皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
人面瘡、という妖怪がいる。
……妖怪でいいのだろうか。なんとなく、皮膚病とか、そっちのジャンルなんじゃないかと頭をよぎった。
いや、いいはず。こんなのが病気のジャンルに収まるはずもない。よく分からないことなのだから、妖怪現象ってことでいいはずなのだ。
話を戻そう。人面瘡、という妖怪がある。どんな妖怪か?人の体に、人間の顔が現れる、みたいな。大体そんな感じの妖怪現象だ。
もうちょっと正確に言えば、傷跡が人の顔になる、みたいな現象らしいんだけど……あ、うん。大丈夫、言いたいことはおおよそ想像がつく。
あれだろう、点が3つあると人の顔に見える現象。シなんたら現象ってやつじゃないか、って。
これがびっくり、そうじゃない。なんとなんと、マジで人の顔が体に浮かび上がってきているのだ。なんなら、喋るし食べるのである。
「おい、腹減った」
「嘘付け、俺は腹減ってないぞ」
「こっちは腹が減ってるんだよ」
「胃袋は共通なんだから、んなわけねぇだろ」
そう、こうしてこっちに飯を要求してくるのである!
……なんか腹減ってきたから、続きはカップ麺でも食ってからにしよ。
=〇=
とある日、俺はそれに気付いた。数日前から「なんか痛むなー」と思っていた腹部。できものみたいになってたから触らないようにしてたのだけど、収まる様子もなくって。そろそろ病院に行くかなー、面倒だなぁ、とか考えていた時。
「おい、腹が減ったぞ」
「わっつ」
何とびっくり、それが喋ったのである。
事そこに至ってようやく自分の腹部を見てみれば、なんかガッツリデキモノが出来ていた。
「え、なに」
「なに、ではない。腹が減った」
「おっとマジか」
しかも、人の顔っぽいそれの口部分が動いて喋っているのである。正直困惑した。思考はがっちり停止した。
停止した頭で。「化膿してるくさいよなぁ」、とか考えて。一人暮らし用に買った裁縫セットから待ち針を。一人さみしい誕生日用に買ったケーキ用のライターで炙りだした。
「何やってんだ、オマエ」
「あー、うん。いや、こういう時の針は炙った方がいいって聞いて」
「は?食事時に針?」
困惑している様子の返答が返ってきたので、まあいいかと放置して。
寝間着の裾をまくり、咥えて。
膿抜きのために、さあ一刺し!
「待て待て待て待て待て!」
「ふぁんだよ」
「何しようとしてる!?」
「や、膿抜こうかと思って」
話しづらかったので、一旦服をはなした。
「え、いや、今の状況でそんなこと考える?人面瘡だぞ?喋ってるんだぞ?」
「いやだなぁ、腹にできた顔が勝手にしゃべるだなんてこと、あるわけないじゃん」
「だとしたら今会話してるのはなんだと思ってんだ」
「幻聴?」
可能性としてはそんなところだと思う。
「だからまぁ、膿抜いて病院行けば解決するかなぁ、って」
「こういうレベルの膿を素人が針で抜くの、どうかと思う」
ふむ、まぁ確かに人間の顔サイズの膿だ。それはその通りなのかもしれない。しれないが……
「おーい、なんだってまた針がコッチ向いてるんだ?」
「気になるじゃん、どれくらい出てくるのかなぁ、って」
「気になるじゃん、じゃなくないか?」
いや、気になる。気になるので、やっぱりここはぷすっと一発。
「おいだから待てって、目、目に向いてるから。焼かれた針の先が目の真ん前にあるから」
「なんかその部分がぷくってなってて、膿多そうだし」
「うん、自分の顔を鏡で見て欲しいんだけどさ。目ってどうしてもぷくってなるものじゃん?」
あー、それで膿が溜まってそうに見えるのか。なるほどなるほど。
まぁ、目に直接針が向かってくるのは怖そうだもんな……仕方ない、変えてやるか。
