皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第九回 ポッキー

「怠い……メンドイ……終わらない……」

「グダグダ五月蠅いですよ。口動かしてる暇があるなら手を動かした方が生産性がありますよ」

 

 放課後の教室。ペンを握り机へ突っ伏す俺に、真正面から冷たい言葉を浴びせられる。

 

「いやいや、そこは頑張りましょうとか言って励ますところじゃないのかよ」

「テスト赤点ギリギリ、先生が同情心で出してくださった救済措置へその態度をとるような人に、どんな励ましがあると」

 

 マジで冷水のように冷ややかだった。そろそろ寒くなってくる季節なので、風邪をひいてしまうかもしれない。

 

「冷たい言葉は物理的なモノじゃないので、風邪なんてひきませんよ」

「オマエはエスパーか何かなのか」

「はい、驚きましたか?」

 

 うん、そんなことを平然と言えてしまうメンタルに驚いた。

 

「いいから、とっとと手を動かしてください。バカでも出来る内容らしいんですから、ほら早く」

「誰がバカだ」

「赤点2連続獲得、記録続行中の目の前の男」

「だとすれば、同数の連続記録更新中の目の前の女は一体どうなるんだろうな」

「私、貴方より点数ありましたから」

「2回合計で1点だろ!誤差だ誤差!」

「その誤差で全国優勝が決まるんです」

「トップの1点と底辺の1点は、重みがまるで違う」

 

 同じ1点でも、砂粒とダイヤモンドくらい差がある。自分で言ってて悲しくなってくる、そんな現実。

 

「はぁ……やるか」

「どうせその結論になるんですから、脱線しないでやってくださいよ、まったく」

 

 あからさまにため息をつかれた。もうつっこむ余裕もないので何も言わないが、まぁ、うん。

 

「なんですか、カンニングですか」

「違う。ってか、先生も何使って調べてもいいって言ってただろ」

「バカでもわかる簡単な問題を、なんだって調べなきゃならないんですか」

 

 コイツがこうして赤点をとるのは、この性格が原因ではなかろうか。分からないことを調べることは、決して悪ではない。面倒だけど。

 

「何もなしにやるのも飽きるだろ」

「うっわ、赤点補習中にお菓子取り出した」

「うっわとはなんだ、うっわとは」

 

 勉強中の糖分摂取は効率がいいって何かで聞いた。ので、理にかなった行動のはずだ。

 

「まぁいいでしょう。手が離せないので食べさせて下さい」

「まて、なんだって当たり前のように分けてもらえる前提でいやがる」

「え、まさか二人対面してるのに独り占めする気なんですか?ないわー」

「共有するつもりではいたが、そうも平然と言われると腹が立つもんなんだよ」

「17年もの付き合いになるのに何を狭量なことを……」

「親しき中にも礼儀あり、って知ってっか?」

 

 箱を開け、1本取り出して。口に咥えながら。

 

「いいか?確かに俺とオマエはほぼ産まれた時からの幼馴染だ。だが、だからと言って何をしても許されるわけじゃ」

「はむ」

「どわっひょい!」

 

 反射的に噛み砕く。端っこの少しだけが口に残り他の部分は重力に従って机へ……とは、ならず。

 

「おや、取り分が多い」

「多いじゃねぇ!」

「そういえば、今日は11日でしたね。すっかり忘れていました」

「忘れていました、じゃなくてだな」

「あ、もう一本貰いますね」

「貰いますね、じゃ……いや、もうそれはいいや」

 

 ここで分け与えずもう一度やられたら、心臓がもつ気がしない。中身が最悪なくせに、顔だけはいいのだ。

 

「まぁ、こんな美少女とポッキーゲームが出来たのですから。残りのポッキーをすべて献上するのも当たり前でしょう」

「まて、全部くれてやるとは言ってない」

「この顔にそこまでの価値はないと?」

「いや、面は間違いなくいい」

「そうでしょうとも」

 

 ここまで「当たり前でしょう?」みたいな態度で来られると、腹が立たないのだから不思議なものだ。

 いや訂正。腹は立ってるのに口出しする気になれないから不思議なものだ。

 

「にしたって、オマエなぁ」

「グチグチ五月蠅いですよ。まるで進んでないじゃないですか」

「誰のせいだ、誰の」

「文句ばかり言って手を動かさない貴方のせいかと」

 

 うーむ、悲しいことに一理ある。

 若干納得してしまったのでそれ以上は何も言えず、改めてポッキーを取り出して、

 

「はむ」

 

 だからさぁ!

 と、声を荒げそうになったがどうにかこらえる。2回目だから、驚愕の度合いも抑えられた。さっきの二の舞にはならない。

 

「むぐむぐ」

 

 そして、そうして落ち着いて対処すればなんてことはない。なにせ、17年も一緒にいるのだ。いくら整った顔立ちだろうが、もう見慣れている。驚きという外乱さえなければ、こんなヤツに惑わされることはない。

 

「ぽりぽり」

 

 むしろ、こちらから攻勢に出てやって困惑するコイツの顔を眺めて、何なら写真に納めてや

 

「あむあむ」

「ごめんなさい俺の負けです」

 

 無理だった。自ら噛み砕き、背をそらせて距離を置く。

 

「なんですか?17年間ほぼ毎日のように見てきた顔でしょう。何を今更」

「うっせぇ、17年間見慣れてきた顔でも目閉じて迫ってくれば驚くもんはあるんだよ」

 

 顔をそらしたまま、先ほど開けた箱を差し出す。この調子ではどうせ1本も食べることは出来まい。仮に目の前の悪魔が飽きたとしても、食べようとしたらさっきの光景を思い出す。そんな屈辱があってたまるものか。

 

「なっさけないですねぇ」

「んぐっ」

「でもまぁ、貰えるものはありがたく貰っておきます」

 

 と、手の中の感触がなくなる。無事受け取られたのだろう。つまむものはなくなったが、まあ諦めて課題に戻

 

「ん」

 

 目を閉じて、咥えたソレをこちらへ差し出している。なるほど天丼芸、定番の流れだ。幼馴染ながら感心してしまう。

 

「んえ゛ふっ!?」

 

 そんな心からの関心をこめて、ポッキーを押し込んでやった。

 

「わり、この短時間で思ったより見慣れたわ」

「見慣れたわ、ではありませんが!?」

「でもまぁ、あれだよあれ。因果応報、ってやつだって」

「頬を染めて言われても説得力欠片ほどもありませんね」

 

 それはお互いに、なのだが……まぁ、コイツのは今咳き込んでいたからだろう。コレに羞恥心なんて感情があるとは到底思えない。

 

「はぁ……まぁいいです。気分転換にはなりましたから、再開しましょう」

「げ、見たくもない現実が戻ってきた……」

「どうせ直視することになるんですから、諦めてください」

 

 ごもっともなご意見。背筋を丸めながら、再び課題へ取り掛かる。

 

「あ、そうそう」

「なんですか?」

「さっきから思ってたんだが、2ページ分くらいオマエ間違えてる」

「それはもっと早く言って下さい!」

 

 余談程度の後日談ではあるのだが。

 コイツはこの後、先生から一対一での補習を言い渡された。

 

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