皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
「酒ってなぁ、神様が作ったモンだと思うんだよ」
朝晩が冷え込みだした、くらいの。
震えるほどではない、されど温かい物は美味しく感じる、そんな時期。
おでんの屋台で偶然隣に座った男性が、そんなことを言い出した。
「神様が作った、ですか?」
「おうよ。だってよ、他にあるか?こんな美味くて、幸せな気分になれるモン」
つい、返事をしてしまう。
気をよくしたのだろう。随分と酒が回っているのか、赤くなった顔で。それとは対象的に真剣この上ない目でこちらを見て、続けた。
「確かに……美味しくて幸せな気分、温かくてほっとする、とかはいくらでもありますけど。ただ飲むだけでここまで気分が変わる物、他にはないですね」
そんなちぐはぐな真剣さに中てられたのか。はたまた、自分も人のことを言えないくらい酔っていたのか。
ぐいと体を向け、言葉を返す。
「そうだろう、そうだろう」
赤ら顔に深いしわを刻み込みながら、ビールを一気に飲み。
大将、牛筋に大根、タマゴと熱燗~、と注文を付ける。
「兄ちゃん、日本酒はイケるか?」
「イケますが……」
「おっ、じゃあおっちゃんの奢りだ。大将!2合で、猪口2つね!」
何やら、奢ってもらえるらしい。
そんなつもりではなかったのだけど。まぁ、貰えるものは貰っておこう。
「んで、さっきの話なんだけどな」
「お酒は神様が作った、ですか?」
「おう、それそれ」
皿に残っていた具をつまみながら、話を再開する。
「実際、そんな役割の神サンもいるだろ?ほれ、デュオなんたらって」
「デュオニソス、ですかね。ギリシア神話の」
「おー、それそれ!酒造りの神様だって話じゃねぇか」
厳密に考えるとそれだけじゃないんだけど、まぁ、うん。
そんな認識でも、大枠としては間違っていない、はず。酩酊とか狂気とかのワードもあった気がするけど。
「大昔、神話の中にすらそれだけの神サンがいるんだ。酒ってのはそれだけのモン、ってことだろ?」
あ、酒が回ってきたなこの人。って感じの支離滅裂さが出てきた。
順番としてはそれだけ大昔の人もお酒を大切にしていた、ってことだと思うのだけど。
「確かに。飲み物に対してそれだけの事を残す、って言うのも不思議な話ですよね」
それは、言わないでおく。
「そうだろう?だからよ、俺は」
「へい、牛筋に大根、卵。それと熱燗2合です」
と。
同意が得られて、興奮気味に身を乗り出したところに、先ほど注文した品が出てきた。
大将、ナイスタイミング。
「おっ、ありがとさん。ほれ、兄ちゃん」
「あ、これはこれは……ご馳走になります」
とっくりを差し出されたので、お猪口を取って頂く。ただ酒バンザイ。
なお、とっくりを受け取る間もなく自分の分は自分で注がれてしまった。
「んで……えっと、何の話だっけか?」
「神話の中にお酒を造るだけの神様がいるくらいだから……って話でしたよ」
「おー、そうだそうだ!んでよ」
やれやれ、と言いたげな大将を横目に、おっちゃんの話に耳を傾ける。
とある場所には、それを造るだけの神様がいて。
とある場所には、それを呑んでしまったが故に退治される怪物がいて。
とある場所には、それによって身を滅ぼす人間がいて。
そして、今ここには。飲み物であるソレを呑んで、楽しくなっている自分達がいる。
なるほど、確かにこれは、神の御業に見えるかもしれない。
猪口を回し、中に満たされた日本酒を揺らしながらそんなことを考え。ふと、このお酒の材料を思い出した。
米。お米。日本人の生活のパートナー。それが、この日本酒の材料だ。
「案外……」
「うん?」
それを思い出した時。
じゃあこんなのはどうだろう、と。
「いえ、なんでもないです」
「ふーん、そっか。んでよ―――」
言っても、何の意味もないな、と。そう考えて、口をつぐんだ。
コレそのものが神様なんじゃ、なんて。言っても仕方のないことだから。
けど。けど、だよ?
米粒には7人の神様がいる、なんて言うくらいだし。神様を呑んでるって思うと、呑むと幸せになる、ってのも納得じゃないかな、って。