皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第四十回 マジムン

 マジムン、という妖怪がいる。

 沖縄に伝わる妖怪で、その姿は多種多様。ともすれば、とある要素を持つ妖怪を全てマジムンとしたのではないか、とすら思えてしまう。

 

 うん?どんな特徴か?

 えーっと・・・

 

 一つ目。それは、ケガをした動物の姿である。

 例えば、片足のないアヒルだとか、片角のない牛だとか。豚は五体満足だったような気がする。

 まぁ、こっちは別にいい。見た目が気持ち悪いってだけだし。

 

 問題なのは、二つ目。

 それは、足の間をくぐられると死んでしまう、というもの。

 足の間をくぐられるだけで、である。どうしろというのか。

 いや、牛とか豚とかは別にいいんだ。背後からこっそりと、とかされ無ければ、まず気付けるから。対処する余地がある。

 

 が。アヒルは無理だろう。もっと言えば、赤ん坊も無理があるだろう。気付けやしない。事実上回避手段がない。

 何とも悪質な妖怪である。

 

「はず、なんだけどなぁ」

 

 と。ここ数日にあった出来事を日記に記しながら、ぼやいてしまう。

 書き出してみると、結構悪質な妖怪なはずなんだけどなぁ……

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「……うん?」

 

 日差しが強すぎて視線を下気味に歩いていると、前方に何かを発見した。

 いや、何かと言うか、うつ伏せに倒れている人影を発見した。

 

「マジか」

 

 いいながら、この暑さじゃそういう事もあるか、とも思う。熱中症はバカにならない物だし、油断しているとすぐにぶっ倒れることになる。

 なんて考えていてもアレなので、スマホを取り出しながら近づいてみることにした。

 

「あのー、大丈夫ですか?」

「え、あぁ……」

 

 しゃがんで(確かこうだったよな……)と肩をゆすってみると、返事が返ってきた。意識はあるようだ、安心。

 

「あのー、大丈夫ですか?まずそうだったら救急車呼びますけど」

「あー」

 

 大丈夫じゃなさそうだ。

 まぁ大丈夫だったとしても、この状況で救急車を呼んで怒られることはないだろう、と119番しようとして。足に、何かがぶつかってきた。

 

「うん?」

 

 視線を下にずらす。

 そこには、道にぶっ倒れていたおっちゃんが、地面を這いながら足にぶつかってきている様子があった。

 

「えっと、何してるんですか?」

「いえ、足の間を通り抜けようかと」

 

 何を言っているのか、まるで分らない。そんな俺の混乱は気にも留めず、のっそりと這いながら足に頭をぶつけてくる。

 

 あれかな。危ない人に声かけちゃったかな。

 それか、熱中症で頭やられちゃったのかな。

 

 後者だと思い込むことにした。

 

「えっと、なんで?」

「や、こう……立場的に、とりあえずくぐっとかないとかなぁ、って」

「どういうことだよ」

「マジムン的にはこう、人の足の間はくぐっとかないと」

 

 なんだ、マジムンって。何者だよそれ。変な宗教とかやってないよな、一層関わるのが怖くなってきた。

 

「あの、くぐれないんで立ってもらう事とかってできないですかね?」

「はぁ……」

 

 とはいえ、まだギリギリのところで残っている「熱中症で頭をやられて

しまっている」という可能性。それを信じることにして、立ちあがった。

 何かしてて意識を保ってくれるなら、なんかその方がいい気もするし。

 

「これでいいですか?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 何やら満足げな声音で返事をし、改めて這ってきた。

 

「……あの、くぐれないので、ですね」

「はい」

「もう少しこう、足を広げてもらえませんか?」

 

 肩のところが引っかかって進めず、なんか追加要求をしてきた。うーん。

 

「えっと、ですね」

「はい」

「大変失礼かとは思うのですが」

「はいはい」

「あなたが通れるくらいまで足を広げるのは、無理があるんですよね」

 

 言いたかないのだが。

 真っ先に熱中症で倒れてるのを疑った理由になるのだが。

 

 ちょっと駄目なんじゃないかってくらいのデブなんだよな、この人。

 

「えっと、満足しました?そしたら救急車呼ぶので、じっとしてて欲しいんですけど、」

「……仕方ない、瘦せるかぁ」

 

