戦争をやめましょう。帝国軍の完全消滅をもって!ーいや、ダメでしょ。   作:依存

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ようやくイスカ釈放ですね。(本作品初。原作では一巻一話らへん)



原作の始まり

『受刑者イスカを、釈放する。』

 

帝国議会_世界最大領土を誇る「帝国」の最高意志決定機関において、一つの議題が議決された。

 

誰も知らされていない、否、知る必要のないと判断された_この釈放。

 

帝国は星霊を宿す”生き物”をこの世から消し去ることを目的とした戦争をこの百年、ネビュリス皇庁に仕掛けている。

受刑者イスカはそのネビュリス皇庁を擁護する_一人の少女の脱獄を手伝っただけだが_行動を取ったために終身判決を下された極悪人である。

 

しかしたった今、帝国の最高機関によってイスカの刑罰が取り消されたのだった。

 

彼が"史上最年少の使徒聖"であったからだろうか?

彼が"対星霊特化"の戦闘狂であったからだろうか?

 

彼の真価は帝国すら推し量ることのできない異物であったのだ。

 

そしてその一端はすぐに垣間見ることになる。

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

 

 

 

「………以上で報告を終わります。ありがとうございました。」

 

「ご苦労アリスくん。素晴らしい活躍だ。」

 

 

帝国の敵、ネビュリス皇庁。

その最高機関ともいえる皇庁の中で、定例の報告会がなされていた。

 

皇庁の長であるネビュリス8世の産まれた家であるルゥ家に加えて親族のゾア家、ヒュドラ家による三竦みの対立をしながら発展してきたこの国の報告会は専ら帝国絡みだ。

 

その中の一つに、ネウルカの森の攻撃というモノがあった。

帝国の最前線のネウルカ戦略基地という皇庁にとって厄介な基地を早急に破壊してしまおうという作戦だ。

それに駆り出されるのはいつものお姫様だ。

 

アリス・ルゥ・ネビュリス9世。

 

氷の星霊を宿し、たった一人で我が軍の一個旅団相当以上の活躍を見せている星霊使いだ。

 

たった一人で前線を押し上げたその成果は、次の王女の最有力候補となるには十分すぎるほどだった。

 

そして、それはゾア家、ヒュドラ家にとっては自分の家から王を輩出することができないのと同義であり、面白くない。

 

ゾア家のキッシングは、この王女争いにおいてゾア家の旗となり要となる女の子なのだ。

 

 

「アリスくん。ちょっといいかね?」

 

ゾア家の当主代理_当主は現在隠居中_の仮面卿オンが声を上げる。

 

「その森に、ウチの部隊を使ってくれないかね?」

 

と。

 

 

 

 

_________

 

 

 

「……てなことがあってさー!」

 

場所は変わってゾア家の宮殿のある一室、キッシング・ゾア・ネビュリスが住まう居城では一人の男が女の子に喋り続けていた。

 

「で、なんか一個小隊が全滅したらしい。」

 

その言葉には、雑誌片手に聞いていた女の子_キッシングも驚いた様子で男の方に目を向けた。

 

「いやいや、僕が嘘つくと思う?こんなに誠実なジェントルメ~ンだよ?」

「は?」

 

「ごめんなさい。じゃない。ホントなんだってー」

 

「……嘘。叔父様の軍は負け無し。」

 

「燐にも聞いたんだ。救えなくてゴメンって言ってたから嘘じゃない。」

 

「……………信じる。」

 

「ありがとう~!」

 

キッシングとその男の会話は続く。

ゾア家の軍人は皆練度も士気も高く、能力も通常の星霊使いの倍近くまで高める教育を施していて、キッシングの言うことは間違いでないのだ。

 

だが、相手が悪かった。

 

元使徒聖イスカ。その才能は大きな帝国の中でも十本指に入るほどであり、投獄されて体力や筋力も衰えている状態であってもそこらの雑兵ごときには遅れも取らなかったのだ。

 

彼が所属するチームである防衛機構Ⅲ師・第九◯七部隊。ミスミス、音々、ジン、イスカ。

彼らも一人一人がエリートであったことも原因の一因だろう。

そんなことは知らない彼らも、帝国に対しての警戒度を引き上げる。

 

「まあいいや。それよりキッシングー?」

 

「…………」

 

「ちょっと旅行しない?」

 

「………前、怒られたの何処の誰?」

 

「はい!僕…です。」

 

「………頭大丈夫?病院行く?」

 

最近外から手に入れた雑誌の影響で口が悪くなった(と思い込んでいる)キッシングはなかなか辛辣な言葉を男に投げ掛ける。

だがキッシングの相手をしているのは、そんな言葉に傷つくような男ではなかった。

 

「病院は昨日行ったよ。どこも悪くなかったよ。キッシングも毎日身体検査だもんな。キッシングは凄いよ。」

 

「……」

 

「話を戻すと、キッシングは中立都市エインに行きたいんだっけ?オペラ予約しといたから是非いこう!」

 

「…………」

 

