皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
狛犬。
それは、多くの場合において神社の入り口や本殿の前に置かれる、石製の像である。
魔よけや神域の守護を目的に設置されるためか中々に怖い表情で造られる。そんなことしなくてもどうせボロボロになって見た目怖くなるんだから、最初くらい可愛らしく作ればいいのに。
閑話休題。
とまぁ、そんな目的で造られ、神社や一部お寺に設置される空想上の生き物。それが、狛犬というものだそうで。
「なるほど、つまり番犬と」
「違うわ!犬ではないと言うとろうが!」
手をポンとして納得していたら、ベシっとはたかれてしまった。肉球の形をした石で叩かれた形になるので、しっかり痛い。
というか、言われた記憶ないんだけど。
「うん?それまだ言ってない?……犬ではないわ!」
「や、遅いから。誤魔化せないから、それ。というか吽さんとどう会話してるの、それ」
いやはやまったく。
変な犬に絡まれてしまった……
=〇=
大学三年の春休み。
就職活動の祈願でも、と近所の神社に参拝した際の出来事であった。
心のどこかに不安感があったのだろう。深夜、じっとしていられなくてアパートを飛び出した。
それで向かったのが公園の中にちまっと残っているだけの、小さなお社だったあたり、安心感さえ得られればなんでもよかったのだろう。
申し訳程度の小さな賽銭箱に五円玉を入れ、何とかなりますように、と祈り。さあ後は帰るだけだ、と足を踏み出して。
「うわ、こっわ。不気味な狛犬だな……」
来たときは気にもならなかった事を、口にしてしまった。
いや、仕方ないと思う。なんせ、真夜中に石でできた厳つい犬の像だ。そら、怖い。怖くてしかるべきであり、私の感想はなんらおかしくないもののはずである。
にも拘らず、だ。
「不気味とはなんだ、この無礼者が!」
「うっひゃい!?」
口を開いた石像が、なめらかに口を動かし怒鳴ってきた。
驚きの余り、ぴょんと真後ろに跳んでしまう。何かに背をぶつけ、更に慌てていたら、何か湿った物が頬を撫でた。
「……へ?」
肩越しに振り返る。そこには当然、口を閉じた石像が超近くにいた。当然?や、んなわけない。これが当然であってたまるか。
というか、じゃあ今のは舌か?石像なのに、湿った舌?
「……お、美味しくない、デスヨ?」
「誰が食うか、無礼な!」
また怒られた。
=〇=
と。
そんな出会いをし、何者なのかと当人達に自己紹介をしてもらい、今に至る。
「え、でも狛“犬”なんですよね?」
「人間も他の動物の名を子の名に組み込むであろうが。その者は人間ではなくなるのか?」
いや、個人名と種族名を同列に語られましても。
「じゃあえっと、お二人……お二方?はなんなんですか?」
「だから、言っておるだろう。狛犬だと」
「犬じゃないんですか?」
「違う」
「ふむ……」
先ほどから一切喋らない方……阿吽の吽さんの方を向き。
「お座り」
きっちり、綺麗に座った。
狛犬らしい、キッチリとした姿である。
「お手」
手を差し出したら、ポン、と手を乗せてくれる。
「おかわり」
反対の手を乗せてくれた。
「うん、よくできました」
コンビニの袋から犬用のジャーキーを取り、差し出してみる。受け取ってくれた。ガジガジしてるけど、食べれるんだな。石像なのに。石像なのに!
「って、犬扱いするな!?」
阿さんの石肉球パンチ。当たると痛いのはもう知っているので、しっかり避ける。
いやでも、犬だったじゃん。
「おすわ」
「やらぬからな!?」
先回りされてしまった。
「と言うか、お前も何故やった!?」
そして、吽さんへのツッコミも入った。なんか大変そうだなぁ、ストレスとか溜まってそう。
「まぁまぁ、そんなに叫んでると疲れますよ?」
「誰のせいだと思っておる、人間!」
「いやまぁ、私達だろうな、とは」
後が怖いので、吽さんも巻き込んでおこう。うん、それがいい。
「まったく……いいな?我々は狛犬であって、犬ではない。その辺り間違えないように」
「はい、承知しました」
…………
「そーれ、とってこーい!」
「わう~ん!」
もちろん、全然承知していない。
近場にあった木の枝を放り投げてみると、しっかり追っていった。やっぱ犬だろ、狛犬。
と、ジャーキーを食べ終わった吽さんの首をわしゃわしゃやっていると、憤然とした様子で戻ってくる阿さん。
「だから!犬扱い!するなと!!」
「追っていったのは誰ですか」
「じゃかぁしいわ!」
とうとう口調が崩れてしまった。
「まぁまぁ。あ、ジャーキーいります?」
「……いる」
犬用ジャーキーはしっかり受け取った。
「やっぱ犬じゃないですか」
「違うわ!」
絶対違わないと思う。
この後暫くの間、阿さんを弄り倒すなどした。
=〇=
なお、この後。
就職活動は無事終了したし、大学のテストは全てヤマが当たった。
さらには日常の中でちょっとしたついてる事……アイスや福引の当りがでたりなんかする日々が続いた。
「そんなわけで、ありがとうございました」
「ふむ、狛犬としての魔よけパワーを発揮しすぎてしまったかな?崇めてもよいのだぞ?」
「はい、犬の吠え声には魔よけ的な力があるといいますものね」
「だから!」