皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第五十一回 ガーリック

 吸血鬼、という魔物を知っているだろうか。や、知らない人の方が少ないとは思うんだけど。

 

 吸血鬼。ヨーロッパとか、なんかその辺りで有名な魔物。夜な夜な現れ、人の血を吸っていく……とか、そんな感じの存在だ。

 こうして書くと、めっさシンプルである。ただただ人の血を吸う、それだけの存在。とはいえ、それでは怪談話としての面白みがないというモノで。凡そにして、さらに属性が盛られるのである。

 

 例えば、その目を見ると魅了されてしまう、だとか。

 例えば、コウモリの群れに化けることができる、だとか。

 何なら生き物に限らず、霧とかにもなれる、だとか。

 そしてさらに、不死身ですらある、だとか。そんなチートチックな存在となっている。

 

 が。そうやって無敵なだけの存在になると、物語としては面白味がないわけで。これまたたくさんの弱点を語られている。

 

 太陽の光を浴びると消滅する、だの。

 聖水を浴びると消滅する、だの。

 十字架に触れると燃え尽きる、だの。

 流れる水を渡ることができない、だの。

 あとは、そう。安心したかったのか、招かれていない家には入れない、なんて弱点もある。明らかに忖度されているだろう、この弱点。

 

 そして。弱点は、これだけではない。

 今回最も重要な弱点が、もう一つだけ残っている。

 

 そう。ニンニクがダメだ、という弱点が。

 

 ……や、うん。改めて書くと、匂いがダメだったのかな、って感じになるんだけど。

 どうやら、ニンニクに魔よけの力がある、って地域があったとかで。吸血鬼が特別ニンニクに弱い、ってわけではないらしい。

 でもそんなイメージねぇよ。吸血鬼が特別ニンニクに弱いイメージだもの。

 

 と、無駄に長い前置きはここまでにして。なんだってこんな話をしたのかというと、だ。

 

「あーっ、ヤバい、ニンニクヤバい!美味しすぎる!逝く!これ逝く!!!」

 

 隣のカウンター席でラーメン啜ってる人が、一口啜る度にそんなことを言いながら、なんか半透明になっているのである。

 うるさ、って思ってみたら、なんか異様に犬歯が鋭かった。で、思い出したのである。

 

「……いや、バカらし」

 

 なんて。

 もしそうだったらオモシロいな、くらいの感覚で考えてはみたけど。そんなわけがない。吸血鬼なんていてたまるか。

 

 隣にいるのは、ただのラーメン好きな人。ニンニク入りラーメンが好きで、リアクションがオーバーな外人さんだ。

 

「あーっ、やっぱりここのラーメンはニンニクマシマシだよね!」

 

 ほら、やっぱり。このお店の常連さんだ。きっといつもこうしてニンニク多めのラーメンを啜っているんだ、この人は。

 実際、始めてきたけどここのラーメンは美味しい。日和ってニンニクの量普通で頼んだのを、ちょっと後悔してるくらいだ。

 替え玉頼もうかな、これ。

 

「最っ高にスーサイドって感じ!」

 

 吸血鬼かもしれない。

 え、スーサイドの意味ってあれだよな。自ら命を絶つ、的な。自分から弱点であるニンニクの量を増やす。それを指してスーサイドって言うのって、ニンニクが弱点な連中くらいだよな。

 

「……って、いやいやいや」

 

 だから、そんなはずはないだろって。吸血鬼なんているわけがない。きっとあれだ、今日平日だし、真昼間だし。仕事中とか、この後誰かと会うとか、そんな感じなんだろう。にも拘らず匂いのキツイラーメンを食べる愚行を指してそう言っているだけだろ、うん。

 

「この後快晴の中家まで歩くのか……ゾクゾクしてきた……」

 

 やっぱり吸血鬼かもしれない。それも、変態チックtというか、M寄りな。

 え、あれか?弱点であるニンニクを摂取し弱った体で日光に身を晒す事へゾクゾクするって言ってる?コイツ。だとしたら相当変態レベル高めな吸血鬼じゃない?