「うん、だからって針が向かう先が変われば許されるわけじゃないんだ。そのまま進まれると、がっつり口の中を刺されるんだよ」
「それで?」
「オマエは口の中を刺されても問題ないと?」
うーん、いやだろうなとは思う。
「あと、ここに口が増えてるだけで他はそのまんまだからな。この口はそのまま内臓に繋がってる」
「よっし、やめとくか」
下手に刺しそこなうと、内臓をそのまま突き刺しそうで怖い。
うん、大人しく諦めよう。
「仕方ない、大人しく皮膚科行くか」
「いや、それ結局俺死ぬな。消されるな、それ」
今時の皮膚科は喋る腫瘍の除去くらいやってのけるのか。やるな、皮膚科。
「……除去した人面瘡、貰えたりするのかな」
「貰ってどうするんだそんなもん」
「いや、記念品的な感じで」
「発想が殺人鬼とかのそれなんだよ」
いいと思うんだけどなぁ。
「貰ったとてどうするつもりなんだよ」
「え……額縁に入れて飾る……?」
「発想が完全に殺人鬼のそれ」
うん、今の返答はがっつり意識してやった。
「あー、まぁいいや。言ってたらなんか腹減ってきたし。喰いながら考えよ」
「俺の分も頼むぞ」
「図々しい人面瘡だ」
「どっちかって言うと、オマエの肝が座りすぎてるんだよ」
そんなことはないと思うのだけど。
=〇=
「さて、腹も膨れたところで」
「あぁ、結構うまかったぜ」
「それはどうも、お粗末様でした」
驚くことに、腹にできた人面瘡もちゃんと食事をとったのである。しかも、その分の満腹感は俺に来た。今この体、どんな感じで内臓繋がってるんだろうな。
「さて、話をオマエを除去する話に戻すんだが」
「戻さなくていい戻さなくていい」
「戻すんだが」
「なぁ、頼むからもうちょっと怖がってくれないか?」
うーん、もう無理かな。
「じゃあ、除去しないとして、だ」
「おう」
「こっちに何のメリットがある」
「メリット」
「うん。こんな気持ちの悪いモンを腹に残しとくことに対する、こっちのメリット」
「なんで俺がそんなもんを提示しないと」
「さーって、針とライター針とライター……」
「そうだな、メリットか」
さっき眼球真ん前に針を突き付けたのが効いてるっぽい。
「あれだ、一発芸・腹話術を獲得できる」
「それ、腹話術でも何でもなくね?」
単純におまえが全部喋ってるだけじゃね?外から見たら同じなんだろうけど。
「不満か」
「むしろどうして不満じゃないと思った」
現代社会でそんなことが出来て何になるのか。その道のプロは既にいくらでもいるんだよ。
「じゃあ、あれだ」
「あれ」
「一人デュエットが出来る」
「うん、それも同じ事だな」
一発芸以上の価値は無いんじゃないかなぁ。
「しかも、一人でハモリまで備えたカラオケが出来る」
「その一発芸はちょっと面白いな」
はたから見ればひとりで歌ってるだけなのに、ハモリ付きのデュエット。うん、コレはちょっといいかもしれない。
「どうだ、一発芸としてのレベル高めじゃないか?」
「悔しいけど、ちょっとアリかもしれない」
「そうだろうそうだろう。じゃあ、俺はこのまま残らせてもらうって方針d」
「オマエをなめした皮で装丁した本作るのと、どっちの方が面白いかな」
「悪いことは言わないから、俺を除去したとしても受け取らない方がいいと思うぞ」
なんで人面瘡に心配されてるんだろう。
「んで?他には何が出来るの?」
「ん?あー、そうだなぁ。何か、何か……」
「面白いと思うものが尽きた瞬間、針を刺して膿を抜く」
「いや、うん。まだ言ってるのかって感じなんだけど、膿じゃないって」
「だとしても面白いから刺す」
「ただのサイコパスじゃねぇか!」
まぁこのツッコミは小気味いいし、これが尽きるまでは付き合ってみるのもいいかもなぁ。
けど、針刺したらどんな反応するかも、気になるんだよなぁ。