皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
訳あり物件、というものがある。
それは例えば、事故物件であったり。
それは例えば、以前の住人が自殺をしていたり。
それとは逆に、誰かが殺されていたり。
そして、心霊現象が起こっていたり。
そういった、曰くとかのマイナスポイントがついてしまっている部屋の総称。
どうしようもないマイナスポイントがあるから、格安で借りられたりする。そんな場所。
今俺が借りているのも、そういった類の部屋である。具体的には、最後に示した例の部屋。
幽霊物件。
だが、だからこそ安く借りられて。
ちょっとした治療のために一時的に来ているだけの自分にしてみれば、都合が良かったのだ。良かったからこそ、迷うことなく契約した。
信頼しているお医者さんに紹介された不動産屋さんだったことも要因の一つなのだろう。
だが。だが、だ。それもひとえに、「そんな非現実的なこと起こりえない」と思っていたからこそのこと。
言われていた怪奇現象が本当に起こってしまえば、そんなことも言ってられず、
「あー!また美味しそうなモノ食べてる!ズルい!私にもよこせー!」
「うるせぇ幽霊がどう料理を食べるってんだ!」
「だからこそ!だからこそズルいの!力ずくで奪い取ることも出来ないじゃん!」
「ンなこと考えてやがったのかこの地縛霊」
いやもう怪奇現象とかどうでもいいから、食事くらい静かにとらせてくれない?
========
思い返してみれば、いわゆる怪奇現象の類は結構早い段階で発生していた。
荷ほどきの最中に飛んできたカッターナイフ(刃が向いてる)とか。
食器洗い中に飛んできた食器類(フォークはこちらを向いていた)とか。
朝起きると箪笥の上にあったものがことごとく俺の周りに突き刺さっていたとか。
なんかそういう現象は、しょっちゅう起こっていたのだ。
今にしてみれば、その時点で気づいておくべきだったのだろう。
が。それら全てを「そんなこともあるか」で流してしまった結果、コイツの存在に気付くのが遅れてしまっていた。
では、一体いつ気付いたのかといえば。それはとある日の深夜、カップラーメンを食べていた時のことで……
『ズルい!こんな時間にカップ麺とか、許されるはずがない!』
『なんか出た!?』
つい反射的に残っていたスープをぶっかけてしまった。当然のようにすり抜けて床にぶちまけられ、泣きながら掃除した。
で、だ。それ以来何か食べているとその度に姿を見せて絡んでくるようになった、というわけである。いやホント、何がどうしてこうなった感のある状況である。
「だって、何さその海鮮丼!炙ったお魚の脂が浮き出ている中、それをすっきりさせる狙いなのか中央に添えられた大根おろし。さらにその上には宝石のように輝くいくら!そんなものを目の前で美味しそうに食べられる身にもなってよ!?」
「なんかいつも以上に饒舌じゃないか?」
「いやほら、見られてる時くらいちゃんとパフォーマンスしないとじゃん?」
「見られてるってなんだよ」
まるでこの光景がどこか別のところに届けられているかのような言い草である。
「…………それで?」
「うん?」
「お味のほどは……?」
「むっちゃ美味しい」
「キーッ!」
今時そんなこと言うヤツ初めて見た。いや、この地縛霊は今時の存在じゃない可能性もあるのか。じゃあ問題ないな。
「せ、せめて……」
「うん?」
「せめて、一口……」
「オマエ幽霊だろうが」
「うわーん!!」
わざわざ口で言ってから姿を消した。なんだアイツ、一々リアクションがでかいな。
「いいもんねー!私だって君が食べられないモノを目の前で食べてやるもんねー!」
「お、なんだ。何も食べられないのかと思ってたのに、食べられるものあるのか」
「あるよ!あるに決まってるよ!何も食べないで生きていられる生物は存在しないんだよ!」
「いやオマエ死んでるじゃん。生物でもないじゃん」
「私が食べられるのは、」
