皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
ぬりかべ、という妖怪がいる。
どういう妖怪なのかは、たぶん説明するまでもないだろう。いたってシンプル。
目の前に、ないはずの壁が現れる。
以上。ただそれだけの妖怪なのだから。なんならぬりかべ、って言われただけで「あーあいつね」ってなる人は多いんじゃなかろうか。
今これを読んでいるあなたも、きっとそのはず。頭の中に灰色の壁に手足が生えたような妖怪を思い浮かべたことだろう。
とまぁ、そんなシンプルな妖怪。実際にはもうちょっと色々違うらしいんだけど、今この場においてはこれくらいの情報で事足りる妖怪だ。
認識頂けただろうか。
では、そんな事前知識の話は終えて本題に入ろう。そう、何でわざわざぬりかべの話をしたかと言えば、だ。
「いつになったら消えてくれるんだ、このぬりかべは」
『そんな落ち着き払って対処されたら消えるに消えられないでしょう』
「いやいや、そこはほら。妖怪なんだからさ。妖怪あるあるのなぞルールに従って、さっと消えてくださいよ」
『知らん』
と。
妖怪にはままある「謎のルール」をガン無視してずーっと居座ってる頑固なぬりかべが、ここにいるわけである。
家に帰れねぇんだけど。困るなぁ。
=〇=
別に、何かあるわけでもない日。何かあるわけでもないんだけど、なんとなく普段使う帰り道を使いたくなくて。ちょっと遠回り、人気のない道で家路に付こうとした際。
なんでか、ただの道なはずの場所に、壁があった。
「……あれ、道間違えたかな」
普段通らないとはいえ地元の道だ。迷ったりはしないだろうと感覚で歩いてたけど、うん。思ったより俺は馬鹿だったのだろう。
そんなはずはないと言いたいが、事実として目の前に壁がある。ぼーっとして道を間違えたに違いない、と振り返り。
「……いや、間違えてないよな」
その光景から、くるりと手のひらを返した。学生時代、いやなことがあったら必ずと言っていいほど通った道だ。記憶の中にある光景は、振り返った先の視界と合致した。
うん、きっと疲れているのだ。そう結論付け、きっと見間違いだと言い聞かせて。再び振り返り。
「……いや、やっぱり間違えてるな」
その先に壁があるのを確認し。なんなら、触ったり叩いたりして確実にそこにあることを確認して。
再度、手のひらを返した。
しかしそうなると、今いる場所が分からない。仕方がないので、スマホを取り出して地図アプリを立ち上げる。
方向音痴のバカには助かるよなぁ、ホント。さて、これで今いる位置が分かればどこで間違えたのかも分かるはず……
「やっぱり間違えてないじゃん」
手のひらクルクル。
地図アプリの示す現在地は、思っていた場所と合致した。
さてそうなると、この謎の壁だけが残ってしまうのだけど……
「こんな道路のど真ん中に壁立てるアホはいないと信じたいが」
現実は小説より奇なりとか言うし、ちょっと怖いところではある。
けどまぁ、きっとそれは無理だろう。法律とか色々邪魔して出来ないようになってると思う。たぶん、きっと。
とはいえ、やっぱりこの壁は謎のままなわけで……うーむ……んー……
「よし、壊してみるか」
思考のキャパを超えた。
ので、考えるコトを放棄することにした。大丈夫、地図アプリはここを公道だと言っている。
壁がある方がおかしいのだ。壊したって文句は言われないだろう。
と、言うわけで。手持ちの道具からドリルを採用。刃を取り付け、しっかり垂直にあてがい。いざトリガーを、
『ストップストップ!』
「うん?」
静止がかけられた。
一旦ドリルを壁からはなし、辺りを見回す。誰もいない。
誰もいないってことは、気のせいだな。
再度ドリルをあてがい、引き金を
『ストップって言ってるよね!?』
ドリルを離し、辺りを見回す。
誰もいない。以下略。
『ざっと確認だけして穴あけに戻らない!』
何か聞こえる。
が、さっきまでの通り誰もいなかった。つまりは、これも気のせいだろう。
ここまで1秒で考えて、垂直に当てたドリルへ少し力をかける。
『とうとう反応なしになった!?わ、まって、ホントに待って!!』
気のせいに付き合っている余裕はない。そもそもとして思考が止まっているのだ。引き金に指をかけ、そのまま。
「だから、待ってってば!」
「……は?」
壁から、顔が生えてきた。
若い女性の顔である。それが、ドリるためにちょっとかがんだ俺の顔の真ん前に。
ふむ。ふむ……
壁に人間の顔が生えるわけがない。
ただ、なんとなく気分が良くないので、横に移動してから穴を開けよう。
「いやいや、ちゃんと現実を見て」
「おっと」
移動した先にまた顔が生えてきた。さっきの方を見ると消えているので、移動してきたのだろうか。
「中に人がいる?」
「違う違う。そういうのじゃないから」
「とすると……」
「とすると、何?」
ふむ。とすると、だ。
「いよいよもって疲れてるのかな、幻覚が見えるとは」
「なるほどそう来たか」
「どれだけ避けても見えるなら、もうこのまま穴開けるか」
「待て待て待て待て待て」
俺の脳が生んでる幻覚にしては、やけにおしゃべりだなぁ。
「違う、違うから」
「違うとは?」
「そうじゃないから。幻覚じゃない。今目の前で起こってるの、全部現実だから」
そんなことがあるかよ。
「だとしたら、おまえは何だと?」
「……え、自分で言うの、それ。アリなの?それ」
「アリなの?と聞かれても。分からんが」
「それはそっか」
と、何故か納得した様子を見せて。
「えっと、ぬりかべやってます」
「ぬりかべ」
「そう、ぬりかべ」
ぬりかべ。
夜道とかを歩いてたら、なんか急に壁が現れる妖怪。
ふむ、うん。なるほどなるほど。
「やっぱり幻覚」
「違うから」
壁から手が生えてきて、ドリルを構えようとした手をひっぱたいた。
ちょっと痛い。痛いってことは、つまり、えっと?
