皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第三十九回 枕返し

 我々は枕返しである。名前はまだない。それどころか姿もない。

 ただそこに存在して、どこにでも存在して、しかし存在しない。それが枕返しである。

 

 ……意味が分からないな。修正。

 特に姿かたちも定まってない、ただやることだけが決まっている妖怪。

 それが、枕返しである。

 

 え、なにをするのかって?名前の通り、枕をひっくり返す。たまに頭と足の向きをくるっと変える。

 以上。

 

 地味な悪戯だと侮るなかれ。これでいて中々に奥が深いのだ、枕返し道は。

 イメージがつかない?ふむ、じゃあ仕方ない。その一例を話してやろうじゃないか。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 私は枕返し。特に一人称に意味はない。姿もないので、こういうのは気分十割だ。

 さて、そんなわたしが普段何をしているかと言えば、当然枕を返している。単純と思うなかれ、これで中々に奥が深い。

 

 文面での説明となると難しいのだけど……例えば。手前が低く、奥が高くなっている枕がある。こういう枕はやれることが多い。

 

 奥と手前をひっくり返せば、普段より妙に高い枕ができる。それも、狭い範囲で支えることになるから安定感もない。きっと寝覚めは最悪だろう。

 また、裏表をひっくり返すのもいい。あの手の枕の裏側は平面になっているから、表面の高低差によって斜面状の枕が出来上がる。ずるずると頭が滑り落ち、首か肩に負荷をかけることができる。

 

 と、1種類の枕を例にしても色々やれることがあり。その日その時でどうするのか?が腕の見せ所なのである。

 

 前置きが長くなった。さて、本題に入ろう。

 今日忍び込んだ家。家主の枕元で顎に手を当て、考えていた。体はないが、コレは気分の問題である。

 

「うーむ、どうしたものか・・・」

 

 男の頭が乗っている枕を見る。

 平面。いたって普通。他の人からみたら、なんてことはない枕なのだろう。

 が、私達枕返しにしてみれば。そんなことはないのである。

 

 上下・裏表ともに全く同じ枕、というのは。

 なにせ、返したところで寝心地はほぼ変わらない。下手をすれば、朝起きた際に気付かれることすらない。

 

 や、どうなんだろ。案外気付くのかな。だとしても、さして不快感は与えられないように思う。

 

 さて、そうなるとどうしたものか。一応、こういう場合の最終手段というのは存在するのだけど……

 

「ここで頭と足を返すのは、負けた気がする」

 

 その最終手段は、枕返しにしてみれば「参りました」と言っているような物なのだ。

 もう他にやれることがありません、参りました、と言っていることになる。なんか悔しい。よって却下。

 

 さて、どうしたものか……なにも無しに考えていても仕方ないので、一旦枕を抜き取ってみる。

 ワンチャン家主の頭が乗っているせいで同じに見えているだけだったりしないかなぁ、と一縷の望みをかけてみたが、当然そんなことはなく。あまりにも没個性的な枕がそこにあった。

 

「何でこんな枕で寝るかなぁ」

 

 そのせいで私がこんなにも悩むはめになっているのだ。猛省してほしい。

 苛立ちを抱えながら、その家主を見る。なんだか寝苦しそうにしている。まぁ枕無しで寝てるんだし、当然と言えば当然か……

 

「もうこれでいいんじゃないかな」

 

 ついボヤいてしまったが、そうもいかない。これでは「枕返し」ではなく「枕抜き取り」である。何かしらの形で「ひっくり返す」ことはしないと……

 

「あ」

 

 ふと、頭の中にイメージが浮かんだ。そのイメージのまま、手元の枕をみる。

 白い。まぁ現代の枕と言えばこのカラーなんだろうけど、真っ白だ。枕カバーだからと洗濯をサボるタイプでもないらしい。

 

 と、言うわけで。

 枕無し・仰向けで寝ている家主の顔に、抜き取った枕を乗せる。枕と頭をひっくり返す。

 

「……よいのでは?」

 

 まずそもそもとして、枕無しで寝るというのは、思っている以上に体への負担が大きい。

 とくに、首や肩。「寝る」という行為において、枕というモノは重要なのである。

 

 次に、その枕の行き先。当たり前だが、仰向けに寝ている人間の顔にものを乗せると。それも顔全体を覆うようにものを乗せると、息苦しくなる。

 今回は枕なので、しっかり顔全体を覆えるうえに、重みもある。息苦しいことだろう。

 

 そして、最後に。この枕は、白い。

 仰向けに寝ている人の顔に、顔全体を覆う白い布。

 ビジュアルがとっても良い。

 

 うん、パーフェクト。

 

