皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第六十八回 正義は勝つ

「正義は勝つ、って間違いだと思うんだよ」

「なんだ、もう酔ってるのか?」

 

 投げかけた言葉に対し、定型文のような返答が返ってくる。

 

「失礼な、そんなわけないだろ」

「だよな。お前がエール程度で酔うなんて」

「ここの酒は上質なんだ。いい酒は酔わない、酒に対する冒涜だぞ」

「……やっぱ酔ってねぇか?」

 

 本格的に疑った目をしてきた。マジで失礼な奴だな、コイツ。

 

「酔ってない。んなことより、話を戻すぞ」

「はいはい……って、いや戻されても困るんだけど」

「あ、エールおかわり。……話を戻すぞ」

 

 通りがかった人馬の給仕に酒のお代わりを頼みつつ、繰り返す。

 えっと、どこまで……まだ何も話してないか。

 

「はぁ……んで?正義がなんだって?」

「だから、正義は勝つって間違いだと思うんだよ」

「おう、分かった分かった。んで?その続きは?」

 

 少しは聞く気になったようだ。よしよし。

 

「俺らってさ、一応冒険者なわけじゃん」

「一応、な。この街から出たことないけど、一応冒険者」

 

 冒険をしようがしまいが、魔物を討伐して金を稼ぐ人は全員冒険者。それがこの国のルールだ。

 よって、本職が別にあり、たまの小遣い稼ぎに近場の魔物を討伐する俺達も、立派な冒険者である。

 

「んでさ、今日みたいな日に集まって、森やら洞窟やらに行って、魔物を狩ってるわけじゃん」

「今日のゴブリンの群れは面倒だったな。数はいるわ、洞窟の中だから狭いわ、小細工してくるわ、数はいるわ」

 

 朝集まって、貼りだされている依頼をみて。週一冒険者ならこれくらいじゃね?と選んだ依頼。

 力の差は明確だから危ういことはなかったが、面倒な場面が多かったのもまた事実である。

 

「んで?そんな面倒だったゴブリンがどうかしたか?」

「なんでわざわざ討伐依頼がでてたのか、覚えてるか?」

「んなもん、いつも通りのあれだろ?人間に危害が及ぶ前に、何かあってからでは遅いから予めの予防策として、ってやつ」

 

 そう、それだけ。

 まだ何もしていないが、何かしたのを確認したわけじゃないが。危ないだろうから予め掃討してほしい。

 依頼の内容は、そんなところだった。

 

「つまり、あのゴブリンたちはまだ何もしてない、ってことだろ?」

「おそらくは、な」

「つまり、人に何か危害を加えることなく、ひっそり暮らしてるゴブリンの群れに突撃して、皆殺しにしてきたかもしれない、ってことだろう?」

「よーし、一回落ち着け。その思考方向はまずい」

 

 水を差しだしてくる。

 失礼な、と思ったが親切心から来た言葉なのは間違いない。渋々、一口飲む。

 

「にも拘わらず、まるで生粋の悪かのように討伐依頼が出されて、その通りに全滅させられて。挙句の果てに『危険な生き物は全滅した』って悪役にされるわけだ」

「やめろって言ったよな。孤児院の神父様がその思考はマズいだろ、そんな教育を孤児にするつもりか?」

「孤児には『魔物は滅ぼされるべき生き物』ってちゃんと教育してるよ」

「それはそれで子供たちに悪影響だろ」

 

 仕方ないだろう、教義でそうなってるんだから。

 俺は悪くない、うん。

 

「でも、それはそれとして。そう思ったわけですよ」

「そうかそうか。ま、でも。相手はゴブリンだし、いずれ人間に危害加えてたとおもうぞ」

「まぁそれは間違いないんだけどな」

 

 ゴブリンだからな。人間襲わないゴブリンなんてこの世に存在するものかよ。

 

「でもさ」

「まだ続くか」

「今、勇者様が魔王討伐の旅に出てるじゃん」

「ああ、人間の国に戦争仕掛けたりなんだり、虐殺したりしてる魔物の親玉、ってことで退治しに行ってくれてるね」

 

 なんでも、普通の人間では絶対に得られないくらいの能力を持って生まれたらしい。

 しかも、その力を私利私欲ではなく、魔物退治にのみ活用してくれているとか。

 

「これで勇者が魔王を討伐したら、『悪しき魔王を勇者が討ち果たした』みたいな感じになるわけじゃん」

「あぁ、そうなってくれたら俺達も安心して暮らせるな」

「けど、仮に負けたとしてだ」

 

 そう、負けたとして。

 ついでに、魔王とその一味に人類が滅ぼされたとして。

 

「魔王たちの中では、『自分たちを滅ぼしに来た悪しき人間を返り討ちにし、大元も滅ぼして平和を手に入れた』ってなるのかな、って」

「悪しき人間て」

「いやだって、勇者様行く先々で魔物の群れとか滅ぼして進んでるんだろ?」

 

 近くを通りがかったら襲われる、その時襲われなくても後々挟み撃ちにされる……なんかして、ほぼ全て殲滅する結果になっているらしい。

 

「そうである以上、魔王たちから見れば『自分たちの仲間の集落を、一人残らず惨殺して回る悪しき人間』でしかないと思うんだよ、勇者」

「あー……」

「そうなると、魔王が勝って人間が殲滅なりなんなりされたとして、だ。魔王たちの中で広まるのは、『悪しき人間を全滅させた』ってニュースなんじゃないかな、と」

「ふむ。ってことは、正義は勝つ、じゃなくて」

 

 勝てば、正義。

 あるいは、正義になりたければ、勝つしかない。

 

 正しくは、こういうことなんじゃないか、と。

 

「そう思ったわけですよ」

「ふむ、とりあえず俺以外にはそんな話するなよ。干されるだろうし、孤児院の子供たちには悪影響にしかならん」

 

 うーん?

 

「悪影響かね」

「悪影響だろ」

「そらまたなんで」

「なんでって、教育にいい要素がどこにあった」

 

 ついでに、と。

 友は、更に言葉を重ねた。

 

「正義は勝つ、って思っといた方が。いつかこの物騒な生活が終わるかもしれない、って。子供が未来に期待できるようになる」

「あー……いや、でもさ」

 

 9割納得した。

 9割納得したうえで、自分の中の性格のわるい部分が出てきてしまった。

 

「自分が正義だって疑わないクソガキになった場合、もっと悪影響じゃね?」

「そこは、保護者の腕の見せ所ですよ。教会の神父らしく、しっかり導いてやんな」

 

 ぐぅの音もでない。確かに、導くのは保護者兼神父の俺の仕事である。

 納得させられてしまった。今日この場においては、彼が正義だ。負けた悪は、大人しく従うとしますかね。

 

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