皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第三十三回 件

 件、という妖怪がいる。

 どんな妖怪なのか?と言われれば説明は容易である。何せ、漢字で件と書いて「読んで字のごとくだ」とでも言えばいいのだから。

 

 そう、読んで字のごとくな妖怪なのだ。何とびっくり、頭が人間で体は牛な妖怪。しかも、それが普通の牛から生まれてくるという。

 

 ただの牛から、人間の頭に牛の体をした生き物が生まれてくる。DNAの概念どこに行ったと聞かずにはいられない妖怪だ。

 

 なんだって?妖怪にDNAとかそういうモノを当てはめても仕方ないだろ?

 何を言うか。今目の前にいる生き物である以上、そこにDNAの概念を当てはめるのは当然だろう。キメラ状態なだけでも珍しいのに、人間のDNAはどこから来たんだ、って気になるだろう。

 どこまでが人間の体なのかとか、体は牛だが内臓はどうなってるのかとか、仮に頭部が完全に人間のそれであり、内臓が牛のソレであったのなら、歯の構造が違う中ちゃんと消化できるのか、とか。

 気になるだろう、そういうの。

 

「と言うわけだ。分かってくれたか」

「いや、全然分かんないです」

「何故わからない」

「むしろ何でわかってくれると思ったんですか」

 

 うーむ、強情な。

 それと今更気付いたが、喋れるだけの構造を持っているらしい。この妖怪最大のデメリットを思えば、それは当たり前だった。

 となると、口~喉までは人間のそれなのか?

 

「ところでですね」

「なんだ」

「そんなことよりも、いい加減予言をさせて欲しいのですが」

「ふざけるな、そんなことをされたら死ぬだろうオマエ」

「でも、それが最大の特徴な妖怪なので。分かってほしいです」

「何故そんなことが理解されると思った」

「むしろ件捕まえて予言させない方が理解に苦しみますが」

 

 貴重なサンプルをそう簡単に死なせるわけがないだろうに。全く、何を言っているんだこの妖怪は。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 件、という妖怪の噂を聞いた。

 人の頭に牛の体を持ち、産まれると同時に予言を残して死ぬ妖怪。

 初めて聞いた時の印象?もちろん、何ふざけたことを言っているのだろう、だ。

 

 

 人の頭に牛の体の時点で有り得ない。そんな生き物が成立するわけがないだろう、というのが正直な感想。そのうえ、予言なんて言うおまけまでついてくる。

 

 などと言っていたら、そんな妖怪が本当にあらわれたという。オイ見にこいよ、内緒だぞ、などと誘ってきた牧場育ちの友人に酒でも奢らせようとついていくと、マジでいた。

 

 いや、見せてもらった時には既に死体だったのだが。確かに、そこに聞いていた通りの妖怪の死体があった。

 現実を受け入れ難く、死体への嫌悪感なんて忘れてペタペタと触り、どうやらマジモンだと分かった。

 目の前にある以上、認めざるをえなかった。何ならとどめに、目の前でサラサラと砂のようになって消滅したので、なにかしら自分たちの知らない超常的な現象が起こっていることは認めざるを得なかった。

 

 件という妖怪がいる、という事実は認めざるを得ず。

 人間と牛の混ざりものめいているそれがどのような生態をしているのか知りたい、という欲望は抑えきれず。

 

 ただし、研究者という立場で「件という妖怪がいたので、コレの研究をしたいです!」などと言っても追い出されるのが目に見えていて。

 その上、予言をすると死んでしまうのに、その死体もしばらくたつと砂と崩れ消えてしまう。

 

 研究をするにはつんでいる。そんな結論が出るのに、時間はかからなかった。

 

 ので、研究者をやめて牧場で働く事にした。

 牛の出産に立ち会えるよう、必要な知識と技能も身に着けた。

 

 産まれてすぐ予言をしたら死ぬのなら。予言をさせなければいいのだ。

 

「って結論に至って、今がある」

「や、なんですかその頭の悪い流れは」

「だって、他にないだろう」

「だからって、こんなことのために研究者としての立場を捨てますか、普通」

 

 それしか手段がなかったのだから、仕方がない。

 

「しかし、それだけの覚悟をもってここにいることは納得してもらえたと思う」

「まぁ、それは」

「納得した以上、研究に付きあってくれる、と」

「いやいやいやいやいや」

 

 何故だ。

 

「無理でしょう。というか、何をどうしたら『お前の体を研究させろ』なんて要望に従うんですか。頭に蛆でも沸いてるんですか」

 

 ふむ、おかしい。想定外だ。

 想定外だ、が……

 

「仕方ない」

「お。諦めてくれましたか」

「あぁ、穏便な手段は諦めた」

「うん?」

「ここに、動物用の麻酔と注射器がある」

 

 何故持っているのかは、ノーコメントとする。

 

「そしてここに、人間用のボールギャグがある」

 

 何故持っているのかと言えば、予言対策としてである。

 

「……つまり?」

「眠らせ喋れないようにして、その間に調べつくす」

「犯罪予告!?」

 

 穏便に協力してもらえない以上、強硬手段に出るしかない。

 それと。

 

「妖怪相手に犯罪とか、成立するのか?」

「え、そんな細かいところツッコミます!?」

 

 犯罪者呼ばわりされたようなものなのだから、ツッコミくらい入れるだろう。

 

「で、どうなんだ。何か反論できるのか」

「反論、反論……」

 

 まぁ、勿論無理だろう。妖怪相手の犯罪なんて成立しないのだから、必然的に犯罪者にはなりえない。

 勝ったな。だからと言って何かあるわけじゃないけど。

 

「あー、じゃあ1個だけ」

「あるのか」

「ありますよ。なんたって私は件、予言なんてものが出来ちゃうくらい頭のいい妖怪なんですから」

 

 予言って頭の良さ必要なのか。

 

「それで?」

「はい。……あなたはこの後、あっさり捕まるでしょう」

 

 うん?と首を傾げる。

 今まさに否定したことを堂々と宣言され、理解が追いついていない。なんとか言っていることを理解しようとして……目の前で、件がサラサラと崩れだした。

 

「あっ」

「油断しましたね?はい、こちら予言になります」

 

 ではでは~、と。なんでもない事のように笑顔で手を振って、倒れ込み。呆然とそれを眺めている中、風邪にふかれて崩れ去っていった。

 

 何年もかけてようやくたどり着いたのに、何も調べられずに崩れ去った。

 

「……マジ?」

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 後日。

 獣医免許も持っていないのに、何故か注射器と麻酔薬を持ち。更に何故かボールギャグなんてものも持っていた危険人物として警察に連行される成人男性のニュースが新聞に載るのだが。

 

 それはまた、別のお話。

 

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