皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第三回 メイド・妹・夏

『兄&妹』の場合

 

「というわけで、ここにメイド服があります」

「いったいどういうわけですか、兄さん」

 

 真夏の昼下がり。リビングのソファに座りアイスを食べる妹の前に、メイド服を広げた。

 たっぷり3秒それを見て、一口アイスを食べて。

 

「大丈夫です、私は寛容な妹ですから。家族に女装趣味があっても受け入れますし、必要なら仕草やお化粧も教えましょう」

「大海のように広い心の妹を持てて幸せだが、そういう話ではない」

「では……まさか、彼女はいませんでしたね」

「せめてそれは俺の口から言わせてくれないか」

 

 しっかりと心がえぐられた。

 

「では、ご友人に着てもらうつもりですか?春香姉さんはおそらくアイス一つでいけます。秋穂先輩は断れない性格なので、頼み込めば。真冬会長はあの性格なので、土下座して惨めに懇願すれば着てくださるかと」

「ふむ、なるほど。今度試してみよう」

 

 パッと周辺人物へメイド服を着せる手順を教えてくれた。大変有用なので心のメモ帳に書き込んでおく。

 

「しかしだな。これは自分が着るものでも、ましてや俺の女友達に着てもらうものでもない」

「でも、皆さんが着ているのは見たいんでしょう?」

「見たいというか、実行は確定してる」

「何なら雪奈さんは呼べば面白がって着てくださるかと」

「つまりあと4着注文すればいいんだな」

「サイズはお教えしますので、写真をください」

「オーケー、交渉成立だ」

 

 がっつりと握手を交わす。

 

「っていやだからそうじゃなく」

「チッ、流されてはくれませんか」

 

 外では優等生面しているのに、躊躇いのない舌打ち。まぁ心からのものではないだろうし、気にしないことにしよう。

 ……ないよね?

 

「話を戻すが、ぶっちゃけこれはお前に着せる用だ」

「そんな気はしていました。丈がぴったりですし」

「母さんに『立夏にメイド服着てもらいたいからサイズ教えて』と言ったら快く教えてくれたぞ」

「なるほど、情報漏洩はあそこから」

「対価はお前のメイド写真だ」

「人の身体情報を売り払うだけではなく、コスプレした写真を手に入れようとは。悪辣ですね」

「お前が言うな」

 

 年上の幼馴染、部活の先輩、お世話になってる生徒会長、クラスメイトの情報を使って全く同じことをしているのだが。

 

「情報、いらないんですか?」

「とても欲しいです」

「凄いですよ、春香姉さん。未だ成長中です」

「マジか」

 

 ではなく。いやそれはそれで気になるのだが、今はそうではない。それは後の話だ。

 

「とにかく、着てくれ」

「嫌ですけど」

「安心しろ、サイズはぴったりなはずだし、

ガチなヤツじゃないから見た目のわりに涼しい」

「それはありがたいですが、そういうことではなく」

「まさか、メイド服を着たくないと!?」

「まさかも何も、兄の目の前でコスプレする趣味はありません」

 

 どうしようもないほどの正論だった。

 

「じゃあ、仕方ない」

「諦めてくれましたか」

「ここはひとつ、勝負といこう」

「まるで諦めてませんでしたね」

 

 パク、と木さじを口に運んで。

 それでちょうど空になったカップを俺に渡しつつ、机の上にスペースを作る。

 

「内容は?」

「話が早いのはとても助かる」

「いつものことですから。この暑い中アイスを買いに行くのも憂鬱だったところですし」

 

 なるほど。今食べていたのが最後の一個だった、と。つまり俺はこの暑い中アイスを食べることもできないわけだ。

 考えると絶望しそうなので、一旦忘れよう。

 

「シンプルにオセロとか、どうだろう?」

「え、大丈夫ですか兄さん?頭の差が」

「確かに現状全敗しているが、酷くないか?」

 

 同じ血を引いているはずなのに、こうまで学力に差が出るのは何なのだろう。

 あれか。神様は女性贔屓なのか。

 

「ま、大丈夫だ。今日は俺が勝つ」

「その心は?」

「勝利の女神さまも、立夏のメイド服姿を見たいに決まってる」

「そんな理由で勝敗を決める女神なんて、存在価値あるんですか?」

 

 神に対してすらこの物言い。

 我が妹ながら、末恐ろしい。

 

 ===

 

「で、本当に勝ってしまうんですもんね」

 

 はふぅ、と。メイド服に着替えてきた妹が溜息をつく。渋々、といった口調と態度なのに背筋がピンとしていて、手の位置も体の前。

 これはさすがと言わざるとえない、完璧なメイドスタイルである。

 

