皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第三十一回 髪切り

 それは、とある都市伝説。

 曰く、この街には「皆行ったことがある、誰も場所を知らない理髪店」があるという。

 

 曰く、そこには凄腕の理容師がいる。

 曰く、そこでは極上の一時を味わえる。

 曰く、その場所は誰も知らない。

 曰く、そこは行こうと思って行ける場所ではない。

 曰く、そこでの時間は誰も覚えていない。

 

 曰く、曰く、曰く、曰く……

 

 口伝に伝わる都市伝説、民衆によって紡がれる神話たるフォークロア。

 その特色を十二分に備えるその話。誰も知らぬが故、冗談話の一つとして流れるはずのソレ。

 

 しかし。この話をする者は、必ずこう始めるのだ。「わたしも行ったことあるんだけどね」と。

 

 それはおかしいだろう、って?うんその通り、おかしな話だ。都市伝説っていうのには、お決まりの話文句がある。

 そう、「これは、友達の友達が体験したことなんだけど」というそれ。

 よくよく読めば「それって自分のことじゃない?」となる文言だけど、あくまでも「自分が体験してないこと」として話すのが都市伝説の様式美というモノ……うん?え、そっちじゃないって?そんな様式美とかどうでもいい?

 ……悲しいなぁ。

 

 で、なんだい?何がおかしいって?

 

 —――あぁ、そうか。うん、それはそうだ。当たり前すぎて忘れてた。「誰も覚えていない」と言ってるんだから、「行った」なんて言えちゃおかしい、と。うんうん、それはそうだ。

「生存者がいない」のに「記録されている」系の都市伝説並みに、おかしなはなしだとも。こう書くとよくある事なきがしてきたな。

 

 さて、話を戻そう。何故それなのにみんな「自分も行った」と確信できるのか。それは、きわめて単純な理由。

 

 記憶はない。なのに、時間にしてほんの数秒しかたってないのに。

 自分の髪が短くなってれば、誰だって確信が持てるってものだろう?

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「おや、いらっしゃいませ」

 

 カラン、と言う音とともに声をかけられる。顔を上げると、そこにはいたって普通の男性がいた。

 

「え、っと……」

 

 歩きながら弄っていたスマホをポケットにしまい、改めてそこを見回す。椅子があって、髪を洗う台があって。つまるところここはそう、美容室とか、ラフに言えば床屋さんとか、そういうところだ。

 

「あー、すんません。前見てなかったので、間違って入っちゃったのかも」

「ちゃんと前を見て歩かないと、危ないですよ?」

 

 ごもっともな意見。言われ慣れてるけど、なんも言い返せない。

 

「ですがまぁ、今回はそうじゃないです。なので、ご安心を」

「違う?」

「えぇ、違います。迷い家って、ご存じですか?」

 

 存じなかったので、説明してもらった。ふと現れる家の妖怪で、訪れると幸福になるとかなんとか。

 うん、よく分からん。

 

「まぁ、あれです。本来ないはずの家がそこにある、みたいな」

「ますますわからなくなりました」

「じゃあ、神隠しにあったみたいな」

 

 急に分かりやすくなった。神隠し、なるほど。

 

「え、神隠しされたんですか、俺」

「はい。ちょっとばかり神隠しされちゃってますね」

 

 そんなお手軽に神隠しされましても。

 

「ま、立ち話もなんですし。座って下さいよ」

「座ってって、そこに?」

「はい、こちらに。髪、結構伸びている様子ですし」

 

 それはまぁ、その通りだ。

 大学にバイトにと中途半端に忙しくて、切りに行くのも面倒で、としている間に伸びてきた。風呂上りが鬱陶しくはある。

 あるので、まぁ座ってみる事にした。

 

「どれくらいにしときます?」

「短すぎても落ち着かないので、こう、それなりくらいで」

「はいはい、それなりくらい」

「あとおしゃれなのもむず痒いし、セットできる気がしないんで、こう、そんな感じで」

「似合いそうなんですけど……まぁ、承知しました」

 

 いつもしてるオーダーを、そのまんま投げてみる。勝手なイメージとして、変に細かくオーダーするよりもお任せしてしまった方がいいと思っている。

 何せ相手は、プロなんだから。

 

 ……神隠し先にプロとか資格とか、あるんだろうか?

 

「えっと」

「はい、なんでしょう」

「今時の神隠しって、こんな感じなんですか?」

 

 髪に蒸しタオルみたいなものを乗せられながら、気になったことを聞く。

 

「こんな感じ、というと?」

「こう、ヘアサロン神隠し、みたいな」

「神隠し友達に聞いた感じだと、うちくらいですかねぇ。他ではちゃんと行方不明とかチェンジリングとかしてるらしいですよ」

 

 それがちゃんとなのか、神隠し界隈。

 

「じゃあ、お兄さんはなんでこんなことを?」

「ん-、説明するのが難しいですね」

 

 などと言いつつ、しゃがんで何かを取り出す。鏡越しにチラッと見えたのは、黒い鋏みたいなモノ。珍しい?

 と、それを手に戻ってきたお兄さん。そのままポン、と俺の頭の上に乗せた。

 

 ……え、乗せるの?