「マジな話なんですか」
「マジな話ですけれど』
こっちが理解した様子を見せたからか、スーッと引っ込んでいった。
うーん、なるほどなるほど。うん。
ぬりかべかぁ。
「よいしょ、っと」
『あ、ようやく穴開けるの諦めてくれた?』
「あぁ、諦めた諦めた」
刃を外してドリルをしまい、代わりにポケットから煙草、ライターを取り出す。
1本出して、火をつけ。大きく吸って、吐く。
『……うん?』
「や、ぬりかべって一服したら消える妖怪だろ?とっとと消えてもらおうと思って」
『えー……さっきまで1ミリも理解しようとしなかったのに、何この順応』
「ほら、とっとと消えろよ」
『ぜって―消えてやらない』
なんだこのぬりかべ、頑固だな。
=〇=
1本吸いきって火を消したころ。背もたれが残っている辺り、まだぬりかべは消えていない。
おっかしいな、一服したら消える妖怪のはずなんだけど。
何なら一定時間経過でも消える妖怪のはずなんだけど。なんでいるの、こいつ。
「なー。いつまでこの道塞ぐのさ」
『なんか釈然としないから、もうしばらく』
「どんなぬりかべだよ」
や、妖怪って人に迷惑をかけるだけみたいな存在だから、正しいのかもだけど。
とはいえこっちもやられっぱなしは悔しい。ふーむ。
新しくタバコを取り出す。火をつけ、大きく吸い。
思いっきり、壁に向かって吹いた。
『うぇっふ!?』
「あ、効くんだ」
『ち、近くに顔持ってきてたので……』
いいことを聞いた。
というわけで。もう一度大きく吸って、吹く。
『ちょ、やめ』
再度吸って、吹く。
『オッケー分かりました、交渉しましょう』
再度吸って、
『わかりました、譲歩します。こっちが譲りますから!』
吹
「オッケーです参りました私の負けです、これでどうですか!」
壁が消えた。
そして、代わりみたいな感じで女の子が立っていた。外見年齢20歳前後くらいの。
顔は見覚えがある。さっきまでたまに壁から生えてきてた顔だ。
ならば、と周囲を見る。壁はきれいさっぱり無くなっていた。
「まったく、ぬりかべで困惑したり幻覚を疑うまではともかく。ドリルで穴を開けようとしたり、タバコの煙を吹きかけたり。前代未聞ですよ」
「一服したら消える、っていうぬりかえべの特性ガン無視したそっちが悪い」
「冷静に一服して消そうとしたあなたが悪いです」
いや、どう考えても道をふさいで邪魔してきたほうが悪いだろ。
「それに、ですよ」
「おう」
「こーんな可愛い顔をしてるのは分かってたのに、なんだって消そうとしますか」
「え、なにその自分への絶大な自信。怖い」
「事実ですから」
確かに顔はいいと思うけど、それでも怖い。
「でも」
「はい?」
「顔だけ壁から生えてても、奇妙なだけだからな」
「……まぁ、それは置いといて」
置いとくな。かなり重要な問題だろ、それは。
「それに、ですよ。仮に、万が一に、そこが重要な点だったとして」
何の疑いようもなく重要な点だが。
「それはさっきまでの話で、今はほら、ぱっと見可愛い人間でしょう?」
んー……
それはそう、なんだけど。
「なんですか、何か言いたげですね。いいですよ?思った事を素直に言って頂ければ。ただの壁だと思ってたぬりかべが実はこんな超絶可愛い女の子だった、と言いう事実に対して、思うところがあるなら」
「俺、巨乳派だから別に」
ぬりかべは。
名は体を表す、という言葉が異常なほどにしっくりくるレベルで。
絶壁だった。
『絶対ココ通してやんねーからな!』
どうやら地雷を踏んだらしい。ぬりかべがまた壁に戻った。
しかも今回は、前後共に塞ぐ形である。
……あれ、ヤバいのでは?