からかい上手の高木さんはからかいたい 作:空はあんなに青いのに・・・
皆さん初めまして、私は高木といいます。
今度、この新しい中学校の2年生になりました。
んっ?
『新しい』中学校ってどういう意味かって?
実は、お父さんの仕事の都合で私は今度この中学校に転校してきました。
同じクラスだった真野ちゃんや中井くんや皆、そして西片とお別れしちゃったのは寂しいけど…
まぁ西片に関してはからかう事が出来なくなったっていうのもあるけどね♪
それはともかく、これから私の新しい生活が始まる訳です。
「え〜という訳で新しく転校してきた高木さんです。皆、仲良くして下さいね」
「高木です。よろしくお願いします」
そんなこんなでここは私の新しい学校の新しい教室。
新しい担任の先生の紹介で私は新しいクラスメイトに頭を下げる。
「じゃあ座席は…ちょうど1番後ろの席が空いているわね。高木さんはあそこの席に座って下さい」
「はい」
先生の指差す先には、今は誰の物でもない机と椅子。
私は今日からお世話になる席に向かって歩く。
1番後ろの席かぁ…
そういえば、1年生の初めも後ろだったっけ?
あの時は西片が隣にいて楽しませてもらったなぁ。
そんな事を思い出し、ふふふと笑いながら座席に着く。
「じゃあ、授業を始めます。教科書を開いて下さい…あぁ、高木さんはまだ新しい教科書が届いてなかったわね…
「はい」
私の左隣から聞こえた男の子の声に反応し顔を向けると、声の主もこっちを見ていた。
男の子は身長は座ってるけど私よりも頭1つ分ぐらいデカいかな?
でも身体は細身っぽい感じで顔は中性的。
髪は綺麗な清涼感のあるストレートヘアで、総じて言うと…爽やか系男子?って所かな
「机引っ付けていい?」
「うん、もちろん」
私が首を縦に振ると、男の子はニコッと笑いながら、自分の机を私の机の側へと持ってきて、教科書を2つの机のちょうど真ん中へと置いた。
「教科書はこれで見える、高木さん?」
「うん、ありがとう。えーっと…」
さっき先生が名前を言ってたから知ってるけど、私は人差し指を顎に当て考えるふりをする。
「美月だよ。これからよろしくね」
美月君は軽く会釈した。
「よろしくね、美月君」
美月君に倣って私も軽く会釈した。
「あ〜俺の事は呼び捨てでいいよ」
「えっ、何で?」
私は首をコテンと横に曲げる。
「なんていうかさぁ…なんか女の子に君付けされるのって恥ずかしくて…さ」
そう言いながら美月君は恥ずかしそうに顔をゆがめる。
「ぷっ…」
そんな様子を見ながら私はクスクスと笑う。
「あっ、酷いなぁ。俺そんなにおかしな事言ったかな?」
美月君は顔をムッとして私の顔を見る。
「ふふふ…ごめん、ごめん。じゃあお言葉に甘えて…
よろしくね美月」
「うんうん、それでよろしい」
美月はどうだと言わんばかりに胸を張る。
…この瞬間、私の
変な部分にこだわる所…
笑われると怒り出す所…
煽てるとすぐ調子に乗る所…
似てる…
西片にそっくりだと…
まぁ外見は似ても似つかないけど…
見つけた…
どうやら
「…これから楽しい時間を過ごせそうだね」
「んっ?何か言った?」
「なんでもないよ〜♪」
「?」
私はいたずらっ子みたいに笑った。
美月はそんな私を見ながら不思議そうな顔をしていた。
「ーーーとなるから、この構文はーーー」
そんなこんなで今は授業の真っ只中。
私も美月も先生の授業を聞いている。
いや、私に関しては聞いているフリと言うのが正しいだろう。
さてさて、この
転校初日からいきなりは正直気が進まないけど、西片そっくりの人間となれば話は別。
という訳で君には私の新しいからかい生活の為に協力してもらうよ♪
さてと…
ガシャン!
「あっ…」
私は筆箱を机から落としてしまった。
先生や数人の生徒、そして美月も落ちた音に反応し目をやるが、正体が筆箱だと判ると再び黒板の方へ向き直す。
私は何事も無かったかのように筆箱を拾う。
「う、…うん?…あれ?」
「んっ?どうしたの高木さん?」
私の困り声に黒板を見ていた美月が尋ねてきた。
「いやぁ筆箱が開かなくてさぁ…落とした時に歪んじゃったのかなぁ?」
嘘である。
この女、確かに筆箱を落としたが、勿論手や肘が当たって落ちたのではない。『歪む』などと言ってはいたものの、この女がそんなミスをする訳もない。
肘をヒットさせる角度、落下速度の調整、落ちた時に生じる衝撃計算の算出
全てはこの女の頭に掛れば容易いこと。
何故そこまでして筆箱を落とす必要があったのか?答えはこの女によって無残にも地べたに伏すはめになったその筆箱の中にある。
この女、授業中に何をゴソゴソしていたのかと言うと、まず、紙2枚を4等分に切る。次にそれぞれを半分に折り組み合わせていく。そしてなんやかんやで紙を長い蛇腹状にする。最後に、高木お手製の飛び出す顔(可愛いワンちゃん)を蛇腹の先に張り、筆箱の中に張り付けて飛び出さないように閉じれば、お手頃びっくり箱の完成。
何故このような労力を割くのか?答えは単純…自身の横にいるこの男をからかいたい!ただそれだけである!!
