皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
ヒルガオ科のつる性植物。
朝顔が朝だけ花を咲かせるのに対し、ヒルガオは昼にも花を咲かせる。
花言葉は『絆』『親しい付き合い』『縁』。
一日花と呼ばれるほど短命。
一日でしぼんでしまう特性がある。
ヒルガオ、という花がある。
アサガオは有名だよな?言ってしまえば、その昼バージョン。なんならアサガオってヒルガオ科らしいので、アサガオがヒルガオの朝バージョンなのかもしれない。
閑話休題。
そんな名前の花がある。朝にだけ咲くアサガオに対し、昼まで咲いていられるヒルガオ。なんとも覚えやすく、かつ手抜きして考えた?って感じの。
咲いた姿が綺麗で、『絆』や『親しい付き合い』なんて花言葉を持つ、俺の手元で花束になっている……
たった今、大嫌いになった花だ。
=〇=
「いよーう親友、まだ生きてっかー?」
「病室で不謹慎だとは思わない?親友」
ガラガラ、と足で扉を開きながらの言葉に、ベッドの上から言葉が投げつけられる。
辛気臭いよりいいだろ、と悪びれもせず座る相手に、これ見よがしにため息一つ。
「ため息なんかつくなよ、幸せが逃げるぞ?」
「誰のせいだ、誰の」
「ただでさえ入院患者なんだ、幸せが逃げて体調に何かあったらどうするんだよ」
「だから、誰のせいでため息ついたと思ってんだよ、お前は」
半眼での恨み言に対しても、どこふく風。どうしようもないな、ともう一ため息をつき。
「んで?本日はどのようなご用向き?」
「おいおい、入院してる親友のお見舞いに理由なんているのかよ?」
「少なくとも、入院したって言ってからそれなりにたっての、ってケースならいるんじゃないか?」
「そこはほれ、病院ってなんか嫌じゃん」
「なんかて」
「分かるだろ?」
「分かるけども」
不満そうに返すも、それ以上は何も言わない。こういうヤツだったな、とベッドの上でため息をつこうとしたところで。
「それに、だ」
と。ため息なんざつかせねぇぞ、と言わんばかりに遮って、
「ちょうどいい花束見かけたからな。こりゃ見舞いに行くしかねぇ、って」
「花束が理由かよ。何?美人の店員さんがいる花屋さんでも見つけた?」
「ちげぇよ」
「ズルいぞお前だけ、退院したら俺にも店紹介したうえで入院しろ」
「無茶苦茶言うな、テメェ」
「いいじゃねぇか、俺達親友だろ?」
「親友に入院しろとか言うんじゃねぇよ」
ごもっともである。
ごもっともだが、言ってることはお互い様ではなかろうか。
「んで?何の花束なんだよ、それ」
「ヒルガオ、つってた」
「もう夕方だぞ、偽物掴まされたんじゃねぇの?」
「ドライフラワーだかなんだかで、なんとかしてるらしい」
ちなみに高かった、と言いながら花束を差し出す。特に受け取り拒否するようなこともなくつかみ、
「んで?何だってこんなモン持ってきたんだよ」
「何だってって、見舞いと言えば花束だろ」
「んなもんより漫画のが嬉しいだろ」
「こんだけ綺麗な花束を持ってきた俺と、全国全世界のお見舞い文化に謝れ」
サーセーン、とベッドの上から花束片手に謝る入院患者の図である。何がどうしてこうなった。
「んで?結局のところ、なんだってこんなもん持ってきたんだよ?」
「花言葉につられた」
「花言葉ぁ?」
お前が?と言いたげな、怪訝そうな顔をする。
「おう、花言葉だ」
「何なんだよ、花言葉」
「ふっふっふ、聞いて驚き、感動の涙を流してくれていいぞ」
「前置きが長い」
「絆、縁、親しい付き合い、だとさ」
「うっわ」
「オイこらテメェどういう意味だ」
腕を伸ばし、顔をそらすようにして花束から距離を取る患者。
どういう意味だと凄みたくなっても、仕方のない事だろう。
~数分前~
親友におもろい贈り物探してるんですよ、と言ったら勧められたヒルガオの花束。
「親友さんにだったら、花言葉がぴったりだと思います!」と、ちょっと抜けてそうな美人の店員さんに勧められ買ってしまったそれでポンポンと肩を叩きながら、ふと気になってスマホを取り出す。
考えてみれば。アサガオは小学校のころ無駄に触れてきたけど、ヒルガオは初めて見た。花言葉が、って言ってたし。調べてみるか。
「何々……絆に、縁。親しい付き合い」
めっちゃこっぱずかしい花言葉が並んでいた。何これ、え、え?
いや、確かに親友に贈るには正しいのかもだけど。改めておくるには恥ずかしすぎるだろ。
「まぁ、いいけどさ……えっと、他には」
何か面白い話題とかねぇかな、とスクロールする。アサガオとのでっけぇ違いでもあれば話題になるんだけど……
と、流し読みする中で。どうしても、目に留まってしまう文章があった。
ヒルガオは、一日でしぼんでしまうほど短命。
一日花と言われるほどに、短命な花。
「……しくったかなぁ」
店員さんは、悪くない。
見舞いじゃなくて贈り物って言った俺が全面的に悪い。
ついでにもちろん、花も悪くない。勝手に花言葉つけられて、勧められたんだ。反射的に捨てそうになったが、こらえる。
個室を与えられた入院患者に渡す物では、決してないだろう。
「まぁ、気にするようなヤツじゃねぇし、花に罪はないし」
このまま、コレは持っていこう。
処置してあるから枯れたりしぼんだりはしないってことだったし、なんなら意味深になってアリだろう。
とはいえ。
今の状況にドンピシャすぎて、嫌いになったね。うん。
~数分後~
花に八つ当たりしそうになり、思い留まる。衝動的にはそうしたいけど、それをしたら絶対に後悔すると、理性がブレーキをかけた。
深呼吸を何度も何度も繰り返し、今知ったことを反復する。
酔っ払いの車が、交差点に突っ込んだ。
何人かが重傷で、一人はその場で命を落とした。
それは、ついさっきまで下らない話をしていた、親友らしい。
再び、花束を床に叩き付けたくなる。これさえなければ。あの半端にドライな親友は、見舞いに来なかったかもしれない。
あったとしても。アイツが見つけるのがもう一日ズレていたら、巻き込まれることはなかったかもしれない。
まったく別の花だったら、見舞いなんて発想が浮かばなかったかもしれない。
この花束さえ。この花束が。あんな花言葉のせいで。
そんな発想が頭をぐるぐる回り、消えてくれない。筋違いな発想なのは解ってる。
他の花でも来たかもしれない。別に花なんてなくても見舞いくらいしただろう。そんなことは、分かってる。
分かったうえで、それでも。
自分のせいだと思いたくなくて、八つ当たりの先を探してしまう。
だから、うん、そう。
俺は今、この花を大嫌いになった。