「写真撮影をするならそちらからがいいかと」

「あ、なるほど了解」

 

 角度の指定を貰い、実際にスマホのレンズを向ける。写真の構図とか詳しくはないけど、なんとなく「よく」感じた。

 

「せっかくだし、何かそれっぽいこと言ってみてくれよ」

「それっぽいことて」

「言いたいことは伝わるだろ?」

「まぁ、伝わりますけど……」

 

 やれやれ、といった感情か。

 もしくは、もう着たのだしという諦めか。

 

 数瞬目をつむり、雰囲気を変えて。

 

「お目覚めですか、ご主人様?」

「おっ」

「お休みの日とはいえ、気を抜きすぎではありませんか?顔を洗って昼食を召し上がり、残り僅かな今日を有意義にお過ごしください」

「やべぇ、結構口がキツイぞこのメイド」

 

 しかし、悪くない。先ほどまでの無表情でもなく、しっかり表情とセットで言って

くれるのだから、彼女が普段どれだけ外面を作れているのかがうかがえる。

 

「あー、いや。こうも暑いと、さ。立夏の方こそ、この暑さの中そんな恰好で

きつくないの?」

「お気遣い、痛み入ります。ですが、見た目ほどキッチリしてもいませんから。思いの外涼しいんですよ?」

 

 そういう触れ込みの物を買ったのだが、ちゃんと機能しているらしい。一安心。

 

「とはいえ、暑いのは確かですね。氷菓でも……あ」

「うん?」

「いえ、その……大変お恥ずかしいのですが先ほど全て食べてしまいまして」

 

 と。肩を縮こまらせて、申し訳なさそうに。

 

「私の方こそ、気が緩んでおりました。すぐに買ってまいりますので、暫くお待ちいただけますか……?」

 

 ちょっと上目遣いになりながらの、提案。

 あぁ、うん。ダメだ。

 

「あの……ご主人様?」

「ちょっとアイス買ってくる」

 

 それだけ言い残して、家を出た。

 大丈夫、一番近いコンビニまで走れば20分だ。早く買って帰り、一緒に食べるとしよう。

 

 ===

 

「……さて、最後のアイスをいただきますか」

 

 短く見積もっても往復1時間でしょうし、ゆっくりいただきましょう。

 

 

 

『姉&妹』の場合

 

「というわけで、ゲームをしよう!」

「大丈夫お姉ちゃん?暑さで頭やられちゃった?」

 

 突然私の部屋に突撃してきたお姉ちゃんが何か変なことを言い出した。

 こう書くと、危ないお姉ちゃん感が出るなぁ。

 

「それで?急に何?」

「実はね。お姉ちゃん、こんなもの買っちゃったの~」

 

 じゃーん!と背中に隠していたものを出される。

 メイド服だった。結構胸元が開いている。

 

「え、何?」

「知らないの?これはね、メイド服っていう」

「嫌そうじゃなくて。それは知ってるから」

 

 そんなことすら知らないと思われてるのか、私は。

 

「私が聞きたいのは、何でそんなものがここにあるのかな?ってことなんだけど」

「え、勿論愛しい愛しい妹ちゃんに着てもらうためだよ?」

「おかしいな、私が知ってる『勿論』と意味が違うぞ」

 

 私の記憶では『勿論』とは『当たり前』みたいな意味合いだったと思うんだけど。いつからその意味は変わったのだろうか。

 

「勿論、着てくれるでしょう?」

「嫌だけど」

 

 この世の終わりかってくらいの顔になった。当たり前のように百面相しないで欲しいのだけど。

 

「ど、どうして……」

「いや、恥ずかしいし」

「お姉ちゃんの前でメイド服になることの何が恥ずかしいの!?」

「いやお姉ちゃんが今言ってること全部だけど」

 

 まさにそれが恥ずかしいのである。

 そして、それだけでも恥ずかしいにもかかわらず、だ。

 

「スカート丈、短いし」

「大丈夫、実際に着てみると『丁度いい』くらいだから!」

「胸元開いてるし」

「そこは露出しちゃうけど、ぴったりなはずだから!」

「何より、メイド服だし」

「ええもちろん、だってメイド服だもの!」

 

 糠に釘、暖簾に腕押しとはこのことだろう。はなしが何も通じていない。

 というか、根底にある法則が違いすぎる。

 

「そんなにメイドがいいなら、お姉ちゃんが着ればいいじゃん」

「それは何か違うじゃない?」

「それ。その気持ちを今目の前の妹が味わってる」

「あ、でもそんなにお姉ちゃんのメイド姿が見たいなら、やぶさかでもないかな~」

 