「よーし、いい仕事した!」

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 どうだろうか。これが、枕返しの仕事例なわけだけど。

 ただ「枕を返す」。言ってしまえばそれだけのことだが、時として発想の転換も必要となる。

 思いの外複雑な仕事なのだ。

 

 他には……あぁ、こんなのもあったか。この報告書を読んだときは、つい微笑ましくなってしまったのだけど。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 どうも、枕返しです。

 とはいっても、まだ生まれたてな新人なんですが……まぁ、新人なりに毎日頑張ってます。

 で。今、さてどうしたものかと考えています。

 

「えっと……抱き枕、って言うんだっけ」

 

 そう、抱き枕。今回訪れた家の人が、抱き枕を使っていたのです。それだけでなく、本来の枕をほぼ使っていない。抱き枕に頭も含めてほぼ全て預けている状態。

 本来の枕も使っていたら、枕と抱き枕を入れ替えてしまえばよかったのですが……これでは、そうもいきません。

 

「どうしよう……とりあえず、1回ひっくり返してみる……?」

 

 何をしたものか、と。そもそも抱き枕は形状的にひっくり返したところで何も変わらなさそうなのですが、何もしないではいられず。

 枕を引っこ抜いて、

 

「あ、可愛い」

 

 半ばまで引っこ抜いたところで、抱き枕のデザインがはっきり見えました。緑色の髪の、可愛らしい女の子。若干幼くは見えますけど、まぁ、はい。それは置いておきましょう。

 

 さて。

 

「で、コレをひっくり返」

 

 したところで、パッと元に戻しました。

 裏面、裸でした。あと、表情がなんかこう、アウトでした。

 

「マ……マジかぁ」

 

 こう、わたしが何となく恥ずかしい、くらいの話だったら別にいいんですよ。いや、よくないですし何だかこういたたまれなくなってるのはそうなんですけど、それではなくて。

 最終的にどう「返したのか」、を後々写真付きの報告書にしないといけなくて。

 

 あっち側の写真を乗せた報告書、上司に提出したくないなぁ!

 

「どうしよ……」

 

 いっそ上下反転くらいで……と思ったけど、抱き枕でそれをやったところで寝ている当人にダメージはない。寝心地……抱き心地?に変化はないだろう。

 いや、でも……

 

「そもそも、寝心地に変化を与えれるのか、これ」

 

 抱き枕。形状が形状なせいで、どうやったところで寝心地に変化があるようには思えない。抱き枕の側が付喪神か何かになっていたら抱く側と抱かれる側をひっくり返すことも出来たのだけど、そんな様子もない。

 

 うーん……

 

「仕方ない。寝心地に変化、は諦めよう」

 

 出来ない物は仕方ない。なので、何とかこう「やれる範囲で頑張りました」というアピールが出来る範囲で手を打とう。

 

 そうなれば、ココからは頭を柔らかく。何を「ひっくり返す」のが、この場で一番意味を持たせられるか。「なにかやったぞ」感をたたき出せるのか。

 

 抱く側と抱かれる側は入れ替えられない。

 枕カバーの中に家主を入れる?うーん、サイズ的に入りそうにない。

 頭と足を入れ替える?それは逃げだ。それをするくらいなら死を選ぶ。

 

 うーむ……

 

「あ」

 

 思い付いた。寝心地には何も作用しないけど、寝起きに対してダメージを与えられる手段。

 問題は、準備ができるかどうか。たぶん行けると思うんだけど……

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 で、この後。彼女は結局どうしたと思う?ヒントとしては、一度物を準備しにどこかへ向かったのだけど。

 なんて、引っ張っても仕方ないので、言っちゃうんだけど。

 

 枕カバーの性別を、ひっくり返した。

 ついでと言わんばかりに、「女性表面」だった抱き枕を「男性裏面」にしていった。

 

 上がってきた報告書を見て気になっちゃったから見てたんだけど、翌朝、男性悲鳴上げてたからね。

 人って寝起きであんな悲鳴出るんだね。千年くらい枕返ししてるけど、はじめて知ったよ。

 

 と、まぁこんな感じで。

 詳しく知らないと「枕返し?ただ枕をひっくり返すだけでしょ?」とか言われがちなんだけど、なんやかや色々難しいんだって分かってもらえたかな?

 

 少しでもそんな認識を持ってもらえたら嬉しい。

 

 ……え?僕だったら、あれらの場面でどうしてたか、って?

 そんなん決まってる。頭と足ひっくり返して帰ったさ。当然だろう?

 

 そういう時のために、切れ味抜群の包丁と縫合セットが持たされてるんだからさ。

 

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