戦争をやめましょう。帝国軍の完全消滅をもって!ーいや、ダメでしょ。 作:依存
「キッシングー、なんで君達王族の戦闘衣装はドレスなの?」
ゾア家の住まう王宮。
そこにある古民家一軒分の広さをもつ部屋__といっても内部は洋風だが__に、一人の若い男の問い掛けが響いた。
それに答える黒髪の幼げーといっても小学校高学年のー少女。
彼女は天蓋付きベッドの中央で高級そうな毛布にくるまり、文字通り"グータラ"した状態で質問に答える。彼女のデフォルト、人形のような無表情を添えて。
「戦いやすいから?」
彼は、その答えを聴いて、ニヤリと笑う。なにかを思い付いたのだろうか?
「いーや、絶対に違うね。戦いやすさなら帝国軍の戦闘服を使えばいい。あれはかなり動きやすいから。……ねえ、キッシング、ちょっと着てみたいと思わない?」
まだ第二次成長期を迎えていないであろう身体を持つ少女は、この男の発言を聴いて、ちょっと顔をしかめた。
"帝国の戦闘服"は、大抵が戦場で亡くなった兵士の物である。つまり死者の遺品を身に付けるわけだから、キッシングは拒むのも当たり前だろう。
「嫌、で、す。」
彼女は抑揚をちょっとつけて、彼に返事を返す。
「今日もまだ帝国推し?」
彼と彼女の付き合いはなんだかんだで3年目になる。
毎日のように部屋に来ては敵である帝国の素晴らしさを語る男を、部屋の主である彼女は拒まなくなっていた。
「当たり前じゃないですか!だってかっこいいんですよ!帝国の作る銃!
特に狙撃銃にカテゴリライズされる帝国軍の携帯大型銃なんか最高じゃないですか!音は戦場を支配する甲高い音!そして戦場で持ち運べるお手軽な軽さ!なんといってもあのフォルム!
キッシングにも何度か見せたけど、あの形状は、俺を殺しにきてるね。いや、俺のために作られたといっても過言ではない!」
「……過言」
「過言じゃないって!あの俺の手に馴染む感じはまさに俺のためにあるのだと証明していたんだ!あのグリップ部分が人体構造学に基づいて設計されているため万人が使うことのできる確実な兵器となっているのは知ってるだろ?」
「………知らない」
「今知ったから、知らないと言うのは誤りだよ。それでこの特徴はアサルトライフルにも当てはまるんだけど、確実な作動性と確固たる部品の供給によって個人の完全武装が確立されている。
この事からわかるように帝国軍は確実な兵器を常に戦場に置くことができるのだよキッシングくん。」
「…………」
「科学の発展の最前線に位置するのは殺し合いという戦争の場であることは分かるだろ?つまるところ銃というものは戦場の一部というわけではなく帝国の科学の結晶ー努力の結晶なんだ。」
「………ふぁーぁ(欠伸をするキッシング)」
「それでねー。銃にはロマンがあるって言う話なんだよねー!」
「……うん」ソダネー
「ハンドガンと呼ばれる小型の携帯機器についての話から始めようかー」
帝国とは、彼らの住まうネビュリス王国と百年ほど戦争を続けていた国、天帝国のことである。
彼らにとっては憎むべき敵、だというのに、彼は嬉々として敵を誉めるのである。
はっきり言って、異常だ。
彼女は彼のこの"いらない"軍事知識を毎日聞いているみたいで、キッシングは"はいはい"という諦めの顔だ。
潔いのか悪いのか。彼を追い出さないだけ、強い精神力を持っていると思う。
まあ、ちなみに当人達は気付いていないが、彼女が他人の前で顔の表情を、デフォルトの無表情からその他の表情に変えることは"ない"。
当主を補佐する立場におり、いつ何時もクールに振る舞う超紳士の叔父様ですら、この光景を見たら(もの珍しさで)即時に卒倒するほどレアな光景である。
彼の、おおよそ三十分に渡った帝国軍の銃についての無駄知識をちゃんと聞き終えたキッシングは、更に続けて話をしようとしている彼の口を物理的に閉じさせた。きっと飽きたのだろう。
彼と彼女の立ち位置は同じベッドの上。
四平方メートルはあるベッドのごく一部のスペースに彼らは肩を並べているため、物理攻撃も簡単であったのだ。
彼の口を塞ぐのは、血管が見えるほど白く、細く、小さい手。
病気でも、魔法でもなく、ただ単純に外へ出ることの許されない箱入り娘の手。
その手が触れた彼の口は喋ることを止めた。
そして彼女は
「銃の供給源(パイプライン)よりも他に調べることない?」
「あります」
「やってる?」
「.........勿論でございます、王女様」
今まで銃について話していた軍事オタク__彼は"お姫様"の台詞に冷や汗を流して____あり得ないほどの速さでの超反応を見せる。
彼女の病的なまでに白い手を取り、腰を低くしてその手にキスをする。
キザったい仕草も完璧な動作に見えるのは彼の受けた英才教育のせいだろうか?
