皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
「俺、修行しようと思うんだ」
唐突に。
それはもう唐突に、意味の分からんことを言い出した。
「あ、そこの餃子たれとって」
「あいよ」
とりあえず無視して、たれを皿に出す。餃子を取り、一口。うん、旨い。
「で、修行の事なんだけど」
「あ、消えなかったか」
意図的に無視したのに、気付いてくれなかった。うーん、困った。
「えっと、なんて?」
「だから、修行しようと思うんだけど」
「残念、聞き間違えじゃなかったか」
頼むから聞き間違えで会ってくれ、と思ったのだけどそんな事はないらしい。そうか、修行か。修行。
「何でまた修行を?」
「なんかかっこいいじゃん、俺修行してます!って」
「かっこいい」
「うん、かっこいい」
「そうか、かっこいいか」
精神年齢いくつなのだろうか、コイツは。お互いもう酒飲める年のはずなんだけど。中学二年生で思考止まってる?
「確かにかっこいいよな、響きが」
「だろー?だから、修行しよっかな、って」
まぁ、うん。
俺もかっこいいとは思うけど。
=〇=
「それで?」
「うん?」
「どんな修行を?」
とりあえず。ラーメンを食いながら、話を広げてみることにした。
「分かんない!」
「そっかぁ、分かんないかぁ」
満面の笑みでサムズアップされてしまった。そっかそっか、分かんないか。
「パッと思いつくのだと、あれ。滝行とかなんだけど」
「あー、あるな。お坊さんの修行とかで」
「そうそう。真っ白な和服着て、目を瞑りながら両手を合わせるやつ」
うんぬんかんぬんふにゃふにゃふにゃ……とでも形容したくなる呪文を唱え始めた。たぶんあれで唱えるの、お経とかだと思うんだけど。
「あれ、真夏とかにやったら気持ちよさそうだよねぇ」
「……それ、修行になってるか?」
基本的にああいうのって、苦しいからいいとか、そういう考えなんじゃないかな。
「ダメかな、気持ちいい修行」
「分かんないけど、修行レギュレーション違反だと思う」
「そっかぁ。レギュレーション違反なら、だめかぁ」
がっくし、なんて口で言うのを傍目に餃子をもう一つ。うん、旨い。
「あ、俺の分残しといてよ」
ラーメンをすすりながら。チッ、バレたか。
「あ、でもさ」
「うん?」
「仏教系って、肉食べれないんじゃなかったっけ?」
思い出した。確かそんなルール?あった気がする。それで精進料理ってものがあるんじゃなかったっけ。
「あー、そういえば」
「だろ?だから、修行するってんなら代わりに食ってやるよ」
強力協力、と箸を伸ばす。皿ごとひっこめられた。
「どうしたよ」
「肉を食べられないなら、仏教系の修行はやめにする」
肉好きだもん、俺。といって餃子を口に運ぶ。うーん、こりゃダメだ。
「他の修行ない?」
「他の修行ったってなぁ……」
どうしても、修行=お坊さんのイメージがある。他の修行と言われても。
「あ、修験道とかどうだっけ」
「修験道?」
「ほら、あれだよあれ。山でやるやつ。天狗とかそっち系の」
「あー!なんか不思議な格好して、杖っぽいの持ってる!」
「そうそうそれそれ」
そうだ、思い出した。
あの格好で歩いてる集団も、修行的な何かだった気がする。
「けどあれ、絶対辛くない?」
「ほぼ百辛いと思う」
「じゃあダメじゃん」
ダメとは。何度も言うようだが、それが修行じゃないのか。
「となると、あとは……武者修行とか」
「おー!いいじゃんいいじゃん、武者修行!響きがかっっけぇ!」
分かる。めっちゃかっこいいよな、武者修行。
「あれでしょ、刀一本携えて、馬に乗って旅するヤツ!」
「そうそう、そんな感じの」
「そんで、行く先々のツワモノと切ったはったの!」
きったはったの、は日本語がおかしくはないだろうか。気のせい?
「それか、いっそ道場破りして回るとか!」
「それはもう押しかけて暴れる不審者じゃないかな」
おっと、口を出してしまった。
ただ、そう思っても仕方ないと思うんだ。唐突に道場に押しかけて、看板よこせ!ってバトっていくんだろ。どんな不審者だよ、それ。
「言われてみれば、確かに……どういう仕組みなんだろ、道場破りって」
「現代社会だと警察通報でおしまいだよなぁ」
法が未整備だった時代というか、過去だから成立した習わし感が強い。
「さすがに警察沙汰になるわけにはいかないもんなぁ」
「そらそうだろ」
「じゃあ、武者修行の旅もダメか」
ボツである。なかなか都合のいい修行は見つからない。
こういう時は、一回立ち止まってみるのがいいって聞くな。
「そもそも、修行って何なんだろうな」
「なんかこう、修行ー!って感じの事じゃないの?」
「うん、修行とは修行である、は説明になってないんだよ」
確かに、たまにそんな感じの辞書説明な単語あるけど。ただ言い換えただけじゃねーか!みたいなの。
「あ、なるほど」
「どうだった?」
「武者修行もそうなんだけど、技芸を磨いて自分を鍛える事、だってさ」
「技芸って何さ」
「あー……めっちゃまとめると、腕前とか?」
辞書あるあるな分かりづらい日本語だったので、無理矢理にまとめてみた。絵を描く腕前とか、そんな感じの。
「だから、別に仏教的な~とか、剣の腕前~、とかはないっぽい」
「何かを出来るようになったり、腕を磨いたりするのは、全部修行?」
「そうなるな」
難しく考えすぎてたな。うん、めっちゃ簡単になったじゃん。
「ふ~ん……あ、じゃあ決めた!」
「うん?」
「俺、修行を修行する!」
「……うん?」
何を言ってるのだろう、コイツは。
「えっと、なんて?」
「修行を修行する!」
「そうか、聞き間違えじゃなかったか」
俺の頭では理解できない領域になってきた。
「だってさ」
と。何を言ってるか分からず頭を抱える親友なんざ目に入っていないかのように、発言を続ける。
「今色々話して、調べてみて。分かったのは、修行ってよく分からないな、ってことじゃん」
「まぁ、うん。そうだな」
それは、そうだ。うん、その通り。
「じゃあ、俺は修行って概念を知る修行をする!」
「うん、説明されても分かんないや」
あまりにも独自の世界観が広がりすぎている。どういう事なんだ、これは。
「ありがと、おかげでやることが決まったよ!」
「あー、うん。それで満足してるなら、いっか」
よくない気がする。よくない気がするんだけど、まぁ、うん。当人が納得してるなら、それでいいのか。
「よーっし、修行を修行するぞー!」
と。決まったことにスッキリしたのか、ラーメンを一気にすする。とっくに食べ終わっている俺は、頬杖をつきながら眺めて……
「……もしかして俺、コイツを修行させられてる?」
「んー?なんか言ったー?」
「……や、何も」
あまりにもゾッとしない響きだったので、無かったこととする。
うん、わざわざつらい修行をするモンじゃないな。うんうん。