皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第三十四回 人面瘡

 人面瘡、という妖怪がいる。

 ……妖怪でいいのだろうか。なんとなく、皮膚病とか、そっちのジャンルなんじゃないかと頭をよぎった。

 いや、いいはず。こんなのが病気のジャンルに収まるはずもない。よく分からないことなのだから、妖怪現象ってことでいいはずなのだ。

 

 話を戻そう。人面瘡、という妖怪がある。どんな妖怪か?人の体に、人間の顔が現れる、みたいな。大体そんな感じの妖怪現象だ。

 もうちょっと正確に言えば、傷跡が人の顔になる、みたいな現象らしいんだけど……あ、うん。大丈夫、言いたいことはおおよそ想像がつく。

 

 あれだろう、点が3つあると人の顔に見える現象。シなんたら現象ってやつじゃないか、って。

 これがびっくり、そうじゃない。なんとなんと、マジで人の顔が体に浮かび上がってきているのだ。なんなら、喋るし食べるのである。

 

「おい、腹減った」

「嘘付け、俺は腹減ってないぞ」

「こっちは腹が減ってるんだよ」

「胃袋は共通なんだから、んなわけねぇだろ」

 

 そう、こうしてこっちに飯を要求してくるのである!

 ……なんか腹減ってきたから、続きはカップ麺でも食ってからにしよ。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 とある日、俺はそれに気付いた。数日前から「なんか痛むなー」と思っていた腹部。できものみたいになってたから触らないようにしてたのだけど、収まる様子もなくって。そろそろ病院に行くかなー、面倒だなぁ、とか考えていた時。

 

「おい、腹が減ったぞ」

「わっつ」

 

 何とびっくり、それが喋ったのである。

 事そこに至ってようやく自分の腹部を見てみれば、なんかガッツリデキモノが出来ていた。

 

「え、なに」

「なに、ではない。腹が減った」

「おっとマジか」

 

 しかも、人の顔っぽいそれの口部分が動いて喋っているのである。正直困惑した。思考はがっちり停止した。

 

 停止した頭で。「化膿してるくさいよなぁ」、とか考えて。一人暮らし用に買った裁縫セットから待ち針を。一人さみしい誕生日用に買ったケーキ用のライターで炙りだした。

 

「何やってんだ、オマエ」

「あー、うん。いや、こういう時の針は炙った方がいいって聞いて」

「は?食事時に針?」

 

 困惑している様子の返答が返ってきたので、まあいいかと放置して。

 寝間着の裾をまくり、咥えて。

 膿抜きのために、さあ一刺し!

 

「待て待て待て待て待て!」

「ふぁんだよ」

「何しようとしてる!?」

「や、膿抜こうかと思って」

 

 話しづらかったので、一旦服をはなした。

 

「え、いや、今の状況でそんなこと考える?人面瘡だぞ?喋ってるんだぞ?」

「いやだなぁ、腹にできた顔が勝手にしゃべるだなんてこと、あるわけないじゃん」

「だとしたら今会話してるのはなんだと思ってんだ」

「幻聴?」

 

 可能性としてはそんなところだと思う。

 

「だからまぁ、膿抜いて病院行けば解決するかなぁ、って」

「こういうレベルの膿を素人が針で抜くの、どうかと思う」

 

 ふむ、まぁ確かに人間の顔サイズの膿だ。それはその通りなのかもしれない。しれないが……

 

「おーい、なんだってまた針がコッチ向いてるんだ?」

「気になるじゃん、どれくらい出てくるのかなぁ、って」

「気になるじゃん、じゃなくないか?」

 

 いや、気になる。気になるので、やっぱりここはぷすっと一発。

 

「おいだから待てって、目、目に向いてるから。焼かれた針の先が目の真ん前にあるから」

「なんかその部分がぷくってなってて、膿多そうだし」

「うん、自分の顔を鏡で見て欲しいんだけどさ。目ってどうしてもぷくってなるものじゃん?」

 

 あー、それで膿が溜まってそうに見えるのか。なるほどなるほど。

 まぁ、目に直接針が向かってくるのは怖そうだもんな……仕方ない、変えてやるか。

 