彼女の白い肌をほんのりと紅潮させるテクニック。
いたいけどころか恋愛のれの字すら知らない女子小学生すらも乙女にさせる技は、正に一級品であった。
それもそのはず。彼は若年で王族の従者に抜擢される程の"天才"なのだから。
だが、その能力をこんな"ごまかし"に使う辺り、才能の無駄遣いだと思われる。
「………で?」
その天才の"ごまかし"も虚しく、彼女は碧色の目を細め、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ目尻を吊り上げた。
天才の考えは、読まれていたようだ。
「……というかキッシング。いつも僕のあの"下らない"銃についてのお話聴いてくれるよね?ほんとありがとう。」
"下らない"と思ってるんなら止めろよ。と、そう思うのは、普通だろう。
「……貴方に友達がいないから仕方なく付き合ってあげてるだけ」
「………なんでキッシングは俺に友達が居ないの知ってるんすかねぇ?」
「"毎日"朝から寝る時間まで殆ど側に居るから?」
「それは、、、そうか?」
「そう、だよ?だからトイレやお風呂の時間も一緒に居ようとしないでね?ステイだよステイ。」
"天才"は同時に"天災"並にウザイ奴であることが分かるセリフだ。
否、変態であることが分かるセリフだ。
「………キッシング、それは無理。」
そういって男はニコニコとしながら女の子の座るベットの横に腰掛け、頬をプニプニとつつく。
柔らかそうなその肌を触られた彼女は、ちょっとだけイラッとしたのだろうか?
「あなたを消去します。完全消滅!」
「止めてーーー♪」
ドタバタと部屋中を駆け回る男子高校生と女子小学生。
男子高校生はもとより楽しそうであった。
女子小学生の表情も明るく、男子高校生の彼を追いかける様は物凄く楽しそうであった。
この"追いかけっこ"は部屋に第三者が入ってくる直前まで続いたとさ。
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「と言うことでですねー」
「どういうことですか?」
「キッシングは帝国行きたくない?」
「ない」
追いかけっこが終わり、第三者ー叔父様だがーが出ていって一段落ついたところで彼は彼女に提案を出した。
秒で断られたが。
「即答ですかー」
「うん」
「じゃあ、支度してねー!」
彼は話を聞かないタイプだろう。
「……また?」
何度目の思い付きかな?という疑問の顔を向けるが、彼は笑うだけ。
「はいっ!すぐやるー!」
そう言って普段着のドレスではなく、灰色のパーカーをクローゼットから出す辺り、この一連の流れは手慣れている感じがする。
「叔父様は外に出るなと何度も仰っておりましたよ?」
「ばれなきゃ大丈夫!」
「絶対ばれます、、、」
「大丈夫大丈夫ー。ちょっとだけだし、さっき来たときにオンは出張に行くって言ってたじゃん」
「大丈夫じゃない、絶対。」
「帝国に行きたくないの?」
「ですから、いきたくないと………」
彼女の言葉を遮り、彼は彼女に問い掛ける。
「それはオン叔父さんが言うからでしょ?」
と。
その問い掛けにキッシングー彼女は答えられない。その無言こそ、答えなのだ。
半強制的に一般市民の外出用の服を着せられたお姫様は、彼に手を引かれて部屋をでる。
そして、彼らは過去に何十回とお世話になっている隠し通路を通って外へ出ていくのだった。
この時、ちょっとだけキッシングが嬉しそうだったのは、誰も知らない。