皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第四回 梅雨

「雨って、何なんだろうな」

 

 ふとした思い付き。考える必要もないよう

な、何でもないこと。

 けれどこう、どうしてもやるせなくなって。

我慢できなくなって、口を突いて出た。

 

「なんなんだろうな、って」

 

 そして。そんな意味のないボヤキにも

応えてくれるのが、最愛の相手。

 

「そりゃ、雨でしょ」

「いや、答えになってないじゃん」

「いやいや、単純な自然現象なんて、これ

くらいの答えでいいんだよ。むしろこれ

くらいの気軽さで考えないと、やってられ

ないし」

 

 そこで彼女は一拍置き、人差し指をくる

くると回しながら。

 

「日常の中で蒸発した水がはるか上空で

集まって水分になって、それが降ってきた。

ここまで雑に何なら間違った解釈をしても

なお面倒な現象なんだから。『雨』の

一文字でいいじゃない」

「いや、別にそんな物理的な現象として

の雨に疑問を抱いたわけじゃない」

 

 というかむしろ、噛み砕きに噛み砕いた

説明がパッと出てくることに驚いた。

 

「あ、豆知識として。いわゆる天気雨って

呼ばれるあれは、元々はちゃんと雲がある

時に雨が降ってきたんだけど、地上に

たどり着く頃には雲がどこかに

いっちゃってるから、結果として晴れの

雨になるわけです」

「あー、そっか」

 

 はるか上空から降ってくる水滴。

 しかし、それより早く雲が動けば、雲は

なくなる。完全犯罪の完成である。

 

「いやいや、別に犯罪ではないでしょ。

むしろ雲にしてみれば雨を降らせるのは

大事な大事なお仕事だよ」

「いやいやいや、何を言ってるんだ。

雨を降らせてくれたあげく自分は気付かれる

前にとんずらとか、犯罪以外のなんだって

いうんだ」

 

 ただでさえ、雨というものはうっとおしい

のだ。道路は混むし、視界は悪くなるし、

電車は遅れるし、洗濯物は乾かせないし、

滑りやすくなるし、不快指数が上がるし。

 そんな結果を作り出す雨が、犯罪者

じゃなくて何だというのか。

 

「でも、雨が無かったら困るじゃん?」

「どう困るって言うんだよ。少なくとも、

俺の日常生活では得しかないぞ?」

「うん、まぁ君の視点ではそうなんだけど」

 

 そういいながら彼女は、まるで聞き分けの

ない子供にするかのように。

 

「例えばほら、水不足になったら」

「うん?」

「各種農家の方々がこまる」

 

 ふむ、なるほど。確かに農家、つまりは

野菜やら果物やらお米屋らを育てる人たち

にしてみれば、水がないというのは死活

問題になりうる。が。

 

「『雪が少なくて水不足』は聞いたことが

あるけど、」

「雪も雨も現象としては同じだよ。凍ってる

か溶けてるかってだけで、どっちも水、H2O

なんだもん」

 

 ものすごく現実に引き戻された気分。

 

「だからホワイトクリスマスも土砂降り

クリスマスも同じモノ説を提唱します」

「却下します」

 

 迷いはなかった。理屈ではなく感情として、

その結論だけは否定しなければならないと

思った。思わされた。

 ただし、土砂降りクリスマスという語感は

好きなので、別手段での生存を期待します。

 

「ほら、困るでしょう?」

「いやしかし、俺は困らない」

「スーパーにお野菜が並ばなくなるよ?

もしくは、高くなる」

「とっても困ります」

 

 陥落に迷いはなかった。それは困る。

高くなるのは最悪いい。大根一本10万円、

とかされなければ受け入れられる。

 が、並ばないのではどうにもならない。

 

「次に、もっと困る現象として」

「まだあるというのか」

「勿論、まだあるよ?何なら序の口だった

まであるよ、お野菜」

 

 これが序の口になる状況、恐ろしい。

いっそ聞きたくないのだが、しかし

ここまで来た以上聞かないとすっきり

しない面もある。

 

「覚悟は決まった、言ってくれ」

「あらゆる水が出なくなる」

「参りました」

 

 白旗だ。なんなら白旗万国旗を建てても

いい程に白旗である。

 

「飲み水からお風呂におトイレまで」

「参りましたって言ったよね?」

 

 迷いなく死体蹴りをしてこないで欲しい。

 

「とまぁ、そういうわけで。雨というものは

かくも重要で、むしろ感謝すべきものです」

「でも、過剰に来たらそれは災害だろ?」

「うん、それはそう。だから私は台風を

許さない」

 

 彼女は彼女で、度が過ぎれば許せない

タイプであった。

 

「……でもやっぱり、許せないところ

あるわ」

「え、まだ?」

「うん。空気が読めないところ」

 

 と、そこで。俺は改めて、彼女を

見る。

 真っ白なドレスに包まれた、最愛の相手を。

 

「いいじゃない、どうせ建物の中なんだし」

「だとしても、こう。なんかやるせない」

「それでも、起っちゃったものはどうしよう

もないでしょう?諦める諦める」

 

 シャキッとしろ!と、思いっきり背中を

叩いてきた。

 

「逆に聞くけどさ」

「うん?」

「いいのかよ、雨」

「うん」

 

 即答されてしまった。

 

「今更だけど私、結婚式に特に執着してない」

「おっとマジで今更な発言」

「正直に言えば、親がやれってうるさいし

友人知人に「結婚しますよー」って連絡

するのが楽だな、くらいにしか」

「ぶっちゃけるってレベルじゃないな」

 

 あと少ししたら式が始まる、って

タイミングでこんなことを言われたら、

俺はどう反応したらいいのだろうか。

 

「私にしてみれば、さ」

 

 と、どう返したものかと考えていたら。

彼女の方から、言葉を投げかけられる。

 

「こんなバカ騒ぎよりも、役所に婚姻届け

出す方が重要だったし」

 

 バカ騒ぎ。確かに、身内だけが集まる

大騒ぎではあるのかもしれない。

 

「紙切れ一枚提出するよりも、結婚しよう

って決めた時の方が大切なの」

 

 紙切れ一枚。その一枚で大きく状況が、

関係が変わってしまうのだが、そんな表現

でいいのだろうか。

 

「だから、ほら。気にしない気にしない!」

「……はぁ」

 

 そして。頭がいい癖にこの辺りテキトーな

彼女を見ていると、本当に全部バカバカしく

なってくる。

 

「はいはい、分かりました。それじゃ、

土砂降り結婚式といきますか」

「いこーいこー!幸いにも、土砂降りでも

ドレスは汚れないし!」

 

 土砂降り結婚式はちょっと語感が悪いな、

と思った。

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