皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

52 / 76
第五十回 青少年

「人身御供……生贄の伝説とかって、あるんですか?」

 

 ふと。

 本当にふと、気になって訪ねてみた。

 

「生贄の伝説ですか?えぇ、ありますよ」

 

 すると。あっさり、そんな返事が。やっぱりどこにでもある物なんだな、生贄伝説。

 

「具体的にどんなものが、とかって教えて頂けますか?」

「いいですけど、そう大したお話じゃないですよ?」

 

 そう、前置きをして。女将は、概要を教えてくれた。

 

 曰く、川の氾濫を収めるために捧げられた生贄がいた、だとか。

 曰く、飢餓を抑えんがために地に埋められた生贄がいた、だとか。

 曰く、天災が続いた年に神の祟りだと捧げられた生贄がいた、だとか。

 曰く、偶然訪れた身寄りのなさそうな旅人の命を奪い、神への捧げものとした、だとか。

 

 よくある、ありふれたお話。一つの地域で複数個が、というのは珍しいかもしれないけど。それでも、極端に珍しい話ではない。

 

「どれもこれも、ありふれたお話ですけどね」

「確かに、テンプレート的というか。型に沿った、よく聞くお話ですね」

「えぇ。だから、誰かが面白がって言い出したんじゃないか、なんてお話もあるんですよ」

 

 なるほど。

 本当にあったわけでも、暗喩的に伝承が残っているわけでもなく。娯楽めいた感覚で、誰かが生み出した物語。無くは無いのかもしれない。

 といいうか、だ。都市伝説の類なんて、大体そんなものなのだろう。

 

「とはいえ、ですね」

「はい?」

「火のないところに煙は立たぬ……なんて、言うじゃないですか」

「言いますけど……それが?」

「本当にあったみたいなんですよ、昔。生贄の儀式」

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 伝承の流れとしては、こうだ。

 ここからちょっと歩いた先にある、小さな池。そこには、何かが住んでいた。大きな、人知の及ばぬ、何か。

 それが大蛇の類だったのか、龍の系統であったのか、神と呼ばれるモノなのか。今となっては、伝承が途絶えてしまって分からないという。

 

 だが、確かに何かがいる。そう考えられていた。

 何か、自分たちには理解できない存在が。人間では太刀打ちできないようなイキモノがそこにいる、と。

 

 ここまでくれば、あとはシンプルである。そんな理解の及ばぬナニカを恐れ、媚びを売るようにして、生贄を差し出した。

 

 幼く、穢れを知らぬ無垢な子供を。

 美しく育った、神の花嫁たりうる少女を。

 

 そういった者たちを沈め、生贄にし友好を願う。そんな悪しき風習があったのだ、と。

 学者さんが調べてみたらそれらしき物もみつかったみたいなんですよ……なんて。酷く曖昧なオチを付けて、説明は終わった。

 

「いや、それらしき物ってなんだよ、って話なんだよなぁ」

 

 そんな感想しか出てこない。

 そりゃそうだろう。具体的に何が出てきた、という話が無いのだ。そこまであって初めて成立するんじゃないのか、こういうのは。

 例えば、そう。生贄を着飾った装飾とか、そんな伝承が記録された資料とか。あるいはいっそのこと、生贄の遺骸そのものとか……

 

「……最後の一個は、シンプル事件説の方が濃厚な気がしてくるな」

 

 仮に調査をしていたとして。遺骸の類が出てきたら、学者さんはどんなリアクションを取るのだろう。驚いて腰を抜かすのか、実は慣れっこなのか。

 

 話がそれた。

 とりあえず、紹介された池へと辿りついた。なんてことはない、ただの池だ。獣道を進んだ先にある、人気のない、ただの池。

 こんなところから大蛇だの龍だのが出てくるには尋常じゃない深さが必要だろう。

 

「やっぱり、与太話っぽいなぁ」

 

 何か面白い物でも見られたら、なんて。そんな考えで場所を聞いて来てみたけれども、特段面白い物もなし。

 ちょっとした祠はあるので何かいると信じられてはいたのかもだけど、生贄騒ぎになる程の規模には到底見えない。

 

「さて、となると……だ」

 

 疑問に思えてくるのは、何故こんなちんけな場所に生贄の伝承があるのか、だ。何度だって堂々と言うが、生贄が捧げられるような規模には到底見えない。

 

 どんなことがあれば、そんな狂気に走るだろうか。面白半分に、考えてみる。

 

 例えば、日照りがずっと続いたらどうだろうか。雨乞いのために、水神に生贄を捧げる。

 あるような気はする。人体のウンパーセントは水分である、なんて話もあるくらいには、水は命に直結する。それを求めるあまりこんな小さな池に縋りたくなることも、あるかもしれない。

 

 そうなれば。大抵、水神は龍や蛇とイコールだ。世界各国津々浦々の伝承が指し示す通り、生贄は少年少女、花嫁の役割だろう。

 

 が。そうなると、旅人があまりにもしっくりこない。旅人の命を奪い、池に生贄として捧げる。それはこう、何かが違うのではないか。そんな、抽象的な違和感。

 

「遺棄と、何ら変わらない気がするんだよなぁ」

 

 命を奪い、証拠隠滅がてら池に捨てる。そういった行為にしか見えなくなってくる。

 う~む……

 

「いっそ、それで正解なのかな」

 

 と。そんなことを思った。

 身寄りのなさそうな旅人。それはつまり、いなくなっても何も起こらなさそうな人を狙った、という事だ。

 

 身寄りのなさそうな旅人が現れた。修行中の僧侶かもしれないし、ワケアリな人物なのかもしれない。その正体は一旦わきに置いておく。

 

 そんな人物が村に現れ、一晩の宿を求める。寝入ったところを襲い、身ぐるみを剥いで、池に捨てる。

 そんな事実を、生贄という言葉で覆い隠してるのではないか……なんて。

 

「飛躍が過ぎる、かな?」

 

 しかし。しかし、だ。

 そう先入観を持つと、ひっそりと建つ祠も、そんな人物への供養……後ろめたさをごまかすための物ではないか、なんて。そんな風にすら見えてしまう。

 

「……うん、やめよう」

 

 これ以上はよくない。具体的に何がよくないかって、旅行先の宿泊予定地でこんなことを考えるのが良くない。夜、寝られなくなってしまう。

 

「でも」

 

 と。きっぱり考えるのをやめたいのにやめられず。自分をごまかすように、口にする。

 

「旅人ってのは、生贄にしては年いきすぎてるよなぁ」

 

 その異質さだけが、どうにも引っかかるのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。