「うん、だからって針が向かう先が変われば許されるわけじゃないんだ。そのまま進まれると、がっつり口の中を刺されるんだよ」

「それで?」

「オマエは口の中を刺されても問題ないと?」

 

 うーん、いやだろうなとは思う。

 

「あと、ここに口が増えてるだけで他はそのまんまだからな。この口はそのまま内臓に繋がってる」

「よっし、やめとくか」

 

 下手に刺しそこなうと、内臓をそのまま突き刺しそうで怖い。

 うん、大人しく諦めよう。

 

「仕方ない、大人しく皮膚科行くか」

「いや、それ結局俺死ぬな。消されるな、それ」

 

 今時の皮膚科は喋る腫瘍の除去くらいやってのけるのか。やるな、皮膚科。

 

「……除去した人面瘡、貰えたりするのかな」

「貰ってどうするんだそんなもん」

「いや、記念品的な感じで」

「発想が殺人鬼とかのそれなんだよ」

 

 いいと思うんだけどなぁ。

 

「貰ったとてどうするつもりなんだよ」

「え……額縁に入れて飾る……?」

「発想が完全に殺人鬼のそれ」

 

 うん、今の返答はがっつり意識してやった。

 

「あー、まぁいいや。言ってたらなんか腹減ってきたし。喰いながら考えよ」

「俺の分も頼むぞ」

「図々しい人面瘡だ」

「どっちかって言うと、オマエの肝が座りすぎてるんだよ」

 

 そんなことはないと思うのだけど。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「さて、腹も膨れたところで」

「あぁ、結構うまかったぜ」

「それはどうも、お粗末様でした」

 

 驚くことに、腹にできた人面瘡もちゃんと食事をとったのである。しかも、その分の満腹感は俺に来た。今この体、どんな感じで内臓繋がってるんだろうな。

 

「さて、話をオマエを除去する話に戻すんだが」

「戻さなくていい戻さなくていい」

「戻すんだが」

「なぁ、頼むからもうちょっと怖がってくれないか?」

 

 うーん、もう無理かな。

 

「じゃあ、除去しないとして、だ」

「おう」

「こっちに何のメリットがある」

「メリット」

「うん。こんな気持ちの悪いモンを腹に残しとくことに対する、こっちのメリット」

「なんで俺がそんなもんを提示しないと」

「さーって、針とライター針とライター……」

「そうだな、メリットか」

 

 さっき眼球真ん前に針を突き付けたのが効いてるっぽい。

 

「あれだ、一発芸・腹話術を獲得できる」

「それ、腹話術でも何でもなくね?」

 

 単純におまえが全部喋ってるだけじゃね?外から見たら同じなんだろうけど。

 

「不満か」

「むしろどうして不満じゃないと思った」

 

 現代社会でそんなことが出来て何になるのか。その道のプロは既にいくらでもいるんだよ。

 

「じゃあ、あれだ」

「あれ」

「一人デュエットが出来る」

「うん、それも同じ事だな」

 

 一発芸以上の価値は無いんじゃないかなぁ。

 

「しかも、一人でハモリまで備えたカラオケが出来る」

「その一発芸はちょっと面白いな」

 

 はたから見ればひとりで歌ってるだけなのに、ハモリ付きのデュエット。うん、コレはちょっといいかもしれない。

 

「どうだ、一発芸としてのレベル高めじゃないか?」

「悔しいけど、ちょっとアリかもしれない」

「そうだろうそうだろう。じゃあ、俺はこのまま残らせてもらうって方針d」

「オマエをなめした皮で装丁した本作るのと、どっちの方が面白いかな」

「悪いことは言わないから、俺を除去したとしても受け取らない方がいいと思うぞ」

 

 なんで人面瘡に心配されてるんだろう。

 

「んで?他には何が出来るの?」

「ん?あー、そうだなぁ。何か、何か……」

「面白いと思うものが尽きた瞬間、針を刺して膿を抜く」

「いや、うん。まだ言ってるのかって感じなんだけど、膿じゃないって」

「だとしても面白いから刺す」

「ただのサイコパスじゃねぇか!」

 

 まぁこのツッコミは小気味いいし、これが尽きるまでは付き合ってみるのもいいかもなぁ。

 けど、針刺したらどんな反応するかも、気になるんだよなぁ。

 

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