 

「って、そんなわけ」

 

 あるわけがないだろう。

 きっとあれだ。仕事中とかではないし、この後誰かに会うわけでもなさそう。つまるところ、無職さんなのだ。

 職を失って焦っている中、のんきにニンニクを増したラーメンなんて食べている。そんな無計画さを指して言ってるに違いない。

 

 自罰的な考え方はよくないと思うけれど、まぁ、うん。こうして美味しい物を食べに来られるだけの意識があるなら、赤の他人が口を挟むことではなかろうて。

 

「餃子も美味し~!口の中で弾けて、口内めった刺しにされてる感じ……たまらん……」

 

 吸血鬼かもしれない。

 自分の頼んだ餃子も一口食べてみると、確かに口の中で爆発する。

 まず肉汁が広がり、追いかけるようにそれまで閉じ込められていたニンニクの香りが弾ける。

 このニンニクによる暴力を「口内めった刺し」なんて表現するのは、ニンニクが弱点な生き物だけだろう。

 

「って、いやいやだから」

「よっし、後はスープを」

 

 気になる。それは、気になる。

 飲むのか。デフォルトでもニンニク強めなこれに、更にニンニクを追加したであろうモノを。

 大丈夫なのか。言ってしまえばそれは、「吸収しやすいようスープ状に加工された猛毒」ではないのか。

 

 そんな考えが脳を占領し、箸が進まない。横目でガン見していると、まずレンゲで一口。震えながら飲み下し、レンゲを置いて、どんぶりに手をかけた。

 

 口をつけ、さらに持ち上げる。

 そう極端に重い物ではないが、かといって軽い物でもない。どろっとしている分、普通のラーメンよりは重いくらいであろうそれ。

 

 それが、だんだんと傾きを増していく。

 その喉は、何度も何度も上下に動いている。

 その体は、一口飲むごとに段々と薄れていく。

 

「……え?」

 

 目元をこすり、もう横目とかじゃなくガッツリ見る。

 

 持ち上げられた器は、段々と傾きを増していく。

 喉は、何かを飲み込むように繰り返し上下する。

 体は、それに呼応するように透明になってゆく。

 

「これ、は……」

 

 吸血鬼かもしれない。

 ニンニクを飲み込むごとに透明になっていく、犬歯ってより牙な、人型の生き物。

 それは、吸血鬼なのではなかろうか。

 

 なんて思い見ていると、どんぶりが机に置かれた。

 ここからでも、空っぽになっているのが分かる。

 

「はぁ……」

 

 と。向こうの壁が見えるくらいに。というか、向こうの壁の方が見えるくらいに透明になった人は、息を漏らし。

 

「今日も、美味しかったぁ」

 

 最後にそうもらして、完全に見えなくなった。

 

「……え、ちょ!?」

 

 見えなくなった、ではない。

 あまりにも想定外が続いて流しちゃったけど、それで済ませていい情報量ではない。

 

 ラーメン屋で隣のカウンター席に座っていた人が、ニンニクラーメン完食したと思ったら満足げに消滅した。

 

 うん、何を言ってるのか分からない。いっそ吸血鬼かもしれない、って情報が霞みそうになる。

 

「うん?どうしたんです、お客さん」

 

 と。驚きの余り声を上げてしまったからだろう、店主が声をかけてきた。かけてきたけど……何を言えばいいんだ、これ。

 

「いや、えっと……ここの……」

「うん?あー、そゆことですか」

 

 と。消えた隣の席を見ながら戸惑っていると、何かを察してくれた様子で。

 

「凄いですよね、あの人」

「凄い、って……」

「毎回、いつの間にか姿が消えてるんです。すっごい手品だなぁ、って」

「手品」

 

 手品。手品、手品か。

 ……手品かぁ?

 

「まぁ、厳密にはお会計前なんで怒らナイトなんでしょうけど。必ずどこかにお代置いていってるんで、いいかな、って」

「はぁ……」

「えっと、今回は……ほら、どんぶりで抑えてる」

 

 と、机の角に置かれていたお金を取り、レジへ向かう。

 なるほど、毎回こうしてお金を置いて姿を消すから、マジックだと思われてるのか。なるほどなるほど。

 

「……マジックかぁ?」

 

 そんなわけがあるかよ。

 

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