「予定はもう繰り上げか繰り下げておいたし、"帝国人"として行くからね~」

 

「………なぜ、私が帝国人などという下等生物に扮さなければならないの?ヤダ。」

 

「メガネ掛けようよ~。絶対可愛いから!」

 

「………」

 

 

 

あれよあれよと用意は終わり、ゾア家の隠し通路の一つを使って外へ出て、彼らは森の中を通って中立都市エインに向かうのだった。

 

メガネをかけたとても可愛い女の子と手を繋ぐ男が、ゾア家の施設の近くで見つかり、一時期噂の種になったのはまた別のお話。

 

その頃、ルゥ家のお嬢様も従者に中立都市エイン行きを告げていた。

 

「…また中立都市に?良いのですか?あの剣士に顔を見られたばかりなのに」

 

イスカと名乗る帝国剣士。

アリスの着けていたヘッドドレスが戦闘中に外れ、隠していた素顔がみられてしまったことを燐は心配しているのだ。

素顔が知られているだけでも暗殺者が送られてくるのでは?そう一時期は燐もアリスも焦ったのだが。

 

「平気よ。よく考えたら顔を見られたって問題なかったわ。あ、エインのオペラ予約しといたのよ。明日いきましょう、燐」

 

「あ、明日っ?なんでアリス様はこうも自由奔放なのですかっ!?」

 

「別にいいじゃない?ちゃんと公務はやってるわよ、燐。」

 

「守る側の気持ちも考えてくださいって!」

 

「燐ならいいでしょ~。帝国の刺客なんて私と燐なら余裕よ!」

 

アリスの持つ星霊の警戒心は強い。

そして彼女の星霊の自動防御は大規模破壊兵器の一撃すら防げるのだ。暗殺者の一人や二人、恐れるに足らずと結論つけた。

指に摘まんだチケットをヒラヒラとはためかせながら。

 

「まったくもって都合のいい誉め言葉で……。外出を女王様には伝えておいてくださいね。この前も無断外出でお叱りを受けたのですから」

 

「……このチケット取るの大変なのよ。ペア席確保するのに四回も抽選に応募したんだから」

 

「返事は?」

 

「………はーい」

 

厳しい口調の従者に、アリスはため息をついたのだった。

 

また、それと時を同じくして、帝国国内のある部屋では__

 

 

 

 

 

 

__________

 

「いやー、キッシングも運が良いねー」

 

「……」

 

「こんないい席とれるなんて…思ってたんだけどね。チケット取るときに二階前列選んだの僕だし。」

 

じゃあ言うなよ。と言いたいキッシングの目は確実にヤる目だ。

男_ラーイ_は女の子_キーネ_との会話をしながら劇の始まりを待つ。

 

 

「あっ。すいません」

 

その二人の会話を遮るかのように(実際は席の場所を探している)男の人が目の前に来る。

ラーイとキーネは若干戸惑うような仕草を見せている男に気付いた。

 

「どうかしましたか?」

 

男の人に対してラーイは好意的な顔と声色で話しかける。

 

「いえ、席の場所を探しているのですが。2ーbー6何です。どこかご存じですか?」

 

黒髪が印象的な細身の少年は、ほんわかとした空気を纏いながら困り顔だ。

 

「ああ、此処ですよ。隣、ですね。よろしくお願いします」

 

ラーイは何かのハンドサインをキーネに出す。

黒髪の少年は、それに気付いた様子もなく、ニコニコした顔で隣に座る。

 

「お好きなんですか?『女騎士ベアトリクスの悲恋』」

 

左手をポケットに隠したまま、キーネは右に座った男と会話を広げる。

 

「いえ、上司からの贈り物ですよ。僕は初めてです」

 

「へー、そうなんですか。実は俺も初めてなんですよ。今日は"彼女と一緒に来ましてね。」

 

「デートですか?」

 

「ええ、"帝国国内はやっぱりちょっと危ないので、気晴らしになればいいなーと思ってるんですよー。」

 

「………」

 

若干キーネは黒髪の男に対し好奇の目を向けた気がした。が、気のせいだったようで、人形のようにじっとしていた。

 

「それはいい考えですね。…戦争してますもんね。」

 

顔を俯きぎみになった黒髪の男は戦争というワードを自嘲気味に吐く。

 

「すみません、軍人さんでしたか。いつも有難うございます。これからも"魔女や魔人"をやっつけちゃってください!」

 

小声ながらも、黒髪の男に届く距離で囁くラーイ。

彼は気まずそうにこちらを向き___

 

 

__照明が落ちた。

 

開演だ。

 

 

「間に合ったわ、燐!」

 

「ええ、間に合いましたね。2ーbー7ですよアリス様。」

 

「………げっ」

 

照明が落ちた直後に聞こえてきた人間の声は、燐とアリス_皇庁の人間の声だった。

 

つまり、変装して来ているラーイとキーネにとっては厄介な……

 

ラーイは、劇が終わるまで一切集中してオペラを見ることができなかった。

 

 

 

 

 




追記:誤字報告ありがとうございました
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