皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
歳月を経たネズミが妖怪になった。
ネコを食べる、猫を育てる、人を襲う、等の伝承がある。
吾輩は鼠である。名前はまだない。が、ただの鼠でもない。
吾輩は旧鼠である。何年もの長い間、猫から逃げ、鳥から逃げ、蛇から逃げ、人の仕掛ける罠を搔い潜り。そうして生き延びた年月が、吾輩を妖怪たらしめた。
人の張る罠を正面から破り、食料を好きなように食べられる。
蛇の締め付けを難なく抜け出し、蹴り飛ばしてやれるようになった。
空を飛ぶ鳥へとびかかり、二度と鼠を襲おうなどと考えられないよう、恐怖を与えることが出来た。
そして。そして、だ。
誰もが思い描く鼠の天敵、猫を。逆に喰らうに至った。
とびかかり、喉を食い破り、仕留める。動かなくなったそれに嚙みつき、捕食する。
味はまぁ置いとくとして、だ。そうして得られた征服感は、他の何にも変えられない快感をもたらした。
陳腐に言ってしまえば、クセになった。生きるためではなく、快楽の為に探し出しては殺すようになった。
これまで追われ続けてきた恨みをぶつけるように、探し出しては仕留めていく。何匹も、何匹も、何匹も。
「んで、こうなっちゃうんだもんなぁ」
言ってしまえば、今日もそんなことを繰り返していたある日だったのだけど。
「にゃぁん」
「あー、うん。俺猫じゃないから、鳴かれても分からないから」
吾輩とかいうの疲れたしもういいや、戻そう。
今殺した、やけに殺気立ってた猫。その後ろの茂みにいた、産まれたて。
勢いそがれるなぁ、コレ。
=〇=
「どーすかなぁ、これ」
ぼやきながら、それを眺める。
生まれてまだそうたっていないのか、あまりにも弱々しい命。命を奪うのが楽しくて楽しくて仕方なくなった猫ではあるのだけど、だ。
「さすがに、コレを殺すのはなぁ」
可哀想だとか、自分が親を奪っておきながら、とかではなく。
こうなる前の、ただの鼠だったころ必死に逃げ回っていた自分と重なってしまい、中々に難しい。
と、またひときわ強く鳴いた。
「あー、なんだなんだ。なんだってんだこの猫は」
何かを求めているかのように鳴いてくる。なんだだろうかと頭を回し、思い出した。
こいつらは子猫である。それも、おそらくは産まれたてくらいの。腹でも減ってるのだろう。
「いや、どうしよ」
別にどうにかしないといけない訳じゃないけど。
義務じゃないにしても、罪悪感的なものにさいなまれてしまう。さてどうしたものか……
「……まだ、乳飲んでるくらいだよ、な」
きっとそうだ。というか、そうであってくれ。そう祈るくらいの心持ちで、さっき仕留めた親猫の方を引きずっていく。
仕留めてすぐだし、まだ出るだろ。
子猫の方が、気付いたのか近づいていく。そのまま吸い付いた。
動きを見るに、まだ大丈夫そうだった。
もう一匹探し出して、ギリギリの状態で連れて来ようかとも思ったけど。まぁ、うん。よかった、かな?
ほっとしたら腹減ったし、子猫が離れたら俺も食事にするか。
=〇=
あれから……えっと、どれだけだっけ。人間の暦で言うところの、1年くらい?がたった。
別に放っておいてもよかったのだけど、なんとなくの罪悪感にさいなまれてずるずると面倒を見てしまった。
ある程度までは、生け捕りにしたメスの猫を使って育て。
それからは、何かテキトーに狩ってきた動物を食べさせて。
旧鼠が何をしているんだってくらいには、あの子猫の面倒を見てきた。妖怪になって寿命もぐんと伸びたし、勝手に生きていけるくらいまでは、と。
いずれ見捨てるつもりではいたから、旧鼠のやり方ではあるけれど狩りの仕方なんかも教えて。今ではすっかり、自分で自分の食事をとって来れるだけの。生きる力ってやつを身に着けた、立派な猫になった。
いずれはコイツも猫から猫又になったりするのだろうか、なんて。そんなことを考えていた矢先。ソイツに襲われた。
割としっかり、油断している隙をついての強襲だった。俺が教えたことをキッチリ守っての、完璧と言っていい襲撃。
「母の仇!」と。暫く一緒にいてニュアンスが分かるようになってきた鳴き声で、そう言いながら不意打ちしてきたのが、今目の前にある死体である。
「まぁ、うん。言われてみれば、そうなるよなぁ」
どうにも妖怪になったことで、感覚がマヒしていた感じがある。
親の仇。それはうん、いくら育ての親的ポジションであったとて、殺しにかかるだろう。むしろ、その隙を伺い続けるために俺に育てられていたのかもしれない。
なるほどなるほど。うん、理解。
「今後は、同情なんてしないで子猫もキッチリ仕留めよう」
絶対勝てる相手だから、と。格下だからと油断して、意味のない慈悲を見せた。それが今回の出来事だ。うん、反省反省。
それはそれとして腹も減ったし、この新鮮なお肉食べよっと。