 

「えと、え?」

「こちらがですね、私のペットというか、家族というか、なのですが」

 

 ペット。家族。つまりこれ、生きてるの?

 怖くなってしまい、鏡の中のそれに意識を集中させる。見えるのは、黒くて鋭そうな鋏の刃が一対。もしかして無機物をペットや家族扱いするタイプの方だろうか、と訝しんだあたりで、それが動いた。

 

 クワガタのはさみがガチ鋏になった奇怪な虫がそこにいた。

 

「なんですかこれ!?」

「髪切り、っていう妖怪ですね」

「妖怪!?」

「迷い家に神隠しに、って会ったのに今更驚くんですか」

 

 言われてみればその通りだ。

 その通りか?ホンマか?むしろ最初からしっかり驚かないといけなかった奴じゃないのか???

 

「妖怪をペットにしてるんですか!?」

「はい。—――あー、いえ。ちょっと違いますね」

「違うんですね、よかっ」

「ウチの理容師です、って今は言うべきでしたね」

 

 違うそうじゃない。

 そんな話がしたかったのではない。

 

「で、なんでわざわざ神隠しをしてやることが理容室、美容室系なのかって話なんですけど」

「あ、戻るんですね」

「はい、戻りますよ。髪を切ってる間のお喋りは基本でしょう?」

 

 確かに、喋る人もいる。大体はテンポよく話してくれるから、楽しいんだよなぁ。

 

「まず第一に、表で普通にその子達だしたら大騒ぎになるじゃないですか」

「なるでしょうね」

 

 妖怪が実在した、って時点で大騒ぎ間違いなしなんだけど。

 

「なんですけど、その子達髪切りって妖怪でして」

「ものすごくドストレートな名前ですね」

 

 今まさに頭の上を縦横無尽に歩き周りながら髪を切っているこの妖怪の名前がそれというのは、覚えやすくてよい。

 

「で、髪切りである以上は髪を切らないといけないんですよ」

「あー、まぁ、そう……なのか?」

「はい。髪を切る存在が髪を切らないと、存在ごと消滅します」

「厳しいな、妖怪」

 

 簡単に消えすぎでは?

 

「ただ、私の髪をしょっちゅう切らせるのにも限界がありまして」

「無限に伸びるわけじゃないですもんね」

「髪鬼や毛女郎に生まれたかったです」

 

 名前からして髪が無限に伸びそうな妖怪だ。

 

「じゃあ理容店にすればいいんじゃないか、という事になったんです」

「発想が何段階か飛んでません?」

「ちょうど迷い家もあったので、隠れて営業することも出来ますし」

「ちょうどあったのインパクトが凄いな」

「最初の方の方々には、申し訳ない事をしてしまいましたがね」

 

 あえて口を挟まないことにした。

 たぶん、あれだ。練習台にでもしたんだろう。

 唐突に神隠しにさらわれて、髪を切る練習台にされる。うーん、恐怖。

 

「あ、鋏交換しますね」

「はーい」

 

 大まかなところは切り終えたのだろう。ざっと櫛を通して切れ端を落としてから、別の髪切りが乗せられた。鋏の形が違う。なるほど、役割毎にいるのか、髪切り。

 

「あ、でも安心してください。今はもう、この子達プロ級の仕事するんで」

「じゃなかったら今すぐこの頭の上のヤツ握りつぶしてましたよ」

 

 ただでさえ頭の上を何かが歩き回ってるのだ。この不快感にプラスされるのなら、俺は迷わず怒りをぶつける。

 

「そこいらの鉄よりよっぽど固いですよ?」

「虫なのに……」

「妖怪ですから」

 

 そうか、妖怪だから。

 それなら、仕方ないか。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 ほんの一瞬。

 瞬きをしたかな?くらいの体感時間で、違和感を覚える。頭が軽い?

 

「あ、髪……」

 

 手で触れると、短くなっていた。なるほど、軽く感じるわけだ。うんうん。

 

 なんで短くなってる。

 

「あー、そういや、そんな話後輩から聞いたっけ」

 

 神隠しの理容室。記憶がないのに髪が短くなってるのなら、そこに引き込まれたのだ、と。

 

 ふむ、なるほど。それにあった、と。

 ふむふむふむふむ。

 

「警戒心なさ過ぎやしないか、俺」

 

 そんな怪しい場所で、大人しく座って刃物を頭部に近づけられて?

 危機管理のなさ、ヤバいだろ。

 

 まるで覚えてないのだけど。

 きっと、相手がプロの詐欺師級だったのだろう、という事で。

 

 そういうことに、しておこう。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 迷い家とは。

 訪れた人が、そこにあるものを持ち帰ると、幸福になる。

 そういう言い伝えのある、妖怪現象である。

 

 すなわち、人に害する物ではなく。それ故に、警戒心が解かれるという現象が起こる。そんな場所。

 

 では、だ。

 そこにあるものを持ち帰れば幸福になるというのなら、逆にそこに何かを忘れていったなら、どうなるのだろうか。

 

 ましてやそれが、呪的な力をため込むとされる、髪であったなら?

 

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