皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第十一回 年越し、異世界、ヒャッハー

『秘録・ヒャッハーと迎える年越し

       ~異世界転生を添えて~』

 

 眼を開けると、そこは知らない場所だった。

 

「いや、こってこてのテンプレ目覚めワードですね。さすが異世界転生勇者様です」

「しれっと頭の中読まれた上に衝撃の事実を投げかけられてしまった」

 

 理解は追いついていないが、とりあえずこのごく短時間で自分の置かれた状況に関する情報だけは得ることが出来てしまった。

 

「そうか、俺はあの時死んだのか……」

「あ、待ってください。勝手に理解しないでください」

 

 何とか受け入れようとしたら止められてしまいました。理不尽では?

 

「理解しちゃいけないんですか?あ、死を自覚したら魂がうんぬんかんぬんみたいな

危険性が?」

「いえ、異世界転生する勇者に死因を説明するのは、女神界隈でやってみたいこと第3位なので。せっかくの機会を奪わないでください」

「殴ったろかこの女神」

 

 おっといけない、つい口が悪くなってしまった。

 

「では――落ち着いて聞いてください。貴方は死にました」

「いや、ずっと落ち着いてるが」

「唐突にこんなことを言われても、到底理解出来ないことでしょう。ですが、事実死んでしまった」

「いや、理解してるんですってば。しっかりトラックに撥ねられた記憶ありますし」

「そう、貴方は道路に飛び出したヌートリア、和名沼狸をかばいトラックの前に飛び出して」

「まってそれは衝撃的すぎる」

 

 え、俺ヌートリアかばってトラックの前に飛び出したの?

 

「そのまま撥ねられてしまい、病院で一命をとりとめました」

「……あれ、死んでないじゃん」

「ので、先ほど直接首を刎ねに伺いました」

「女神は女神でも死神の類かよ」

 

 普通子供をかばってトラックにーとか、何はともなくトラックに撥ねられてーとか。そういう感じで始まるものじゃないのか異世界転生って。

 

「何かご不満でも?」

「不満がないわけがないでしょう。なんだって直接殺されたんですか」

「いえ、せっかくの異世界転生チャンスだったのにしれっと生き延びられてむかついたので」

「よし、一発殴らせろ」

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「話を戻します」

「あ、はい」

 

 暖簾に腕押し状態が続いてしまったので、神の尺度は人間には分からないと諦めることにした。そんなことより今の状況を把握したい。

 

「まぁそういうわけで、貴方にはこれから異世界へ転生していただきます。現代人好きでしょう?」

「まぁ、広く作られてるジャンルではあるよな」

「好きでしょう?」

 

 俺は何も言わない。嫌いではないけど。

 

「でも、わざわざ異世界転生させるってことは何か問題でも起こってるのか?」

「あ、いえ。勝手に殺したことが上司にバレまして。ちゃんと後始末をして来い、と」

「オマエホントろくでもない女神だな」

 

 きっと俺はキレていいと思う。

 いかん、考えると話がループする。

 

「と言うわけで、所謂魔王による世界崩壊の危機がー、みたいなのはない世界なので安心していってきてください」

「いやもう、いいけどさ……どんな世界なの?」

「そうですね……」

 

 目の前のクソ女神はパラパラと紙束をめくり、俺の質問への回答を探す。ってかあれコピー用紙じゃね?

 

「まず、治安について。さすがに貴方の元居た世界程よくはありません」

「よくはないのか」

「はい。まぁ、そちらほど文明が発達しているわけではないので」

「あー」

 

 でも、それくらいの方が異世界転生感はあるような気がする。剣と魔法の世界に現代社会感が混ざるのは解釈違いだ。

 

「なので、服装とか喋り方にちょっと違和感があるかもしれません」

「そこは……まぁ、きっと慣れるでしょうし」

 

 民族衣装的なヤツとかは、違和感こそあれ慣れてくればなんてことはない類のものだ。周り全員それを着ているのなら、なおさら。

 

「でも皆さん、結構気さくな方ばかりですよ?今もまさに年越しの時期で、満面の笑みを浮かべて楽しそうにしています」

「あ、それはいいな」

 

 異文化交流だと思えば、十二分に楽しめそうな気がする。目の前の女神に殺されての異世界転生とはいえ、ワクワクしてきたな。

 

「ここまで聞いて、如何ですか?」

「アンタに殺されてじゃなければ心からワクワク出来ただろうな、って思う」

「大変正直で結構。正直者は嫌いじゃありません」

「どの口が言うか」

「女神が正直者を好むのは、よくあるイメージなのでは?」

 

 湖の女神とかを思えば、確かにそんな感じのイメージだ。

 

「さて、乗り気になってくださったところで。そろそろ本題の転生いっときますか」

「いつ俺が乗り気になった?」

「そもそもこの手順で連れてこられて逆上しなかった時点で乗り気だと思うのですが」

「マジで神様って感じの思考回路してんな」

 

 逆上て。正当性はこっちにあるはずなんだけど。

 

「では、行ってらっしゃいませ」

「は?」

 

 もういくらか文句を言ってやりたかったのだが。

 アレが頭上から垂れる紐を引くのを見て、強制的に覚悟を決めさせられた。

 そう、この流れは。足元があいて、転生先の世界に落とされる……

 

ガンッ!