 よし、いつも通り話は聞いてない。スラっとした足を動かしながらいやんいやんと体をひねり、そのたびに豊かな胸元が揺れる揺れる。

 ……よし、もうこの方針で行こう。

 

「そうだね、お姉ちゃんのメイド姿見たいなぁ」

「そ、そう?そんなに見たい?」

「うん、見たい見たい。絶対似合うもん」

「そ、っか~。そっかそっか~」

 

 そっかそっかそっか~、と。

 それしか言えなくなったかのように繰り返しつつ、部屋の中をくるくる回るお姉ちゃん。

 よし、勝ったな。

 

「そんなに言うなら!予定変更して、お姉ちゃんが着て来よう!」

 

 予想通り、うっきうきで私の部屋を出ていくお姉ちゃん。

 宿題を中断して、一眼レフを取り出す私であった。

 

 

 ===

 

 

「あ、あの……これ、丈、みじか」

「お姉ちゃん、私より身長あるしね~」

「そ、それに、胸元が」

「いっそこぼれそうだよね~。いやぁ、やっぱり大きいなぁ」

 

 まぁ、うん。私がギリギリ『エロ可愛い』くらいになりそうなサイズだったから、姉さんは『エロい』になるくらいの代物だよね。

 想像通りだ。私は内心感心しながら、シャッターを切る。

 

「いっそ何かポーズとかとろっか。指示するからさ」

「いや、その、お姉ちゃん恥ずかしいかなぁ、って……」

「とりあえずそうだなぁ、サボり気味のメイドさんっぽく、箒にもたれかかって前かがみの」

「はい、お姉ちゃんが悪かったです!ごめんなさい!!」

 

 仕方がないので、この後ポーズ3種類で許した。

 

 毎年、夏の恒例行事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・夏コミのコスプレ

 利点:書きやすい

 難点:文章でメイド服を表す

~兄ルートなら~

 帰ってから

 「会場で感想聞けなかったけど」

 ルートで着てくるパターン?

~姉ルートなら~

 帰ってから

 「ご褒美欲しいな~。

  お姉ちゃんのメイド服みたいな~」

~妹のサークル参加に売り子として~

「お・ね・え・ちゃ・ん?」

「やめてくれ・・・頼むからやめて・・・」

「さ、お姉ちゃんの人気のおかげで

いつもより売り上げあるし、打ち上げに

焼肉いこっか焼肉!」

「肉、食べる・・・」

「お兄ちゃんの女装で稼いだお金で

焼肉だー!」

「帰る!!!!!!」

 

・姉がメイド、妹が主

 中世イメージ

 優秀な妹と無能な姉

 当主の家族としてやれることがなく、

妹の従者にあてられる姉。

 

 「私バカだからさ~」と何言われても

気にせずヘラヘラ従者する姉

 「妹相手に情けないと思わないの?」と

苛立ちを覚える妹(姉の態度+周囲の態度)

 

 

 

 

 

 

「これで回りたかったところは全部かな?」

 

 念のためメモ帳を確認する。

 行ったところはチェックを入れている

のだが……うん、全部チェック入ってる。

 

「よし、間違いなく全部だ」

 

 

 となるとさて、ここからどうしようか。

 何か掘り出し物がないか会場内を回るか、

はたまたコスプレエリアに行って目の保養

をするか。

 

「っと、うん?」

 

 そこで、進行方向にあったそれが

目に入った。大きなサークルではなさそう

だが、メイド服のコスプレが2人。

 せっかくだからと雇ったのだろうか?

 

「あ、お兄さんこんにちは~」

「あ、はい、どうも」

 

 と、気になって見ていたら声を

かけられてしまった。まぁ行くところも

ないので、立ち寄らせてもらうことに。

 

「おっ、美人メイド2人で

捕まえられました!」

「ハハハ……あ、見せていただいても?」

「はい、もちろん!どうぞです」

 

 差し出されたサンプルを開く。

 内容は……流行りのソシャゲの漫画と

イラスト集、かな?

 

「絵柄、綺麗ですね」

「あ、ホントですか?いや~頑張った

かいがありました!」

 

 おっと、まさかの。

 

「売り子さんじゃなくて作者さんでしたか」

「はい!メイド服は集客のために

着ました!」

 

 えげつない程ストレートに

言われてしまった。

 ま、まあ……使えるものを使うのは、

いいことだ。うん。実際こうして捕まった

バカな男もいるわけだし。

 

「ってことは、そっちの人も作品を?」

 

 と、もう一人のメイドさんを見る。

 どこか似た顔立ちの、若干大人っぽい人、

 

「あ、こっちは売り子をお願いした姉です」

「なるほど」

 

 この暑い中長袖にロングスカートの

メイド服。

 

