皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第四十四回 酒

「酒ってなぁ、神様が作ったモンだと思うんだよ」

 

 朝晩が冷え込みだした、くらいの。

 震えるほどではない、されど温かい物は美味しく感じる、そんな時期。

 おでんの屋台で偶然隣に座った男性が、そんなことを言い出した。

 

「神様が作った、ですか?」

「おうよ。だってよ、他にあるか?こんな美味くて、幸せな気分になれるモン」

 

 つい、返事をしてしまう。

 気をよくしたのだろう。随分と酒が回っているのか、赤くなった顔で。それとは対象的に真剣この上ない目でこちらを見て、続けた。

 

「確かに……美味しくて幸せな気分、温かくてほっとする、とかはいくらでもありますけど。ただ飲むだけでここまで気分が変わる物、他にはないですね」

 

 そんなちぐはぐな真剣さに中てられたのか。はたまた、自分も人のことを言えないくらい酔っていたのか。

 ぐいと体を向け、言葉を返す。

 

「そうだろう、そうだろう」

 

 赤ら顔に深いしわを刻み込みながら、ビールを一気に飲み。

 大将、牛筋に大根、タマゴと熱燗~、と注文を付ける。

 

「兄ちゃん、日本酒はイケるか?」

「イケますが……」

「おっ、じゃあおっちゃんの奢りだ。大将!2合で、猪口2つね!」

 

 何やら、奢ってもらえるらしい。

 そんなつもりではなかったのだけど。まぁ、貰えるものは貰っておこう。

 

「んで、さっきの話なんだけどな」

「お酒は神様が作った、ですか?」

「おう、それそれ」

 

 皿に残っていた具をつまみながら、話を再開する。

 

「実際、そんな役割の神サンもいるだろ?ほれ、デュオなんたらって」

「デュオニソス、ですかね。ギリシア神話の」

「おー、それそれ!酒造りの神様だって話じゃねぇか」

 

 厳密に考えるとそれだけじゃないんだけど、まぁ、うん。

 そんな認識でも、大枠としては間違っていない、はず。酩酊とか狂気とかのワードもあった気がするけど。

 

「大昔、神話の中にすらそれだけの神サンがいるんだ。酒ってのはそれだけのモン、ってことだろ?」

 

 あ、酒が回ってきたなこの人。って感じの支離滅裂さが出てきた。

 順番としてはそれだけ大昔の人もお酒を大切にしていた、ってことだと思うのだけど。

 

「確かに。飲み物に対してそれだけの事を残す、って言うのも不思議な話ですよね」

 

 それは、言わないでおく。

 

「そうだろう?だからよ、俺は」

「へい、牛筋に大根、卵。それと熱燗2合です」

 

 と。

 同意が得られて、興奮気味に身を乗り出したところに、先ほど注文した品が出てきた。

 大将、ナイスタイミング。

 

「おっ、ありがとさん。ほれ、兄ちゃん」

「あ、これはこれは……ご馳走になります」

 

 とっくりを差し出されたので、お猪口を取って頂く。ただ酒バンザイ。

 なお、とっくりを受け取る間もなく自分の分は自分で注がれてしまった。

 

「んで……えっと、何の話だっけか?」

「神話の中にお酒を造るだけの神様がいるくらいだから……って話でしたよ」

「おー、そうだそうだ!んでよ」

 

 やれやれ、と言いたげな大将を横目に、おっちゃんの話に耳を傾ける。

 

 とある場所には、それを造るだけの神様がいて。

 とある場所には、それを呑んでしまったが故に退治される怪物がいて。

 とある場所には、それによって身を滅ぼす人間がいて。

 そして、今ここには。飲み物であるソレを呑んで、楽しくなっている自分達がいる。

 

 なるほど、確かにこれは、神の御業に見えるかもしれない。

 猪口を回し、中に満たされた日本酒を揺らしながらそんなことを考え。ふと、このお酒の材料を思い出した。

 

 米。お米。日本人の生活のパートナー。それが、この日本酒の材料だ。

 

「案外……」

「うん?」

 

 それを思い出した時。

 じゃあこんなのはどうだろう、と。

 

「いえ、なんでもないです」

「ふーん、そっか。んでよ―――」

 

 言っても、何の意味もないな、と。そう考えて、口をつぐんだ。

 コレそのものが神様なんじゃ、なんて。言っても仕方のないことだから。

 

 けど。けど、だよ?

 米粒には7人の神様がいる、なんて言うくらいだし。神様を呑んでるって思うと、呑むと幸せになる、ってのも納得じゃないかな、って。

 

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