皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第四十八回 説明書

「じゃ、令和。あとはよろしくね」

「はい、任せてください!」

 

 平成先輩が手を振りながら去って行く。30年間地球の担当をしていた大ベテランの先輩。

 何があったのかは知らないけど、そんな先輩が急に辞める事になった。大慌てで引継ぎをし、退職日になる今日を迎えたのだ。

 

 いや、うん。ホントに急な話だった。だから、ホントに重要な事……自転のさせ方とか、公転周期の維持とか。そう言う事だけはちゃんと引継ぎを受けられたけど、細かいところは曖昧なまま。

「この辺弄れば温度変わるから」とか、「この辺りはイベントごと発生させる時に触るとこ」とか。そんなふわっとした作業内容しか聞けていない。

 正直、不安は大きい。けど……

 

「まぁ、何とかなるでしょ」

 

 自転・公転なんかが正しく動いてる事を確認しつつ、一人ボヤく。不安は不安だ。何せ、分からない。しっかり操作方法を知らないものをこれから操作していかないといけないのだ、そら不安はある。

 ある、が……

 

「別に、説明書もあるし。調べながら弄っていけば、なんとかなるでしょ」

 

 そう。何も調べようがない、という類のモノではないのだ。地球というのは。

 いや、地球に限らずなんでもそうだ。スマホしかり、パソコンしかり、地球しかり。どんなモノにも取り扱い説明書というモノはあり、それに従って操作すれば間違えることはない。

 

 調べ、その通りにする。たったそれだけのことを意識すれば、遅れることこそあれど失敗することはないのだ。だから、大丈夫。そう言い聞かせ、地球の操作盤に向かう。

 

 今の地球パラメータは、5月。1年を四分割した春にあたり、その中でも半ばくらいの時期に入る。温度設定低めな冬から段々と温度を上げていく演出を行うタイミングだ。

 

「中の温度は……うん、悪くないね」

 

 表示を確認、問題ない温度になっている。さすが平成先輩、キッチリしてる。

 あとは、このまま温度が上がっていけばいいから……

 

「……あれ?」

 

 と。温度変化の設定部分を見て。おかしなことに気付いた。

 取扱説明書に記載されてるこの時期の推奨値に比べ、かなり低い位置に目盛りが合わせてある。

 

「見るとこ間違えてるかな……」

 

 つまみの角度が、明らかに半分くらいまでしか回っていない。パラパラと操作盤の全体図が載っているページまで戻るも、見る場所はあっている。

 

「うーん……」

 

 一旦、整理しよう。

 まず、理屈として。温度設定のつまみは、推奨の半分くらいまでしか回っていない。

 次に、現実として。それだと5月の温度まで上がらないはずなのに、地球の温度は推奨くらいになっている。

 

 つまるところ。ただ地球を運営するだけであれば、何も気にする必要は無い。今正しい温度になっているのだから、このまま放っておいて問題が出たらその時対処すればいい。

 どうせもうしばらくしたら温度の上がり幅を変えないといけないんだ。周期が夏になるまでの数日間くらい、このままでも……

 

「いや、そうじゃないか」

 

 思い直す。

 振り返ってみれば。平成先輩は、そんなことはしていなかった。何か日々ちゃんと地球の管理をして、完璧とまではいかずとも問題のない運営を日々維持してきた。

 

 そんな歴史を、私は引き継いだのだ。「何か起こるまでは放っておけ」だなんて、サボり思想があっていいはずもない。

 

「推奨値が……大体この辺りか」

 

 つまみをさらに回す。再度説明書と比べ、同じ位置にいることを確認する。 これで、狙い通りに温度が上がっていくはずだ。

 

「って、よく見ると操作盤汚いな」

 

 と。安心したら、そんなことが目についた。温度調整つまみの周りだけじゃなく、設備全体、色んな所にカラフルな線が引かれている。

 インクの上から何度もこすれたのか、薄汚れたような印象を感じる。そういえば先輩、片付けとか掃除とかは苦手だったっけ。

 

「ピッカピカに……は、流石に難しいけど。薄汚れた、よりはましになるでしょ」

 

