皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第三十五回 送り狼

 送り狼、という単語を聞いたことはあるだろうか。

 女の敵と答えたそこの君、それもまた正解。女の方も分かったうえでやってるならいいのだけど、そうじゃないのなら最悪の敵である。

 などと、先ほどあった出来事を振り返りながら考えつつ、思考を戻す。こんな状況だ、何とかして落ち着かないとろくなことにならないのは目に見えている。

 

 なので、落ち着くために話を戻す。

 

 送り狼。今ネットで調べたところによると、基本的なステータスとしてはこう。

 

①夜の山道を後ろから付いてくる

②途中で転ぶと、襲い掛かられ食い殺される。

③家まで無事帰れたら、何か供え物をしてあげると帰っていく。

 

 以上である。なんだこの物騒な妖怪。

 何が怖ろしいって、夜の山道なんて足元最悪の状況下で、後ろから狼がついてくるのだ。そんな中転ぶな、躓くなとか、無理という物だろう。冗談も程々にしてほしい。

 

「そう思うんですけど、その辺りどうです?」

「いや、うん。こんな状況で歩きスマホできんのすげーなー、って思う」

「こんな真っ暗な山道、スマホ見てようが前見てようが転びますし」

「スマホ懐中電灯代わりにすればよくね?」

 

 考えもしなかった。ちょっと悔しい。

 

「送り狼のクセに頭回るの、なんなんです?」

「まって、送り狼のクセに、って何?」

「違うんですか?」

「違……わないけど、今言うと紛らわしくない?」

 

 うわぁ。

 

「ついに認めましたよ、このクソ先輩」

「いや、うん。だから今そんな状況じゃなくない?それどころじゃないよね」

「なんですか。うら若き乙女の純潔が関連する出来事をそれ扱いとは、いいご身分ですね」

「よーし分かった、俺が悪かった」

 

 言い負かせた。ちょっとすっきり。

 

「言い負かせてスッキリしたので、足を蹴るのはやめておきます」

「それされるとホントに死ぬからやめてね!?」

「はっはっは、死ぬだなんて御冗談を」

「今!まさに!!送り狼の話してたよね!?」

 

 いやまぁ、うん。それはその通り。

 

「やっぱりあれ、そういう事なんですかね」

 

 チラ、と振り返り。後ろから付いてくる3匹の狼を見る。

 暗い中でも何故かはっきり見える。白か、明るいところなら銀にでも見えたのかなぁ。綺麗そうだから、そっちを見てみたかった。

 

「まぁ、ニホンオオカミ絶滅したはずだし……それに」

「それに?」

「野生の狼だった場合よりは、そっちだったパターンの方が希望あるし」

「あー」

 

 それは確かに。

 あれがただの狼だった場合、次の瞬間にも襲ってきかねないのだ。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 なるほど油断していた、というのが正直な感想だった。

 20歳になり、お酒が解禁されてから初のサークルの飲み会。それはもう……とまではいかないまでも、それなりに飲んだ。

 同期の友達とはもうすでに何度か飲んでいたが、サークルで飲むのはそれとはまた違った楽しみがあった。

 

 まず、いい楽しみ。人数が多いだあって、楽しめる幅が広い。

 酒が入っている時の話なんて、真面目さゼロだ。話の内容に飽きがきたら別グループに移動すればいいのは、とても楽だった。

 

 次に、悪い楽しみ。これはもう、至極単純。めっちゃ酒を呑む。それはもう、酒を呑む。

 人数がいる分、悪ノリで酒が入るのだ。かぽかぽ入った。どんどん飲んだ。色んなグループのところを渡り鳥したせいで誰も飲んだ量を把握しておらず、ストップがかからなかったのだ。

 その結果、まぁ呑んでしまった。ちょっとふらつきながら帰る感じにはなったけど、それくらいなら許容範囲だったろう。

 

「へー、すっごい道で帰ってるんだね」

「はい、結構な道で帰ってるんですよ」

 

 問題は。

 そんな様子のわたしを見て送るとかぬかしてついてきた、この先輩である。性別はオス。うーん。

 

「なので、お気になさらずとも大丈夫ですよ?先輩の方こそ、どんどん駅から遠ざかっちゃうんじゃないです?」

「いやいや、こんな夜の山道を酔った子に歩かせるのは抵抗あるって」

「それに関してはほら、もう既にこれくらい呂律も回ってますし」

「酔ってなかったとしても、こんな山道は危なくね?」

 