「筆箱?ちょっと貸してみて」
私の予想通り、美月は右手を差し出し筆箱を渡す様に促す。
しめしめと思いつつも顔には出さないように筆箱を美月に渡す。
「どれどれ…」
さて、そうこう思ってるうちに美月が筆箱を開けようとしている。
そして開けた瞬間…
ビョーーーン!←お手頃びっくり箱発動
『ひゃあああっっっ!?』
『あはは!引っ掛かったぁ♪』
『ひ、ひどいよ高木さん!こんな事するなんて!!』
『あはは、だってさぁ美月って何だがとってもからかいやすそうに見えたんだもん。だからつい…ね♪』
『ぐ、ぐぬぬ…』
我ながら完璧な作戦♪
まさか筆箱がびっくり箱だなんて考えもしないだろうしね。
さぁ、美月…
私にからかわれてみなさい!
私はふふんと勝ち誇った顔で美月を見る。
「んっ…くっ…ホントだ、ビクともしないな」
美月は眉間にシワを寄せながら筆箱を開けようと力を入れるが、筆箱は口を閉じたまま頑なにそれを拒否する。
「…………………
んっ?」(・_・)←※高木さんです。
…あれ?
…えっ?
…もしかしてホントに開かない?
………、
嘘でしょぉぉぉ!!
「…駄目だ、硬くて開かないや」
「そ、そうなんだぁ、残念…」
私は苦笑いする。
しかし、顔には出さないように取り繕ってはいるものの今まで…少なくとも西片に対しては1度もない失敗に少しばかり動揺していた。
「ごめんね、役に立てなくて…」
美月はションボリしながら筆箱を私に返す。
「い、いいよ、いいよ。元はといえば私が落としたのが原因なんだからさ、ハハ…ハ」
私は美月から返された筆箱を受け取る。
くそぉ〜、まさかホントに開かなくなっちゃうなんて…
そんなに強く落としちゃったのかなぁ?
そんな事を考えながら私は歪んで開かなくなった筆箱の蓋を開けた。
…
ビョーーーーーーーーーン!!!
筆箱の中から飛び出す顔(可愛いワンc(ry)が勢いよく飛び出してきた。
「ピャアアアアアッッッ!!!」
何故開かなくなったかに集中しすぎて飛び出す顔(可w(ry)をすっかり忘れていた私はつい大きな悲鳴をあげてしまった。
「ど、どうしたの高木さん!?」
黒板の方を向いていた先生はギョッとして私を見る。
他の生徒も何だ何だと続けて見てきた。
「あっ………///」
私は自分の顔が一気に熱くなるのを感じた。
「す、すいません。何でもない…です///」
乙女らしからぬ叫び声をあげてしまった事で顔を真っ赤にした私は今にも消えそうな声になってしまう。
「そ、そう。ならいいんだけど…もし、気分が優れないんだったらすぐ言ってね」
「は、はい、ありがとうございます」
そう言って先生は気を取り直すように再び私たちに背を向ける。
良かったぁ優しい先生で…
田辺先生だったらチョークの1本や2本すぐに飛んできてたのに。
あの時の西片は面白かったなぁ…
……………。
じゃなくていまは筆箱!!
えっ、何で!?
何で歪んで開かない筆箱が開いたの!?
…まさか!?
ハッとなって真横に目をやると…
「くっくっくっ…」
美月は可笑しそうに笑いを堪えていた…
それもあからさまに私に見えるように…
率直に感想を言わせて頂きます…
イラッとした。
「…嘘ついたの?」
私はぷくーっと頬を膨らませ美月に文句を言う。
「いやぁ、何かゴソゴソやってたからチラっと見たんだ。
そしたら筆箱開かないフリをしていたのを見てピン!ときてね。
敢えて誘いに乗ったんだよ。
それに嘘つき呼ばわりするんなら、高木さんだって蓋が開かないって嘘ついてなかったっけ?
まぁでもまさかこんなに見事に引っかかるなんて…
それにしても『ピャーッ!』だって…」
美月は思い出したように笑いが漏れる口を手で押さえる。
「っっっ〜〜〜〜〜〜///」
本当なら悔しさと恥ずかしさで叫びたいけど、大声を上げるわけにはいかないので、目尻に涙を溜めながらキッと睨みつける。
「ごめんごめん、そんなに睨まないでよ。
でもあれだよね。高木さんってさ…」
「私が…何?」
頬杖をしながらふふっと笑う美月。
次の瞬間…
私と美月の今後の関係を決定させる
「何ていうかな、今日初めて会ったばっかりだけど…
高木さんって…
美月は意地悪そうに顔をほころばせた。
「っっっ〜〜〜〜〜!!!!!」
今まで…少なくとも西片に対しては1度もない失敗に心が激しく動揺する。
「『これから楽しい時間を過ごせそうだね』、高木さん♪」
「!?……そ、そうだね」
ニコッとと笑う美月に対し、私は苦虫を噛み潰したように笑うしかなかった。
悔しい…
しかも、笑った顔にちょっとだけドキッとさせられたから余計に…
おまけに『これから楽しい時間を過ごせそうだね』って…
それ私が最初に言ったんじゃない!
ちゃんと聞こえてるじゃん!!
悔しさと恥ずかしさから拳を作る手にも力が入る。
こんな経験初めて…
すっごく悔しい…
ふふふ…
そうですか…
そういうことですか…
えぇ、分かりましたよ…
そっちがその気なら…
受けて立ってあげる…
見てなさい美月…
絶対に…
《b》絶対にからかってやるんだから!!!
ここに、
本日の勝敗…
高木の負け