戦争をやめましょう。帝国軍の完全消滅をもって!ーいや、ダメでしょ。   作:依存

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中立都市エインでデート中だったキッシングたちが出会ったのは、帝国軍人_イスカ_だった。

それだけならまだ気にしなかったが、氷禍の魔女アリスも劇場を訪れて_____



帝国軍人との接触。

"さようならベアトリクス、俺は君とは生きられない"

 

"……ええ。さようならアゼル。次会うときは今宵の教会ではなく、戦場なのね"

 

劇の中盤。

主人公である女騎士になりきった女優の熱演と、交響楽団による伴奏が物語を悲しくも情熱的に彩る場面。

ここまで想えるなんて………

 

「ああベアトリクス!敵国の騎士に恋してしまうなんて……どんなに愛しても結ばれない禁断の恋。こんなに悲しい恋があっていいのかしら!あんまりだわ!なんで神様は……こんな…こんなひどい運命を……うぅっ!」

 

うーん。

 

「アゼルのバカっ!なんであなたという男は!」

 

うるさいな。

 

アリス様(ルゥ家のお姫様)は涙脆く感情的な少女であったのだ…とか思ってるんですよ。はい。

 

隣の黒髪の帝国軍人も冷めた目で劇を観ているのがわかる。

近くに座っている少女がうるさいからだ。

 

「しっ、声が大きいですよアリス様。みんな静かに見てるんですから」

 

「だ、だって……」

 

「まったくもう。ハンカチはどうされました?自分のハンカチが涙で濡れちゃったからって私のを差し上げたのに」

 

「…あれも、もうグショグショに濡れちゃった」

 

「泣きすぎです!?」

 

燐とアリス様の声がオペラよりも聞き取れる。

キッシングを見習って欲しいものだ。僕はそう思ってキッシングの横顔を覗く。

 

いつもの無表情だ。若干……っ敵意!?

 

……あの女うるさい。消去しましょう。

 

…そんな理由でルゥ家に喧嘩売れるかっ!?

 

そんなやりとりをキッシングとしていたら、隣の黒髪軍人が堪えかねたのだろう。彼女にハンカチを渡した。

 

「あの、これよければ」

 

「え?」

 

彼はTPOを弁えているようで、声を押さえていた。

………高ポイントだ。ポイント制導入してないけど。

 

「何も使っていない綺麗なままだから。あの、そのままだと大変かなって」

 

「ありがとうございます」

 

隣の黒髪軍人はお礼を言われて、何か違和感を感じたのか少し首をかしげ、そして元通り劇を観ることにしたようだ。

 

 

閉幕___

 

劇場内は拍手で包まれ、劇場の再点灯に至るまで暫しの余韻。

 

「うっ……ぐすんっ、なんて可哀想なベアトリクス!」

 

「アリス様、ほら終わりましたよ。再点灯する前にせめて涙を拭ってください」

 

「だ、だってぇ……」

 

(失礼だが)まだ居るアリス様と燐を放置して立ち去ることに決め、キッシング(キーネ)と劇場を後にしようと出口に向かい始めたと同時に電灯が点灯。

 

「あっ!」

 

「あっ!」

 

「あっ!」

 

「げっ?!」

 

「………」

 

燐たちに見つかったかと思ったが違ったようだ。彼らの目は軍人に向けられている。

 

「な………な、ななななっ、なんであなたがここにいるのっっ?」

 

アリス様の声が響く。

数人の観客の目が向けられ、そして消える。

彼女の普段の戦闘衣装のドレスではない無地のワンピース。

そのお陰か皇庁の姫とは気付かれなかったようだ。

 

「"私を尾行してきたのね。いいわ、ならばここで決着を__むぐぅっ?!"」

 

「アリス様、ダメです!ここは中立都市なんですから!」

 

アリス様を後ろから羽交い締めにした燐がそう囁く。

 

中立都市。

 

絶対の争いを禁止するがゆえの中立都市。

どんな理由があれど、手を出せば悪人である。

燐もその事は知っている__常識だ。

だからこそ、違和感を隠しきれない。

 

なぜ帝国の軍人とお姫様が顔見知りなのかという、物凄く単純な違和感。

 

普通なら、どこかの中立都市で会ったと考えるだろうが、氷禍の魔女が相手、さらには燐もいる。

そんな険悪な仲になるはずないのだ。

星霊を行使する……というほどの。

 

どちらかが冷たくなっていないといけないのだ。

 

ラーイとキーネは即座に出口に向かう。

会場を背にした彼らは互いに目を見ずに声を交わす。

 

「デートはここまでかな~ごめんねー」

 

「…………滅…」

 

「ダメだよ……気持ちは分かるけどねー」

 

彼らの目的はデートとはいえ、キッシングが絡んでいる行為の全てはれっきとした公務であり、彼らの私情は優先されない。

もっとも優先すべきは帝国との戦争の勝利だが、次に重要なのはゾア家がネビュリスの王に君臨すること。

 

