皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

58 / 78
第五十七回 レッドカード

 レッドカード、と言われて何をイメージするだろうか。

 多くの人はサッカーだと思う。試合中、販促行為を行った人に向け、審判が胸元のポケットから取り出すカード。

 警告段階は黄色で、退場処分が赤……みたいなイメージがある。大体合ってると思う。合ってるよね?

 あまり詳しくないから、間違ってても許して欲しい。

 

 そこから転じてなのか、サッカーより昔のルーツがあるのか。そこまでは分からないけど、反則めいた行為全般に対して使われていたりもする。「レッドカードだろそれ!」みたいな。

 

 まぁ、何はともあれ。そういう「反則だお前、出ていけ!」って提示されるのがレッドカード、って感じなわけだ。

 

 で。なんだってこんなことを言い出したかというと、だ。

 

「レッドカードです、あなた」

「……はい?」

 

 休日に訪れた喫茶店。

 ケーキを食べながらのんびり過ごしていたら、なんか変な女にそんなことを言われたからである。

 不審者かな?コイツ。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「……えっと、なんですって?」

「だから、レッドカードです。あなた」

 

 つい、口の目の前でフォークを止めて聞き返してしまった。が、どうやら耳がおかしくなったわけではなかったらしい。

 ふむ、とその事実を咀嚼し。ついでにケーキも咀嚼してから紅茶を一口飲み、もう一度、ふむ。

 

「レッドカードですか」

「はい、レッドカードです」

 

 うん、何回聞いても変わらない。この意味不明発言を現実として受け入れるしかないようだ。

 えー、マジか。

 

「あ、相席構いませんか?」

「この流れで、相席」

「はい、席が空いてないようなので」

 

 店内を見渡し、確かにと頷く。狭い店なのもあって、全席埋まった大盛況状態。美味しいからな、このお店。分かる。

 

「そういうことなら、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 口だけではなくしっかり頭を下げ、目の前に座った。店員を捕まえ、サンドイッチとコーヒーを頼み。

 

「で、レッドカードです」

「うん、何を言ってるのかまるで分らない」

 

 ようやく本音を返せた。

 うん、意味が分からない。何を言ってるんだろう、コイツは。

 

「あ。もしかして、レッドカードの意味が知ってる物とは違うとか?」

「いわゆるルール違反に対する一発退場処分の事ですが」

「あ、はい。知ってるレッドカードその物でした」

「そうでしたか、それは何より」

 

 何よりじゃないが。

 

「えっと、話を戻しましょう」

「戻るも何も、ずっと同じ話しかしてませんが」

「話を戻しましょう」

 

 なんとなく。

 なんとなく、テンポを持ってかれたく無かったので、無理矢理そういう事にする。

 

「えっと、何に対してレッドカードなのでしょうか」

「……?」

「いや、そんな何を言ってるんだろう、みたいな顔をされましても」

 

 コテン、と首を傾げられた。

 何なんだコイツ。日常生活の中でレッドカード出されることが当たり前にあるってか?

 

「えっと、ルール違反だから……あ、ケーキの食べ方マナー的なあれ?」

 

 今の状況をベースに考えてみた。

 というか、カードを差し出された時にしていた事なんてそれくらいである。となれば、その行為に問題があったのだろう。

 

「なんだっけ、先端のとがってる側から食べるだとか、フォークの腹に乗せないだとか、倒れる前に倒すだとか……」

「え、そんなマナーあるんですか。息苦しいですね、ケーキ」

「違うのかよ」

 

 どうやら違ったようだ。

 うーむ。むむむむむ。

 

「すみません、何に対するレッドカードか分かりません」

 

 うん、分からん。

 分からん時はギブアップしてしまうのがいいだろう。うん、だって悩んだところで答えなんて出てこないんだから。

 

「そうですか、分かりませんか」

「はい、まるで心当たりがなくて」

「なんと、まるで心当たりがない」

「おっとそんなにか」

 

 目を真ん丸に見開くくらい驚かれてしまった。なんと、そんなにか。

 

「まぁ、まだ何もしてませんからね」

「オイ、なんだったんだこれまでの会話は」

 

 ちゃぶ台をひっくり返された。

 いや、マジでなんなんだコイツ。

 

「強いて言うなら、あれですよあれ」

「あれ?」

「存在がレッドカード、みたいな」

「誰が存在することすら禁止事項だ」

 

 酷い表現が続きすぎである。

 

「違いますって、存在することがレッドカードだなんて、そんな」

「いや、しっかりそう言っただろ、オマエ」

「言ってませんよ。私が言ったのは、存在がレッドカード、です」

「……あ、より一層悪い方なのね」

 

 なるほど。

 存在していることが、ではなく。存在そのものが、と。なるほどなるほど。

 

「俺、そんなに言われるほどの事したかなぁ」

「してませんよ?だって」

「存在そのものがレッドカードだから、って?何かするしないに関わらずってか」

「ご理解いただけましたか」

「言ってることの理解はな」

 

 だからと言って何がどう、とはならないが。何なら印象は最悪になったまであるが。

 

「まぁ、一旦いいとしよう」

「お、受け入れましたか。存在がレッドカードだと」

「受け入れちゃいねぇよ?」

 

 受け入れるわけなくないか?

