皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
小豆あらい、と言う妖怪がいる。
有名どころだし、何と言うかキャッチーだしで知ってる人も多いと思う。と言うか、知ってるよね?皆今頭に思い浮かべてるよね?
ほら、ザルみたいなのに小豆を乗せて、川で洗ってる妖怪。シャリシャリって小豆のこすれる音を響かせる、そういう妖怪。
よし、これでもう全員の共通認識である小豆あらいが復活しているはずだ。今言ったことを知らない人なんて日本にいるはずがない。日本以外の人は申し訳ない。いい機会だから知って帰ってほしい。
さて、そんな妖怪小豆あらい。ある意味では日本で一二を争うレベルで有名なんだけど、同時に一二を争うレベルで影の薄い妖怪。そんな存在のことを何故突然に語りだしたかと言えば、だ。
「つまり、はい。現代で手前どものような弱小妖怪がそれでもなお妖怪らしくあるためには、もうこういった手段しかないのではないかと考えた次第でございまして」
「だからと言って、寝てる人の耳元で小豆をあらうやつがあるか」
休日前の優雅な睡眠時間を、足元に縛り上げた小豆あらいを名乗る何某かに妨害されたからに他ならないのだけど。
さて、どうしてくれようか。
=〇=
事の次第はこうだ。
①金曜日の仕事終わり、コンビニでお酒を買って帰ってきた。
②冷蔵庫の中身をテキトーに並べながらお酒を呑み、ほろ酔い気味で楽しい気分になってきた。
③その幸せ気分なまま布団に入り、目覚ましを切って眠りについた。
④ふと深夜に、耳元でザラザラと音がした。
⑤目を覚ましそちらを見たら、なんか小僧がいた。
⑥殴ってふんじばった。
さて、と。
「こういう時はどこに連絡すればいいんだろ。日本にもこういうトンチキ生物の研究してる秘密機関とかあるのかな……」
「待ってください引き渡す気ですか!?」
「や、上手いこと行けば買い取ってもらえないかなって」
「売られる!?」
まぁ、うん。明らかに見た目が小さな鬼と言うか、そんな感じだし。私でも縛り上げられたということは、さして凶暴だったりする感じもない。安全そうなら利益を考えてもいいと思うのだ。
……まだお酒残ってるかな?
「ダメだ、頭働いてない……お茶のも……」
「あ、自分は小豆茶をお願いします」
「そんなもんはない」
「現代人の小豆離れですね」
何だこの意味不明なことを言ってる小鬼は。昔はそんなに流通してたのか、小豆茶。聞いたこともない。
グラスにお茶を注ぎ、一気に飲み干す。ほっと一息。いくらか意識がはっきりしてきた。
その状態で改めて、それを見る。縛り上げられた小鬼。そのそばには、散乱した小豆とザルが一つ。うん、夢の中ってわけじゃないのなら、あまりにも異様な光景である。夢の中であってほしい。
頬をつねる。うん、痛い。
願いは通じなかった。
「それで?えっと、小豆あらいさん」
「はい、小豆あらいでございます」
「何やってたんだっけ、私の枕もとで」
「いやほら、自分、妖怪ですから」
「うん、知ってる」
「それも、小豆を洗うって妖怪なんですよ」
「うん、それも知ってる」
「その存在意義を、分かるようにやろうかと」
「うん、なるほど分からん」
説明下手か、コイツ。
「では、逆にお尋ねしますが」
「え、まさかのこの状況で逆に質問を?」
「はい。お聞きします」
なんか聞くそうなので、お任せすることにした。
「仮に、です。ふと街中を歩いていて、小豆を洗う音が聞こえてきたとします」
「はい」
「怖いですか?」
「いや別に。なんならイヤホンしてるから聞こえないと思う」
「そうなんですよ!」
近所迷惑なので叫ばないで欲しい。
「小豆を洗う音を聞いたとして、誰も怖がらないどころか不思議がることもない!さらに言えば、聞こえてすらいないこともあるのです!」
そりゃ、イヤホンしてたら聞こえないわな。
「そんなの、何のために小豆を洗っているのですか!」
「まって、音を聞かせるために小豆を洗ってるの?」
「そうですが?」
「何の意味があるの、それ」
数秒間、沈黙が流れた。
これ音を出す以上の意味ないな、さては。
「おっほん、話を戻します」
「おう、この状況でずぶとく戻せる根性に免じて許可してやるよ」
「しかし、妖怪小豆あらいとして生を受けた以上、そうも言ってられません」
「いや、諦めればいいと思うよ。別に小豆を洗う音を聞かせないと死ぬわけじゃないだろうし」
「いや死にますよ、妖怪ですから」
妖怪厳しすぎない?