「顔赤いですけど、そんな恰好で大丈夫

なんですか?」

「あ、それは大丈夫です。結構涼しい

素材なんですよこれ」

 

 と、妹さんがお姉さんの服を

つまみながら。

 

「これは単純に、恥ずかしがってるんです。

メイド服着てもらうなんて言ってなかった

ので」

「え?」

「売り子お願い、とだけ言って連れ出して。

服装はついさっき渡しました」

 

 鬼のような妹さんだった。

 

「御覧の通りシャイな性格なので、

見逃してあげてください。拗ねちゃった

のか一言もしゃべってくれないんですよ」

 

 それは仕方ないと思う。

 

「まぁ力仕事担当で連れ出したので、

いいといえばいいんですけど」

 

 この妹さん、鬼じゃなかろうか。

 

「でもせっかく似合ってるんだから

喋ってくれてもいいと思いません?」

「まぁ、それは確かに」

 

 あ、顔をそらされてしまった。

 

「と、それはさておき。いかがです?」

「あ、じゃあ一冊ください」

「はい、ありがとうございます!」

 

 と、一冊分のお金を渡して本を受け取る。

 綺麗な絵柄だなと思ったのは事実だし、

帰ってからじっくり見ることにしよう。

 

「せっかくですし、写真とか

撮っていきません?」

「はい?」

「いえ、こう。SNSとかにあげてくれたら

宣伝になるなー、って」

 

 あまりにも強かじゃなかろうか、この子。

 でもまぁ、せっかくなので。

 

「じゃ、一枚」

「やった、投稿よろしくお願いしますね!」

 

 似合っているので、個人的にも

うれしい限りだし。ツイートをするくらい

なら何も苦ではない。

 

「ほら、せっかくだからお姉ちゃんも」

 

 

 全力で顔を隠すように俯き、

両手を振っているお姉さんがそこにいた。

 

「ま、まぁ無理強いは……」

「でも『美人メイド姉妹がいた』って文言

強くないですか?」

 

 あまりにも強すぎる。

 

「はぁ……ま、仕方ないか。

じゃあ私だけお願いします。姉のことも

言及しておいてくださいね!」

「あ、はい」

 

 勢いに押されながらではあるが、

新刊を持っている彼女の写真を撮って

その場を離れた。

 ツイートはむっちゃ伸びた。

 

 =〇=

 

 帰りの車を運転しながら、

ふと今日のことを思い返す。

 美人メイド姉妹作戦は思いのほか

上手くいき、初の完売を達成できた。

 結果としては写真に写らなかった

もう一人を見にお客さんが来てくれたので

万々歳だったといってもいい。

 

 いやぁ、それにしても……

 

「今日の感想はいかがですか?

TLで「私より人気の出てた」

お・ね・え・ちゃ・ん?」

「やめてくれ・・・頼むからやめて……」

 

 後部座席。何か邪悪なモノでもあるかの

ようにスマホから距離を置く兄へ声をかける。

 

「いやぁ、普段から化粧で化けるだろうなぁ

っておもってたけど、私の読みは大正解

だったね!」

「知りたくなかったよそんな事実!」

「まぁまぁ、そう怒らないで。

売上もいつも以上だし、打ち上げは私が

出すからさ」

「これでお前出さなかったら兄妹の縁切る

まであるぞ」

 

 

 どうせそんなことはできない

小心者の兄なので、気にしないことにする。

 

「ところで、次回は何にしようか?

今回は事前に準備できなかったから

出来合いのメイド服にしちゃったけど、

次回からは採寸してちゃんとしたのを準備

できるし」

「まて、ちゃんとしたのって何だ。せめて

男キャラのなんだろうな」

「………………」

「着ないからな!?」

 

 これだけ人気をとれてもダメか……

ワンチャンちやほやされて女装に

目覚めないかな、と思ったのだけど。

 

「答えろよ、オイ」

「はいはい、分かりました。

でもコスプレしてくれた方がやりやすい

のは分かるでしょ?」

「……まぁ、それは」

「男キャラのコスプレにはするから、ね。

また今度採寸させて」

 

 バックミラー越しに見ると、それなら

まあいいか、という表情をしている。

 よし、ちょうど書きたいキャラもいるし、

男の娘キャラのコスプレ準備しておくか。

 

「さ、お姉ちゃんの人気のおかげで

いつもより売り上げあるし、打ち上げに

焼肉いこっか焼肉!」

「肉、食べる……」

 

 お、ちょっと声に元気が出てきた。

 

「お兄ちゃんの女装で稼いだお金で

焼肉だー!」

「帰る!タクシーで帰る!!!!!!!」

 

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