持ち替えて周囲を警戒し、上を向いて他に居ないかを確認し

 

「……オールクリア、制御端末へ向かうぞ」

 

銃を下して、敵がいないと言う。ティオも杖を仕舞い、第3制御端末の部屋に入ると、第2端末室にいるヨナに連絡を入れる

 

≪もう着いたのかよ?随分早いな≫

 

短時間で目的の場所に到着していることにヨナが驚きながら言うと

 

「既にティオが端末の準備を始めている」

 

端末を起動させて、キーボードを操作するティオの様子を言う

 

≪オッケー、オーケー。そんじゃあこっちも始めるぜ。そうだ、アンタのエニグマの通信モードをスピーカーに変えてくれ≫

 

どこでスピーカーに変えるのかと思っていると、ティオがエニグマの裏側にある赤いスイッチだと説明し、ミッチェルがスイッチを押してスピーカーをONにする

 

≪……ハッ。聞こえるようになっただろ?≫

 

スピーカーからヨナの声が聞こえてくる、EPの消費が激しくて推奨できないのだがとティオが補足を入れて作業を始めていく……かと思ったら目標である『仔猫(キティ)』が現れるまで待つと言うのだ。相手が現れないことには手出しできないのかとミッチェルは判断し、箱の上に座り銃の簡易点検を行う

 

「……」

 

部屋の中には沈黙と銃の整備の音だけが支配していた。二人とも積極に話しかけるタイプではなく、端末の動作音と銃の整備音が音を発しているなかで

 

「……なぜ、エプスタイン財団にいるんだ?」

 

ここでミッチェルが踏み込んだ。ミッチェルはヨナがエプストン財団で英才教育を受けていたということをティオが知っており、ヨナもティオの能力をしっていることから同期の可能性があると考えていた。英才教育を受けているということは、助けた当時が5~7歳ぐらいであり、そのような出来事があったのにも関わらず送り出した両親の存在に疑問をもったのだ

 

「両親はどうしているんだ?」

 

その言葉にティオの表情が一瞬強張り、元の表情に戻ると

 

「元気だと思いますよ……?」

 

疑問形な言い方にミッチェルがどういうことなのかと思っていると

 

「3年前に家を出てから殆ど連絡を取ってませんけど」

 

その言葉に驚きよりも、何故という疑問が大きかった

 

「……あの後、いったい何があったんだ」

 

ティオの口からミッチェルの消えた後の事が語られる。ウルスラ病院で目を覚ましたティオはレミフェリアにある実家までガイに送ってもらった。だが、家族は無事に帰ってきたティオを歓迎しなかった……いや、喜んだのだが、ある事情があった

 

「スコットさん……わたしが普通の人間と少し違うのはわかりますよね?」

 

ティオが言いたいことはミッチェルも理解できた。専門のエンジニア顔負けの端末操作、ツァイトの言っていることの理解や人の耳では聞こえない遠吠えを感知できる、普通の人間よりどこか一線超えた能力があるのではと考えてはいたのだ

 

「わたしは外界の事情に関して……普通の人間の数倍の感応力を持っています。普通の人には聞き取れない微かな音、普通の人には見えない導力波の流れ、普通の人には感じられない属性の気配、そして……人の感情や心のゆらぎまで」

 

自分の異能な力を説明するティオだが、ミッチェルも電波や人の心まで感応できるのは予想外であった。日曜学校に通っても他の人達は子供とは違ったものや好奇心に悪意などを感じ取れてしまうとティオが言う

 

「家族もわたしを愛してくれていましたが……やはり限界があったんでしょう。次第に家の空気が張り詰めて……わたしは気づいてしまいました。あぁ……帰ってこなければ良かったって」

 

自嘲気味に笑うティオにミッチェルは黙って話を聞く

 

「そして気づいたら……わたしは列車に乗っていました。共和国を経由してクロスベルに向かう列車に」

 

ティオがクロスベルに向かう理由は一つ

 

「ガイを頼ってクロスベルに来たのか」

 

頼るべき男の最後をセルゲイから聞いているミッチェルがそう言う

 

「スコットさんを頼ろうにも居場所もわかりませんでしたので、そのマスコットをプレゼントされた時にガイさんが言ったんです」

 

ティオのエニグマにみっしぃのアクセサリーが付けられており、それがガイのプレゼントであるという。その時にガイが、困ったことがあったらいつでも俺を呼んでくれ、と言ったらしい。実にガイらしいなとミッチェルが思ったが

 

「だが、その時には既に……」

 

ガイは殉職していた。それにティオは頷き

 

「途方に暮れていたわたしは、エスプトン財団の人と知り合って……その感応力を見込まれて、当時発足したばかりの魔導杖の開発チームにスカウトされました」

 

そしてレマン自治州にある研究所で3年すごし、3ヶ月前にクロスベルへ来たと言う

 

「でも驚きましたよ、本部でスコットさんの顔を見たときは夢かと思いました。でも、その後に一緒に戦って食事をしたりして……数日経ってから初めて現実だと実感しましたけど」

 

笑いながら言うティオだが、それはそこまで追い詰められていたということでもあった。それを現実か夢かを受け止めるのにそれだけの時間を有したのだからティオの心がどれほど切羽詰まっていたのかは容易に想像できない。ミッチェルは立ち上がり、ティオの頭を撫でた。それにティオが驚いた顔をする

 

「こちらに事情があったにせよ、君をここまで追い詰めたのも私達だ。謝れないアイツの代わりに謝らせてくれ。そして、これからは私が君の困難に手を貸す。いつまでここにいれるか分からないが、このクロスベルにいる限りは私がティオの力になる」

 

ミッチェルがティオの目を見ながらいう。待ち望んでいた人に力強く言われ、不意にティオが涙を零しそうになったその時、エニグマの着信ベルがなる。それはヨナからであり、目標が現れたという

 

「ティオ、小型端末とコネクターはあるか?」

 

するとミッチェルがティオにそう聞き、ティオも首を傾げながら小型端末であるノートパソコンのようなもとのと、コネクターを渡す。ミッチェルが小型端末とメイン端末をコネクターで繋ぎ、小型端末を箱の上に置く

 

「私がサポートする」

 

ティオからこの世界でのネットワーク理論や端末操作を習い、もとの世界では情報戦をこなせ、敵地に侵入して操作する技術を取得しているミッチェルがティオのサポートに回るという。ティオはミッチェルに教えていた身からしても、この手の操作経験があることを初めて教えた時に感じており、飲み込みを通常の研究員に比べて早く、そして……共に同じ分野での仕事をできることを嬉しく感じていた

 

「お願いします」

 

そういいティオがエイオンシステムを起動させる。目標を追い詰めるのはすぐ目の前だと感じながら

 




試験は終わって、久々にPC触ったらRWBYという海外の同人アニメみたいなのを見まして、結構面白くて驚きました

キャラクターは日本を意識してるけど、内容はアメリカンな感じで、音楽もサントラが欲しくなるレベルで個人的には満足する作品でした

ニコニコ動画で有志の方が日本語字幕付きのを投稿されているので、ぜひ見て欲しいですね。ワイスちゃんかわいいよ!初めて見た時はこんな性格とは思ってなかったけど!

あ、トレーラーもyoutubeとかにもあるのでそっちも見てみてください、戦闘シーンが凄くよかったですよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。