 そうと決まれば、善は急げだ。雑巾とバケツ持ってきて、掃除に充てよう。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「……こんなとこでしょ」

 

 ついやっている間に気合が入ってしまい、雑巾程度じゃないところまで持ち出してしまったけど。一先ず、操作盤周りは綺麗になった。

 うん。お世辞にも綺麗とは言えないけど、薄汚くはなくなった。綺麗になると、ちょっとすっきりするよね。

 

「さて、地球の様子はっと……」

 

 温度調節を正してから、自転何回か分くらいの時間は経っているはずだ。夏に向けて段々と温度が上がってると安心なんだけど……

 

「あれ……温度、高すぎない?」

 

 ちょっと、高い。

 いや、そんなことは……あるな。うん、高い。明らかに高い。

 掃除に熱中しすぎて想定より自転回数重ねちゃったのかと思うけど、カウンタはほぼ想定通りの回数を示している。つまり、やっぱり温度が高い。

 

「あれ、どうして……」

 

 つまみの位置を間違えたのかと思い確認してみるも、そんな様子はない。なのに、温度が高い。

 

「—―そんなこともある、のかな……」

 

 悩んだ末。

 そう、結論付けた。というか、結論付けざるを得なかった。説明書通りにやったのは、間違いない。それでもそうなったのなら、そんなこともあるとしか言えないだろう。

 

 何事も。そう、何事もマニュアル通りにはいかない。そういうこともある、うん。

 絶対も必然もない、偶然だけはある。それがこの世界のルールなんだ。

 

「ただ、そうなるとどうするかな……」

 

 と、現実を受け入れて。これからの事を考える。

 まず、地球の状態。温度的には、夏と呼べる範囲になっている。まだ春の終わりがけなのに。

 そこまで届いているのだが。これから夏になる以上、さらに温度を上げていかないといけない。説明書にも、今よりさらにひねった位置を推奨として記載されている。

 

「ただなぁ……」

 

 ついさっき。それに従ったら、想定以上に熱くなったのだ。今回どうなるかが分からない。どうするのが正解か、はっきりとしない。

 

「何か、説明書に載ってないかな……」

 

 こんな時どうすればいいか。そういう事も載っているのが説明書のいいところだ。実際、ページを進めていくといい情報が載っていた。

 

「なるほど、こっちが最大温度の設定つまみだったんだ」

 

 温度上昇度合いをいじるつまみのすぐ上に、そんなものがあったらしい。コレと組み合わせて使えば、行き過ぎることは防げる!

 

「さっきはコレをちゃんとしてなかったんだろうなぁ、きっと」

 

 ちょっと安心しながら、取説を見る。まず、上昇の方。説明書の図と同じくらいまで……さっきよりさらに回す。

 次に、さっきは触らなかった方。最大の設定量も、説明書末尾に載ってる「各季節の温度一覧表」から数値を拾ってきて、その辺りに合わせる。

 

 もしかすると、そこまでの上がり方は激しいかもだけど……それ以上にはならないはずだから、許して欲しい。ごめんな人類、新人のやらかしってことで許してくれ。

 

「よし、これでいいから……帰るかな」

 

 すっきりしたところで、時間を見る。普段なら、もうとっくに帰っている時間だ。説明書を読みこんでいる間に、思ったより時間が経っていたらしい。

 もうこのまま放置でいいはずだし、早く帰ろう……

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 ちなみに。

 この後の事としては、皆さんご存じの通り。

 

 夏は暑くなりすぎるし。

 中々温度は下がっていかないし。

 かと思えば、冬は一気に寒くなるし。

 

 という、温度管理一個とってもこれまでとは比べ物にならない変動をする訳なのであった。

 

 え、なんでそんなことになったか、って?

 うーん、そうだなぁ……じゃあ、ヒントだけ。

 

 一つ。古い設備だから、説明書通りの幅で変化してくれてない。

 一つ。大概そういうのって、ベテランさんの腕前とノウハウで何故か動いてる。

 一つ。それを出来るだけ残そうとしてくれてた線は、令和ちゃんが消しちゃった。

 

 誰が悪いんだろうね、コレは。

 

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