皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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2020年2月編


第ゼロ回 part.2 偽りの不死者・有料フレンド・虹

 不死身、という概念がある。

 

 例えば、悪竜ヴリトラや英雄アキレウスのような。

 その体に宿る性質からあらゆる武器を弾く、不死。

 

 例えば、吸血鬼のような。

 無限の再生能力を持ち、いかなる傷をも乗り越える、不死。

 

 例えば、プラナリアのような。

 特定環境下であれば切れ端からでも再生し、増殖する不死。

 

 死なない、倒れない、傷つかない、回復する。

 体現の仕方はさまざまであるが、とにかく「死なない」存在。

 無限の時を生き続けられる、超越種の総称。

 

 人間には決して得ることも学ぶこともできない思考へと至る彼らの日常は、さてどうなっているかといえば。

 

「お願いします!何でもするので、友達になってください!」

「……は?」

 

 超越種から見れば劣等種でしかないはずの人間に対して土下座。どうにもそんな感じの毎日を送っているらしい。

 

 

 

 ===

 

 

 

 結論から言おう。とあるごく普通の不死者は、有り体に言って飢えていた。友情とか、人肌とか、なんかそういうのに。

 

 不死身。寿命が来ることもなく、病に倒れることもなく、致命傷という概念もない。外から見る分にはごく普通の人間な彼は、いわゆるそういう存在であった。

 

 教科書で学ぶようなはるか昔から生きていて、ずっとずっと生きていて。何か変なものを食べた結果そんな不思議体質を手に入れたらしい。で、その後。簡潔に語ってしまえば、こんな人生を送ってきた。

 

①不死身になった!やった!もう何も怖くねー!

②あ、自分のこと知ってる人いなくなった。

③……え、辛くね?

 

 以上である。

 

「いや、知らんがな」

「そんなっ!?」

 

 当然のリアクションである。そも、現代社会において「不死身です!」なんて言ったところで信じてもらえるはずもないのだから。突然土下座された側にしてみれば、「何言ってんだコイツ」である。

 

「じゃあ、私はこれで」

「待ってくれ!」

 

 が、だからといってはいそうですかと引き下がれるわけでもないらしく。

 

「頼む、お願いだ、後生だから!一生に一度のお願いでもいい!」

「いやいやいや、そんな安っぽい言葉で呼び止められましても」

「不死者のそれだぞ!?一生に一度、それはつまり永遠に一度きりのお願いといっても過言じゃない」

「あ、じゃあ私はこれで」

「聞いてない!?」

 

 もう相手するだけ無駄だと悟ったのだろう。手を振り、イヤホンをつけて歩き出す。

 

「頼む、待ってくれ!話を聞いてさえ貰えない中、ようやく話せたんだ!」

「いやいやいや、知りませんって。そんなこと言われましても」

「そんなこと言って、ホントは興味あったりしない?何せほら、不死だよ?不死身の人に会ったことある?」

「ないですよ。これまでも、これからも」

「そう思うだろう?けどここにいる!」

 

 少女の斜め前方で決めポーズと共に告げる。

 当然、少女は見向きもせずに素通りした。

 

「待ってくれ、ここまでしてそれはさすがに傷つく」

「……はぁ」

 

 本気で落ち込んだような声音に罪悪感をあおられたのか。はたまた、ただ単純に無視し続けるのも面倒になったのか。

 少女は足を止め、スマホをしまい。イヤホンを外して、青年を見た。

 

「それで?えっと、不死身なんだっけ?」

「うんその通り。アイアム不死身人間」

「中途半端な英語が腹立つな……」

 

 やっぱり無視して帰ろうか。そんな感情が少女に襲い掛かる。

 

「そんな不死身さんが、私に何の御用時で?」

「用事はさっき伝えただろう?どうか、友達になってほしい」

「こういう時って警察に通報すればいいのかな?」

「お願いだから、一回そういう警戒心を隠してほしい」

 

 通報すれば連行されるのは間違いない状況なだけに、少年にも焦りが見える。

 

「せめてほら、事情だけでも聞いてくれないかな?」

「不死身を詐称する事情とか聞いてもなぁ」

「うーん、現代社会にふさわしい警戒心。いいことだ。でも今だけはどうか考えないでほしい」

 

 どこまでもそれ一択である。つまり、聞くまで終わらないということ。再び、深く深くため息をついて、話せと言外に告げる。

 

「一つだけ、どうか分かってほしいのは」

 

 そんな好意に甘えて、青年は言った。

 

「不死身っていうのは、人肌恋しくなるものなんだよ」

 

 さも哀れな被害者であるかのように、大きすぎるリアクションを伴って。

 胡散臭さしかないな、と少女は思った。

 

 

 

 ===

 

 

 

「やあ、昨日ぶり!」

「えっと、110番」

「昨日あれだけ談笑した相手だよ!?」

 

 迷いなく携帯を取り出した少女に向けて驚愕の声を上げる青年。しかし、それが当然の状況ではないだろうか。

 

「談笑?あまりにもしつこいから仕方なしに話に付き合っただけなのに?」

「うん?最後の方は君も笑って」

「ピ、ポ、パ、と」

「ごめんなさい、付き合ってくださっていただけでした」

 