 

「受け入れちゃいないが、だ。仮に存在がレッドカードだったとして。審判であるあなたは、俺をどこから退場させるおつもりで?」

 

 一発退場処分のレッドカードを掲げるのだ。どうするつもりなのかくらい、聞いてもいいだろう。

 

「そうですね。一先ずは、別の場所にご案内出来たらな、と」

「ほう、どこかおすすめの場所があると」

「はい、とってもおすすめですよ。本来あなたがいるべき場所ですから、居心地もいいはずです」

 

 と。届いたサンドイッチを食べながら、かばんを漁りだす。行儀悪く見えるが、まぁサンドイッチって何かしながら食べる目的だった気がするし。良いのか。

 

「あったあった。はい、こちらを」

「うん?」

 

 渡されたのは、名刺大の紙。

 あまりにも真っ赤なことが特徴な、紙……カードである。

 

「わざわざこんなもんまで仕込んでたのか……」

「あ、すみません向き間違えました。裏側を見て頂けると」

 

 絶対わざとだろ、と喉元まで出かかっていたが飲み込み。手首を返して裏側を見る。

 そこには、何やら住所らしきものが載っていた。

 

「ここは?」

「おや、分かりませんか」

「住所だけ見て分かる程、地理得意じゃなかったもんで」

「本当に、もう分からないんですか?」

 

 じ、っと。

 感情の読めない目が、こちらを見てくる。

 負けたような気がして癪だけど。もう一度、そこに記された住所を見る。でも、別に見覚えなんて……

 

「……あれ?」

「如何ですか?」

「いや、知らない。絶対知らないんだけど……知らないはずなのに、なんか気になるっていうか」

「おや、それは僥倖」

 

 と。

 ちょっとだけ和らいだ目つきで返された。なんか調子狂うな。

 

「それなら、まだ間に合います。どうぞそちらに伺ってください」

「いや、そちらに伺ってって。住所だけみて場所が分かるわけ」

「分かりますよ。お店を出て、住所を思い浮かべながら歩いてください。必ずたどり着けます」

 

 そんなわけないだろ、と言いたくなった。

 なったのに。あまりにも自信ありげな口調に、つい調子を崩されて。俺は、席を立ってしまう。

 

「あれ、伝票」

 

 テーブルの上を探しても、あるはずの物が見つからない。

 困ったな、無銭飲食になっちまう。最悪店員に言えばなくても会計してくれるだろうけど……

 

「これは」

 

 と。いつの間にか持っていた伝票をひらひら揺らし、

 

「私が貰っておきますよ」

「や、貰っておくって。それ伝票」

「こんな電波女に付き合わせたんです。迷惑料だとでも思っておいてください」

 

 自分で言うな、とか。

 自覚があるなら直せ、とか。

 

 そんな事が頭をよぎったが、まぁ、うん。なんでか、口にする気はなくなった。

 それよりも、この住所が気になる。どんどん自分の中で、ここに帰りたいという衝動が増していく。

 

「じゃあ、迷惑料として貰っとく」

「はい、それでは。もう会わない事を祈っていますよ」

「それは、迷惑かけられた俺のセリフだ」

 

 そう残して、店を出た。

 さて、行く先は……

 

「右、だな」

 

 何故かは分からないが。

 確信を……何の疑いもなく、自然とそう感じる。そっちにしばらく歩けば、いいはずダ。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「うーむ、ギリギリセーフ。さすが私」

 

 指に挟んでいたサンドイッチとコーヒーの代金が書かれた伝票を置き、代わりにカップを手に取る。一口飲み、ほっと一息。

 住所を見て、何か思い出せるなら。まだ、ギリギリ間に合うだろう。強制退場させなくても、自主退場してくれるはず。

 

「大丈夫でしたか?」

「あ、マスター。うん、たぶんね」

 

 依頼主から声をかけられた。老店主はごく自然な手つきで伝票を取り、ポケットにしまう。奢ってくれるのかな、ラッキー。

 

「『何も見えないのに何かいる気がする』、なんて言われた時は正直ボケたかと思ったけどね」

「奇遇ですね、私も自分がボケたかと思いましたよ」

 

 まぁ、何もいないのに何かいる気がする、だなんていかれた発想だもんなぁ。うんうん、正常な判断である。

 

「ちなみに」

「うん?」

「どんな方でしたか?」

「知ってどうするの?」

「ここにいたくらいですし、常連さんなのかな、と」

 

 ふーむ、なるほど。それは道理かもしれない。

 

「残念だけど、見た目はわかんない。もうだいぶ人の形失ってたし」

「そう、ですか……」

「うん。ただ、食べてるつもりだったのはチョコ系のケーキと紅茶のストレートだったよ。とがってない側から食べてた」

 

 そこまで言うと、合点がいった様子で頷いた。

 

「常連さんだった?」

「はい。お仕事が休みの日に来て、その組み合わせを召し上がる方でした。最近、いらっしゃらないとは思ってましたが」

 

 ま、うん。そら、死人は喫茶店にこれないよね。当然当然。

 家に帰って、全部自覚して。無事この世から自主退場してくれますように。

 

 強制退場(荒事)は、面倒だし。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。