皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第二十一回 垢嘗め

「いやぁ、いつも通りいい湯だったよ」

「はい、いつもごひいきにありがとうございます」

「じゃあな~おっちゃん」

「誰がおっちゃんか、お兄さんだっての」

「番頭さーん、牛乳ちょうだーい」

「はーい、1本100円になります」

「おっちゃんばいばい!」

「だからお兄さんだって、ってオイ髪くらい乾かしてけ!湯冷めするぞ!」

 

 忙しすぎる、と言うほどではないけれど。しかし退屈するほどでもない。

 そんな程よいせわしなさをこなす男の姿があった。

 

 番頭さん。言葉の意味としては、お店のトップの人今回で言えば、銭湯を預かっている立場。

 無愛想とかいうこともなく、丁寧に人好きのする口調で話して。小中学生のやんちゃ坊主に対してもちゃんと反応を返し。まぁ上手いことやっているのだろう、という印象を抱かせる。

 しかし、なんと彼人間ではない。れっきとした、まごう事なき妖怪である。

 

 ……なんで「知ってるよ」みたいな顔をしているのだろうか。うーん、カミングアウトのタイミング間違えたかな?

 まぁいいや。知っていたならば知っていたで、うん。

 

 話を戻そう。

 さて、そんな人間ではない彼。一体何の妖怪なのか、気にならないだろうか?

 え、気にならない?いやいやそこはほら、様式美と言うか。気になるってことにしてくれないかな。ほら、ね?頼むよ。

 

 お、気になる?しょうがないなぁ、気になるか。いやはや、そこまで言うのなら仕方ない。彼の正体について……あ、待ってお願い最後まで、せめて正体を明かすところだけでも最後まで聞いてほしい。頼むよ。

 

 ありがとう。

 

 おっほん!では改めて、彼の正体を語っていこう。

 それを知ることが出来るのは、もっと時間が過ぎ去った時。お客さんがみーんな湯船から出て、店じまいをした後のこと。

 

 暖簾を外し、入り口のカギをかけ。誰もいないことを確認した彼は、浴室へ向かう。

 ガラリ、と戸を開け。ペタリ、ペタリ、カツン、と素足の音を静かな浴室へ響かせながら。一歩、また一歩と湯船へ近づいていく。

 

 たどり着いた。ふちに手をかけ、身を乗り出し、でろん、と。2メートルはある舌を、その口から伸ばした。外から見た姿は、完全に人間のそれ。にも関わらず、一体どこに収まっていたのかと言う長さの舌が飛び出した。

 そして、それはゆっくりと、丁寧に浴槽の壁を、縁を、床を這いまわって―――

 

「んぐっ……ふぅ」

 

 集められる限りの「何か」をこそげ、集めまわり。そのまま、彼の口へと運び込まれた。

 手のひらに2,3は乗るであろうくらいの大きさの塊。それをぺろりと平らげ、一息ついて。

 

「うーん、やっぱり石鹸の味、美味しくない……」

 

 ……うん?

 

「はぁ、まっずいなぁ」

 

 そうぼやきながら、次の浴槽へ舌を這わす彼。……ん?

 

 

「石鹸の風味のせいで美味しくない……けど、ここで食べないと死ぬしなぁ……」

 

 それが真実なのだろう。いやいや言いながらも、食べることをやめようとはしない。

 

「俺あかなめだし。垢食べないと、死ぬし。仕方ない」

 

 などと。あかなめである彼は、誰に聞かれるでもなくぼやくのであった。

 ……えっと、いい加減その「ハイハイ知ってました」って顔、やめない?

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 あー、マズいマズい、と。文句をぶちぶち言いながらも這わせる舌の速度は緩まない。

 動き回り、こそげとって、飲み込んで。そんな動作を何度か繰り返し、別の浴室でも一通り行って。ようやく、牛乳を片手に一息つく。

 

「ったく、誰だよ『あかなめなら、銭湯の番台さんしたら食糧問題も解決して万々歳じゃん!』とか言い出したの。確かに解決するけど、味がまずいよ、味が」

 

 何をいっちょ前に語っているのでしょうか、この妖怪は。

 

「色んな種類の垢が楽しめるのはいいことだよ?うん、いいこと。人間たちのいう合い挽き肉みたいな感じなんだろうな」

 

 美味しいハンバーグが出来そうなたとえを銭湯の垢に対して使わないで欲しい。

 

「けど、石鹸はダメだ。ちょっとだけならまだしも、こうも全力で主張してくるんじゃたまったもんじゃない」

 

 いやだから、何をいっちょ前に語っているのだろうか。

 

「人間だって、1種類の調味料が妙に大量に入って主張してきたら嫌だろうに。なんだって分からないんだ」

 

 いや知らんが。石鹸は調味料と同じくくりなのか?

 

「はぁ……人間、体あらうのに塩とか使ってくれないかな」

 

 どこの世界に自分の身体に塩をすり込むバカがいるんだ。

 

「……口直しに、人間襲うか?」

 

 しれっと凶悪な響きのことを言い出した。けど口直しってことは、人間襲って捕まえて全身舐めまわすのではないだろうか。え、何その変態極まったみたいな絵面。こわ。ただの不審者じゃん。

 

「……いや、やめとこう。次は殺すって言われてるし」

 

 前科あったぞコイツ。がっつりあるぞコイツ。

 

「はぁ……仕方ない、酒でも買って帰るか」

 

 どうやら酒は飲めるらしい。

 ため息とともに立ち上がり、ふとスマホを見る。見ているのは、特になんて事のない、いわゆるSNS。

 ほぼ頭空っぽの状態で、何やら出てきている広告を無視して、

 

「……うん?」

 

 無視、せずに。

 改めてその広告を見て。居ても立ってもいられずに、どのページへ飛ぶ。

 一度流し読みし、改めて最初から読みなおし、最後には身を乗り出して確認するような勢いで。口元は、にやけが止まる気配もない。

 

「これだ、これだったら……!」

 

 深夜の誰もいない銭湯で一人盛り上がる外見40。

 あからさまな不審者ではあるものの、誰もいない銭湯では何か咎められるようなこともなく。

 買って飲もうとしていた酒のことなんて忘れ、彼は彼の立場をフルに利用して、見かけた「ソレ」を取り寄せた。

 

 

 

 =〇=

 

「うまーい!成功!!!」

 

 

 =〇=

 

 

 

 後日談と言うか、今回のオチ。

 彼が見つけ頼んだのは、とある石鹸だった。

 「豆乳を使った」とされるその石鹸。それによって洗われ溜まった垢は、ほのかにその味わいを含み、大変美味。料理店でクリームをすり込ませるのも納得できるほどの味わいだったという。いやそんなところでそっち側に共感してやるな。

 

 またその後、この結果に味を占めた彼がまた別の石鹸を多種取り寄せ、入れ替えて試しまくろうと唐辛子を用いた石鹸を出したあたりで。昔彼を番頭に仕立て上げた陰陽師に死なない程度にフルボッコを受け、土下座で謝ることになるのだが。

 

 それはまた、別のお話。

 

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