皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第二十七回 から傘おばけ

 から傘おばけ、と言う妖怪がいる。とか言って書き出したが、まぁ誰でも知ってる妖怪だろう。 一つ目の傘に人間の足がついてる、みたいな。大体そんな感じの妖怪。腕が生えていたり口があったりってアレンジはそれぞれの物によってあるけれど、それくらいはまぁ置いといて。

 

 大体そんな感じのイメージで固定されているであろう妖怪が、から傘おばけである。

 名前から思い出せなかった人も、これで思い出せただろうか?そう、そいつだ。大体において重そうな和傘がソレになっている絵を見る、ソイツである。

 

 ……こう言ってて思ったのだけど、もしかして現代ならもっと違う傘のバージョンもいるのだろうか。

 

 例えば、ほら。所謂紳士用の傘に一つ目と人間の足が生えたから傘おばけとか。

 女性用の日傘に一つ目と人間の足がドッキングされたから傘おばけとか。

 コンビニのビニール傘に一つ目と一本足が備え付けられたようなから傘おばけとか。

 

 傘の種類が多種多様になるにつれてから傘おばけの見た目にも彩りが生まれていたりするのだろうか。

 

 ……現実逃避終了。

 たぶん、うまれてるんだろうなぁ。

 

「ほら、何を迷っているのかね。外はこんなにも雨が降っていて、予報ではここからすぐに収まる様子はない。加えて、傘自身が使って問題ないといっているのですから」

 

 等と。現実から目をそらしてもなお声をかけてくるその紳士向けの傘がいる以上、きっといろんな種類のから傘おばけがいるのだろう。現代には。

 

「聞いているのかね、青年?」

「あ、はい。聞いてます。聞いてますので。はい、大丈夫です」

 

 しっかり返答をしてきたその傘に返事をして。さてどうしたものかと考えるも、土砂降りの雨という現実は変わらない。

 考えれば考えるだけ疲れそうだし、ここで無視して恨まれても損だ、なんていう思考で、その傘を……傘から伸びるスーツの足を手に取る。

 

「青年よ」

「はい?」

「男同士とはいえ……むしろ男同士であるからこそ、他人の足に無言で触るのは、問題があるとは思わないかね?」

「どう使えってんだよテメェ」

 

 さっそく手に取ったことを後悔してる。なんだこの傘、ふざけてるのか。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「うっわ、雨じゃん……」

 

 レポートのための調べ物を終えて図書館を出ようとすると、入った時とは結び付かないほどの土砂降りだった。

 いや、うん。マジか。そんな予報無かったから傘持ってきてないんだけど、今日。

 

「いや、でも、うん。こういう雨って、大体ちょっと待てば収まるし」

 

 絶望しかけたけど、冷静になれば、うん。急に振り出した雨ってのは、少し待てば収まるというのが定番だ。なんなら焦ってそれに気付かずびしょ濡れになって公開するまでが定番説もあるのだけど、どうやら俺はちょっと冷静になれる頭のいいタイ

プだったらしい。

 

「よし、もうしばらく待つか」

 

 レポートのための調べ物で帰る予定だったけど、ついでにレポートを済ませていけばいい。

 何なら、帰ったらだらけるだろう事が目に見えているのだから、雨に助けられたといっても過言ではない。

 

 おや、そう考えると雨もいい物なのでは?なんて。そう考えて、図書館内の空いてる席へ向かう。

 向かい……

 

「あー、うん。つまるところ、俺は冷静な判断なんて出来ないマヌケだったってわけだ」

 

 先ほど帰ろうとしたタイミングより勢いのある雨を目にして、ついボヤく。

 いや、うん。いやな予感はしてたんだ。なんかレポートやってる最中、段々外の音が酷くなってったし。気のせいだと思おうとしてイヤホンを付けたのが、俺の敗因だったんだと思う。

 

 さてと、うん。改めて。

 どうすっかなぁ、これ……

 

「おやおや、青年。困っているのかね?」

「はい?」

 

 なんか声をかけられた。

 ってか、青年て。なんだその呼び方。ふざけてんのか、オイ。

 

 等と思いつつ、大学内なので下手なことは口走れない。声の主を見てから判断しようと周りを見回して。

 