「さて、そんなこの現代社会。我々音を聞かせる妖怪にとっては最大の敵であるいやほんやへっどほんに対する対抗策として、数多の時間を使い考え、一つの結論にたどり着きました」
「一つの結論」
どうしよう、この状況のせいで嫌な予感しかしない。
「そう、それは……人は寝るとき、イヤホンを外すのです!」
「最近は外さない人もいるらしいよ」
「えっ」っていう顔をする小豆あらい。いやまぁ、うん。だっているんだもの。
そして、それ以前に、だ。
「だからと言って寝てる人の枕もとで小豆あらって睡眠妨害していい理屈にはならなくないか?」
「だって他に確実に聞かせられる状況ってないんですもの。それに」
「それに?」
「今のところ起きたのはあなただけでしたので、まぁいいかなぁ、って」
へぇへぇ、そんな物音で起きてしまう神経質さで申し訳ありませんでしたね。
「さて、そういう次第でございまして」
「あん?」
「事情の説明はしたのですから、これ、ほどいてくれませんか?」
「……うん?」
「いやほら、寝ていたところを邪魔したのは悪かったですけど、こちらとしてもそうしないと死んでしまうと言う事情があったわけでして。そんなこんなを加味すれば許していただけるのではないかと考える次第でございまして、ですのでほら、そんな首根っこひっつかんで運ぶのではなく縄を、あの、何で水をためてガボボボボボボボボ!?」
「いやまぁ、こうするためだけど」
とりあえず、安眠を妨害された腹いせに顔面を水へ突っ込んでみた。小柄で軽かったので思いつきのまま行動したのだけど、うん。すっきりした。
「命を何だと思ってるのですか!?」
「や、人間でも動物でもない命を命とカウントする?」
「しますよ!……しますよね?」
どうだろう。しない気がするんだけど、私は。
「それで?えっと、小豆を洗う音を聞かせないと死ぬんだっけ?小豆あらいって妖怪は」
「え、この状況で冷静な話に戻るんですか」
「何、もう一回行っとく?それとも今度は窓の外に放り投げる?」
「話に戻らさせていただきたいです」
うん、物分かりがいいのはいいことだ。
「それって、聞いた側が不思議がったり怖がったりしないといけないの?」
「いえ、それは別にどうでもよいのですが」
「だったら」
「個人的な趣味として、そっちの方がいえなんでもありません」
うんうん、素直でよろしい。
「じゃあほら、小豆を洗う音を録音して販売するとか」
「どこに需要があるんですか、それ」
「それはそう。マジで無価値」
どこの世界に需要があるのだろうか。や、上手くやればリラックス効果とかあるのかな?波の音とかでそう言う話聞くし、ワンちゃんあるような気もする。
「まぁ、やるだけやってみたら?」
「いやですから、買う人いますかね?」
「そこが怖いならほら、無料公開で」
「はぁ」
「24時間くらいのを」
「収録中に死にますね、それ」
思った以上に人間みたいな耐久度してるな、妖怪小豆あらい。
「あっ、でもあれか。そもそもパソコンとかがないのか」
「あ、いえいえ、それくらいはありますよ」
「あんの?」
妖怪が?それも小豆あらいが?
「はい。普段は人間に化けて暮らしてますから。すまほもほら、こんな感じで」
「マジかよ小鬼がスマホ持ってるよ」
時代だなぁ、というか。そこまで来てるなら小豆をあらう音なんて昔だから成り立った妖怪から進化してくれよ、と言うか。
「ではまぁ、そこから始めてみますか」
「え、マジでやるの」
「へぇ、まぁ。個人的にはこれまで通り寝てる人の耳元で洗っててもいいのですが」
よかないけど、私以外のところに行くのなら、まぁ。
「次捕まったら今度こそ命なさそうですし」
「そんな普通に命無くすのか、妖怪」
「何言ってるんですか、小豆あらいですよ?簡単です」
何故誇らしげなのだろう。
「だったらまぁ、やるだけやってみようかなぁ、と」
「なるほどね」
「ダメだったら枕元小豆あらいです」
次来たら殺してやろうか、とすら思った。なんだその新しい単語は。もはや別種の妖怪じゃないのか、それ。
「と言うわけで……コレ、ほどいてくれません?」
「あー……まぁ、うん。いいか」
何というか、うん。もう疲れたし。
ここまでされてまた私の枕もとに立つことはないだろうから、いいとしてやろう。縄をほどき、開放してやった。
=〇=
後日談と言うか、今回のオチと言うか、何と言うか。
某動画投稿サイトで、長時間延々と小豆を洗ってるだけの動画が、謎のバズりを見せた。
=〇=
さらに後日談と言うか、何というか。
「考えてみたら、録音したものを聞かせてるだけでリアルタイムに洗ってる様子じゃないから駄目だったらしく、暫く気付かなくて死にかけてました」
「マジでめんどくさいな、小豆あらい」
クッソ弱った小豆あらいが玄関から訪ねてきた。
……え、まさか見捨てられないの、これ?