 うん、危ないと思う。だから気おくれして帰ってくれるかな、と歩いているのだ。

 サークル外でさして関りのない異性に家を知られるのは、流石にちょっと抵抗がある。

 

 早く引き下がってくれないかなぁ。

 

「……うん?」

「はい?どうなさいました?野獣せ」

「おっとそれ以上はいけない」

 

 うん、コレは先輩が正しい。

 

「で、どうしたんです?」

「いや、なんかいるなって」

「なんです?そうやって怖がらせようって算段ですか?」

「だいぶキャラ変わったね?どうしたの?」

「いえ、お酒の力で猫が家出しまして」

 

 そういうことにしておこう。こっちの方が地なのは間違いないのだし。

 

「って、そうじゃなくて。ホントに、あれ」

「はい?なんですか、まったくもう」

 

 仕方がないので、振り返る。振り返って……

 

「……随分と大きいわんちゃんですね」

「うん、そうじゃないね」

「あ、もしかしてワンチャンとかけた仕込みだったりします?寒いんでやめたほうがいいと思いますよ」

「ん-と、そうなんだけどそうじゃなくて」

 

 不思議な日本語になってきたな。

 しかし、そうなるとちょっと真面目に怖くなってくる。大型犬のイメージよりちょっと大きいくらいの犬。こんな時間にいるってことは、おそらくは野犬だろう。

 襲ってくることはないと思いたいけど……

 

「いや、ってかさ」

「はい」

「あれ、犬ってよか狼じゃね?」

「はい?」

 

 おおかみ。狼。オオカミ。ウルフ。

 

「先輩知らないんですか?日本にはもうオオカミいないんですよ?」

「や、それは知ってるけど。でもあれ、犬の顔じゃなくない?」

「いやいや、何を言ってるんですか。日本においてオオカミなんて、もう動物園にしかいない存在なんですよ?こんなところにいるはず……」

 

 いま一度振り返り、後ろを一定の距離でついてくる動物の顔を見る。

 

「先輩先輩、あれオオカミですよ」

「手のひら返しはやくね?ドリル?」

 

 なんとなんと、しっかりオオカミだった。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「おー、やっぱりライトがあると歩きやすいですね。さすが先輩」

「そうだろうそうだろう」

「送り狼しようとするクズでも、年齢重ねた分の発想力くらいはあるんですね」

「うん、そのネタで今弄られるとどう反応していいか分からないんだけど、そういう発想力働かない?」

 

 すぐ真後ろを命の危機がついてきているのだ。この程度の軽口は聞き流す度量を見せて欲しい。

 

「さて、こうなった以上あれは送り狼だ、ってことにして話を進めるしかないんだけど」

「じゃなかったらどうあがいても死ですもんね」

「偶然こんな時間に猟銃を持った人が表れでもしない限りは」

 

 人はそれを可能性がないという。

 

「そんなわけで聞くんだけど」

「はい」

「君の家、このまま歩いてどれくらい?」

「そうですね」

 

 真剣に聞いてるっぽいから、嘘はつかないであげよう。私ってやさし。

 

「このまま歩いていくと」

「歩いていくと」

「どんどん家から離れていきます」

「うん、そんな予感はしてた」

 

 いやー、だって先輩追い返すためにテキトーな道歩いてたんだもの。

 

「家に帰るためには、一回あの狼達とすれ違う必要がありますね」

「近づいても大丈夫なのかどうか」

「分かんないので、ちょっと試してきてくださいよ」

「んな無茶な」

 

 えー。

 

「えー」

「えーじゃない」

「そこをなんとか」

「何ともならん」

 

 強情な先輩だ。

 

「でも、そんなことじゃいつまでたっても帰れない……つまりは、いつまでたってもこの命の危機にさらされてることになるんですよ?」

「……なんとかこのまま進んで山を降りれば、元来た道に戻れないかな」

 

 ぐるっと一周するイメージで、と。

 なるほど確かに、それが叶うなら家路につくことも可能かもしれない。

 

「なんですか、もしかしてホントに頭いいんですか?」

「こんなFラン大学で頭がどうとかいわれましても」

「それもそうか」

「納得されるのもなんか違うのでは」

 

 と言いながら、地図アプリを開いている。おそらく、元来た道に戻れるルートを探すのだろう。ちょっとスマホの角度が変わって見える範囲が狭まったが、まぁ足を踏み出す範囲は見えるし……

 