 なんて言い残して。

 パッと、姿が消えた。

 

「……うん?」

 

 姿が、消えた。

 うそん。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 あの後。

 暫く呆然として。そうもし続けられないので、無理矢理意識を再開した。

 

「何だったんだろうな、あれ……」

 

 ポンっ、と煙になって消えた以上は妖怪とかそういう方向で考えざるを得ないんだけど、さて……

 

「そういえば、マジムン、とか言ってたよな……」

 

 試しに検索してみる。マジムン。

 えーっと、何々?足の間をくぐられると死んでしまう、沖縄の妖怪の総称的なあれなのか、マジムン。

 

「ざっけんなよあのデブ」

 

 平然と殺そうとして来てたのか。

 ってか、人間の見た目してるマジムン「赤ん坊」しか該当するのなさそうなんだけど、あのデブあれで赤ん坊のつもりだったのか?それで這ってた?

 

 不審者デブでしかなかったぞ、あれ。

 

「……まぁ、でも。あの体じゃ人の足の間はくぐれないか」

 

 無害説、浮上である。

 無害なら、まぁいいか。

 

「ま、こんな非日常は忘れてしまうに限r」

「マジムン、いっきまーす!」

 

 何かが後ろから突撃してきた。

 より厳密には、背後から俺の足の間に入り込み、救い上げるようにして持ち上げ、背に乗せて走り出した。

 

「なんだなんだ!?」

「あっ、自分マジムンです!」

「はぁ!?」

 

 突然のことに混乱しながら、自分を乗せている生き物を見る。

 牛である。角が片方折れてるけど、牛である。

 

 牛が平然と人間の言葉を話しながら俺を背に乗せ走っている。

 

「なんだこの状況……」

「驚きました?」

「あー、うん。それは、まぁ」

 

 驚きはした。が、それ以上に連続でマジムンに遭遇したことに困惑してる。

 人語を話す牛は、分かりやすく異常だ。

 

「えっと、マジムンさん?」

「はい、なんでしょう人間さん」

 

 人間さん呼び。ちょっと不思議な感じだ。もしかしてマジムン呼びも向こうにしてみればそうなのだろうか。

 

「何が目的で?」

「そりゃあもちろん、足の間をくぐる事が目的ですよ」

「命取りに来てやがる!」

 

 やっぱりそういう妖怪なのだろう、マジムン。迷惑にもほどがある。

 

「ふっふっふ、どうです?怖いです?横幅が大きいという欠点を相手を持ち上げることで解決したこの知略、褒めてくれていいんですよ?」

「何で俺の命を取りに来た相手褒めるんだよ」

 

 意味が分からん。

 意味が分からんし、

 

「なぁ、マジムンさんや」

「なんだ、人間!」

「今俺は、おまえの背に乗ってるわけなんだが」

「あぁ、そうだな。この天才の策によってな!」

「このまま乗ってると、いつまでたっても『足の間をくぐった』ことにはならないんじゃないか?」

「………あ」

 

 止まった。

 なんでかずっと走り回ってた牛が、立ち止まった。

 

「そうじゃん……意味ないじゃん、これ!?」

「うんうん、そうだねー」

 

 頭を抱えるようにしてしゃがんでくれたので、頭側から降りる。

 万が一横とか後とかから降りて「くぐった」判定になられても困る。その点、頭から降りれば確実だろう。

 

「そんな……思い付いた時、あまりの天才さに三日三晩宴を開いたのに、こんな落とし穴があっただなんて……」

「そこまで」

 

 すぐに気づきそうな物なんだけど、そう上手くはいかないのか。

 

「あ、じゃあ俺もう行きますんで」

「なんで……どこで間違えたんだ……」

 

 聞こえちゃいなさそうだったので、気にせず立ち去ることにした。

 何だったんだ、こいつら。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 マジムンその1。デブすぎて人の足の間を潜り抜けられない。

 マジムンその2。頭が弱すぎて人の足の間を潜り抜けるところまで考えられない。

 

 以上が、俺の出会ってきたマジムンである。

 

「仮に」

 

 そう思うと、結論は単純な気がして。

 

「仮にアヒルとかのマジムンが来たとしても、なんかあって潜り抜けられないんだろうなぁ」

 

 きっと、種族全体としてポンコツなんだろう。

 どうにもならないね、うん。

 

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