敵の弱味はとにかく探る。探る。探る。

 

重要度はお姫様(キッシング)の安全よりも上。

 

とはいえ、たとえどんなバカであってもお姫様を外に連れ出すリスクは理解するだろう。

ましてやこのキッシングの隣に居るのは曲がりなりにもゾア家のお姫様の護衛なのだ。

 

中立都市エインの外に向かった彼らの先に居るのは、用意してあった生き物とその隣に佇む一人の女の子。

 

その生き物の名前はアルバトロス。古鳳の一種で、生きた化石とも呼ばれる。飼い慣らせるのも限られた場所だけという貴重な鳥。そして隣に居るのは男と同じキッシングの護衛。

女子トイレ、女湯、更衣室、私室などのプライベート空間にキッシングが居る際、敵の手から護るために存在する彼女の名前を、ツルネと言った。

 

………今、キッシングの大半のプライベート空間は一人の男が掌握しているため、残念ながら普段は本職の護衛ではなく事務作業を担当しているが。

 

「いやー、キーネも逞しくなったなぁー!」

 

「……無理やり………」

 

「細かいなぁ♪」

 

「……………………いい」プイッ

 

「まあまあ、また今度もう一回デートだね。じゃあツルネよろしく。」

 

彼らの会話を故意に無視していたツルネはようやく動き出す。

 

「キッシング様、どうぞ。」

 

「……………」

 

男よりも長く、それこそキッシングが生まれたときから近くにいた彼女は今年で十八歳(今キッシングは十四歳)。

キッシングの片腕となるべく仕込まれた技術は健在。

 

感情的な少女と最もかけ離れている人間を想像すると、大体の人間はこの少女を思い浮かべることができるだろう。

黒い髪、白い瞳、どんな状況下でも動かない表情筋。

キッシングとツルネの二人は西洋人形に例えられることもある。似た者同士なのだろう。

 

彼女とキッシングの乗ったアルバトロスは皇庁に向け羽ばたく。

 

キッシングらと男の間にあった距離は一瞬にして開く。

数秒後にはもう彼女らは空の上にあった。

 

そしてまた、地上にいた男は再度中立都市に向かう。

 

ゾア家諜報カリキュラムを首席卒業した男よりも諜報活動に長けている人間はゾア家にいない。

そして相手は氷禍の魔女と名高い皇庁のお姫様(アリスリーゼ様)だ。一つのミスも許されない。

ここでキッシングと別れてでも男が向かうのは必然であった。

 

誤算だったのは、あの帝国軍人とアリスリーゼの間に強い運命の糸が複雑に絡まっていたことだ。

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

「あれ?奇遇ですね。また会いました」

 

そう言ってイスカに話しかけてきた人はラーイと名乗った。

 

「あぁ、オペラで隣でしたね。デートはどうされたんですか?」

 

確かラーイという"銀髪"の男の隣には影の薄い_それでも圧倒的な存在感を放つ可憐な少女_がいたはずだ。

それをイスカはラーイに聞く。

 

「えへへ……彼女の保護者にバレまして、強制的に別れさせられました……」

 

「そうなんですか……いろいろ事情があるんですね…」

 

「ええ、まあ年の差とかそういったしょうもないものですけどね~」

 

イスカとラーイがいるのは装飾品店。

イスカは音々とミスミス隊長に。

ラーイは自分のカノジョに。

 

お互い打ち解けるのに時間はかからなかった。

 

「メルアドこれね」

 

「えっと、軍用のやつしかもってないから民間のやつとは登録できないんだ。ごめんなさい」

 

「あー、じゃあこのブログの主が俺なんだ。こっちにダイレクトメール送ってくれればいいや。」

 

「そうか、そうすれば軍用のものでも……どこでそんなことを…」

 

イスカは「知っているのか」と続けようとして口を閉じた。

彼がイスカに見える範囲で銀髪を取ったからだ。

それをみてイスカは驚かざるを得なかった。

 

銀髪のカツラに隠されていたのは傷。

右側頭部から耳の後ろまで伸びた傷は、何処からどう見ても重症だ。

 

「まあ、こういうわけでな…」

 

イスカは納得した。軍隊を辞めるには定年か、除隊願いを受理されたとき、そして大きな傷を負い戦闘継続できなくなった者以外では死者しかいない。

 

イスカの目の前に佇むラーイは若かった理由。

きっと新兵だったのだ。

しかし戦場に出てすぐに除隊になった。

それでカノジョさんの親は彼を腫れ物のように見ているのではないか?

 

イスカはそう思った。

 

「実はパスタの予約入れてるんですよ!行きましょうよ。」

 

気まずくなった空気を誤魔化すためにイスカは話を変えた。

 

「おお、そうなのか?じゃあお言葉に甘えて。」

 

ラーイはそう言って笑った。

 

嘘で固められた彼を知る者は誰もいない。

 

彼自身それを知らないのだから。

 

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