「……あん?」

 

 誰もいない。

 いよいよもって雨で頭がおかしくなったんだろうか。

 

「おーい、青年。こっちだ、こっち」

「……どっち?」

「こっち。ほら、もう少し右下」

「右下、右下……は?」

 

 言われるがまま視点を下げていくと。なにやら、変な物体が傘立てにたてられていた。

 いや、変な物体と言うか。人間の足がたてられてた。

 

 なんですか、刑事事件か何かですか。バラバラ殺人でも起こりましたか、ここ。

 

「お、やっと気付いたかね」

「気付かなかったことにしていいですか?」

 

 おっといけない、つい本音が。

 

「そんなことを言っていいのかね?この雨の中、どう帰ろうかと悩んでいたのでは?」

「いや、大丈夫です。そんな悩み今この瞬間、どうでもいい悩みに格下げされましたから」

「それはいけない、風邪をひいてしまうぞ」

 

 既に頭の病気を疑ってるんですよ、こちとら。

 

「さ、ほら。遠慮せず、私を使ってくれたまえ」

 

 遠慮とかじゃないんだけど、と返しそうになるのを、ぐっとこらえた。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「はっはっは、いやぁすまないすまない。長らく使われていなかったせいで、傘とはそうやって使う物であることを忘れていたよ」

「いや、そんな自分自身に関わることを忘れないでくださいよ」

「まったくもってその通り。いやぁ、面目ない」

 

 あの後。「じゃぁどうやって使うんだ」と返したら「それはそうだな」と納得され、(嫌々ながら)スーツの足をつかんで帰路についているわけなのだが。

 さて、うん。冷静になればなるほど、この状況どうなってるのかわからなくなってきた。

 

「えっと、ですね」

「なんだね、急にあらたまって」

「あ、いや。から傘おばけで合ってるよな?」

「その通り、私はから傘おばけだとも」

「一つ目と一本足が傘に付いた妖怪の?」

「うむ。とはいえ、今は目を瞑っているがね」

「あ、目閉じてるんだ」

 

 意外ではあるけど、助かるな。でないと、傘のデザインがぶっ飛びすぎている。

 

「うむ。でないと雨が目に入って痛いからな」

 

 むっちゃまともな回答が返ってきた。そら雨が目に入りまくったら痛いわな。

 でもから傘おばけ、そんなこと気にするんだ。ダメなんだ、妖怪も目に雨とか水とか入るの。

 

「何か勘違いをされていそうだから話すのだがね」

「あ、はい」

「そもそも傘の形状からして、目に雨が入るのを防げることはないのだよ」

 

 言われてみて、傘の形とから傘おばけの姿を思い出す。

 確かに、目に入ろうとする雨を防げるような形はしていない。

 むしろ雨を目が受け止めるような、そんな形をしているような気すらする。

 

「だから、正直に言えば雨の日に外に出るのは嫌いですらある」

「おい傘の存在意義」

「別に我々、傘として使われるための妖怪ではないしな」

 

 いや、確かにそうだけど。傘の用途として扱われる妖怪じゃないんだろうけど。

 それにしたってそれでいいのか、から傘おばけ。

 

「あれ、でもそれなら何で俺に声かけたんだ?」

「うん?そんなの、決まっているだろう」

「決まってるのか」

「あぁ、至極当たり前のことだ」

 

 なんだろう。困っていそうだから声をかけたとか、そういう話なのかな。

 

「あんな体勢で傘立てに立てられていたら、自力では抜け出せないだろう?」

「うん?」

 

 なんか話がそれてきたぞ、と思いながらコレと出会った時のことを思い出す。普通の傘と同じように傘立てに立てられていた。

 紳士向けの傘にスーツに包まれた一本足だけが生えているから傘おばけが、傘立てに逆さに立てられていた。

 体勢と言う言葉に倣うのなら、から傘おばけが頭を下にして傘立てに立てられていた。

 

 うん、確かに自力では抜け出せない。

 

「故に、誰か人間に使われることで脱出をしようと試みたわけだ」

「うん、そんなの完全に想定の外側なんだよ」

 

