皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
目玉しゃぶり、という妖怪がいる。
待て、待ってくれ。うん、分かる。誰だってこんな名前の妖怪いるわけないって考える。それは、そう。
ただ、そうは言ってもだ。いるものはいるのだから、仕方ない。そう思って、もう少しだけ話を聞いてはくれないだろうか。
……ありがとう。んじゃ、話の続きといこう。
まず、安心してほしいのは。
目玉しゃぶり、なんて名前だけど伝承そのものの中ではそんな変態的なことはしていない。
あ、ちょっとホッとした?まぁ、異常性癖の妖怪の話なんて誰も聞きたくないよな。分かるわかる。
まぁ長い舌を伸ばして目玉を舐め回してる絵はあるんだけど……あ、待って。大丈夫、さっき言った通りそんな伝承はないから。口頭説明の中ではそんな状況出てこないから。
おっほん。んじゃ、話を戻して。
どんな妖怪なのか、なんだけど。所謂、見るなのタブー系。分かる?鶴の恩返しとか、イザナギイザナミの冥界巡りとかの……分かるね、よし。
今回のは、それが箱なんだよ。
橋の端っこで、女の人から渡される箱。「中は見ずに、反対側にいる女の人にこの箱を渡して」って頼まれるんだよ。
んで、言われたとおりにすれば何も起こらないんだけど、中を見ちゃうと……って言う。
うん?どうなるのか、だって?
そこはまぁ、ほら。この後の話で分かるから。うん、大丈夫大丈夫。
そう、この後の話。こっからするのは、俺がその目玉しゃぶりと出会った時のことになるんだけどな。いやぁ、これが酷いったらなくて。なにせ、最初の会話がこれだぜ?
「この箱を、橋の反対側にいる女の人に渡して欲しいのです」
「これを?」
「はい、この箱を。中は決して見ずに」
「それはいいんだけど……何が入ってるんです?」
「それはもう、私が厳選した愛らしく、綺麗で、キュートで、凛々しく、パーフェクトな愛すべき目玉ちゃん達が―――あ、川に投げ込もうとしないで!!!」
反射的に放り投げなかった事は、いまでも後悔してる。
=〇=
「何考えてるんですか!?人に渡された物を問答無用で川に投げ込もうとするとか!」
「大量の目玉が入ってる、なんて言われたら誰だってキモくてぶん投げるだろ」
自信を持って言える。俺は間違っていない、と。
「いーいーえー!間違ってます、何をどう考えても間違ってます!」
真っ向から反対された。実は俺が間違っているのかもしれない、と思わされる。
「じゃあ、どうするのが正解だったんだ?」
「目玉コレクションですよ!?気になってつい反射的に開き、覗き込んでしまうのが正しい反応でしょう!」
もう一度、手の中にあるものを投げようとした。
腕をつかんで止められた。無念。
「何で投げようとするんですか!」
「逆に聞くんだが、何で投げないと思った」
「目玉ですよ!?」
「目玉だからだよ」
中に大量の目玉が入ってる箱とか、1秒でも触っていたくないだろ。気持ち悪い。
「いや、ってかさ」
「なんですか?」
「さっき「見るな」って言ってたのに、開けさせようとしてる?」
「はい、していますが」
秒で矛盾しないで欲しい。
「どうしたいんだよ、おまえは」
「そら、「見るな」って言った物を開けて見て欲しいんですよ」
どんな複雑な心境だ。今時乙女心だってもっとシンプルだろ。
「そしたら、その綺麗な目玉が私の物になるんだもの」
「待てこの危険人物」
箱をつかむ手をおろし、視界に入らない位置まで持っていく。なんか怖いこと言い出したぞ、コイツ。
「うん?なに、急に怖い声出して」
「どうして怖い声にならないと思った」
至極まっとうな反応だろう。
「えっと……箱を開けて中を見たら、なんだって?」
「その綺麗な目玉が私の物になる」
「俺の目玉は?」
「当然無くなるけど」
「しれっと言うな」
当然、で済ませていいことではない。
「あ、あとついでに命も無くなるから」
「ついでで命を持っていくな」
なんてことを言いやがる、この妖怪。ってか、何ならそっちの方が被害大きいだろ。なんで命より目玉の方が希少価値高いんだよ。
「些細な事でしょ、目玉の前では」
「いや、どちらかを取れというなら目玉よりも命の方が大事なはずなんだけど」
「何言ってるの、先に目玉を取らないとどんどん傷んで行っちゃうじゃない」
そんな死体が腐るとかの話はしていない。
「いずれにせよ、そういうわけだから。さぁ、箱を届けて頂戴!」
中も見ていいぞ、むしろ見ろ、という視線を痛いほどに感じる。
手元を見る。今まさに目の前の不審人物が渡してきた箱がある。
もう一度目の前を見る。不審人物がまだかまだかと目をキラッキラさせながら見てくる。
手元を見る。どうやら、俺はこれを開けると死ぬらしい。
やっぱり。迷うことなく、箱を川に向けて投げ捨てた。
「私の目玉コレクションが!?」
こっちはこっちで、迷うことなく川へ飛び込んでいった。ついでに、川の反対側からも似た背格好の女性が飛び込んでいった。そういえば、川の反対側でどうこうって
言ってたっけか。そっちはそっちで当人かご同類だったらしい。
「よし、帰るか」
悪は滅びた。
結局何だったんか分からずじまいだが、まぁ、うん。
いいだろ、あれはもう。
「……ってか」
なんて、思ったはずなのに。
一個だけ、どうしても気になることが出てきてしまった。
「見るなのタブーじゃないだろ、あれ」
あれで中身を見たらアウトは、理不尽にもほどがある。