皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第五十五回 ストーカー

 ストーカー、という概念がある。

 ストーキング。言ってしまえば、つけまわし行為。これ!と決めた人の後をつけ……なんかこう、満足するヤツの事だ。

 

 こう、後を付けてこれまで知らなかったその人を知り、満足したり。

 その人がどこに住んでいるのかを知って満足したり。

 そのまま外からその家を観察して、どんな生活を送っているのか知り満足したり。

 

 その後、段々と満足できなくなってくると過激になっていく……ゴミを盗む、忍び込む、盗撮盗聴を始める、等に発展するのだけど、それはまぁ置いておくとして。

 

 言ってしまえば、そういったこと全般をするヤツを「ストーカー」と呼ぶのだろう。

 

 だとするならば、だ。

 

「第15回!俺たちの拘り座談会っ!!」

『おー!!!!』

 

 今ここに集まってなんかバカ騒ぎしてる連中は、漏れなく全員ストーカーということだろう。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「と言うわけで、今回の司会は私、べとべとさんが務めさせていただきます。姿が見えず声だけ聞こえるのが気持ち悪いかもしれませんが、そういう妖怪なので申し訳ない!」

 

 と。

 虚空より非常にテンションの高い声が響き渡る。怪奇現象も怪奇現象なのだが、ここに並ぶ面々はそんなこと気にも留めない。

 

「さて、司会はあまり自分のこをと話せなくなるのが定番なので、軽く自己紹介を。

 改めて、私はべとべとさん。好きな瞬間は、後ろからついてくる足音に気付いた人間が振り返った瞬間です!」

「分かる!」

 

 と。

 司会の力強い性癖暴露に対し、これまた力強く同意の声が上がった。

 

「分かって頂けますか!」

「あぁ。つっても、アンタとは見るモン違うだろうが」

 

 そう言いながら身を乗り出したのは、一匹の狼であった。

 器用に前足で握ったおにぎりを食べながら、言葉を続ける。

 

「俺はこんなナリだからな。分かりやすい危機を見て、恐怖に染まるんだが……」

「確かに。私の場合は、足音はするのに何もない事に対する困惑が現れます」

 

 狼――送り狼の言葉に、べとべとさんが同意を示す。そらそうなるだろう、と言う話だ。

 

「でも、共感できる部分もあるのでは?」

「やっぱり、アンタもそのクチか」

「へぇ?」

 

 確信を言わず共感する二人(虚空と狼)に、斧を持った男が口を挟む。

 

「あまりにも正反対な二人が共感出来るポイント、気になるねぇ。勿体ぶらずに教えてくれよ」

「あぁ、わりぃわりぃ。そんなつもりは無かった」

 

 舌で口元に付いた米粒を取りながら、狼は続ける。

 

「ずばり、俺達が好きなのはな……理解が追いつかずにいる表情から一気に感情が跳ね上がる、その瞬間なんだよ」

「えぇ、その瞬間があまりにも堪らない」

 

 その瞬間を思い出しているのか、二人は目を瞑り、うんうんと頷きを繰り返す。いやまぁ片方姿見えてないんだけど。

 

「あー、なるほど。そういう事か」

「えぇ。私なら思考停止から、何も見えないのに音はするという困惑に。彼であれば」

「いるはずがないって思考停止から、命の危機由来の恐怖に、ってな」

「ははーん……それは、分からんではないな」

 

 口を挟んだ斧持ちの男は、肩をトントンと叩きながら理解を示す。

 

「ほう?」

「つまり、あれだろ?ベッドの下を覗いてオレと目が合って。数秒沈黙した後、一瞬で表情が変わる瞬間の事だろ?」

『それだ(です)!』

 

 異口同音。あまりにも強い同意である。

 

「確かに、言われてみりゃあれもわるかねぇなぁ」

「同意いただけて何より……だが、口ぶりからして、君は他に楽しむモノがありそうだね?」

 

 と。

 少なくとも口ぶりでは先ほどまでの興奮が収まった状態で、べとべとさんが問う。素晴らしい、ちゃんと司会の仕事を続けている。

 

「おう、オレにはもっと好きなコトがある。それは……」

「それは?」

「待つ時間、だ」

 

 赤の混じる斧を片手に。どこか気恥ずかしそうにしながら、そう答えた。

 

「待つ時間?」

「あぁ。より正確にいやぁ、想像する時間、だな」

 

 斧で天井を指し、続ける。

 

「オレぁよ、基本的にはベッドの下に潜んでじーっと帰りを待つんだけどな」

「ふむ、それでベッドの下の男、ベッドの下の斧男、などと呼ばれているのだったか」

「あぁ。んで、そうなるとだ。必然、待ってる間は特段やることが無いのよ」

 

 忍び込み、帰りを待つ。

 毎日何時に帰ってくると分かっている訳ではない以上、その時間が生まれるのは必然である。

 

「ベッドの下で横になって、じーっと。その間、考えるんだよ。コイツはどんな表情をするんだろ、って」

 

 その時を思い出し、追体験しているのだろう。瞳を閉じたその表情は、どこか恍惚としていた。

 

「部屋にある物、部屋の状態から家主がどんな性格なのかは想像がつく。じゃあ、そいつがどんなリアクションをするのかも想像できる。リアクションだけじゃない。いつベッドの下を覗くのか、どんな違和感に気付いてベッドの下を覗くんだろうか。

 場合によっては、意図的に部屋の中に違和感を作るんだ。ベッドに座って部屋を見ると気付くような、小さな違和感を。んで、どれくらいしたら気付くだろう、その時ベッドの上でどんな言葉を漏らすんだろう……って。その時間がもう、最高なんだよ」

