皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第十二回 故障

『頼む、助けてくれ』

 

 なんてことはない、冬の日だった。

 強いて言うのなら、ここ数日の中では寒い方という程度の、何でもない日。暖房をつけて暖かい物でも飲みながらほっと一息つくのが小さな幸せとして成立する日。

 の、はずなのに。電子音と共に届けられたのは、友人からのヘルプの声だった。

 

「ふむん」

 

 ホットコーヒーを一口飲み、落ち着いて考える。まだメッセージアプリは開いていない。通知欄からそれを見ている事実は、相手には伝わっていない。故に、面倒ごとから逃げるためにも一時保留にすることだってできる。今夜にでも「悪い、寝てた」

と返せば解決だろう。

 貴重な休日、まったり本を読んでいる時間を保護するためには、必要な犠牲と言えるだろう。

 

「しかし、なぁ」

 

 一応。そう、一応は友人なのだ。それを見捨てると言うのは、後々面倒を呼ぶのではないだろうか。

 具体的にはバレた時。絶対面倒なやり取りをすることになる。

 あと、程よく深刻な事態だった時も。助けに行けば対処できてしまう程度にはなんてことなく、しかし意図的に放置していたとなれば笑い事にし辛い程度には深刻な事態だった場合、何とも言えないギクシャク感を生むことになる。

 

「具体的に『何があった』を書いてくれると楽なんだけどなぁ」

 

 ロック欄の通知を眺めてみても、新しいものが来る気配はない。つまり、こちらから「何があった?」と聞かない限り面倒ごとな可能性が消去しきれないのだ。

 

「あー、面倒だなぁ」

 

 ぼやきながら、結局のところ選択肢はひとつしか無い。マジな方の厄介事だった場合は、「ごめん無理」と返して後日ラーメンでも奢ることにしよう。

 意を決してスマホを手に取り、メッセージ画面を開く。

 

「何かあったのか、っと」

 

 メッセージを打ち込み、送信ボタンを押す。さてどんな事態が舞い込んでくるだろうかと思っていると、すぐに向こうが入力中になった。

 張り付いていたのだろうか。だとすれば、思った以上に深刻な事態なのかもしれない。すぐに返信してやることにしよう。

 

『何か、なんてもんじゃない。大事件だ』

「うわ、めんどくさそう」

 

 寝落ちしてしまったことにできないだろうか。

 出来ないだろうなぁ。

 

「いいからとっとと言え、見捨てて寝るぞ」

『エアコンが壊れた』

 

 どうしよう、クソほどどうでもいい内容だった。

 

 

 

 ===

 

 

 

「あぁ、暖房って、ありがたいな……」

「はいはい、あったかい飲み物はいるか?」

「あったかいスープがいいな」

「厚かましいな」

 

 腹が立ったのでアイスを出してやった。

 

「お、美味そうじゃん。いただきます」

「はいはい、どーぞどーぞ」

 

 マグカップにコーヒーのお代わりを注ぎつつ、そう返す。迷いなく蓋をはがして、たっぷり掬って口に含んだ。

 

「それで?エアコンが壊れたって、そんなに古いの使ってたっけ?」

「それなり程度には古いけど、まだ大丈夫なはずだったんだよなぁ」

「まぁ、そればっかりは使い方にもよるでしょ」

 

 まったく同じモノでも、使い方が違えば壊れるのも早くなる。むしろ着込めば乗り切れる時期でよかったのかもしれない。

 

「で?助けてって言ってたけど、具体的にどうして欲しいんだ?楽な範囲で手はかすぞ」

「そこはせめて無理のない範囲で、って言ってくれよ」

「やだよ疲れる。今だって返事したことを後悔してる」

「おいおい、友情に薄いやつだなぁ」

 

 友情に厚いとは言いそうだけど、薄いって言うのだろうか。

 

「まあ、安心してくれよ。そう面倒なことは頼まない」

「ほうほう?」

「当たり前だろう?そもそも、エアコンの故障だ。修理するにせよ買い替えるにせよ、専門家を頼るしかないんだ」

 

 よかった、どうやらまともな判断能力は残っていたらしい。

 

「じゃあ、金を貸してくれ、とかか?トイチならいいぞ」

「友人に法外な値段を吹っ掛けるな。そこはちゃんと親に頼る。ってか、もう頼った」

 

 まぁ、学生の身分だし。払ってもらうのか立て替えてもらうのかは知らんが、親を頼るのが正しい流れか。

 

「じゃあ……あ、まさか直るまで泊めてくれとか言い出す気じゃないだろうな」

「ちょっと考えたけど、オマエ絶対断るだろ」

 