「あっ」

「あっ」

 

 先輩が、ずっこけた。

 歩きスマホ、ダメ、絶対。

 

 そんな交通安全の標語が頭をよぎる中。オオカミ3頭が姿勢を低くした。あー、このまま次の瞬間とびかかるんだろうなぁ、と容易に想像がつく。

 南無阿弥陀仏、先輩。襲われてる隙に私は元来た道を戻りますね、なんて。

 

「あー、それもそうですね」

 

 割と本気でそう考えてたのに。

 口からは、想定外の言葉が飛び出した。

 

 言っちゃったもんは仕方ない。このまま続けよう。

 狼3頭がジャンプした瞬間

 

「随分歩きましたし、ここで一休みしますか」

 

 言いながらしゃがみ、かばんからペットボトルを2本取り出す。

 飲みすぎちゃったしなー、なんて買っておいたジュース。丁度2本あってよかった。

 

 ついでに。どうやらこいつらはホントに送り狼だったらしく、ジャンプしそのまま私たちを飛び越えて反対側に降り立った。

 

「はい、どうぞ」

「え、あ。どうも」

「私の機転に感謝してくれてもいいんですよ?」

「いや、うん。マジで助かった」

「そうでしょうそうでしょう」

「なんだよ、実は頭良かったのか?」

「はい。そんな私の天才さに、感涙の涙をむせび泣いてください」

「うーん、めっちゃ頭悪そうな日本語」

 

 失礼な。

 

「じゃ、それ軽く飲んだらとっとと帰りましょうか」

「とっとと、って。そうはいかないって話をさっきまでしてなかった?」

「はい、さっきまでは。けど、今はほら」

「……あ」

 

 うん、まぁ。

 狼が飛び越えてくれたので、来た道を安全に戻れるのである。

 

「先輩、ナイスでした」

「……だろう?」

「うわぁ」

「だよなぁ」

 

 転んだことをそう誇られても困る。

 心なしか、お座りの姿勢でまっている狼三頭も、そう言っている気がした。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「ついたー!」

「ようやく―――!」

 

 あの後。

 結局お互いに2回ずつくらい転び、その度に下手な芝居を打って乗り越えながら我が家にたどり着いた。

 何とかなるもんなんだな、こういうの。

 

「っと、そうだ。帰ってこれたはいいけど、それで終わりじゃないんだっけ」

「あー、そういえば何かありましたね。えーっと……そうだ、お供え物」

 

 この妖怪、家まで帰れればそれでどこかに行ってくれるわけではないのだ。その後お供え物をして、それでようやく立ち去ってくれる。

 お供え物。

 

「おにぎりでいいかな」

「いやいや、肉食動物におにぎりって」

「でも、今パッと出てくるのそれくらいで」

 

 部屋まで行けばもちろん何かしらあるけど、この狼さん3匹がそれを待ってくれるかは怪しいところだし。

 

「いかがでしょう?半額おにぎり」

 

 物は試しで、ビニールをはいでおいてみた。

 狼はフツーにそれを咥えて、飲み込んだ。

 

「肉食じゃないのか、狼」

「いやー、妖怪ってすごいですね」

 

 そして。なにやらおにぎりで問題なかったらしく、背を向けて去っていく。

 

「お、無事解決?」

「っぽいですね」

「はー、よかったぁ」

「こればっかりは同意します」

 

 緊張の糸が切れて、二人そろってしゃがんでしまう。

 けど、こんな深夜にここにいっぱなし、ってわけにもいかないし。立ち上がり、エントランスへ向かおうとして。

 

「いやいや、何でついてくるんですか」

「え?」

「はい?」

「うん?」

 

 ……うん、そうだった。ここにも送り狼がいたんだった。

 はぁ、とため息一つ。うん、よし。

 

「そういえば、ですけど」

「うんうん」

 

 心ばかり、声を張り気味にして。1秒だけ言うかどうか悩んで、まぁ言って

しまえと思ったので。

 

「先輩の家は、ここじゃないですよね?」

「ちょっと待って待ってねぇ待って」

 

 テクテクテク、と。まだ聞こえるところにいてくれたらしい狼たちが、暗闇から戻ってきた。

 

「帰ってきちゃったじゃん!」

「んじゃ、頑張ってください」

 

 なんか言ってる先輩を残し、鍵を刺してエントランスに入る。

 まぁ、転んじゃった時の回避方法は分かってるんだし。なんとかなるでしょ。

 

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