皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第四十三回 山彦

 山彦、という妖怪をご存じだろうか。

 妖怪、って言われてぴんと来なかったら現象でもいい。やまびこ。知らない?

 

 知ってる?よかった、一安心。

 や、知ってるだろうとは思ったんだけどね?結構有名だし、誰でも子供の頃に1度はやるだろうし。

 ただ、だからこそ知らなかったら困るな、って。結構説明するの難しくない?

 そうでもない?そっかぁ。

 

 おっほん。まぁ、それは置いといてだ。山彦。ご存じの通り、「やっほー」って言ったら「やっほー」って返ってくるやつ。それを、妖怪が返事した、って解釈してるやつ。

 

 ……うん?単なる音の反射だろ、って?夢がねぇなぁ、おまえも。

 いや、正しいよ?まったく同じフレーズしか返ってこない時点で、そういう物理現象だ、って解釈するのはさ?冷静になってみれば、言われたことをひたすらオウム返しにする謎の生命体、意味わかんないし。

 

 ただ、その意味わかんない生命体がいたんだよ。しかもめっちゃ可愛いの。姿は見えなかったんだけどな?

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「はー……いい景色だなぁ。むかつくくらい、いい景色だ」

 

 とある休みの日。ちょっとしたストレス発散も兼ねて、山を登っていた。ヘトヘトになれたら何でもよかったんだけど、まぁ、うん。

 いい景色とか見たらもっとすっきりするかなぁ、って思って。登山。んで、結果としては、だ。

 

「どうでもいいなぁ、景色」

 

 どうでもよかった。

 あ、綺麗だなぁ、うん。で終わった。何だったんだこの時間は。

 

 無性に腹が立ってきた。ストレス発散に、って体を動かしたのに、結局ストレスが溜まっている。

 

「バッカやろー!」

 

 柵に手を置いて。

 息を吸い、思いっきり大声を出してみた。ちょっとすっきり。

 カラオケとかでよかったな、これ。

 

『バッカやろ―!』

「あ、山彦」

 

 今朝の自分がいかにバカだったのかを再確認していたら、やまびこが返ってきた。

 ドストレートな暴言が、行って返ってきた。自分の言った暴言がそのまま返ってきてるのに、何故か楽しい。

 よし、もっとやろう。

 

「やれるかそんな仕事ー!」

『やれるかそんな仕事ー!』

 

 自分の意見に同意してくれてるみたいで、心が軽くなった。どっちも自分なんだけどな。

 

「あんのクソハゲカチョー!」

『あんのクソハゲカチョー!』

 

 今更ヅラ探してる身で無茶言ってくるんじゃねぇ、禿げろ。

 

「バァーッカ!」

『バァーッカ!』

 

 これはシンプルに、知能指数が下がった。ほぼ何も考えれてない。

 ただ、すっきり度合いはすごかった。やっぱシンプルな暴言が一番すっきりするな。

 

「はぁ……満足」

 

 すっきりした。大声って偉大なんだな、って思い知らされた。さて、すっきりしたことだしもう帰、

 

「—――あ」

 

 思いついてしまった。

 たぶん、ついさっきので知能指数が下がってたからだと思う。あまりにも幼稚な、それでいて叫べたらちょっと楽しいであろう言葉が、思いついてしまった。

 

 や、でも……さすがにこれはマズい気がする。別に周りに誰かいるわけではないけど、山彦が返ってくるくらいの大声で叫ぶってことはそれなりの声量になるわけで。

 ってことは、おそらく今頭に浮かんでいる、低俗で知能指数超低いこのワードを叫んでいるのが人に聞かれることになるわけで、

 

「おっぱい!!!!」

 

 叫んでた。

 考えてる間に、もう叫んでた。

 や、仕方ないじゃん。思いついちゃったんだもの。そんでもって、普段であれば絶対叫べないような単語なんだもん。

 今このテンションで叫んでしまいたくなるのも、仕方ない。うん。

 

 仕方ないついでに、叫んだっていう過去はもうどうやっても変わらないのだし、山彦を聞いて笑い転げたい、

 

「……あれ?」

 

 返ってこない。

 おかしい、さっきまで帰ってきていた山彦が返ってこない。山彦って時間限定物理現象だったっけ?

 

「……バーカ!」

 

 試しに、知能指数超低い暴言を叫ぶ。

 

『バーカ!』

 

 返ってきた。まだ山彦タイムは続いている。ならば、

 

「おっぱい!!!!」

 

 先ほどよりも息を大きく吸い、叫ぶ。

 返ってこない。

 

「おっぱい!!!!」

 

 チラッと調べてみたら、母音を強調する方がより返ってきやすい、みたいな記事が出てきた。

 ので、そうやってみた。返ってこない。

 

 ふーむ……

 

「おっぱ」

『いや何回繰り返すんですかー!』

 

 返ってきた。

 や、違う。まるで違う言葉が、まるで違う声で飛んできた。

 

 見られてたのだろうか、と振り返る。別に誰もいない。

 実は誰かが山彦ごっこをしてた?と周囲一帯を見わたす。別にそんな人はいない。なんなら人すらいない。一先ず、通報される心配はなさそうだ。

 

 結論、誰もいない。

 なんだ、空耳か。それでは改めてもう一度。

 

「おっぱ」

『言わないって言ってるでしょうが!なんでそこでもう一回になるんですか!?』

 

 返ってきてしまった。

 おかしい、誰もいないはずなのに返ってきてしまった。どういうことだ、どこから会話してきてるんだこれ。

 

『ってか、山彦なんだと思ってるんですか!セクハラですよセクハラ!』

 

 山彦らしい。

 ……え、山彦なの?マジで?

 

「ヤッホー!」

『ヤッホー!……って、なんだその取り繕ったようなのは!』

 

 おぉ、見事なノリツッコミ。前半俺の声なのに、後半女の子の声なの違和感はんぱないな。

 

『いいですか!?』

 

 と、考えていたら山彦が何か言ってきた。さっきもそうだけど、山彦が先に話し出すのはアリなのか。

 

『いくら山彦だからって、言わせていいことと悪いことがあるんですよ!』

 

「山彦に言わせる」ってなんだ。どんな状況だ。

 ……こんな状況か。

 

『分かったら、今後山で卑猥な単語を叫ばないでくださいね!』

 

 卑猥、ってレベルの言葉を使うほどだろうか。おっぱい。

 

『返事!』

 

 悩んでいたら返事を求められた。逆じゃないの。山彦が人間に返事するんじゃないの、これ。

 

「分かったー!」

『分かったー!……よし!』

 

 会話かと思ったら山彦は返ってきた。そこは律儀に返すのか。

 ……うずっ。

 

「おっぱい!!!!」

『こらー!!!』

 

 どうしよう。この山彦、反応が楽しい。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 ってことが、こないだ有休とった日にあってさぁ。意味不明すぎるし、夢だったんじゃないかなぁ、とも思ってるんだけど。

 これだけテンポ感よくリアクションしてくれるの、可愛くない?たぶん好きな人にイタズラしちゃう小学生みたいな感情だとは思うんだけど、楽しくって……

 

 って、どうした?そんな心配そうな目で見て。コーヒー奢ってくれる?え、なんで。いいから、って……や、奢ってくれる、ってんならありがたく貰うけど。

 

 電話してくる?おー、行ってら。ってか、今も別に仕事中だしな。わざわざ断わることでもなくね?

 

 なお、後日。

 俺は産業医との面談がセッティングされ、ハゲは電話で呼び出され、死んだ顔で帰ってくる、みたいな出来事があったりしたのだけど。

 

 面白かったので、良しとする。

 

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