 その通りである。寒空の下に蹴りだす気満々だった。

 

「なら、エアコン選びを手伝えとか?」

「それは、ちょっとお願いしたい。俺より詳しいだr」

 

 カタログを顔面に投げつけてやった。

 

「その中から、推奨広さ合ってるヤツ選べ」

「お、サンキュー。値段は?」

「性能の割には」

「完璧じゃねぇか」

 

 言いながらカタログをわきによけた。読みださないってことは、これは本題じゃないのか。

 

「ならなんだよ」

「や、あまりの絶望感で誰かに話したくて仕方なかった」

「ふざけんなよオマエ」

「ところでなんか寒いんだけど、ここのエアコンも壊れてね?」

「今何喰ってるか手元見ろ」

 

 カップアイスを勢いよく食べれば、誰だって冷える。

 

「うおっ、エアコン壊れて極寒から逃げてきた友人になんてもん出しやがる!」

「喜んで食ったのはオマエだろうが」

「ふつう出さないだろ!」

「まぁまぁ、牛乳飲むか?」

「アイスには牛乳だよな」

 

 冷蔵庫から出したばかりのひえっひえの牛乳をマグカップ一杯出してやることにした。一気に飲み干している。

 

「なぁ、なんか寒いんだけど」

「まだ体の芯が冷えてるんじゃないのか?家帰ったらちゃんと湯船につかれよ」

「あー、そうするわ」

 

 おかしいな。ニワトリだって3歩歩くまでは忘れ無いってのに、一歩も歩いてないコイツもう忘れてないか?

 

「今日に限らず、暫くは長風呂だな」

「長風呂したって湯冷めするだけだろ」

「脱衣所用の小さい暖房はあるから、そこで着込めばなんとか」

「いっそそれ部屋に持ち出したら?」

「壁につけてるからそうもいかない」

「いっそそこで生活したら?」

「それは手だな」

 

 そんな手があってたまるものか。

 

「まぁなんにせよ、話せてすっきりしたわ」

「コイツマジで誰かに話したかっただけかよ」

「モチ」

「今度飲み屋奢り」

「うっげマジかよ。親に返す分あるから、次の次の給料入ってからでもいいか?」

 

 どうやら親には借りるコースで話していたらしい。

 

「いいよ」

「んじゃ、そういうことで。バイト先でつまみが美味いとこ無いか聞いとく」

 

 と言って、席を立つ。何やらすっきりしたような表情にイラッと来たので、つい舌打ちをならしてしまった。

 

「なんだよ」

「何でも。—――あ、そういえば」

「うん?」

「どんな故障だったんだ?」

 

 そういえば。

 壊れた壊れた、とだけ聞いていてその内容には一切触れていなかった。

 ただでさえ時間を無駄にさせられたのだ。その正体だけは聞いておかないと、なんだか居心地が悪い。

 

「おう、聞いて驚け」

「やっぱいい」

「お願いします、聞いてください」

「よかろう」

 

 頬杖をつき、コーヒーを口へ運びながら先を促す。

 

「まず、リモコンで電源を入れるだろ?」

「使いたいわけだからな」

「すると、だ。ランプが点滅しだす」

 

 ……うん?

 

「それで?」

「以上だ」

「よし、今すぐそのコートを脱いで外で土下座しろ」

 

 あまりにも、だ。

 あまりにも、下らないことに時間を使わされた。

 

「なんだ、急に。点滅だぞ?宇宙から来た奴等なら、

タイムリミットの限界表示だ」

「どうせその点滅、運転のとこだろ」

「お、よく分かったな」

 

 よし、ほぼ確。

 

「んで、どうせすぐ電源切ったろ」

「お、それも正解」

「その後またすぐつけて、点滅してたから切ったろ」

「凄いな、もしかして、天才か?」

 

 お前のバカさ加減をすっかり忘れてたような天才がいてたまるか。

 

「霜取り」

「うん?」

「室外機についた霜を除去する運転」

「……うん?」

「霜がはってると正しい動作できないから、まず霜を取ろうとする」

「…………うん?」

「その時、点滅する」

 

 フィルターって線もありそうだけど、時期的にはこっちだろう。つまり、そのまま放置しておけば復旧する程度のお話だ。

 

「…………」

「酒奢り、2回な」

「いや、それは」

「エアコン買い替え分の金、浮いたな?」

「奢らせていただきます」

 

 むっちゃ珍しい敬語のコイツに少しスカッとしたが、やはり時間を無駄にされたことが腹立たしい。

 材料はあるし、この後やけ食いでもするか。

 

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