皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
この世界には、神が存在する。そう、科学で証明された世界。
では、いったいどのように証明したのか。
神が人間の前に姿を現した?
否。それではそれは概念上の「神」ではなく、生物としての「神だ」
では、人間が神の領域へ立ち入った?
否。それはただの人間の進化であり、決して「神」などと呼ばれるモンではない。
それでは、いったいどのようにして。姿を見せることなく、存在が証明されたのか。
それは、単純明快。神の力による現象が観測された。それによって、神の存在が「証明された」
……うん?それはただ、現在の科学で証明出来なかったことから逃げただけだろう、って?
まさにその通り。古代「雷」を「神鳴り」と表現した人間のように。ただ理解できない現象に対して、都合のいい「神」という言葉を当てはめただけなのだろう。
故に。そう理解してもらえたのだから、ここからは純粋な「事実」のみを書き連ねっていこうと思う。
一つ。その力は、「信仰」を持つ者にのみ。
一つ。その力は、「神」が認める者にのみ。
一つ。その力は、「神の依り代」を媒介として。
ただの人間が、曇りなき脅威を振るう。
間違いなくただの人間なのに、有り得ざる力を獲得する。そんな現象に対し、「神」を当てはめてしまった世界。
これから綴るのは。
「おい、おい大丈夫か!?」
「サク!サク早く!スクナビコナの加護ならまだ間に合う!」
「体温が……だれか着るものを!」
そんな世界の、とある一幕の物語だ。
=〇=
音が聞こえる。瞼越しに光がさす。そんな外界の刺激を受けて、自らの意識が浮上していく。
何か、柔らかなものに全身が受け止められている。目を開ければ、そこは真っ白な部屋の中。
「お決まりの流れなら、病室ってことになるのかな……」
左腕……は何かに引っ張られる感覚があったので、右腕で体を起こす。額に手を当て、手首につけたものが目に入る。蛇と銛の意匠をかたどるブレスレット。悔しさのあまり、奥歯をかみしめる。
「……クイナ?」
と、そこで。人の声が聞こえたので、そちらへ目を向ける。見覚えのある姿。ある種、戦友と呼んでもいい間柄。
「サク……おはよ」
「おはよ、って……クイナ、もう起きて大丈夫なの!?」
よっぽど心配していたのか、もはやとびかかるくらいの勢いでベッドまで寄ってきた。同い年なのにとても小柄な彼女。そんな彼女がこちらの顔を覗き込もうとひょこひょこしてる様は……どうしようもなく、こちらの心を突き動かした。
「うん、大丈夫そう。結構衰弱してたと思うんだけど」
「スクナビコナ様のご加護で、なんとか。それでもギリギリだったんだけど」
「あー、そっか。あの神様、お薬にも関係するんだったっけ」
普段は一寸法師の力を借りて大小したり針の剣を召喚している彼女。だからこそ、そんなヒーラー的働きをできることなんてすっかり忘れていた。
「それで……あの後、どうなったの?」
「……それ、は」
「大丈夫。……ほら」
彼女が何を心配しているのか、それは分かっている。だから、そっと腕を突き出して。
「日ノ本、我らが暮らす大地の母よ。その神具を一時、わが手に」
目を閉じ、ブレスレットへ祈る。瞬間、銛に似た―――というより、はっきり銛が私の手に現れる。
「ね?神々は清らかな乙女にのみ、加護をくれる」
「じゃぁ」
「うん。ほぼ裸で、ボロボロで倒れてたんだろうけど……私は、大丈夫だから」
私の言葉で、ようやく安心したのだろう。彼女の顔からこちらを心配する色が抜け、説明を始めてくれた。
「でも、説明かぁ」
「難しいの?」
「正直に言えば。こちらには分からないことばかりです」
と、そういって。立っていることに疲れたのか、椅子を引っ張ってくる。
「クイナを助ける前、私たちはアイツら……鬼神リョウメンスクナを崇める邪教の中枢メンバーに遭遇した」
「で、そのまま倒してきたの?……ちゃんと御神体も破壊した?」
「御神体は破壊した。でも、倒してはない。……あいつらはもう、死んでたんだよ」
