皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
人を呪わば、穴二つ。
呪詛返し、罰が当たる―――
古来より人間は、悪しき事をすれば、災いが返ってくると考えた。
なぜかって?さぁ、何でだろうね?そういうことにした方が都合が良かったのか、はたまた悪い事をしないようにという教育としてか。
考えただけ答えが出てくるし、考えたところで結論は出ない。そういう類のお話。
だから、私はこう考える。「呪いなんてものに頼っても、いい結果はえられない」という、ただそれだけの事実なのだと。
そんな当たり前を示すためだけに、この言葉は存在しているのだ、と。
わぉーん。
おや。遠吠えが聞こえてきた。
=〇=
深夜、とある人気のない神社の境内。
ただこう書くだけでもうっすら不気味なその空間に、一人の少女がいた。
家族が寝静まった中抜け出してきたのだろうか。外を歩くには不自然な格好で、さらに不自然なことに大ぶりなスコップを片手に持つ彼女。
一心不乱に土を掘る。掘って、掘って、掘り返して。
お風呂で清めただろう手足が、せっかく着替えたであろう寝間着が土に汚れていくことなど見向きもせず、ただ一心不乱に。目だけはギラギラと輝かせ、手のひらから血を滲ませながら。
ただただ一心不乱に、土を掘る。
=〇=
執念というモノは、何とも怖ろしいモノである。
きっかけは、ほんの些細な事なのだ。なんてことはない、数日を過ごせれば忘れてしまうような、その程度のこと。
にもかかわらず、その程度のことを大きく燃え上がらせてしまう。
挙句の果てに。倫理観と言う枷を、外してしまうのだ。
=〇=
「よし、これくらいで……」
その細腕でどうやって、と思わずにはいられない。少女は暗闇の中、それほどの穴をあけた。
夜の神社の境内に、スコップを使い、一人で。一体何が、そこまで突き動かしたのか。
そして何より。何のために、この穴をあけたのか。
「確か、次は……」
こちらが気にしているのに気付いたのだろうか。何のために、の部分を見せてくれそうな言動。
立ち上がり、傍らの荷物を持ち上げる。何ヶ所か紐でぐるりと縛られた、布の塊。
何かが中に入っているのだろう。そんな風に見えるそれを穴の中に立て、根元を土で固める。
自立するようになったら、急いで周りを埋めていく。
先ほど掘り返した土の山を崩し、なだれ込んだそれを叩いて固め。そうやって、自分であけた穴をどんどん埋めていく。寝巻が汚れる事など思考から完全に消えたのか、足で蹴り落としてすらいる。
埋蔵金の真似事か、はたまたたいむかぷせるなるものか。子供ながらにそんなことでも考えたのだろうか、と見守るも、どうにも違和感が。
少し観察して、違和感の正体にはすぐ気が付いた。先ほど埋めていた、布の塊。その端っこから1番目の結び目までが、土の上に出ているのだ。
何かを埋めに来たわけではない。それは間違いなくなった。
にもかかわらず、彼女は土をしっかり固めている。小さな矛盾。今度は首を傾げる間もなく、解消された。
一番端の紐を解く。続けて、外に出ている結び目も。布が開き、中身が月光に照らされる。
それは、子犬だった。生きてはいるが、ろくに身じろぎもしない程に弱った子犬。
ろくでもない事の気配がする。
少女が犬の視線の先に食べ物を置いたことで、それは確証へと変わった。
=〇=
「せんぱーい、お疲れ様でーす」
「ん?あー、お疲れ」
職場に背を向け歩く人影へ、駆け寄りながら声をかける。
追いつくまで待ってやりながら、今度は声をかける側に。
「にしても、元気だなオマエは」
「え、そう見えます?元気に見えます、自分?」
「おう、見える見える。是非とも分けて欲しいくらいだ」
「よっし、だったら上手くやれてますね」
これまた軽い口調で答える後輩の言葉に、先輩は眉をひそめた。
「なんだ。空元気か、それ」
「はい、まぁ。思ったより人の心あったんだなー、自分って感じです」
「だったらわざわざ隠すなよ、紛らわしい」
「いやいや、流石に家族に心配かける―――のはいいんですが」
「いいのか」
「はい、家族ですから」
ちょっとうらやましいな、等と考えながら。
「それはそれとして、今日の仕事内容を家族にはなすのは、気が引けて」