 そんなパターン誰が想像するか。

 

「つーか、なんだってそんな自分で抜け出せない体勢になってたんだよ」

「何でもなにも、私がから傘おばけになったの、つい数時間前のことだからな。人間は傘をあそこに立てるのだろう?」

 

 あ、そういう。

 なるほどそれなら確かに。から傘おばけになったと思ったら抜け出せない体勢だったわけだ。人間に助けを求めたくもなる。

 

「って待て、俺傘泥棒したことにならないか、それ!?」

「あー、それは大丈夫だろう」

「何が大丈夫なんだよ」

「私の持ち主、この足を見て悲鳴を上げて走り去ったからな」

 

 ……自分の傘からスーツ着て革靴履いた足が生えてたら、そら逃げる。

 

「今頃自分の傘のことなど忘れて―――いや、忘れようとしているのではないかな?」

「まぁ、忘れたいだろうな」

 

 むしろ忘れたくない理由がない。

 

「そういうわけだから、安心したまえ」

「そんな安心をすることになろうとは」

 

 傘泥棒には変わりないけど、一先ず安心はした。

 と、そんなタイミングで駅に着く。うん、結構大きめの傘だったから濡れずにすんだな。ありがたいありがたい。

 

「おや、もう駅か。ちなみになのだが、電車を降りてからまた歩きかね?」

「ん-、普段は歩いてるけど……今日はこの雨だし、バスにするかなぁ」

「ふむふむ。バス停から家まではどのように?」

「すぐそばだから、たぶん何とでも」

「であれば、一つ我儘を言ってもいいだろうか?」

 

 我儘。

 なんだろう。まぁ、ココまで雨に濡れずに来られたし、多少は聞いてもいいかもしれない。くっだらない話も楽しかったといえば楽しかったし。

 

「いいけど、そんな出来る事ないぞ?」

「大したことではないさ。私をここに置いていってほしい、と言うだけだからな」

 

 ふむ、ここに。

 

「それはまたなんで?」

「いや何、私を捨てて帰った元持ち主を祟るには、余り遠くに行くわけにはいかないだろう?」

 

 ……うん?

 

「捨てられたものの恨みは重いのだよ、青年。元来付喪神とは、大切にされれば福をもたらすが、捨てられたなら強い恨みをぶつける物なのだから」

 

 …………うん?

 

「あぁ、とはいえ安心したまえ。ここで私を置いて行ったとしても、君に恨みをぶつけることはしない。仮にも恩人だ、今後何があろうとも君へ害をなすことはしないと誓おうじゃないか」

 

 …………あー、うん。

 

「その口ぶりからすると、元持ち主さん、この辺りに住んでらっしゃる?」

「そう記憶している。物だったころの記憶故曖昧ではあるのだがね、そのはずなのだよ」

 

 そういう意味でも、余り遠くまで連れていかれると戻ってくるのが大変で……なんて言っているのを聞き流しながら、状況を理解する。

 

 なるほど、うん。よーく理解した。

 

 まだ何か言っているのを聞き流しながら駅に入り、傘を閉じる。しっかり閉じれば外からは変わった柄の傘にしか見えないだろう。

 

「うん?青年よ、私の話を聞いていたかね?」

 

 

 そう信じて足を進める。確かこの駅には……お、あったあった。

 目的の物を見つけたので、気持ち駆け足気味にそれに近づき。手に持った妖怪を、そこへ差し込む。

 

「うん?青年??」

 

 イヤホンをつけながら、背を向ける。『急な雨にあった方、ご自由にお持ちください』とあるそれ。

 この路線で前からやっているらしい地味に助かるサービス用の傘立てに、その傘を突き刺しておく。

 大丈夫、その場しのぎ用に買ったビニール傘とかも壊れてなければ置いて行っていいって前に駅員さんから聞いたし。

 

 ちょっと妖怪にはなっちゃってるけど、壊れてはないからセーフでしょ。

 

「いやぁ、うん。実質殺しの片棒担がされるとか、面倒でしかないからなぁ」

 

 改めてそうぼやきながら、改札へ向かう。

 うんうん、もう二度とないだろうけど妖怪になんて関わらないようにしようっと。

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