もう、死んでいた。その事実に私は、つい顔を伏せてしまう。
「そう……」
「うん。争った痕跡もなく死んでたから、おそらくそういう……死神の類から得た加護。それを使ってあの場にいた命を無条件に奪い取ったんだと思う」
「そんな無茶苦茶な加護を?」
「少なくとも上は、そう見てる。人の世のバランスをいたずらに崩すレベルの加護。まだ正体も分からないままだけど、邪心認定したよ」
「……そ、っか」
と、瞬間。病室の扉が開き、勢いよく飛び込んでくる気配。反射的に手に持つ銛を床へ突き刺した。
「戻せ、アマノサカホコ」
「おわっ!?」
床がドロドロになり、そこに足をとられる剣を持つ少女。うん、予想通りの猪突猛進ぶりだ。
「だー!全然病人じゃねぇじゃん!」
「何言ってるの。点滴までされて、しっかり病人だよ」
「病人ってやつは、今の反射でアタシ一人的確に落としたりできないんだよ!」
そういわれても、だ。今回の一件で得られる加護の度合いが上がったので、これくらいは気軽にできるのだけど。
「まぁまぁ……クイナが倒れてる時、一番狼狽してたのは彼女だったんだよ。だからその辺りで」
「……え、嘘」
「サクは余計なことを言うな!」
いつも通りのテンポ感。くすぐったい居心地の良さに、つい笑ってしまう。
「……はぁ、ったく。毒気を抜かれるっつーか」
「ごめんごめん。でも、安心しちゃって」
「ハイハイ。……まぁでも、安心したよ。加護を使えるってことは、そう言うことだろ?」
「うん、まだ清楚なままだよ。汚されてない。こんなこと言っちゃいけないけど、死神さんには感謝かな」
「マジでンなこと言ってちゃいけないけどな。アタシらの前だけにしとけよ」
組織の上の方の人たちは『邪心殲滅!』って掲げてるし。確かに、この場でしかこんなことは言えないなぁ。
「ま、何はともあれ大丈夫そうでよかったよ」
「本当に。薬師の加護なんてほぼ初めて使ったから、ちゃんと機能してて安心した」
「……アンタはもうちょっと、戦う以外の加護も使おうな?せっかく多彩な神様なんだから」
「えー」
「えー、じゃないって。いっつもサポート全振りされてる私の手助けくらいしてよ~」
と、そこでまた笑い。三人そろって、思いっきり笑う。
「さて、と。それじゃ、アタシらは上に起きたって報告してくるな」
「体は大丈夫そうとはいえ、ちゃんと休むように!」
「はーい」
ゆっる~い敬礼で二人を見送る。扉が閉じ、足音が離れていくのを聞いて。
「……嘘、ついちゃったなぁ」
そういって、再び手首のブレスレットを見る。数日前まではただ銛を模しただけだったそれ。しかし今は、
「……イザナミノミコトは、確かに国を生んだ大女神。大地の化身たる大地母神。その属性は、純粋な神として成り立つ」
でも。でも、だ。
「彼女は死に、冥府に座す冥界の女王となった。しかも夫婦喧嘩の末に、人々を呪うという宣言までした。そりゃ、邪神の側面もあるよねぇ」
きっと、アイツらに汚されて。心のどこかでそれを『楽しい』と感じてしまったのだろう。その瞬間、御神体は姿を変えたのだ。あぁ、その時の私は神から見ればさぞ面白おかしかったんだろう。
でも、そのおかげで助かった。冥界の門を開きあのクズどもを一掃できたし、私自身も皆から汚れてしまったのだとバレずに済んでいる。おかげさまで、何もかも上手くいった。
「いつか、皆に知られたら。きっと悲しむんだろうなぁ」
だからこれは、あくまでも。私一人が得をする嘘で、あの二人を傷つける嘘だ。でも、そうだと分かっていても。
「手放したく、ないもんなぁ」
そのためなら。表立っては使えないこの力を、いくらでも使ってやろう。冥界の門を開く。ヨモツシコメを召喚する。この辺りまでなら、暗殺にだって使える。一度汚れた以上、何度重なろうが変わるまい。潜入し、殺して帰る。この神の力なら、どこまでだってやれる。これまで見たく色々と制限を課せられた力じゃなく、制限なんて何一つない無限の暴力。隠しきるのは難しいだろうけど、八雷神という切り札も手に入れた。
「邪魔するものは、全部」
全部、滅ぼしてしまえばいい。