皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第十七回 赤子・たまご

 それは、気分転換に訪れた古い民宿でのことだった。

 座敷童の伝承でもありそうなほどに古くぼろい民宿。最近都市伝説チックな方ばかりだったのでたまにはこういういかにもな場所を、と訪れたスポット。

 さぁ何かないかな面白いこと、といつも祈り空振りに終わることを考えていたのに、だ。

 

「アッハッハッハ!ナンダコレ、意味不明すぎる!何がどうしてこうなるんだよ!」

 

 ついつい、眼前に広がる光景に笑い転げてしまう。

 

「なんで赤ん坊が二本足で立ってるんだよ!」

 

 そこには、まだハイハイをしていそうな赤ん坊が、真っ裸で直立していて。

 

「何でそんなのが、たくさんいるんだよ!」

 

 しかもそれが一人二人じゃなく、部屋を埋め尽くし廊下に出ようというレベルでわんさかいて。

 

「しかも、しかも!」

 

 が、しかし。そんなこと、この場に置ける意味不明度合いの中では低い方で。

 

「しかも、なんで全員、多種多様に踊ってるんだよ!」

 

 眼前を見回す。

 

 盆踊りを踊っている集団がいる。

 ソーラン節を力強く披露する団体がいる。

 ブレイクダンスでグルングルン頭を支点に(!)踊っている赤ん坊がいる。

 アイドルよろしく統率のとれた連携を見せるチームがある。

 

 あれ、首すわってんのかなこの赤ん坊。

 

「意味不明なものが、意味不明なことしてる……!」

 

 とまぁ、なんにせよ、だ。

 その空間は、マジで意味不明に溢れていた。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 不思議なものが昔から好きだった。振り子がずっと動き続けるのも、鏡が自分の姿を映すのも、雷がへそを取るというお話も。どれもこれも不思議で、魅入られていた。

 魅入られて、疑問に取りつかれて。そうして首を突っ込んでいって……ふと、一部の物には飽きてしまった。振り子が動き続けるという現象。鏡が光を反射する性質。それらにはしっかりとした理屈があり、不思議なものではなくなった。

 だからわたしは、答えのない物に憑りつかれた。厳密には「答えがない」ではなく、「ありもしない」物に。だってそれは、証明できないから。つまり、未知であり、いつまでたっても不思議なものだから。どれだけ追いかけても心躍らせ続けられるから。

 

 ……この話をすると必ず「変人」のレッテルを貼られるのだけど、まぁそれは置いといて。

 

 だからわたしはいつもいつもそんな不思議なものを――妖怪とか伝承とか、そういうものを追いかけている。

 だって「在るもの」を追いかけていたら、この胸のどきどきが終わってしまうから。

 

「ま、だからって色々追っかけ続けてれば、「いやしない」って結論になってもおかしくはなかったんだよな」

 

 今更気づいた当たり前のこと。

 追いかけ続けて追いかけ続けて、そうしていれば、いやしないってことに気付くのが当たり前だ。

 じゃあとおもってあからさまなところに来たけど、もう手遅れかもしれない。もっと早く来ていれば、この場の不思議さだけでもどきどきして復活できていたかもしれなけれど、そう上手くはいかない物である。

 

 と、もう体を動かす気力も沸かないまま、目を閉じていき、

 

「いやにしても隣うるさいな」

 

 寝てしまおうとしたところで寝られない。どうにもすぐ隣辺りが騒がしく、その物音はいつまでたっても収まる様子がない。

 

「まったく、こんないい雰囲気の旅館で何やってんだ」

 

 暫く待てば疲れて静かになるだろうか。いや、それはないだろう。日付変わっている中騒いでいる連中だ、いつまでだって騒いでいるだろう。となればもう、自分の安眠のためには直接行くしかない。

 疲れと趣味への決別で、幾分か乱暴になっている気もしつつ。しかし堂々と隣の部屋の扉を押し開き、

 

「……ナンダコレ」

 

 意味不明な空間に、捕まってしまったと言うわけである。

 

 

 

  =〇=

 

「やっばい、マジでそこにいるのに!知っちゃったら面白くなくなると思ってたのに、しっかり意味不明で面白いままだ!」

 

 

 特にあれ、ブレイクダンス!首すわってない状態でどうやってんだ?

 ちょっと見まわしただけなのに、好奇心がうずいてうずいてたまらない。

 

「あ、そだそだ。ビデビデオ……」

 

 と、浮かれながらも冷静にカメラを回す。気になるところだけ撮ることも考えたが、せっかくなので全体を。

 多種多様な踊りを見せる集団が全員同じ格好おなじ顔立ちで踊っている。

 

 うん、面白い。

 

「どうするかな……とりあえずこのまま観察して、観察して、観察して。観察しよう。それから一人一人に触れて、一緒に踊って。きっとずっと面白いんだろうなぁ――ん?」

 

 と、そこで。ずーーーっと赤ん坊を見ていた彼の顔向けて、光がさした。

 なんてことはない。ずっと見ているうちに、朝になってしまったのだろう。

 

「っと、まあ仕方ないか。ここからはとりあえずあの赤ん坊たちの観察うぉ!?」

 

 朝日に目を細め、その光で視界が奪われていた瞬間に。踊り狂っていた赤ん坊達は、跡形もなく消え失せてしまった。

 

「……え、夢?」

 

 一瞬目を離したすきに姿を消す。それは確かに、夢を疑ってしかるべきなのだろう。しかし、彼の手の中にあるビデオはその可能性を否定する。

 

「……不思議なこと、見つけた……!」

 

 正体を見た。あらゆる法則に従わない存在。「まず間違いなくいない」からこそ未知で満たされており、いつまでも食べつくすことのない。そんな物だと思っていた。

 

 しかし、現実は。間違いなくそこにいたのに、未知しかなくて、何も残らない不思議な存在。いてもなお意味不明な塊。

 

 なるほどこれが妖怪か、と一個だけ納得して。

 

「まずは、何の妖怪だったのか考えないと。ブレイクダンスをマッパで踊る赤ん坊の妖怪、なんているのかな」

 

 これが、後の世にその名前を残すことになる妖怪博士の。初めて妖怪の存在を証明することになる、研究者の卵が生まれた瞬間であった。

 

 なお、「ブレイクダンスをする赤子」という彼が初めて残した論文は業界でボロボロになるまで叩かれることになるのだが、それはまた別のお話。

 

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