反論しては見たものの、それに対する返事はない。何の迷いもなく次へ進めた。
「霞、です」
「あっそうだ。今日はデザートにプリン買ってきたんだった」
「スルーは一番傷つくんだよ!?」
知ったこっちゃない。そもそも、「霞が食べられる」と言われたところでどうしろというのか。
========
「で、今日の晩御飯は?」
「ステーキ三種盛」
「鬼!悪魔!!」
========
「おっ、今日の晩御飯は何だい?」
「とうとう事前に確認してくるようになったなこの地縛霊」
「ふっふーん!あらかじめ知っておけばそれを目撃した際のダメージが少なくなるということを知ったからね!」
見なければいいだけのような気がするのだが、その点に関してはつっこまないことにする。面倒だし。
「それで?何々?」
「ちらし寿司。それとそうめん」
「ほむ?」
と、地縛霊はなんでか一瞬首をかしげて。
「あ、そっか。今日って七夕なのか」
「そういうこと。せっかくだから、それっぽくそろえてみた」
「今日は〇〇だから、これ食べるか」という発想は、個人的には献立を考えるのが楽になるので積極的に採用している。
「ほうほう、なるほどなるほど……」
そして。そんな俺の心を知ってか知らずか、地縛霊は何かに納得した様子で対面に座り。
「よし、私の分はちらし寿司大盛り、そうめんはワサビ多めで!」
「何とち狂ってんだこの地縛霊」
「酷くない!?」
おっといけない。
「そうだったな、とち狂ってるのはいつもだったか」
「そういう話でもないよ!?」
とち狂ってないとしたら、何で自分の分を求めてくるのか。
「知らない?七夕って旧暦だとお盆と一緒に来るイベント事らしいんだけど」
「それで?」
「お盆ってのは死者の時間で、死者がご飯を貰ったりする時間でしょう?」
だからと言って。というか、だとしても。それは旧暦の話であって今ではないと思うのだが。
とは空気を読んで言わずに、俺はよそって出してやった。
「いただきます。……お、うま」
「いやホントに食べられるのかよ」
あっさり食べてくれやがった。
「いやいや、さっき言ったでしょう?お盆に近づくってことは、そう言うことだから」
「こんな偽お盆でそれなら、本物が来た時どうなるんだよ」
「……どうなるんだろうね?」
「自分のことじゃねぇのかよ……」
なんだろう。呆れて物も言えなくなったというか、ドッと脱力したというか。
「まぁいいや。なんにせよ、美味しいごはんをありがとう。ご相伴にあずかります」
「はいはい、それはようござんしたね」
「と、そこでなんだけど」
などと言って。彼女はどこかから何かを取り出した。
「お礼に私からも食べ物を贈呈しましょう」
「何を?」
「ずばり、『霞』です」
「何言ってんだコイツ」
いつぞやにも言ったか何かしたセリフである。が、まぁ仕方ないだろう。
「いやいや、美味しいですよ霞?一般人が触れてしまったりすると大変なことになりますが」
「ダメじゃねぇか」
「はい。でも美味しいんです」
……そこまで言うのなら、という気持ちが湧き出てきた。
「まぁとりあえず、あれです。騙されたと思って一つパクっと」
「……じゃ、じゃぁ……」
そう言って。言いながら。受け取ったそれを口に入れ……
次の瞬間には、意識が飛んだ。
========
「あーあ。だから、死者の国からの食べ物は食べちゃダメってよく言われてるのに」
ヨモツヘグイ。死者の国の食べ物を口にすれば、その人は冥府から帰ることが出来なくなる。
裏を返せば。死者の食べ物を食べさせてしまえば、その者は帰らぬ人にすることができる。
机に頬ずりするようにして二度と覚めぬ眠りについた彼。
いくら時間を経てほだされたのだとしても。死者から提供された食べ物を迷わず食べていいはずがない。はずがないのだ。
「うん……今回も、上手くいった」
これまで通りの流れなら、次に来る人は暫くしたら出ていく。
少しの間殺すのは控えなきゃだけど―――それは我慢しよう。
「はぁ……次は、どんな人かなぁ」
今からもう、楽しみで仕方ない。