ガラララララ……

 

「……」

「……紐、切れてるけど」

「おっかしいですね、千年前に変えたはずなんですけど」

 

 さすが神様、単位が狂ってやがる。

 

「仕方ない。えーい」

「あ」

 

 ものすごい軽い調子で、首ちょんぱされた。

 

「それでは、行ってらっしゃいませ。よい異世界ライフを」

 

 同じ相手に2度殺される経験をするとは、思ってもみなかった。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 眼を開けると、そこは知らない場所だった。

 文化は根付いているように思う。レンガ造りの建物が建っていて、道もある。お店なんかも露店じゃなさそうだし、想像してたよりは文化があるんじゃないだろうか。

 

「とは言うものの、誰もいないな……」

 

 誰かに会わなければ何もできないのに、誰もいない。どんな場所なのかとか聞きたかったんだけどなぁ。

 ってか、これだけ誰もいないとなると滅んだ街って可能性も……

 

「あ、そういやあのクソ女神、年越しの時期だとかって言ってたか」

 

 それで全員出払ってる、って可能性の方が高そうだなぁ。

 となれば、探すのが手っ取り早いか。

 

「そういう時期にいそうな場所ってなると……宗教的な場所が一番有り得るのかな」

 

 一年が終わり、新しい一年が始まる。とくればありそうなのは宗教的イベントだろう。教会とかお寺とか神社とか。そういう建物を探せばきっと誰かいるはず。

 

「よし、暫く歩き回ってみるか」

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 暫く歩き回って、目的の物をまとめて発見した。

 

 まず一つ目、宗教的な場所。これは少し歩いたらすぐに見つけられた。高いし目立つしな建物で、いかにも!って感じなのが異世界感を感じられてありがたい。とりあえず、そちらを目指す事にした。

 

 で、次に二つ目、人。これも想定通り、向かった宗教的な場所にいた。いたのだけど……

 

「ヒャッハー!汚物は消毒だー!」

「年越しに向けていらねーもん持ってこぃヒャッハー!!」

「ついでだからいるもんも焼いちまえヒャッハー!!!」

 

 よし、帰るか。

 

「いやいや、なんだよアレ」

 

 現実逃避していられないので、一回情報を整理する。

 まず、広がっていた光景。

 ほぼ上裸でトゲ付き肩パットスキンヘッドの連中が教会の境内(?)で火炎放射器を抱えて何かを焼いていた。紙やら木やらみたいなのから焼くと危険そうなものまで、一切の区別なく焼いていた。

 ではその焼いてるものはどこから来たのだろうかと思うと、トゲ無し肩パットの連中が持って来ていた。こっちの髪型はモヒカンばかり。

 

 あれか。絶対ないと思いたいのだが、

「スキンヘッドトゲ付き肩パット=聖職者」

「モヒカントゲ無し肩パット=一般市民」

とかなのかこの世界は。信じたくないな。

 

『まず、治安について。さすがに貴方の元居た世界程よくはありません』

 

 いや絶対よくないだろ最悪だろなんだココ。

 

『よくはないのか』

『はい。まぁ、そちらほど文明が発達しているわけではないので』

『あー』

 

『あー』じゃない。そんなレベルじゃなく最悪だ。発達してないどころの騒ぎじゃない。

 

『なので、服装とか喋り方にちょっと違和感があるかもしれません』

 

 違和感とかってレベルじゃねぇよ。

 服装は上裸肩パットだし、喋り方はヒャッハーだし。なんだあれ。

 

『でも皆さん、結構気さくな方ばかりですよ?今もまさに年越しの時期で、満面の笑みを浮かべて楽しそうにしています』

『あ、それはいいな』

 

 なんだその『不良話してみると結構気さくでいいヤツ』みたいなのは。ふざけるな。

 確かに満面の笑みを浮かべてはいるが、あの笑みはそういう笑みではない。適切な日本語が出てこないけど、「ヒャッハーの笑み」って感じだ。

 感じってなんだまんま完璧な表現だろうが。

 

「……考えたくない。考えたくない仮定だけど」

 

 もしかしてこの世界、全国民がこんな感じ?

 

「……ない」

 

 無意識に、口をつく言葉がある。

 

「俺は絶対に」

 

 そう、これはある意味決意の言葉。

 決してブレてはいけない、強い決意のための。

 

「俺は絶対に、こうはならない」

 

 何が何でも、まともに生きてやる。

 

「そんでもって、あの女神絶対ぶん殴る……!」

 

 一発や二発ではない。

 顔の形が変わるまで殴り続けてやる……!

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「いやぁ、今回の子は物騒なこと考えるなぁ」

 

 タブレットを介して、先ほど送り込んだ少年の様子を眺める。一昔前は心の中を読むのに色々な準備が必要だったのだが、今は端末一つで出来てしまう。便利な時代になったものだ。

 

「しっかし、何度やっても飽きないねぇ、これは」

 

 自分は特別だと思っている人間。そういった者程、あんな感じの意味不明な集団に放り込まれると面白い反応を見せてくれる。

 今回の彼は、『常に冷静に』なんて社に構えた様子の子だ。それがいいことだと思っているのだろうし実際大切な事なんだけど、感情の生き物である以上人間はそれだけではいられない。

 笑って、泣いて、怒って、混乱して、冷静さを欠いて。そうやって不安定であるからこそ、正しく成り立つ生き物だ。たぶん。いや神だって分からないことくらいありますって。

 

「さて、今回の子はどれくらいで朱に交わって赤くなるのかな?」

 

 前の「俺TUEEEE!してそう君」は1ヶ月で赤くなって一般市民ヒャッハーしてるし、常識の蓋が固そうな彼はそれよりは長くなるかな。それとも固いものが壊れる瞬間は一瞬ってことで、1、2週間もあれば壊れちゃうのかな?

 

「楽しみだなぁ」

 

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