「あー、なるほどなるほど。そりゃそうだな」
交通事故現場の野良猫の処理をして、心が沈んでいる。
そんな話、とても家族にはできない。
「あーあ、なんだかなぁ」
「何でこんなことになったのか?」
「や、それはなくて。冷徹かもっすけど、猫に限らず車と動物と、なんてのは日本中であることですし」
そこに落ち込んでいたわけではないのか。
「ただ、こう。ちゃんとした埋葬っていうか、そういうのが出来ないのが、なんだかなぁ、って」
ちゃんとした、ってのもよく分かんねぇっすけどね。
なんて続けながら、足を進める。
「そんな感じで色々もやもやして、こんな感じになってるんです」
「……オマエ」
「はい?」
「そんなしっかりしたところ、あったんだな」
「今遠回しに命にすら無関心なちゃらんぽらんって言いました?」
「言った」
「せめて誤魔化してくださいよ」
演技なのか、本心なのか。落ち込んだ様子を見せる後輩。
まぁ、これも先輩の役割だろう。
「酒でも飲んでくか?」
「おっ、なんです?奢ってくれるんですか?」
「今回だけな。明日、また直面する事になるんだし。今のうちに楽になっとけ」
言いながら、さて店をどうするかと考える。財布の中身は、心もとない程ではないが、潤沢ではない。
先輩の威厳を潰さないためにも、仕事で使ったことない程に頭を回す。
=〇=
紐を解き、餌を置く。
狙いを考えるとギリギリ届かないところがいいんだろうけど、その塩梅が分からなくて、とりあえず遠めに置く。犬は鼻がいいから、これでもたぶん気付くだろう。気付いてくれなかったら、少しずつ近づければいい。
「よかった……」
気付いてくれた。首を伸ばし、舌を伸ばし。生にしがみ付くため、なんとしてもそれにしがみ付こうとする。首が、伸びている。
「よし……やるんだ」
立ち上がる。
穴を掘るのに使ったスコップ。柄を両手で持って、大きく振り上げて。首を伸ばす犬の横に立つ。
振り下ろせ。振り下ろせ。振り下ろせ。振り下ろせ!何度も何度も自分の身体に命令して。命令された体は、ガタガタ震えるだけで振り下ろさない。
「どうして」
つい、言葉が口をつく。
どうして。何でこんなことをしてるの?
違う、そうじゃない。そんなことじゃない。
どうして。何でここまで来て、最後の一手をためらうの?
うん、そうだ。こっちが正しい。
だって、こうするしかないんだ。
だって、これしか思いつかないんだ。
だって、だって、それに、だって……
どうせ、この犬は。放っておいたら、あのまま死んでたんだ。
だったら。だったら、何も変わらないじゃん。わたしの都合で使ってもいいじゃん。
そうだ、どうせそうなっていた。今にしたって、ココまで弱っているのだから、この後どうしたところで変わらない。ほんの少し、早まるだけだ。
だから、うん。
私は、悪くない。
自分の中で、そう結論づいて。
そのまま自然と、振り下ろし、そして。
「……え?」
=〇=
犬神。動物霊を呪詛へ作り変える、あってはならない儀式。
本来ならば、どう足掻いたところで成功などしないだろう。素人がどれだけ正確に手順を追ったところで、犬の命を奪って終わるだけの儀式にしかならない。
だが。だが、だ。ココはマズい。今はマズい。何せ、今ここには本物の神がいる。
神がいる場で、神の目の前で儀式を行う。それも、「神」の名を持つ呪詛の儀式を。
その後押しをもって、儀式が完成してしまう!
等と、止める手段もない中見守る、その先で。
「……は?」
=〇=
ドサリ、と。物が落ちる音がする。
ゴロリ、と。先ほどよりは軽い物が落ちる音がする。
人気のない境内へ、二つの音が響きわたる。
少女の倒れる音と、その首に喰らい付いた犬の首が落ちる音が。
誰一人いない境内中に、虚しく、響き渡った。
=〇=
「あ~あ、まったく。命を狙われるなんて、たまったもんじゃないにゃぁ」
真昼間の田んぼ道。真っ白なワンピースを着た少女が、歩きながら独り言。
「まぁ~?猫には魂が9つあるから、これくらいピンチでも何でもにゃいんだけどにゃ~」
我ながら天才だにゃ~。などと。先ほど通りすがった、黄色いテープで封鎖された神社を思い出す。
「さ~って、と。程よく暇にゃし、またあのエロガキのところにでも遊びに行くかにゃ~」
安全も、確保されたし?