 このご時世、そして女子高生と青年。どちらが有利かだなんて、火を見るより明らかである。

 

「はぁ……それで?今日は何の御用時?」

「いや、昨日も言った通り。不死身になると人肌恋しくなるから、珍しく反応してくれた君とお話しに来た」

「やっぱり不審者じゃないですか」

 

 うん、どう頑張っても不審者である。

 

「はぁ……分かりました。今日に限りありとしましょう」

「あ、本当?いやぁ、助かるなぁ」

「昨日何もなかったので、今日に限り信用するとこととしました。ただし、今日限りですよ?」

「はーい」

 

 

 

 ===

 

 

 

 そして翌日。

 

「こんにちは、女の子」

「よく分かりました、貴方人の話聞かない人でしょう」

 

 まぁ、ある種決まり切った展開と言うものである。

 

 

 

 ===

 

 

 

「やぁ、こんにちは」

「……はぁ。こんにちは」

 

 日は巡り。気が付けば、日曜日となった。

 そして、これもまたいつも通りに。休日なのに制服姿の少女の下へ、青年は手を振りながら訪れる。

 

「日曜日なのに制服だなんて、どうしたの?補修とか?」

「違います。ちょっと調べ物をしに学校の図書館へ行っていただけです」

「あー、なるほど。休日だって言うのに偉い限りだ」

 

 そう言って少女の対面へ腰かける。初めの頃はあれほど警戒されていたというのに、今ではこれくらいは良しとされているようだ。

 

「あ、ここいいかな?」

「いいって言う前から座ってるじゃないですか」

「いやぁ、何分この雨だとね」

 

 訂正。状況が状況なだけに許可されただけだったっぽい。

 

「……まぁ、いいでしょう。確かに、物凄い雨ですし」

「急に降ってきたよねぇ。いやぁ、この公園に屋根があってよかった」

 

 などと言いつつ鞄を降ろし、ハンカチで濡れた個所を拭いていく。いい加減なようで、これくらいのことはするらしい。

 

「それで?今日は何について調べてたんだい?」

「わざわざ聞きますか、それ」

「いやだって、この雨じゃん?時間を潰すにはもってこいだな、と思うわけだけど」

「……まぁ確かに」

 

 と言って、少女は鞄からノートを取り出した。

 

「今日は『虹』について調べてました」

「……虹?」

「はい、虹です。どうしてあんな現象が起こるのか、ってしっかりとは知らなかったので。改めて調べてみようかな、と」

 

 そう言って彼女は語り出す。邪件にしながらも心を開き始めている、信頼を抱き始めている青年へ向けて。この無駄に感情表現が大きい大きな子供はどんな反応を見せてくれるのだろう、と期待を込めて。

 苦々しい顔をしていることには、気付きもしないで。

 

 

 

 ===

 

 

 

 虹は嫌いだ。

 雨上がりにかかる橋は幻想的で。光が現れる様を見れば心が躍って。そのくせいくら走ってもたどり着けない虹が嫌いだ。

 

 その根元には宝物が眠っているというくせに、絶対にたどり着けなくて。

 雨と言う気が落ち込む現象の後に現れるくせに、曖昧に消えてなくなって。

 

 そして。

 

「……どうしたの?」

 

 それより、なによりも。

 

「いや、なんでもない。それで、国ごとにどう違うの?」

 

 よりにもよって、七色なのが嫌いだ。

 

「……そう。七色じゃない国もあって」

 

 そんな国だったらよかったのにな、と思った。

 

 

 

 ===

 

 

 

 彼女は不老不死だ。

 高校二年のある日、俺をかばって通り魔に刺された彼女。そんな彼女を掬う手立てが思いつかなくて、頼ってはならない何かに頼ってしまった。

 

 ソレは言った。

 

 ――その女の命は助けてやろう。

 

 頼む、と返した。

 

 ――ただし、対価を貰う。

 

 俺に支払えるものなら何でも。

 

 ――女の記憶を貰う。

 

 俺から持っていけ。

 

 ――そして、その生を7日でリセットする。

 

 話を聞け。

 

 ――7日ごとに、7日間の記憶を。世界に残した痕跡を。それら全てを失う。

 

 それは、生きてるとは言わない。

 

 ――そんな中……お前はどこまで、耐えられる?

 

 ただただ楽しそうに。助ける気なんて毛頭なく。ソレは、そう告げて消えた。

 

 

 そして事実、彼女は生きた。

 俺のことなんて忘れていて。

 7日ごとに記憶が失われて。

 7日ごとに段々周囲の記憶からも消えて。

 周囲の人間に、認識されなくなっていき。

 気が付けば、戸籍すらなくなって。

 

 それでも彼女は、生きている。

 そんな悲劇を、俺だけが知っている。

 

「どうしたんですか?」

 

 その全てを、俺だけが知っている。そうである以上、目を逸らしてはいけない。

 目を逸らすことだけは、許されない。

 

「ああ、いや。何でもないんだ」

 

 俺の顔を見ても一切の反応が無くて、そんな様子に苦しんでいると必ず声をかけてくれる彼女に。申し訳が立たないから。

 

「そんなことより、俺不死身でさ」

 

 だからこの苦しみは。彼女を友達だと思うために、必要な対価なのだ。

 

「よければ、友達になってくれないかな?」

 

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