「うん、大変思いのこもった言葉をありがとう」

 

 意図的に切らないと無限に続くと思ったのだろう。べとべとさんは意図的に、そこから続けにくいように言葉を遮った。

 

「しかし、想像か……意図したことはなかったが、私も人の後をつけている時は、愉しんでいるのだろうな」

「だなぁ。ワクワク感があるのは分かる」

「うむ……君はどうだね?」

 

 と。異なる意見を求めてだろう、他の参加者に声をかける。声を向けられたのは、金髪にフリフリの服を着た人形であった。

 

「なんでアタシに聞くのよ」

「何、深い意味はないさ。ただ、そういう時間を味わっていそうだな、と」

「そこの長々語った変態と一緒にしないでくれる?」

 

 これには、斧男が反応した。

 

「んだよ、想像しないってか?」

「するに決まってるじゃない、何を当たり前な」

 

 何だったんだよさっきの一言。

 

「ゆっくり時間をかけて居場所に近づきながら、都度電話をかける。この電話の先で、相手はどんな表情をしているのか。段々と身に覚えのある道を近づいてくる一方的な電話をどう思ってるのか。

 そして――後ろにいると告げた時、どんな表情を見せるのか。

 その想像に勝る娯楽は、体験したこともないわ」

「なぁ?オレこの人形に変態呼ばわりされたのか?」

 

 何とも不服そうである。ただ、どっちも変態なのであきらめて欲しい。

 

「何よ、アタシの趣味に文句でもあるの?」

「いや?それはねぇよ。なんなら味わってみたいくらいだ」

「試してみたら?部屋に忍び込めるなら、電話番号くらいすぐわかるでしょう?」

 

 電話の先にいる斧を持った不審者が段々と近づいてくるのは、かなり違ったジャンルのホラーではなかろうか。

 

「気が向いたらやってみるよ。……って、そうだ。アンタはどうなんだ?そういう想像で楽しむ場面多い気がするんだが」

 

 と。斧男はこの場にいる最後の存在に声をかける。

 長身に白いワンピースを着た麦わら帽子の女性。話を向けられたので、口を開き、

 

「ぽぽぽ」

「なんて?」

「分かります、って言ってるわ」

「何でわかるんだよ」

 

 メリーさんがスマホの画面を見せる。そこには、「ぽぽぽ⇒分かります」と自動翻訳結果が表示されていた。

 

「ぽぽぽ」

『お昼に好みのショタを見つけた時は、彼はどんな悲鳴を上げてくれるんだろ、って想像するのが楽しいし』

「ぽぽぽ」

『夜は、窓を叩いたりショタに親しい人の声を真似たりしながら、部屋の中でどう怯えてるのかな、って想像するとよだれが止まらなくなる』

「いや、翻訳の仕組みも内容もどうなってるんだ、これ」

 

 耐えきれなくなり、送り狼がツッコミを入れた。ぽ3文字に込められた思いの自由度高すぎではなかろうか。

 

「ぽぽぽ……」

『それに、今は……』

「ぽぽぽ!」

『あのショタっ子がどんな成長をしてるのか、想像するだけでご飯が!』

「そっか、現在進行形なんだっけ」

 

 一途だねぇ、とメリーさんが言う。

「ぽ……」と頬を置赤らめ、照れたような様子を見せる八尺様。

 内容から目を背ければ、微笑ましい光景である。 

 

「見つかってるんでしたっけ?その少年」

「ぽぽぽ……」

『大体この辺り、とは分かったんですがまだ見つけれてないです……』

「あら……」

 

 と。落ち込んだ様子を見せる八尺様へ、送り狼が声をかけた。

 

「何かその少年の持ちもんとか、ねぇ?」

「ぽ!」

 

 八尺様は胸の谷間から子供用の靴下を取り出した。

 

「よし、ちょいと失礼……さすがの保存状態、これだけ匂いが残ってれば、探すのは難しくないだろ」

「ぽ!?」

 

 当然の事であるが。

 妖怪・怪異の類である彼らは血を流すことはあっても老廃物を輩出することがない。

 必然、彼らに匂いという概念は存在しない。

 

「ぽぽぽ……?」

「なんだって?」

「協力してくれるの?だってさ」

「あぁ、そんな事か。ま、これも縁だろ」

 

 そういった送り狼に、斧男が同意する。

 

「だな。似通った趣味の連中が集まったんだ。それくらいの協力はするさ」

 

 部屋の侵入は任せろ、と胸を叩く。

 

「ふむ、そういう事なら私も協力させて頂こう。と言っても一緒に気配を消す事しかできないのだが……気配を消して、後をつけるのは趣味に入るかね?」

「ぽ……!」

 

 身振りで大きく頷いて見せる。趣味にあったとしても、彼女の巨体では叶わなかった事柄なのだろう。

 

「じゃあ、アタシは今電話繋ごうかしら?結構前のことなんでしょ、声変わりとかしてるんじゃないか、って」

「ぽ!ぽ!ぽ!」

 

 またしても大きくうなずく八尺様。事ここまでくれば決まり、とばかりに。

 

「では、メリーさんはその少年の電話を特定。その間に送り狼が少年の家を突き止め、皆に共有。斧男は侵入経路を確保し、私が生活パターンを突き止める。その後再び集合し、八尺様の希望に合わせて動く……と言ったところでいいだろうか?」

 

 べとべとさんが今後の流れを大雑把にまとめ、皆が同意。八尺様が感動の涙を流したところで、その日の集まりは終わった。

 

 ショタよ、強く生きてくれ。

 

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