皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
お茶には、特別な力がある。
なんて書くとファンタジーっぽくなってしまうけれど。冗談でもなく、誇張でもなく。私は本気でそう思っている。
見た目で、香りで、温かさで、味で。持っている全ての物で、飲む人の心を動かし、落ち着かせる力がある。
あなたにも、あったかい紅茶を飲んでホッとしたとか、紅茶の香りで冷静になれたとか、それくらいの経験はあるでしょう?
そして。そんな紅茶だからこそ、私は紅茶を飲む時間を大切にしたい。おざなりに飲むような事はしたくないのである。
だから。それが悪いとは言わないが、ティーバッグをつかったり、コンビニや自販機で買うようなことはしない。
しっかり自らの手で準備し、最高の状態・最適な心持ちで臨むものでありたいのだ。
「とまぁ、私にとってティーブレイクとはそれくらい大切な時間なんです。分かっていただけませんか?」
「うん、それはいいんだけどね。仕事中だからね、今」
「最高の休憩時間を過ごしたい、という部下のささやかな願いを踏みにじるというのですか、課長!」
「うん、何分間って決まってるからね、休憩時間」
しかし、上司はその感情を分かってくれないのである。どうしてくれよう、この分からずや。
=〇=
まったく、わからずやの相手をしても時間の無駄でしかない。
手を動かしながら、課長の相手をすることにした。
「いやね、紅茶が好きなのは止めないし、給湯室を使うのもいいんだよ?むしろ、せっかくあるんだからどんどん使って」
「はい、がっつり活用させてもらいます」
予めポットとカップを温めておく、お湯を注いでからしばらく蒸らしておく。そういった細かい事も省略せず、いつも通りの手順を、いつも通りのテンポで繰り返す。
こうすることで、美味しい紅茶を飲めるだけではなく、自分自身をチューニングできる。いつも通りの事が、いつも通りに出来るよう、自分の身体と感覚を調整する。
これによって、仕事中もいつも通りのパフォーマンスを安定して発揮できるようになる、というわけだ。
「ただね?休憩時間って、実は何分間って決まってるんだよね」
「足りないので増やしときました」
「そんなお祭りのくじびきじゃないんだから」
水が沸くまでも長かったが、蒸す時間も若干長い。この間に、お茶菓子を出していく。
どうせならケーキとか食べたいが、まぁ、うん。余裕で傷むので、断念。クッキーみたいな、持ち歩いてもダメにならないお菓子を中心に、更に並べていく。
我慢できずに一枚。うん、サクサクしてて美味しい。
「あ、それ美味しそう」
「よろしければどうぞ。まだまだあるので」
「これはどうも」
お皿から一枚つまみ、口へ運ぶ。美味しそうにしている、うん、よし。
試しに買ってみたやつだったから怖かったのだけど、大丈夫そうだな。
「で、話を戻すんだけどね」
「はい」
「休憩時間って、何分間なのか、決まってるんだよね」
「ティーブレイクって大切だと思いませんか?」
「うん、ブレイクれべるならいいんだけどね?」
そろそろ蒸らせたかな、とポットをもち上げる。茶こしでこしながら、そっと注いでいく。目指すは某細かいことが気になる刑事さんスタイルだけど、まだやれないので普通に。
うーん、まわし注ぐ時のバランス感難しいな。
「でも、そんなレベルじゃないじゃん?」
「でも、そもそも仕事が我が物顔で人生の大半の時間を持っていくのもおかしな話じゃないですか」
「凄いことを言い出すね、君」
「なんなら、ティーがメインでワークがサブ。ワークブレイクであるべきだと思うんですよ」
「ワークブレイク」
「ティーがメイン、ワークがサブです」
「うん、その場合でもティーがメインになる事あるかな?」
何を意味の分からない事を言っているのだろうか。
まぁ疲れてるんだろうな、と聞き流しつつ。ティーブレイクセットが完成した。
「ほら、課長。一杯どうぞ」
「あ、うん。これはどうも」
「きっと疲れてるんですよ、紅茶でも飲んで落ち着いてください」
「うん、僕が意味の分からない事を言ってるかのような発言はやめようね?」
意味わからない事を言ってる自覚がないらしい。なんてかわいそうなんだ。
同情しながら、カップに口をつける。うん、美味しい。
「今日も満足のいく出来ですね」
「そうだね。これが「部下が始業から4時間かけて淹れた紅茶」でさえなければ、完璧だったね」
「じゃ、私はちょっとワークブレイクしてきますね」
「違うから、そっちがメインだから」
何を意味わからない事言ってるんだろ。