皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第五十二回 リニューアル

「地球を再開発しようと思うんだ」

 

 唐突に。

 それはもう唐突に、隣の席で呟かれた。

 視線をやると、しっかりこちらを見ている。どうやら、呟いたというより話しかけたの方らしい。

 仕事中だぞ……と思ったが、まぁ、うん。仕事に関係ないでもないから、よしとする。

 

「なんだって?」

 

 とはいえ。

 仕事に関係あるとはいえ、突拍子もないことに変わりはない。

 しっかりと、疑問を返すことにする。

 なんなら、聞き間違えであることすら祈ってみたりする。

 

「いや、だからさ」

 

 が、しかし。

 俺の耳はしっかりと機能していたらしい。

 

「地球を再開発しようと思うんだよ」

 

 まったく同じ言葉を、聞き取った。

 そうか、地球を。再開発。

 

「地球をリニューアルしようと思うんだよ」

「言い方に引っかかってるわけじゃない」

 

 こちらが何も返さないのを見て、そう判断したらしい。わざわざ言い換えてきた。

 

「や、違うんだよ」

「何が違うんだよ」

「再開発ってさ、なんか固いねぇ?」

 

 それは、うん。

 確かに、ある。固い。

 

「そういう感じじゃなくって、こう。イメチェンとか、そんな感じのことをしたくて」

「あ、それは再開発じゃないわ」

 

 ちゃんと意味があった。

 って、いや、うん。そうじゃない。

 

「尚更ダメだろ、模様替え感覚で地球いじる気か」

「ダメかな?」

「ダメだろ」

 

 何でいいと思ったんだ。

 

「でもさ?」

 

 と。なおも食い下がってくる。

 

「46億年だぜ?地球できてから。そろそろ、飽きてこねぇ?」

「—―――――」

 

 困った。

 悔しいことに、ちょっと納得してしまった自分がいる。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「そらさ、今の地球に愛着はあるぜ?」

 

 と。

 こちらが納得していたら、話を続けてきた。

 

「46億年まえに無事地球が出来た時は何が起こるのか、ってワクワクしたし」

「確かに、このカイロがどうなるのかって酒片手に盛り上がったな」

 

 今思えば。

 何もないただの球体を見て、よくもまぁあれだけ盛り上がれたもんだ。

 何億年くらいだ?あの宴会。

 

「生命が誕生した時なんざ、ほら。ハゲ課長が気持ち悪いくらいテンションあげて、虫眼鏡片手に観察してたし」

「あの時の課長、狂ってたよなぁ」

 

 後にも先にも、唯一の錯乱じゃなかろうか。あれは。

 右手に虫眼鏡、左手にビール。うん、不審者にもほどがある。

 

「その後訪れた恐竜の時代と滅び、次の世代誕生、そして人類史の始まり……どれをとっても、まぁ、うん」

「見てて楽しかったよな、どんでん返しに次ぐどんでん返し、常に想像を超えてって」

 

 心の底から同意する。

 いやぁいいもんを作ったもんだと、コイツと酒片手に語り合ったっけ。

 

「そして、今。これまで見てきた中では一番平和で、それでも泰平とは言えなくて」

「程よくメリハリのある、いい観察物だなって思うよ」

「そう、それだ。決して平坦ではない、そんなコンテンツ。見ていれば必ず心を動かされる、しかし疲れることもない。そんなお茶の間コンテンツなんだよ、地球は」

 

 言いたいことが、すごく分かる。

 ずっと見ていられるコンテンツなんだ、地球は。それこそ、一日中ずっと見ているのを繰り返せるコンテンツ。

 

 そして。

 さらに言いたいであろうことも、分かってしまった。繰り返せてしまうコンテンツになってしまったんだ、地球は。

 

「勿論、今が悪いってわけじゃないけどさ。それでも俺は、あの頃の……恐竜が滅亡する瞬間の辛さとか、そういうのをもっかい味わいたいんだよ」

「だから、リニューアル」

「そう。別によりよくしたいとか、そゆのじゃなくて。ちょっとした新鮮さを出したいくらいの、そんな感じ」

 

 なるほど。となるとやるだろう範囲は、人類滅ぼして新しい地球の支配種族をたてるとか、記憶そのままに文明だけリセットとか、それくらいのモンだろう。

 

 それくらいの印象新たに出来る程度の変化を与えて、その先に来るものを愉しみたい。

 分かってしまう。分かってしまうのだが……

 

「そういうわけなんだが、どう思う?」

「いいと思う。確かに言われてみれば、ここ数百年手に汗握りながら見た記憶ないもんな」

 

 少なくとも。生命誕生、恐竜滅亡、人類史の始まりの際みたく、酒宴レベルの飲み方をした記憶がない。

 という事はつまり、そこまで昂るコンテンツを見ていない、という事だ。

 

 が。が、しかし、だ。

 

「けどさ、いいのかよ」

「何が?」

「それすると、地球産の酒、手に入んなくならね?」

 

 と。

 デスク上の酒瓶を取り、直接呷る。いつの間にやら創造主たる俺達より旨い酒を造るに至った地球産の、酒を。

 あー、酒美味い。さけ。さ。

 気温、30℃台をランダムでいっか。気象設定を入力し、端末を閉じる。

 

「……だな。よし、忘れてくれ」

「おうともさ」

 

 仕方ない。

 酒は何よりも優先されるのである。

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